総武高校奉仕部うすしお味。   作:ひつまぶし太郎

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8月8日8時8分です。
総合日間一位誠にありがとうございます。

実質タイトル回収みたいな回なのでちょっと長めです。
また、俺ガイル特有のほろ苦い青春シリアスをお求めの方は引き返してください。
この作品は、世にも珍しい奉仕部にノリノリで入部するタイプの後輩男子によるうすしお味の日常系です。



八時間目。清涼剤

 

「───今泉くん、いる!?」

 

朝8時20分。

そろそろ多くの生徒が登校してくる時間。

いつもの僕ならもっとギリギリなのだけど、今日は朝8時に登校していた。

 

その理由は、今僕の教室へと駆け込んできた愛しの先輩のため。

あとそろそろ清涼剤として活躍して、自称呼ばわりを撤回しようという腹づもりなのもある。

淀んだ空気の部室にいたってつまんないし息詰まるしつまんないのだ。

なら住みよい環境のために自力でどうにかしてやろう。

 

「あ、ガハマ先輩ちーす。朝から元気ですね。何かいいことありました?」

 

「…ちょっと!これなに!ビックリしたんだけど!?というか恥ずかしかったんだけど!?」

 

そう言って、ずかずかと近寄ってきたガハマ先輩が僕に突きつけてきた紙の内容を、僕は声に出して読みあげた。

 

8:00

From 元太

Title 俺だ

 

こんな時間に張り紙してごめんな。急にお前と話したくなってよ

 

俺、さっきまで好きなもののこと考えてたんだ。そしたらよ、うな重を差し置いてお前のことが───「そっちじゃなくて!いやそっちも意味分かんないし声真似もうまいけど、文句言ってるのは追伸の方!」

 

「えー、あー。そっちですか?まぁ普通の貼り紙ですよね。普通の。なんか変な所ありました?」

 

「どこが!?『追伸。結衣先輩へ。大事な話があります。今日の放課後会いたいです。校舎裏で待ってます。今泉より』って書いてあるんだけど!?」

 

「…?書いてありますね。普通の呼び出しお便りですけど、なにをそんなに慌ててるんです?」

 

「いや、だってこれ…!どう見ても…!」

 

「ラブレターみたい?」

 

「そうっ!…って、わかってんじゃん!?わざとじゃん!どうしてくれんの教室すごいことになってんだけど!?」

 

やー、久しぶりに元気なガハマ先輩が見れて僕は嬉しい。

最近元気なかったし。

 

というのも、どうやらヒキガヤ先輩とガハマ先輩の間で何かあったらしい。

なんか部活の空気が重くて嫌気が差し、どうにかするべく部室によらずに行っていた僕の独自調査によると、ヒキガヤ先輩は1年ほど前にガハマ先輩の犬を助けて怪我をした…のがこじれの原因っぽい。

 

ここからは私の推理になってしまうのですが(内なる栗原)、おそらくクソめんどくさい拗らせ方をしてるヒキガヤ先輩が、先輩なりの優しさを持ってガハマ先輩のことを必死に考えて出した結論が、2人を遠ざけたのかなと。

 

小町ちゃんや平塚先生等々からの断片的な情報をまとめ、僕の今までの観察を元に推理しただけなので、真実はどうか分からない。

仲良くしたいからといって何でもかんでも知りたいわけではないが、分からないままだと現状どうにもならない。

なら聞いてみよう、という話。

 

「…ねぇ、今泉くん」

 

と、ぎゃーぎゃー騒ぐガハマ先輩を見ながら真面目な顔して頷く僕の背に、とんでもないプレッシャーが襲いかかった。

 

「どういうことか説明、できるよね?」

 

「「あっ」」

 

僕とガハマ先輩は、目の光を失ったいろはすさんを前に沈黙した。

 

 

 

 

 

 

小町ちゃん改めこまっちゃんにメールを打ったスマホをスリープにし、現在放課後。

僕は今、ガハマ先輩と電車に揺られて東京BAYららぽーとに来ていた。

 

いろはすさん?

今度ディスティニーランドに行く約束したら許してくれた。

 

『ふーん、私とランド行きたいんだ』

 

『うんまぁ行くならいろはすさんかなって。ゲーセンで当てたはいいけどカップル券でさ。雪ノ下先輩はたぶん趣味合わないし、ガハマ先輩は好きな人いるし、こまっちゃんは受験生でしょ?それにいろはすさんとなら行列も退屈しなさそうだなって』

 

『ふ、ふーん。へぇー?そんなに私と。わ・た・し・といきたかったんだ?…まったくしょうがないなぁー。優しい私はしょうがないから許したげる』

 

『いろはちゃんわかりやすっ!でもかわいい!』

 

なお、2年F組の惨状はそのままである。

 

だがそのうち噂も収まるだろう。

姉御と葉山先輩が鎮火を頑張ってたし。

もっともこんな騒動の後に二人でララポにいるところを見られたら鎮火は無理だろうけど。

だってここ、映画館とかもある千葉の高校生がデートに使う場所ランキングトップだし。

 

「さて、ガハマ先輩。お話しましょう!」

 

「え?」

 

「まずは小学生の頃流行った遊びからどうです?新しい関係を始めるにあたってお互いのこと知るのは大事でしょ?」

 

「…あ、そんな感じのノリなんだ今日…。うーん、なんだろ。バトエン?」

 

「ああ。バトエン。流行りましたねうちの小学校でも。ちなみに強いエンピツを近所の店で買いしめて転売してるやつがいたんですよ」

 

「それが今泉くんとかそういうオチ?」

 

なんかガハマ先輩のあたりが強くなったな。

最高です。

かわいい先輩のジト目もいじけ顔も僕にとっては大好物です。

 

「違います。僕は基本正義の味方ですよ?するわけないじゃないですかそんなこと」

 

「ん、んー?んー、や、どうだろ。正義の味方はちがくない?」

 

僕はね、正義の味方になりたかったんだ。

でもね、目の前の可愛い先輩に否定されるのが気持ちいいから、なれなくてよかったなって思うんだ。

 

「…ふぅ、まぁいいです。とりあえず僕が考えた『うんちブリブリスクワット』って遊びを一時的に流行らせて株価を下げて、転売をやめさせたんですよ」

 

「うん…!?って、ほんとに良いことはしてる。…うん…はよくわかんないけど!」

 

「通称うんスク?」

 

「略称ができるほど浸透したの!?」

 

あれ、我ながらなんで流行ったんだろう。

うんちブリブリって言いながらスクワットするだけなのに。

あの頃の先生たちは怖かっただろうな。

だって児童たちがうんちブリブリって奇声あげながらスクワットしてんだぜ?

やばいだろ。

 

「で、流行らなくなって安くなったエンピツを僕が買いしめて、もっかいバトエン流行らせてから転売しました」

 

「やっぱり悪だった!?小学生のすることじゃないよさっきから!」

 

「昔から賢かったなぁ僕」

 

「邪悪!」

 

邪悪て。

 

「そんな賢かった僕の推理を聞くのと、ガハマ先輩が自分から話すのどっちがいいですか?」

 

「……!…やっぱりそうなるよね…」

 

「はい、お察しの通りあの面倒臭い二人との話です」

 

「…ありがと」

 

「お礼言われるようなことしました?するのはこれからなんですけど」

 

「無茶苦茶だけど、関わる理由くれたから。…はは、なにいってるんだろうね」

 

「ほんとですよ。清涼剤的な後輩男子がいて良かったですね?」

 

普段なら台無しだのなんだのツッコミが入るのに、ガハマ先輩はただ静かに頷いた。

 

「それにクラスがあんなことなってるのにお礼言えるあたり、ガハマ先輩って変わってますよね」

 

「いいのそれはもういいの!忘れようとしてるんだからやめて!」

 

 

 

 

 

 

さて。

僕の推理は間違っていなかった。

ヒキガヤ先輩とガハマ先輩はすれ違った。

ヒキガヤ先輩が犬を助けて入学ボッチを決め、それを気に病んだのもあるが、純粋に仲良くしようとしていたガハマ先輩に対して、同情すんなと。お前の貴重な時間と優しさを俺なんかに使うなというヒキガヤ先輩なりの優しさと理論によって突き放され、以来ギクシャクした関係が続いているらしい。

 

ならあとするべきことはもう決まっている。

 

「遅れましたー!いやぁ意外と説得に時間かかっちゃって…!」

 

「おいおいどういうことなんだよこれは。なに?どういう状況?」

 

「なるほど…嵌められたのね私たち」

 

「あ、お二人共こんちゃーす。あと2分遅れてたら悪口大会始まってましたよ。とりあえずこまっちゃんありがと」

 

「いえいえ!先輩の頼みですから!」

 

そして、ようやく主役の登場だ。

あからさまにげんなりした顔をするヒキガヤ先輩と、眉間にシワを寄せる雪ノ下先輩。

そしてそれを引き連れるこまっちゃんに、僕は笑顔で手を振った。

 

「さて、揃ったのなら部活動を始めましょうよ先輩方。逃げるの禁止。議題は互いに対して思うところ。恥ずかしい?そんな感情は存在しません。僕が食べました」

 

策はなった。

つまりは3人仲良く死ねということだ。

 

 

 

 

 

「「「………」」」

 

「あ、こまっちゃんなんか飲む?ここの期間限定のハッピーハッピーハッピーキャットチョコシェイクは割と美味しかったよ。一口いる?」

 

「え、いいんですか!…んー、美味しい!…えへへ、間接キス、ですね」

 

「こまっちゃん、君のお兄さんからの無言の圧力がすごいんだけど。視線が熱すぎて穴あきそう。しかも殺意の割に喋んないよ意味なかったよこの作戦」

 

「だめでしたかー」

 

沈黙。

全員がなにをどう切り出していいのか分からない、って顔をしてやがる。

特にこまっちゃんがわざと挑発しても沈黙しているヒキガヤ先輩はかなりの重症だ。

まったくしょうがない。

清涼剤、動きます。

 

「ふぅ…ここにあるのはとある人物のホームビデオです。正確にはそのデータを添付したメールと僕のスマホですけど」

 

「「「え?」」」

 

「それをこうしてぽちっとな」

 

スマホの画面で、一人の幼い女の子がカメラに向かって笑いかける。

その顔立ちは、今目を見開いたガハマ先輩にあまりにも似すぎていて。

 

『ねーママ〜!私将来パパと結婚するんだぁ。それでね、えっとね。ちゅーす───「ああああ!なんでなんでなんで!!なんで今泉くんがこれ持ってるの!」』

 

「なんでって、ガハマ先輩のお母さんとお茶して仲良くなっただけだが?」

 

僕のスマホを壊す勢いでガハマ先輩の手が振り下ろされ、映像が止まる。

それを見てにこりと笑う僕のことを、3人は怯えたように見つめている。

 

「…おいまさか」

 

「あ、ヒキガヤ先輩気付きました?ヒキガヤ先輩はこまっちゃん、ガハマ先輩はお母さん、雪ノ下先輩はお姉さんから。ホームビデオをもらってきました。あヒキガヤ先輩は黒歴史ノートですけどね」

 

「姉さん!?」

 

「…ホームビデオなら俺のはないからセーフとか思ってたのにホームビデオよりきついじゃねえか!つーか小町なにやってんの!?」

 

「やー、私もほんとはお兄ちゃんのためにも屈するわけにもいかなかったんだけど、あんなイケメンに耳元で囁かれたらさすがに無理だったよ…よよよ」

 

別にそんな事実はない。

事情を説明したら『やー小町のならあるんですけど兄のホームビデオはなくてですね…。なのでこれとかどうですか!?』ってノリノリでヒキガヤ先輩の中二病時代のノートとかCDを引っ張り出してきただけだ。

 

「なぜ姉さんが…」

 

「雪ノ下先輩のお姉さん、仲良くは出来なさそうです。でも今回は使いました。葉山先輩を」

 

「…葉山君を巻き込んだのね…」

 

「はい、葉山先輩の紹介で知り合えました。いやぁ、あの人ホント便利」

 

でもほんとに雪ノ下先輩のお姉さんは僕と生き方が真反対すぎて、仲良くするのは無理そう。

というか嫌い。

 

『あはは、君面白いね!』

 

『そうですか?まぁどうでもいいんでホームビデオ出してくんないですか。帰りたい』

 

『えー?どうしよっかなぁ。私としてはこのままなにも渡さずに返してもいいんだけど?』

 

『クソわよ。ほんとに。言っとくけど僕あんた嫌いだかんな!そういうやりたいこと全部我慢して表面上だけで楽しんでるタイプの人!超嫌い!』

 

『ふふ、君の涙目癖になりそう。雪乃ちゃんにもいじめられてるんじゃない?私が他の女じゃ満足できないようにしてあげよっか?』

 

『…あんたがほんとにやりたいこと見つけたら、いいですよ。そんときゃ全力で遊びましょう。でも今の全部我慢した状態の陽乃さんはいやです。というかいいからホームビデオ』

 

『……!…ふーん。へぇー…。やっぱりいいね君。で、ホームビデオだっけ?あるよあるよ。私の秘蔵の雪乃ちゃんコレクション!』

 

『待ってました』

 

「…さて。どうしますか先輩方。話すか死ぬか。二択ですよ?」

 

「お前よくそれで清涼剤名乗れるな!」

 

「清涼剤ですよ。淀んだ空気をぶち壊して軽くする、ね」

 

「方法が最悪なのだけど…」

 

「さ、ほらほらいいから。このまま3人まとめて死んでも共感で仲直りできるし、本音を話しても仲直りできます。なぁなぁを選ぶか、本気を選ぶか。先輩方が決めていいですよ」

 

「今泉くん……方法さえまともだったら私も素直に感謝できたのに…!」

 

 

 

 

由比ヶ浜結衣は言った。

始まりが偽物でも、その気持ちは本物だと。

このまま終わりなんて嫌だと。

 

比企谷八幡は言った。

気遣いも同情も、そして見返りだっていらないと。

だから終わりにしようと。

 

雪ノ下雪乃は言った。

始まりが間違っていたとするのなら、一度終わらせたらいいと。

終わったならまた始めればいいと。

 

今泉浩平は押した。

スマホのスイッチを。

ヒャアもう我慢できねぇゼロだ!と。

 

「「「!?」」」

 

まず流れたのはヒキガヤ先輩のオリジナルハッピーバースデーソング。

それを爆音で流す僕のスマホに、ヒキガヤ先輩が必死の形相で手を伸ばし、誤タップ。

雪ノ下先輩がパンさんの着ぐるみパジャマを着てお姉さんを探しながら泣いてる映像に切り替わって───

 

「今泉!」

 

「今泉くん!?」

 

「…いい度胸ね、覚悟は良い?」

 

「やだなぁ、僕なりの愛ですよ!感謝してください?」

 

「「「しない!!!」」」

 

息ぴったりじゃん。

仲良しか?

いいね、最高かよ。

 

「ははは、ほーら捕まえてご覧なさいな」

 

「おい爆音で人の黒歴史を垂れ流しながら走るな!」

 

「もうやめて!クラスでも学外でも恥ずかしい人になっちゃう!」

 

「…いいわ。いいでしょう。そんなにしたいなら、しましょう?戦争を…!」

 

夏が来る。

果たして夏休みはどんな楽しいことがあるのだろう。

僕はわくわくしながら、先輩たちをぶっちぎりで引き離して帰路につく。

 

「速い速い速い!おふざけで出すなそんな足の速さ!」

 

「ちょ、ゆきのんが虫の息になってる…!」

 

「……逃さない…わよ…」

 

「さらだばー!お達者で!」

 

ああほんとに、夏が待ち遠しい。

そんな僕の気持ちを歓迎するかのように、ペンキをぶちまけたみたいな青空がどこまでも広がっていた。

 

 

しーゆー!

 

 




今回も最後まで読んでくださってありがとうございました。

俺ガイルという作品の一区切りである職場体験編を無事終えることができてホッとしています。
つまり実質第一章完結です。
でもまだ夏休み編も文化祭編も修学旅行編も生徒会選挙編もあります。
…一応清涼剤の動かし方は決めていますが、たどり着けるのか?
しばらく間が空きますが、書き溜めができ次第放出を再開したいなと思っています。
本当にお付き合いありがとうございました。

あとヒキガヤ先輩の誕生日でかつ投稿時間に08が並んでる絵面を見たくてわざわざ8月1日から数字が並ぶように予約投稿していましたが、プチ目標が達成できてよかったです。
誕生日おめでとうございます。
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