始まりは形から   作:しおバタぱん

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大吉山北中3年編
プロローグ


「十六番、京都府代表大吉山北中学校、ゴールド金賞」そう告げられた時緊張が弛緩し舞台から崩れ落ちそうになった。一先ず最初の関門は突破することができた。あとは全国へ行く三校に選ばれるだけだ。審査員からトロフィーを受け取り,副部長とともに客席の方を見る。自分の学校を見つけようと目を細め見回すと一様に喜んでいるのが見えた。「金賞、とれて良かった」そういった副部長の方を見るとすでに涙ぐんでいるようだった。俺はそうだねと一言返し、正面を向き直した。そろそろ全国出場校発表の時間だろうか、ひどく濡れた手をトロフィーを落とさないよう にズボンで拭う。

「続きまして、全国大会に進む学校を発表します」その言葉はぼんやりとしていた頭を現実に引き戻した。ここで呼ばれることができれば全国、そう考えると心臓が痛いほど脈を打った。「一校目.二番、兵庫県代表、加古川市立第三中学校」会場のどこからか割れんばかりの歓声が聞こえた。きっと今呼ばれた学校の生徒なのだろう。どこの学校も全国に行けるとなれば嬉しいものか、と緊張をごまかそうとくだらないことを考えた。「二校目.七番、兵庫県代表宝塚市立中山長月台中学校」再び歓声が沸く。全国に行くことができるのはたった三校、あと一枠自分たちの番号が呼ばれてほしい。そう思い目を閉じた。三校目、そう審査員が告げた時思わず唾を飲み込んだ。

「十九番、大阪府代表大阪市立墨江中学校」

 自分の学校名が呼ばれることはなかった。呼ばれる順番は演奏の順である。即ち自分たちの順番より後の学校が名前を呼ばれた瞬間、全国大会への道は閉ざされるのだ。残念な結果となったことに俺は嘆息したが不思議とそれほど悔しくはなかった。

 北中は数年に何度か関西大会に進出しており京都府内では割と有名な学校である。今年はライバルの南中が府大会銀賞であったことも幸いし、三年ぶりの関西大会進出となったのであった。関西大会出場が決まった際には顧問が久しぶりの金を目指そうと張り切っていたことを昨日のように思い出す。今年はトランペットを筆頭に北中黄金期といえるような戦力が揃っていた。今年こそは全国出場ができるのではないかとみんなも意気込でいた。しかし、全国への壁は厚く全国出場という目標は達成されることはなかった。ふと、観客席を見ると顧問も部のみんなも喜んでいるようで、この部を率いてきたことに誇らしい気持ちになった。

 だが、俺は心のどこかで、全国出場などと大それたことを本気に考えている人などこの部にはいなかったと思ってしまった。そう考えると羞恥を感じ思わず顔を客席から背け下を向いた。どこかの自己啓発本で読んだ≪目標は高く掲げるべし≫だなんてものに影響を受けるんじゃなかったな。

何かの真似しかできない自分に嫌気がさし再びため息をついた。その吐息は歓声にかき消され誰に届くことはなかった。

 

 

 懐かしい夢を見た、もう半年も前のことだというのに。あの時はダメ金で満足していたと思ったが歳月を重ねるにつれもっと本気でやればよかったと思う自分がいる。今更後悔したとしても京都府大会銅賞常連の北宇治高校に進学した現在ではそんな経験は二度とできないのだろうが。




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