毎日投稿をやめたあとも毎日評価を頂けるという現状にあぐらをかくことなく、頑張っていきます。
九時間目。林間学校
10:21
From いろは
Title 今日も暑いね
おはよ。もう起きてる?
昨日部活で葉山先輩にとあるボランティアに誘われたんだけど、今泉くんも行く?
──────
10:51
From 今泉
Title 今日も暑いねRe
ごめん、ボランティアには行けません。
いま、桃源郷にいます。
この場所を南北に縦断するピタゴラスイッチを、私は作っています。
本当は、外が恋しいけれど、でも……
今はもう少しだけ、知らないふりをします。
私の作るこのピタゴラスイッチも、きっといつか、世界を変えるから。
──────
11:10
From いろは
Title 家に行くね♪
──────
11:16
From 今泉
Title 家に行くね♪Re
いいけどアイス買ってきて。
チョコモナカジャンボ。
あと映画見に行かない?
ピタゴラスイッチ飽きたわ
あとよく桃源郷が家ってわかったよね。
正解なんだけどさ。
◆
「おおすげえ、山だ」
「ほんと。山ね」
「ふむ。山だな」
俺がこぼした呟きに、雪ノ下と平塚先生がオウム返しに頷いた。
ここにいたら今泉も続いたことだろう。
あいつはいないけど。
平塚先生が言うには断ったらしい。
珍しいこともあるもんだ。
さておき、俺は現在平塚先生の車の中にいた。
行き先は千葉村。
小町に騙され、部活動に強制参加させられている。
内容は泊りがけのボランティア。
正確には平塚先生が校長に押し付けられた業務のお手伝いらしいが、とにかく。
仕事の内容は小学生の林間学校のサポートスタッフということだった。
そして、俺たちにだけ構っていて贔屓していると勘ぐられるのを嫌って張り紙を出したところ、とあるグループが参加することになったらしい。
葉山隼人率いるあのグループだ。
そこにサッカー部の後輩とその友達もついてくるというのだから、あのイケイケリアリアなノリは全開になることだろう。
平塚先生は言う。
「これも良い機会だ。君たちは別のコミュニティとうまくやる術を身に着けたほうがいい」
「いや無理ですよ、あのへんと仲良くするなんて」
「比企谷、違うよ。仲良くする必要はない。私はうまくやれと言っているだ。社会に出る前にそういう術を身に着けておくのは、君たちにとって必要なことだ」
と、そんな会話をしながら車を降りた俺たちを迎えてくれたのは緑。
───緑の格好した今泉。
「ギリースーツ…だと…!?」
「え、なんで今泉くんがここに…」
「平塚先生?」
「なに、彼は今回奉仕部としての参加はしてないのだよ。別口で先に誘われたからな」
なるほどなぁ。
たしかに!
平塚先生の誘いは断ったと言ったけど、行かないとは言ってないもんな!
いやいや、わかんねーって。
叙述トリックかよ。
今泉はおしゃべりに夢中でこちらに気づく様子もない。
なんでだよ。
お前が今着てるそれ隠れて気付かれないようにする側だろ何やってんだ。
「───で、でっ、でっ!!君と葉山君の関係は!?それとも戸部くんとなのかな!?」
「ふっ…まぁ二人とも…ですね」
「なんだそのドヤ顔…」
興奮する海老名さんと今泉。
その組み合わせに顔を引き攣らせてるのは確か一色だったか。
そんな名前だった気がする。
勉強会以来な上に、途中ゴタゴタが挟まったので記憶に自信がない。
「いろは、顔がやばいけど大丈夫か?」
「あ、葉山先輩!大丈夫ですっ」
「むっふぁー!最高じゃん!」
「よくわかんねーけど3人同じベッドで寝たぜ」
「つまり…3P!?」
「モブもいたから6Pくらい?」
「特濃チーズ来たー!」
「海老名?擬態しろっていうかそいつから離れな?離れてくんないとうるさいんだけど」
「姉御、嫉妬ですか?そんなに僕のこと好きなんですか?やー困ったな。僕のこと好きな人しかこのグループにいねーじゃん…はっ、まさか海老名先輩も!?」
「いえーい、実は私もなのでした!」
「ふぅー!ハーレムぅー!可愛くてご、め、ん!」
「よっ!可愛い大臣!年下受け攻めBLの二刀流スター!BL界の大谷!」
「女装も出来るぜ!」
「───あ、そういうのはいいんで」
「…うす、さーせん。自分ちょーしくれてました。修行して出直してきます」
「葉山先輩緩急が怖いです」
「いろはもう慣れてるだろ?同じクラスなら」
「普段はもっとマシですよ!この2人混ぜるな危険です!」
「っべー、これが寝取られ…?」
「は?戸部あんたなに言ってんの?」
「な、なんでもないなんでもない!ふぅ、やべーなこの合宿。気炎万丈?だぜ…」
「戸部、波乱万丈って言いたかったのか…?」
「そうそれ!さすが葉山くんだわー、びしっと答えをくれるのしびるわー!」
「さすが隼人!」
……。
…………。
沈黙。
展開が早すぎて、もはや全員がそのぶっ飛んだ会話に聞き入るしかなかった。
だが、その沈黙を遮るように平塚先生がせきを一つしてから、気まずげに話し始めた。
「…うん、あれを見習え…とは言わないけどな私も流石に」
「なんだあの集団…」
「うまくやるやらないではなく、自分好みの空気へ変えるために全てをぶち壊してくの流石よね…」
「やー、ほんとすごいよね。あのとことんグイグイいくの、超すごい」
「今泉先輩は変態なんです、私は詳しいんだ。だって勉強会のとき私と同じ中学のよしみとか言ってたけど普通に嘘だったし…」
「だよな。つまりは俺と同じ中学に通ってたことになるもんな」
「…あとから聞いたら、家庭教師する過程で仕入れた情報だったって。あの嘘になんの意味が…」
ぶるり、と震える小町に向かって俺は肩を竦めるようにしていった。
「あいつそこまで考えてないと思うぞ」
「ええそうね。どうせいちいち家庭教師で仕入れて、とか経緯を説明するのが面倒だったんでしょう…」
「会話のテンポのために無意味に嘘つくとこあるよね、今泉くんって」
「なんか3人とも辛辣だね…?」
戸塚が気まずげに笑うが、俺たちは顔を合わせてからすっとぼけた。
「「「別に…?」」」
「あ、黒歴史公開されたからですか!」
「小町、それ以上いけない」
「…ふむ。まぁ、あれはあれで素晴らしい才能だ。誰もが持ち得るものじゃない。集団に溶け込めないなら集団そのものを変えてしまう。空気そのものをぶち壊していくメンタリティ。うまくいかないことすら面白がる。怖がらない。もっとも今泉のあれは一種のコミュニケーション不全ではあるのだが…」
「本人がそれを自覚して武器にしてるのが質が悪い…」
そう。
今泉はぼっちだ。
クラスで浮いている。
今泉はクラスという集団に対する帰属意識などかけらも持ち合わせていない。
だから、クラスという枠を簡単に飛び越えて、興味のある個人とだけ仲を深める。
武器にしている、というか。
あのノリは試験薬なのだと思う。
自分にとって居心地のいい相手かどうかを判断するための試験薬。
そして通らなければ、以降関わることはない。
集団なんてくそくらえという心の声を隠すこともしない。
なのに。
そんなスタンスなのに、必ずその集団に面白がるポイントを見つけては、そこで楽しむ才能の持ち主なのだ。
離れて切り捨てるだけの俺や雪ノ下とは大きく異なる生態系。
そして、楽しんだ今泉はやるべきことを終えたらその集団にはもう戻らない。
楽しかったぜぇーお前らとの友情ごっこ!あばよ!と切り捨てて、別の集団へと突入していくのだ。
その姿はまさに唯我独尊。
立つ鳥は後を濁さないどころではない。
もはやあとに残したものへの興味などかけらも残さないそのゴーイングマイウェイっぷりは、漂白にも等しい。
…って、結局切り捨てちゃうのかよ。
でもあいつ絶対どうでもよくなったら切り捨てるよな、最終的に。
だからこそ思う。
そんな今泉が、切り捨てるでもなく奉仕部の仲を取り持ってくれたのは、喜ぶべきことなのだろうと。
方法はさておき。
あのあと、なんど自分の部屋で叫んだことか。
互いの過去に触れたせいで、今泉の言う通り前よりも互いについての理解が進んだのもまたたちが悪い。
特に雪ノ下。
あいつの過去を見て俺は───
「そういうことだ雪ノ下。自分の欠点を認めて開き直るという点では君たちと同じなのに、社会に出てうまくいくのはきっと彼の方だ。この差について、考えてみるといい。くれぐれも、参考にする必要はないからな。頼むぞ?振りじゃないからな。今泉が増えたら困る。それだけは伝えておくぞ」
「さすが先生、いい感じにまとめてくれましたね」
「!?今の一瞬でなんでこっちに来てんだよ!ビビるだろ」
「どもヒキガヤ先輩お久しぶりです。元気でした?」
「…ああ、まぁな。つーか断ったって聞いたけど来てることに俺は驚きだよ」
「ああそりゃ奉仕部としてより先にいろはすさんに誘われてたんで。逆に聞きたいんですけど僕がこの手のイベント参加しないはずなくないですか?」
「だよな」
俺はコイツのおかげで、無自覚にしていた雪ノ下への期待をやめることができたのかもしれない。
そんなことを思いながら、いつの間にか隣に立っていた今泉から視線を外すのだった。
「…葉っぱの下の緑全身タイツかよ…」
「ボディペイントのほうが良かったですか?いやんえっち」
「ちげーから。俺にそんな趣味はねーから。あと真顔やめろ冗談言うときは。脳がバグるんだよ」
「アハ体験ですよ」
「違うと思う」
◆
教師のちょっとしたお小言から始まった開会式。
先生の紹介で俺たちへと注目が集まり、その代表として葉山と…それについていくように今泉が前に出る。
不安だ…。
とても不安だ。
その不安は、今泉を知っている人間であればあるほど強いようで、三浦や今泉と同じクラスであるらしい一色もまた顔をしかめている。
隣を見れば、はらはらと雪ノ下が見守っているのが見えた。
母親か?
助けを求めるように平塚先生をちらりと見るが、我関せずと言わんばかりに車に荷物を積み込んでいっている。
…おい。
おい正気か生徒指導。
いや、逆に信頼してるのか?
今泉を?
まさか逆にイケるのか…?
「はい、君たちが静かになるまでに24時間かかりました。え、気づかなかった?実は太陽が一周してんだよねこれ。つまり林間学校は1日減りました。残念でした!僕が時を飛ばした…」
「今泉、挨拶中くらいは静かにしてくれないか…?」
駄目だった。
そりゃそうだ。
だってそれが今泉だもの。
「すみません。今山の中に来てテンションがぶち上がってて……ガキ共、盛り上がってるかぁー!」
「やめてくれ!せっかく静かになったのにまた賑やかになっちゃうだろ!」
「「「「「「「いえーい!」」」」」」」
「ほら!」
「はい拍手ー、からの三本締め!」
「統制できてる!?」
「ではオリエンテーリングスタート!」
元気よく葉山を振り回し、挙げ句先生の役目すらも奪ってはしゃぐ今泉は、最高に夏を楽しんでいた。
「やっぱこうなりましたねー…」
「あんた、わかってるなら止めてくんない?」
「無理ですよぉ、だって今泉くんですよ!」
三浦と一色の会話に、先日その無茶苦茶加減を身を以て知ることになった奉仕部3人は深く頷くのだった。
◆
オリエンテーリングときて、夕食は飯盒炊爨。
ある意味林間学校の定番であるそれは、ほとんどの小学生たちにとっては初めての料理になるのだろう。
そこかしこからきゃらきゃらという楽しい声が聞こえてくる。
だが、だからこそ変なことがあった。
そんな賑やかな雰囲気を一番楽しんでそうな今泉がいない。
平塚先生に今泉を呼んでくるように頼まれた俺は、そこでようやくその違和感に気がついた。
「おい由比ヶ浜、今泉のやつがどこにいるかしらねーか?」
「あ、ヒッキー。…あれほんとだ、いないね」
「お前もしらないのか…」
奉仕部において、今泉が一番懐いてるのは由比ヶ浜だ。
今泉は一見奉仕部の俺達3人全員に平等に懐いているように見えるかもしれないが、俺と雪ノ下相手と由比ヶ浜相手だと今泉のスタンスが違う。
俺や雪ノ下には変化球を好むが、由比ヶ浜相手だと今泉はどストレートだ。
肩ぶっ壊して倒れる茂野ゴロー並みに直球勝負だ。
例えば前回の一件。
俺と雪ノ下相手にあいつがしたのは不意打ちだった。
由比ヶ浜相手には真正面から呼び出してからかって、その上で手を差し伸べた。
その違いはきっと、由比ヶ浜のリアクションがいいから、ではなく誰よりも周りに気を遣っているから。
なんだかんだ懐いた相手に対しては構ってちゃんな今泉は、その由比ヶ浜の優しさに甘えているのだろう。
それに俺や雪ノ下は変化球じゃないと反応しないからな。
とはいえ、そんな由比ヶ浜が知らないなら別の相手に聞くしかない。
俺は辺りを見回して、戸部をこき使ってるもう一人の後輩に声を掛ける。
「すまん、一色…でいいんだよな?今泉がどこに行ったか知らないか?」
「えー?あっ、こんにちはヒキガヤ先輩!…ヒキタニ先輩?」
「比企谷だ。比企谷八幡」
「あ、葉山先輩が間違ってるんだ珍しい…」
俺もそう思うよ。
「で、今泉くんですか?ならあの木陰に女の子連れ込んでましたよっ」
「そ、そうなんだ…ありがとね…」
怖っ。
え、怖っ。
今一瞬すごい殺意が膨らんだけど!?
ふーんだ、なんて頰をふくらませるあざといその後輩に怯えながら、俺は一色が指をさしていた方へと足を踏み入れる。
そこで俺はようやく知るのだ。
───一度この林間学校への参加を断ったという今泉が、なぜ参加したのかを。
◆
11:08
From ───
Title ───です
今泉さん。
助けて。
──────
11:09
From 今泉
Title ───ですRe
いいよ
今回も最後まで読んでくださってありがとうございます。
ここ好きと感想と評価が作者の創作意欲の燃料となり心を満たすので、良ければお慈悲を頂けたらなと思います。
そして、林間学校編は上中下の3話構成、プラス1話で夏休み編は終わりです。
今回はイントロダクション兼比企谷八幡から見る今泉をコンセプトに1話を組み立ててみました。
長い…。
気を抜くと重くなりがちなので、今泉って書きやすいんだなぁと思いました。