夢物語   作:危橋たけ

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 パスワードの解き方回です。
 これで解けるか!?
 誰か解いてくれ
 僕が空振りしたみたいじゃないか!


後夜祭 解除編・その一

 

 第一ヒント『Knock・Out』

 第二ヒント『GAME』

 第三ヒント『HAIR』

「これで、十文字のパスワード?」

「はい……」

 誰も巻き込まないように。僕とつむじだけで頑張る。その志を以てして、閻魔大王との戦いに臨んでいるつもりだった。

「どーしてこういうの、早く教えてくれないのかしら。ひょっとしてこの二つ目のヒントって、昨日話してくれた教頭先生との将棋チェスでゲットしたの?」

「お察しの通り……」

 何故か、翅さんに何もかもがバレていた。

 後夜祭が終わったので帰宅すると、ビンタされてコブラツイストをされた。

「法則としては簡単よね。そこはまあ、あっくんも分かってるでしょ?」

「――ああ。そうやって三つ並べてみたら分かり易いよな。でも法則は分かっても指針が分からない。問題はそれを、どう並び替えれば正解なのかだ」

「そうよね。入力チャンスはたったの一回。パターンが違ったとしたらゲームオーバーなわけよね。そうなるとナイン度が跳ね上がるわけだ」

 ナイン度?

 何それ。野球?

「あ、やっぱり分からない? いやね。今日、桐壷様とそういうお喋りしたのよ。これからのトレンドは微妙な言い間違いだって。ねえあっくん。ちょっとその辺、突っ込んでくれるかしら」

「……ナイン度って、何やねん」

「噛ん・じゃっ・た☆」

 うざっ。

 この嫁、うざっ。

「……あ! さては閻魔三銃士戦のこと、つむじから聞いたな!」

「さすが察しがいいわ」

「つむじー!」

「ぱんぱかぱーん。何じゃ小僧」

 悪びれも無く虚空から幼女が登場した。

「頼むからお前、空気とか呼んでくれよ……。ここまで誰にも知られないように気を配ってた僕が馬鹿みてえじゃないか……」

「だってそんなの、儂、聞いとらんもん」

「子供か」

 ああいや、見た目は子供だけど。

「別にいいじゃないの、あっくん」

 と、僕とつむじの間に翅さんが割って入る。――割って入る、なんてことがあっちゃならなかった筈なのに、割って入ってくる。

「この場合、桐壷様が私に閻魔三銃士戦のことを教えて良かったことが二つあるわ。一つは、もしも私が個人でその内緒に辿り着いていた場合、ビンタにコブラツイストじゃ済まなかったということ」

 その瞳からして、どうやら冗談じゃなかった。

 嫁が恐過ぎる。

「んで、もう一つは?」

 翅さんは、不敵な風にしたり顔を浮かべた。

「コンピュータという分野でさえあれば十分。数式上のブロックなんて、私にとっちゃ在って無いようなものよ」

「……頼もしーい」

 裏社会を支える一族相伝の四組織『四翅傾名』。

 空蝉(うつせみ)捜査部。

 胡蝶研究棟。

 鈴虫(すずむし)雑技団。

 蜻蛉毒薬局。

 ちなみに百年前まで蛍(ほたる)十字機関なる組織も存在していたものの、現在は『十字架機関』と名前を変えてクロス・プログラムの名で親しまれている(いない)。

 この世のすべてを解き明かす研究機関、胡蝶研究棟。翅さんはその直系の人間である。部門を問わず、チートによる攻略であれば右に出る者はいない。

「持って来てよ、そのノーパソ。たぶんちょちょいのちょいでパス解ける筈だし」

「や、それはそうなんだけど……」

 問題は、同じく二つある。

 一つは『こういう』攻略の仕方はどうにも釈然としないこと。僕は攻略本で気持ちが萎える人なので、こういう抜け道めいた幕引きだと納得し難いものがある。

 まあ、それは大人になって我慢すれば構わないのだけれど。

「怒んないで聞いてくれ」

「うん。言ってごらんなさい」

 そして二つ目が問題だ。これに関しては、もう本当にどうにもならない。

「ノートパソコン、学校なんだ」

「………………」

「だって、だってさ。神社の境内に置きっ放しじゃさすがにノーパソの充電切れるだろうし、ちょうどタイプが僕が学校で使ってるのと同じだったからさ。学校で繋いでおこうかな、って思って……」

「殺すぞ」

「殺すの!?」

 猟奇的だった。

 何やかんやで、閻魔三銃士戦を黙っていたことを根に持っているらしい。

「あー、じゃあ、取りに行って来るからさ。今も用務員さんとか片付けしてくれてる真っ最中だから、潜り込めるよ」

「あらそう? じゃあそうするといいわ。何事もなるたけ早い方がいいものよ」

「いや、そこは出来れば止めて欲しいんだけど。もう遅いし……」

「ちゅ」

 キスされた。

 黙らざるを得ない。

「ん? 今のは何じゃ。どういう『こむにけーしょん』じゃ?」

「あ、桐壷様いるんだった」

「や、何かもう、いいよ」

 九月二十八日より三日間続けられた玄舟祭の三日目の夜は既に開けていて、月日は十月に移っていた。

 

 ----------

 

「まだ分からんことがあるのじゃが」

 校門が見えて来たところで、同行してきたつむじは僕の髪の毛を掴んだ。学院内にはやはり数人の用務員か教師がいるようで、恐らく片付けが終了したので打ち上げとしてアルコールでも楽しんでいるのだろう。

「結局、『ぱすわーど』の解き方はどうすればいいのじゃ?」

「ん? ああ、アレね。並べて見りゃ一目瞭然だよ。――ほら」

 僕は携帯電話を開きメモ機能を起動させ、つむじに示す。

《第一ヒント『Knock・Out』

 第二ヒント『GAME』

 第三ヒント『HAIR』》

「……この記号は何じゃ? 文字か?」

「お前、何年神様やってんだよ……。アルファベットも分かんねえのか?」

「あ、ある……? お、それはアレか。『えーご』か?」

「ふうん、知っちゃいるんだ」

「伊達に地球創造の一端を担っておらんわい」

 スケールがデカいのに、知識がしょぼい。つむじは全盛期でなくとも世界中を闊歩できる神様のくせに、どうにも行動範囲が狭いきらいがある。

 千年前だっただろうか。こいつが初めて、人間とコンタクトを取ったというのは。

 そこで文字くらい覚えたのだろう。多少の物書きは出来るが、いかんせん当時手を組んだ人間は日本人だったようで、ABCとなるともはやそれだけで、つむじにとっては暗号なのだ。

「じゃあこの文章を、文字としてじゃなくてイラスト――絵として見ろ。違和感あるだろ?」

「む。ああ、これか。一行目じゃな。この文章だけ、記号の大きさに差異がある」

 一発で当ててくれてほっと安堵する。ここでボケられたら何かもう、埒が明かなくなりそうだ。

「クイズのつもりは無いから言うけど、小文字は使わないんだ。小さいのな。この一行目で使用する記号は、『K』と『O』だ」

「ふんふん」

「この時点で、残りの文字を数えてみよう。二行目と三行目はフルで使うとして?」

「十文字じゃな。にーたす、よんたす、よんで、十じゃ」

 足し算を習得しているだと……?

 だんだんスペックが見た目通りに近付いてきているようだ。

「そう、十文字。ところでこの十文字という言葉、何かに当てはまると思わないか?」

「思わん」

 や、えっと……。

「ボケくらいしろよ……。そんなストレートに拒まれたらこっちの立場が無えじゃねえか……」

「そんなこと言われてものお。儂、芸人じゃないし」

 まあ確かに、その通りではある。何気に無茶振りをしていたようだ。少し反省。

「パスワードの文字数と一緒だろ」

「おお! なるほどなるほど! つまりこの文字を打てば『ぱすわーど』が解けるということじゃな!」

「説明し甲斐のある奴だなー。それがどうか分かんないから、翅さんに頼ることになったんじゃねえか」

 仮に順番通りにアルファベットを打っていくとすれば、つまり答えは『KOGAMEHAIR』となる。

 ここで思い出してもらいたい。これは『パスワード』である。

「そりゃ世の中には奇特な人ってのもいるだろうけどさ。パスワードにせよメールアドレスにせよ、それは『何かの意味』を持っている筈なんだ。意味がはっきりしない限り、それが答えとは判別出来ないんだ」

「ならば試してみればよいのではないか? 意外と当たっとるかもしれんぞ?」

「だからチャンスは一回なんだって……。何を聞いてたんだお前」

 つまり何が足りないのかというと、ヒントが足りないのだ。確かに素材は揃った。使い方も恐らく大文字のアナグラムで間違いないだろう。しかし問題は指針だ。

 Aが二つ。E・G・H・I・K・M・O・R。これを一体どのように組み替えれば答えが出るのか。――考えるのさえ馬鹿馬鹿しくなってくる。チャンスが一回。これで臆さない方がどうにかしている。

「釈然としない感じはあったけど、やっぱりどのような手を使ってでも閻魔の情報は必要なんだよ。とっととパソコン持って帰って、翅さんにこじ開けてもらおう。――ま、向こうから提示された情報な手前、信用できる中身なのかどうかも怪しんだけどさ」

 それでも、必要だ。

 僕らには、足りないものが多過ぎる。

「……小僧」

 歩き出そうとした時、不意に声の調子を変えてつむじは僕を呼び止めた。

 冷え切っていて。

 それでいて、燃え盛るような声。

「手段を選ばぬというのなら――どうして『げーむ』に付き合ったのじゃ?」

「………………」

「それだけではない。『げーむ』に付き合うのならばそれでも良い。じゃがどうして、儂を使わなかった? どうして一人で戦った? 儂は言ったぞ。貴様は独りではないと」

 その射抜くような瞳は、どうしようもなく僕を糾弾していた。

「貴様と結託した今でも、儂は貴様のことが分からん。小僧。貴様は儂を信頼しておらぬのではないか? 結託とか仲間とか、そういうのを理解しておらぬのではないか?」

「違う」

 すぐに僕は否定した。間髪入れずに、桐壷つむじを否定した。

 

「結託とか仲間とか、理解していないのはお前だよ、桐壷」

 

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