トレセン学園新聞部「蹄鉄の裏側 第138号」ライバル決戦!宿命の天皇賞(秋) 作:ゴケット
トレセン学園のモブ視点からの校内新聞。要するにサイドストーリーです。
お付き合いいただければ幸いです。
『主役不在。人気は分かれる』
今回の天皇賞(春)は、一番有力視されていたシャドーロールのウマ娘が怪我による回避を表明していたこともあり、連勝していた1-1・鹿毛のウマ娘が1番人気に推され。日経賞を制した7-13・白い帽子のウマ娘が2番人気、目黒記念を勝利した赤いイヤーネットのウマ娘が3番人気に支持された。前々回春の天皇賞でメジロマックイーンを破ったライスシャワーは前走、前々走ともに掲示板を外していることもあって4番人気となった。
『奇跡の復活を果たした2度目の天皇賞春』
レース前半は8-16・水晶のような瞳のウマ娘が逃げ、五、六馬身と差を広げる中、各ウマ娘たちは互いの顔色をうかがい合い、速い展開にはならなかった。1周目の正面で早くも8-16・水晶のような瞳のウマ娘が後続に絡まれ始めたころ、1-1・鹿毛のウマ娘が積極的に前に出始める。
(馬場が思ったよりも重い。あまり下がると、最後の直線で差し切れない)
1-1・鹿毛のウマ娘がそう思い。四、五番手まで上がったことで、後続のウマ娘達のマークする相手は決まりつつあった。レースの展開は現在三番手7-13・白い帽子のウマ娘、それに続く1-1・鹿毛のウマ娘。そして、唯一G1勝利経験をもつライスシャワーが中心で進む。7-15・黒鹿毛のウマ娘、8-17・赤いイヤーネットのウマ娘は明らかに先行する三人をマークする動きを見せていた。
(先頭の8-16・水晶のような瞳のウマ娘と、今二番手のウマ娘は、間違いなく次の坂で脚が萎える)
(京都の上りと下りで絶対動いちゃダメ、絶対。今は我慢、我慢)
ペースはスロー。普通なら最後の直線のスピード比べとなる展開である。しかし、
「仕掛けどころの難しいレースになってしまいましたわ…」
「はい、今日はスピードを生かしきれない重馬場です」
スタンド前を通り過ぎていくウマ娘達を見ながらメジロマックイーンが呟くと、隣で同じくライスシャワーの雄姿を見守っていたミホノブルボンが続いた。
「ライスさん、どちらかというと、良馬場の方が得意でしたよね。大丈夫でしょうか?」
「大丈夫じゃねぇの?ライスにゃ、京都の坂じゃ仕掛けるな。って、アタシが直々に教えてやったから」
不安を口にした前髪ぱっつんのウマ娘に対して、ゴールドシップが自慢げに答える。が、前髪ぱっつんのウマ娘はゴールドシップにジト目を向ける。
「それ、学園の先生に割と最初のころに言われることじゃ・・・」
「だから、更にアタシがライスの耳にタコをちゅうちゅうさせてやったんだって」
唇を尖らせ四肢をくねくねと動かしながら、前髪ぱっつんのウマ娘に言葉を返すゴールドシップの姿に、ミホノブルボンが困惑する。
「・・・タコをちゅうちゅう??」
宇宙の広大さや神秘さに触れた猫のような顔をするミホノブルボン。ライスシャワーの坂路特訓を手伝っているとはいえ、シリウスのメンバーではない彼女はゴールドシップの奇言異行になれていないのだ。
タレ目のウマ娘がミホノブルボンの意識と話の流れを現実に戻す。
「長くいい脚の使えるライスさんなら、大丈夫ってことです~。何といっても~、京都のG1で二度も勝ってるんですから~」
「そうです!私達も精一杯応援しましょう!」
黒髪ボブのウマ娘の声を聴きながら、シリウスのトレーナーは必死に考えていた。
(誰でもいいから、もっと引っ張っていってくれないかな)
家の都合でチームから一時離脱していたメジロマックイーンがチームに復帰し、共に併走することでライスシャワーの調子は上向きになっている。とはいえ、まだ万全とは言い難い。しかし、
(このままオーソドックスに流れに乗っていても、勝てる可能性は1%もない)
この時、シリウスのトレーナーの脳裏には一つの作戦が浮かんできていた。それはチーム『アスケラ』の名トレーナーがいつかの菊花賞で披露した作戦だ。それまで彼の立てるウマ娘の指導方針は「荒っぽく、それは自信のなさの裏返し」と評されていたが、その一戦でそれまでの評価を覆し、名トレーナーへと成長させたと言われている奇策。でも逆にこれが失敗したら酷いことになる。セオリーを無視した無謀者と呼ばれ、メジロマックイーンの活躍で集まってきてくれたチームメンバーも離れて行ってしまうかもしれない。その名トレーナーだって、あの伝説の菊花賞以降一度も使っていない。
安全策で行けば掲示板に載るのは間違いない。みんな納得してくれる・・・。
しかしそれは、ライスシャワーが勝つチャンスを放棄するのと同じことだ。
「言い訳は後で考えよう・・・」
やっぱり、勝つには今、自分から動いていくしかない。ライスシャワーも過去の天皇賞(春)の映像は何度も見ている。伝わるはずだ・・・。やっと腹を決めたシリウスのトレーナーが顔を上げた。
まだレースは向こう正面の中央付近、3コーナーのはるか手前である。
「ライスーーーー!!!」
シリウスのトレーナーはあらん限りの大声てそれだけ叫んだ。ただ名前を叫んだだけで具体的な指示も何もない。
しかし、小柄な黒鹿毛のウマ娘がひときわ首を低く下げ、スーッと上位に上がっていく。
ライスシャワーの小さな体に似合わぬプレッシャーに押され、1-1・鹿毛のウマ娘が馬場の悪い所にハマって下がっていく。ライスシャワーは止まらない。そのまま、2番手、先頭のウマ娘を抜き去り、3コーナー入り口で先頭に立った。
スタンド中の観客たちが何が起こったのか理解するまで一拍の間があった。どーっとどよめく声にスタンドが揺れた。
「おいおい、お前、何やらせてんだよ!」
「トレーナーさん!いったい何を考えてますの!」
シリウスの葦毛の二人がトレーナーの肩を掴んで揺さぶり始め、
「理解不能です・・・」
ミホノブルボンが再び困惑している。
「えーーーー!なんで!」
「ラ、ライスさん!どうして!!」
「かかっちゃったの!」
他のメンバーもおろおろと狼狽し始めた。
みな、この京都のコースで3コーナー手前から行ったんじゃ勝てないんだって知っているからだ。
先頭のライスシャワーは淀の坂を一気に駆け下り、後続のウマ娘を引き離しにかかる。1-1・鹿毛のウマ娘はあっという間に後方集団に飲み込まれた。代わりに7-13・白い帽子のウマ娘が動いた。釣られるように、残りのウマ娘たちが勝負を仕掛けてきた。
最終コーナーをまわって直線。
スタンドの誰もが淀の坂で仕掛けた無謀なウマ娘は後方に沈んでいると思っていた。
レース実況が叫んだ。
「やっぱり、このウマ娘は強いのか。ライスシャワー先頭。完全にライスシャワーが先頭だ!!」
残り400m、二番手までの差は4馬身ほど。
セオリー通り淀の坂をスローペースに進み脚を貯めた後方集団が、末脚を解き放つ。7-13・白い帽子のウマ娘が追ってくる。1-1・鹿毛のウマ娘も息を吹き返す。
「行けーーー!!ライス!!」
「ライスさん!もうひと踏ん張りです!」
ゴールドシップに続き、前髪ぱっつんのウマ娘が声を張り上げる。
残り200m、2番手集団がじわりじわりと迫ってくる。
「ああ、来てる来てる!!」
「なんでこんなに直線が長いの~~!!」
タレ目のウマ娘と黒髪ボブのウマ娘が、悲鳴のような声を上げる。
残り100m、ガクリとライスシャワーの脚色が落ちた。とうとう全ての脚を使ってしまったのだ。ひときわ大きな歓声が上がった。群を抜く末脚で、大外から7-15・黒鹿毛のウマ娘が飛んできた。ライスシャワーとの差があっという間になくなっていく。
「ライス!逃げて!」
「トレーナーさん、責任を取ってくださいませ!!」
普段感情を表に出さないミホノブルボンが必死に声を張り上げ、メジロマックイーンも何を言っているのか分かっていないほど夢中だった。
歓声が爆ぜた。
ライスシャワーと7-15・黒鹿毛のウマ娘が並んでゴールを駆け抜けた。
シリウスのトレーナーの感じたところだと、ギリギリの所で残っていた。が、7-15・黒鹿毛のウマ娘が、自信ありげにガッツポーズをしている。
(差された?)
チームメンバーの手前口にはしなかったが、だんだん自信がなくなってきた。ライスシャワーの姿を見るとボロボロの姿で掲示板の写真判定の表示を見ている。
ドスン!と、脇腹に衝撃を感じて、シリウスのトレーナーがそちらを見ると、メジロマックイーンが肘鉄を入れた所だった。メジロマックイーンは不満げにトレーナーを見上げてから、掲示板に視線を戻す。
「早かったろ・・・!」
まだ判定の結果が出ていなかったため、ゴールドシップからのお叱りはその程度で済んだ。
チームメンバーにも、ミホノブルボンにも結果は分からない。祈りながら掲示板を見ていた。
しかし、このレース場の中で勝負の結果を確信していたものがいた。レース実況のアナウンサーが確信を持って伝える。
「おそらく、おそらく…」
掲示板の写真判定の表示が消える。
歓声が上がる。そう、悲鳴ではなく祝福の歓声だ。
チームメンバー達が抱き合い喜びをあらわにする。
「メジロマックイーンもミホノブルボンも喜んでいることでしょう!!ライスシャワー今日はやった!!」
『チームメイトの証言』
――――――――:今回の天皇賞春は、ライスシャワーさんにとって、2年ぶりの勝利になりました。
前髪ぱっつんのウマ娘:このレースほどハラハラしてみていたレースはないよー
ブリンカーのウマ娘:んだ、んだ。3コーナーから仕掛ける奴なんて、相当頭のネジが飛んで行っている奴しかいねー。
お嬢様?風のウマ娘:確かに、京都レース場の坂は「ゆっくり上り、ゆっくり下るのが鉄則」とされています。
タレ目のウマ娘:最初はずいぶん先に行くなぁって、気楽に見てたけど・・・。
黒髪ボブのウマ娘:気が付いたら、先頭に出ちゃってた。
お嬢様?風のウマ娘:しかも、あれは他のウマ娘の重圧で出されたのではなく、ライスさんの意思を感じました。
ブリンカーのウマ娘:さすがのアタシも、前に出たのがライスだって、一瞬、信じられなかったんだけんどもよ。
前髪ぱっつんのウマ娘:トレーナーは~、何か知ってたみたいだったよねー。
タレ目のウマ娘:ライスさんの名前を叫んだだけだったからねー。
黒髪ボブのウマ娘:でも、以心伝心っていうか、一心同体っていうか、ちょっと良かったかも・・・。
お嬢様?風のウマ娘:・・・っ!!!トレーナーさんも、トレーナーさんです!!ああいう変則的な作戦ならば、事前におっしゃってくださっても良かったですのに!!・・・ッ・・・ケホ、コホ!
――――――――:大丈夫ですか?
ブリンカーのウマ娘:こいつ、ゴール前の直線で叫び過ぎて、喉が腫れてんだよ。
お嬢様?風のウマ娘:そんなこと・・・!・・・ケホ!
黒髪ボブのウマ娘:マックイーンちゃんも?じつは、わたしもなんだー
タレ目のウマ娘:直線に入ったら抜かれちゃうかもーって、思ってたんだけどー。ライスさんもいい脚で伸びてきたでしょー。
前髪ぱっつんのウマ娘:あれは応援に力が入るって。お願い逃げ込んでーーってね。おかげで声がガラガラだけど。
ブリンカーのウマ娘:お前ら鍛え方が足りねぇんじゃねぇか?祝杯の時もカラオケを5曲歌ったのアタシだけだったしよ。
お嬢様?風のウマ娘:それはあなたが普段から騒ぎなれているからでしょう。
ブリンカーのウマ娘:えー、マックちゃんは普段からカラオケより、スイーツばっかりじゃねぇか。パクパクですわ~。
お嬢様?風のウマ娘:そんな言葉、言ったことありませんわ!!・・・コホッ!
『勝利者インタビュー、ライスシャワー、担当トレーナー』
―――――――:まずはおめでとうございます。
ライスシャワー:ありがとうございましゅ。
顔を赤らめて、シリウスのトレーナーの後ろに隠れてしまうライスシャワー。
―――――――:やっぱりライスシャワーは怖かった。チームシリウスは怖かった。と、言ったところでしょうか?
ライスシャワー:――――、―――。(声が小さくて聞き取れない)
トレーナー:ライスは頑張ってくれました。普通なら、もうこれ以上無理だ、頑張れない、というところでも。
―――――――:ゴールの瞬間はわかりました?
トレーナーが背後のライスシャワーを促す。
ライスシャワー:もしかしたら残ってたのかなって、少し期待してたんですけど・・・。でも、中と外で離れてたから、よく分からなくて。
―――――――:そして比較的早めに先頭に経ちましたよね。ちょっと驚いたんですけど・・・?
ライスシャワーがトレーナーを見上げるがトレーナーは、どうぞと言うようなジェスチャーをしただけだった。
ライスシャワー:ぺ、ペースはまあまあ早くならないだろうなと思って。本当はもうちょっと3番目とか4番目くらいで、3コーナーにいられたらなあって・・・。思っていたんですけど・・・。――――、―――。(声が小さくて聞き取れない)
トレーナー:相手の弱点をつき、自分の脚の長所を引き出すために、変則的な展開を作り出さなければならないとき。セオリーを無視した、驚くような選択を選ぶべきときもあります。今回の天皇賞はまさにそのようなときでした。
―――――――:あのトレセンの先生の方々も、京都の上りと下りで絶対動いちゃダメだって
こんこんと言われていると思うんですけど、ライスシャワーさんは動いていったんで、私はこういうのを求めたかったんで、すごくすごいなーと思ってました。
ライスシャワー:今のライスじゃあ、しまいの脚じゃあ勝てないじゃないかって思って、それで・・・。
―――――――:直線に向いて一気に後続を離しましたね。まだまだ、長かったと思いますけど・・・。手応えどうでした?
ライスシャワー:こんなに長かったのかな?京都の直線は・・・って、ゴールが遠くに見えました。
―――――――:最後の最後、7-15・黒鹿毛のウマ娘が一年前の日経賞の様に、一気に追い込んできたんですが。
ライスシャワー:後ろから誰かの足音が聞こえてきて、すごく焦ったんですけど、必死に最後まで走りました。
トレーナー:やっぱり思い切りの良さ。行くと決めたら行く。決めることの判断の俊敏さが、この勝ちにつながったと思っています。
―――――――:最高の優勝でした。
ライスシャワー:ありがとうございます。
トレーナーが無言で一礼をする。
―――――――:最後にファンの皆様に一言。
ライスシャワー:ライスは、どこまでも走り続けます・・・!走り続けて、みんなに笑顔になってもらいますっ!!
面白かった、つまらなかった、正直な気持ちでもちろん大丈夫です。
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何卒よろしくお願い申し上げます。