ごうごうと、風が吹いている。
何かに掴まっていないと、すぐに吹き飛んでしまうくらいに。
ごうごうと、風が吹いている。
足元を覗けば、うねった空気が渦となって、私を引きずり込もうとしているのが見える。――ような気がしているだけで本当は、そよ風の一つも吹いていない。
上を見ればどこまでも澄んだ青空が広がっているし、下を見れば……ちょっと怖くて
四階建ての学校の屋上は、思っていたよりもずっと高くて、足から力が抜けるのとは対照的に、両手でぎゅっとフェンスを握りしめていた。
事の発端、でも無いけれど、最近私は悩んでいた。
私は私の事が好きだ。だから、皆にも私の事を好きになってほしいと思っていた。
端的に言えば目立ちたかった。でも今時ちょっと顔が良いくらいでは目立つことはできないのだ。
だから私は考えた。私の足りない脳みそ――そういう、ちょっと足りないくらいの方が可愛いということも私は知っている。――をひねって考えた。
その結果、「そうだ、悪目立ちしよう」ということになった。犯罪にならないくらいで。
まずは遺書を書いた。当たり障りのない言葉を並べて、なんかいい感じに世界に絶望したことにして、ロッカーの中に入れておいた。
次に、気になってる男子にそれとなく声を掛けてみた。あと、普段話しかけない女子にも少し話しかけてみたりしてみた。普段とは違う私の行動を、何人かに印象付けて、放課後まで待つことにした。
そうして部活動が始まる時間まで、教室で一人物憂げに過ごして、なるべく人の目につくようにしながら、屋上の方へと歩いてきた。
そんな感じで今は、屋上の端で、両手でしっかりとフェンスを握りながら、誰かの到着を待っている。私の(狂言)自殺を止めてくれる、心優しい通りすがりの誰かを、だ。
正直なところ、半分後悔している。
「……引き止められたら、なんて言って泣こうかな」
いつ誰が来るとも分からないから、座って待っているわけにもいかない。
疲れた足をぶらぶらとさせながら、なるべく皆の関心を惹ける様な嘘を考える。
なるべく真に迫った嘘じゃないと、皆に同情してもらえないだろうから。
「そういえば、飛び降りる時は靴そろえて置いておくんだっけ」
一応やっておくかと思って、一回座って靴を脱ぎ、丁寧に揃えてまた立ち上がる。
外で靴下になるのは、ちょっといけないことをしているようで――しているけど――、なんというかむず痒い。でも、靴の時よりもしっかり地面を踏みしめている感じがあって、ある意味落ち着くかもしれない。
準備は万端。後は待機するだけだった。
……それから暫くして、四階の空いた窓から、運動部の掛け声が足音とともに響いてきた。そして、また下の階へと足音が遠ざかっていく。
この状況にも慣れ始め、大きなあくびをしたところで、狂言自殺の言い訳も一通り考え終わり、ただただ退屈していたのを自覚した。そう思うと、いつの間にかずいぶんと太陽が傾いてきているような気もしてきた。
「ちょっと分かりにくかったかな」
こうなると、もはや反省会ムードだ。
なるべくいろんな人の気を引いて、目立つようにここに来たつもりだったけれど、皆いつもと変わらず部活動に勤しんでいるらしい。誰も屋上になんか来てくれない。
少なくとも、悲劇のヒロインには今日はもう成れなさそうだ。
このまま待っていても用務員のおじさんくらいしか来てくれないだろうし、そうなったら生徒指導の先生に怒られることにもなりかねない。
「……帰ろっかな」
そうと決まったら、無駄に時間を過ごしているのもばからしい。
さっさと帰って、また別の目立ち方でも考えた方がよっぽど建設的だと思う。
フェンスに背中を預けて座り、きっちりとそろえておいた靴を手に取って、まずは右足「おい!」不意に怒鳴られて「そんなとこで何をしているんだ!」びっくりして立ち上がろうとして、「あっ」
振り返ろうとしたら靴下がすべ
っ
て
フェンスを
掴もうと
し
た
右
手
に
は
靴
が
――ごうごうと、風が吹いている。