トレセン学園新聞部「蹄鉄の裏側 第138号」ライバル決戦!宿命の天皇賞(秋)   作:ゴケット

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アプリ版のメインストーリー第二部で、もしかしたらこの二人が主役の話が出るかも?




「第138号」ライバル決戦!宿命の天皇賞(秋)

『スカーレットのほうが強い!』

 

 その決戦当日となって短針が四周半ほど回った頃、チーム:カストルのトレーナーの目は覚めた。もう少し眠っていた方がいいのはわかっていたが、どうしても気持ちの高ぶりが抑えられない。

「散歩でもするか・・・」

 トレーナーになって十数年、G1レースでも何度となく戦って来ていたのにも関わらず、この様である。

「こりゃ、またスカーレットにどやされるな~」

 寝間着代わりのジャージ姿で太陽が顔を出す前の街を歩いていると、現在のチームを引っ張る優等生が目を吊り上げている姿を想像してしまった。

「ふふっ、夜空の下、貴様もまた、勝利への焦燥に苛まれているようだな」

 声と共に木の板が裂けるような破壊音。驚いて振り向くと、歩いていた道に並走するように設置されていたウッドフェンスの一部に穴が開いていた。その穴の内側から靴のつま先が頭を出したかと思うと、一人のウマ娘がウッドフェンスを飛び越えてきた。

 蹴り開けた穴を足掛かりに華麗なジャンプを見せた彼女は、カストルトレーナーの前に着地するとビシッとポーズを決める。タニノギムレットだ。今は浅屈腱炎でレースから離れているが、自分のチームでNHKマイルカップから日本ダービーという変則ローテーションでダービーを制したウマ娘である。

 よく見ると穴の開いたウッドフェンスはトレセン学園の外周の物。いつの間にやらトレセン学園の近くまで来ていたらしい。

 しかし、ここはウマ娘寮から少し離れている場所のはずだが・・・。カストルトレーナーが見ると視線の意図を読んだギムレットが答えた。

「ふッ…。満月の光に照らされ、静寂の中で、オレの存在を問うていたところだ」

「おう、そうか…」

 確信はないがギムレットの発言と服装、(ギムレットが好んで着るロックテイストの私服ではなく部屋着姿)から、なんとなく眠れなくて月光浴をしていたのだろうと判断した。

「まあ、俺も似たようなものかな…」

「明日、紅の闘志と純血の挑戦者の魂が共振する。今夜は静かに心を休め、己の力を最大限に引き出すのだ」

 どうやら心配してくれているらしい。

「そうだな。---相手はウオッカただ一人だ」

 カストルトレーナーはそう思っていた。

 ウオッカ。チーム:ポルックスに所属するウマ娘であり、ダイワスカーレットとは同期のライバルにあたる。なんの因果かウマ娘寮では同室にあたるらしい。これまでに直接対決となったレースは4回、先着順ではダイワスカーレットが3勝1敗と勝ち越していたが、人気も評価もダービーを制したウオッカの方が上回っている。

「ふふっ、ウオッカか。そうか、お前も奴の成長ぶりを目の当たりにしたのか。見事と言うべきだろう。ウオッカは、俺の期待を裏切ることなく、見事に強くなった。だが、だからといって、紅の闘志がヤツに勝てないなどという事はない。むしろ、ウオッカの成長は、紅の闘志をさらに掻き立てる。この秋、我々は、かつてないほどの熱戦を見ることになるだろう」

 ギムレットがにやりと笑って言った。ギムレットの中でもウオッカの評価は高いらしい。

「おいおい、慕って来る後輩だからって、あまり敵をほめないでくれ」

「ふふ、かつて、私の光を背中に感じていた存在。だが、今、ウオッカは私を超えようと、袂を分かった。明日の戦場では、友情などという甘美なものは存在しない。ただ、勝つか負けるか、それだけだ」

 月明かりを左目で反射させながらギムレットはそう続けた。ギムレットの中ではちゃんと折り合いがついているらしい。じつは、カストルトレーナーは、ウオッカがギムレットに憧れていることを知り、ダイワスカーレットと同時にウオッカにもチームへの勧誘をしていたのだが…。

「オレは、ギムレットより強いウオッカになるウマ娘だ。同じチームじゃなく、カストルを倒して証明してみせる」

 と、断られた経験がある。まだ未練が残っているのかもしれない。

(ギムレット、大王。ウオッカがいたら、カストルはダービー、三勝目…。いや、欲張りすぎだな。それに…)

 カストルトレーナーの逡巡を悟ったのかギムレットが口を開いた。

「なに、恐れることはない。紅の闘志には、まだ見ぬ高みへと駆け上がる力がある」

「そうだな。スカーレットのほうが強い」

「ふっ…」

 カストルトレーナーがそう答えると、ギムレットは満足したように笑った。

 

 

 

「へぇ、そのようなことがあったんですね」

 天皇賞(秋)の激闘のあと、「蹄鉄の裏側」特派記者がカストルトレーナーを尋ねると、そんな前日談を教えてくれた。カストルトレーナーが続ける。

「相手のほうが強いと思うと、その後ろでも満足してしまうものです。ですから、うちのチームではウオッカはスカーレットの二バ身ぐらい後ろにいると、言っていました。もちろん、マスコミにも…」

「…それって」

「ええ、相手チームに対してのプレッシャーです。少しでもスカーレットが有利になれば。と、思っていました。休養開けでしたしね」

 笑って答えるカストルトレーナーに、特派記者は疑問をぶつけた。

「当初の予定では、ダイワスカーレットさんはエリザベス女王杯からの復帰プランでした。なぜ、天皇賞からの復帰に変更を?」

「ああ、そうですね。最初はそのプランでしたが、トレーニングを始めると、スカーレット自身で体を作ってどんどん状態がよくなっていく。これはもう素直に今の状態をレースにぶつけたほうがいいと思いました」

「おお…、たしか、ナリタブライアンさんがジュニア級でとっていた方針と同じですね」

「ああ、そうなるのかもしれませんね。目標を変えたからには負けるわけにはいかないというプレッシャーもありましたが、自信もありました」

「必勝を確信していたんですね」

 特派記者がそういうと、カストルトレーナーは苦笑いをした。

「もちろんすべてのレースは勝つために出走します。しかし、スカーレットはバカ真面目といいますか、レースに前向きになりすぎるきらいがありまして…」

 カストルトレーナーが口元をへの字に結ぶ。

 

 

「スカーレット!どうしたんだ!すごい汗じゃないか!」

 天皇賞前、ダイワスカーレットが着替えを終わらせたと聞いて、控室に向かったカストルトレーナー。出迎えたダイワスカーレットはすでに額に汗を搔いていた。体調が優れないのかと、慌てるカストルトレーナーに彼女はギラギラとした目をしながら言った。

「あ、トレーナー?大丈夫よ。久しぶりのレースだったから、念入りに体を温めておいただけ」

 ダイワスカーレットはそういったが、カストルトレーナーはチームのリーダー格の『大王』に視線を送る。大王はカストルトレーナーに体を寄せると耳元でそっと言ってきた。

「本当よ。アップのメニューはストレッチを少し増やしただけ」

 しかし、カストルトレーナーの不安は拭えなかった。もともと、ダイワスカーレットは一番にこだわるところがあったが、レースごとにそれを落ち着かせることができるようになってきていた。この休養でさらにそれができれば…。と、思っていたのだが、全く逆になってしまった。

「これは大変だぞ」と、不安を感じたカストルトレーナーは、地下バ道でダイワスカーレットを送り出す際も、なるべくゆっくりと彼女が落ち着けるように誘導した。が、ダイワスカーレットはジャンプするようにターフに駆け出して行ってしまった。

「これで折り合いがつくのかしら?」

 『大王』の呟きが、カストルトレーナーの心情だった。

 

 

 試合前のやり取りを語りながら、カストルトレーナーは「頭のいいウマ娘ですから、自分でテンションを上げて、動ける体にしたかったのだと思います」と、述懐する。不安を感じていたダイワスカーレット陣営。

 一方、ウオッカ陣営はどんな思いを持ってレースに臨んだのだろうか?当紙はウオッカの所属するチーム:ポルックスにも取材を敢行した。

 




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