滅び待つ世界   作:-Nameless-

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本編
1.記憶喪失


 暖かな日差し

 

 木々に包まれた神秘的な空間

 

 地面から湧き出る泉の隣で、岩肌と草木に横たわる一人

 

 可憐なる少女がただ一人、眠りについていた

 

 

 

 ……「…?」

 

 木漏れ日に当てられて目覚めた少女は、その場所に驚き、幾つもの疑問を浮かべる。

 

 ここはどこ?私はだれ?なぜここにいるの?

 

 知らぬことばかり。

 

 

 

 立ち上がって辺りを散策する。

 

 眠気は残るけれど、目覚めのいい朝だ。

 

 流水の響き渡る音と、森を潜り抜ける風。

 

 あたりに人はいないようだ。

 

 一旦外へ出ようと、通れそうな草木をかき分けていく。

 

 

 

 そのまま木々を抜けていき、道なき道を歩いていくと、案外すぐ外へと通じた。

 

 開けた先には、荒廃した建造物で埋め尽くされた瓦礫の山が地平線まで続いていた。

 

 終末世界(ポストアポカリプス)にふさわしい世界が、そこにはあった。

 

 

 

 大河にかかる橋は落ち、高層ビル群は倒壊し、活気のあったであろう街は、もはやほとんどが形をなしていなかった。

 

 地面を覆い隠すほどに積もる建物の残骸には、何者かによって破壊されたような跡がはっきりと残っている。

 

 

 

「なに…これ…」

 

 今一度、ここがどこなのかが分からなくなる。

 

 現実に突きつけられた景色に、眠気が薄れ、ある事実にまた頭は混乱する。

 

 …ほとんど何も覚えていない。

 

 

 

 今いる場所のことどころか、他の誰かのこと、自分自身のことさえ忘れていた。

 

 少女は深刻な記憶喪失にあった。

 

 今置かれている状況を整理して、少女は目標を定める。

 

 

 

『記憶を取り戻そう』

 

 今わかることは何もないけれど、とにかく私が誰なのか、ここがどこなのかぐらいは調べないと

 

 少女は地を降り、ひとまずは人を求めて荒廃した街並みへ繰り出した。

 

 

 

 〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-

 

 

 

 そこそこ歩いてきたけれど、全然人の気配がしない…

 

 それどころか、まともに生活できそうな場所もない

 

 この場所、というよりここら辺全部どうしてこんなに崩れかかっているの?

 

 はやく人を探さないと__

 

 

 

 生存者を探して探索を進めているが、一向に人の気配がしない。

 

 どこまで行こうと、ただ廃れた住宅街が広がるばかり。

 

 そこには、人っ子一人いない静寂ばかりがあった。

 

 不自然にも「人」のみが消えたように思う退廃さだった。

 

 そんな光景を尻目に、ひたすら前へ進むのみである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …もはやどれだけ歩いただろうか。

 

 日は陰り、足から全身にかけ疲れも出るものだ。

 

 一向に人もなく廃墟の都市が続くと、突然に轟音を鳴らして先にある家屋が崩落していった。

 

 その音にかき消されんばかりの悲鳴が、微かに聞こえてきた。

 

 

 

 人がいる!早く行かないと!

 

 

 

 

 

 

 

「…!大丈夫ですか⁉︎」

 

 

 

 音のした方へ走ると、家屋に押しつぶされた青年を見つける。

 

 様子から見て、すぐにでも助け出さなければそのまま死んでしまいそうな重体。

 

 必死に幾重にも積み重なった瓦礫を取り除き、急いで青年を外へ出したが怪我も多い。

 

 

 

 なんとかして助けないと…

 

 優しく抱き上げて寝かせる場所を探す。

 

 幸運にも、近くの廃屋に使えるだけのベッドを見つけられ、すぐ横にさせた。

 

 

 

 とりあえず包帯と水と、あと食事も欲しい。なんて思っていると、そこの机に〈明らかに今までそこにはなかった包帯と水と食料が置かれていた〉。

 

「え…どこから?」

 

 

 

 これには驚きを隠せない。

 

 だが、これを使わないという手もない。

 

 すぐさま怪我に包帯を当て、少しの水を飲ませ安静にさせておく。

 

 

 

 特に苦しんだり唸ったりすることもなく、大人しく寝静まっている。

 

 幸い状態は悪化もせず、ちょっとずつ回復していっているようだ。

 

 まずは一安心、したところでまた疑問が湧いて出る。

 

 

 

 彼は誰なのか?なんで彼はそこにいたのか?

 

 なぜ突然これらの物が現れたのか?

 

 これに関しては見間違いではない、"何もない机の上にいつのまにか現れた"としか言いようがない。

 

 

 

 ただ今は、彼が目覚めるのを待つしかないだろう。

 

 すぐそこのソファに腰掛け、様々考えを巡らせる。

 

 そうやって考え事をするうち、ここまでの歩き疲れもあるだろう眠気がまた、その瞳を閉ざした…

 

 

 

 〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-

 

 

 

 Zzz…_

 

「ん…もう朝?」

 

 

 

 ふと目が覚める、ぐっすりと一夜を明かしたのだろう。

 

 明るくなりつつある空より淡い光が、ボロボロの天井の穴から降り注いでいる。

 

 薄暗い部屋の中でベッドの方へ意識を向けると、青年はまだ呼吸浅く目を閉じたままだ。

 

 

 

 このまま素直に待つより、少しあたりを探索しても良いかもしれない。

 

 彼が目覚めるまで少し、近くの状況を把握した方がいいだろう。

 

 やや体を伸ばして、残っていた水や食料を少しつまみ、ちょっとした探検へ出かける。

 

 

 

 

 

 外へ出てみると、特に昨日とも変わらぬ街並みが広がっている。

 

 …いや違う、大きな違いがあった。

 

 〈大きく積まれていた瓦礫が蒸発したように消えている〉。

 

 三階分はあろう高さの山が、一夜で消滅したのだ。

 

 

 

 やはり不可解だ。

 

 これは誰が、〈一体何者が〉やったのか?

 

 それにこれ、消滅したのは山だけではない。

 

 周囲の建物や地面も、所々削り取られたように穴が空いている。

 

 

 

 何者が?何のために?どうやって?

 

 昨日に続き謎がまた増えた。

 

 だが、それと同じほど気になることもある。

 

 この事象に犯人がいるのなら、この街がこう廃れた原因も《これと同じ存在》なのではないか?

 

 

 

 そう考えれば不自然だ、日が傾くほど歩いてきたのにこの街並みが途切れることはなかった。

 

 これほど大きな都市で、どの建物にも何者かに破壊されたような跡が残っていた。

 

 中には地平線まで続くような破壊跡や、丸く切り取られたような荒野もあった。

 

 

 

 方法はどうであれ、これほど大きな街を滅ぼしたと言うのならあの瓦礫の山を消滅させたというのも納得がいく。

 

 むしろ、その存在の力はあの山を消せるだけでなく、もっと恐ろしい力を持っていてもおかしくはない。

 

 

 

 …まて、ならなぜ〈私たち〉は死んでいない?

 

 昨日は一夜丸々眠っていた。

 

 私たちを狙おうと思えば、寝込みを簡単に襲えたはずなのだ。

 

 

 

 気づかれなかった?見逃された?

 

 分からない。

 

 だが、今は助かったであろうことに感謝しておこう。

 

 そこの青年にも色々と話を聞きたいが、まだそこまで時間も経ってはいない。

 

 もとより近くを探索する予定だったし、もう少し辺りを調べてみよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …調べて分かったことは、この穴はまさしく切り取られた様に空いていて、残骸などは近くに飛び散っていない。

 

 瓦礫の山も、あれほどの質量の物が綺麗さっぱり無くなっている。

 

 どこにも新たな瓦礫は増えていない。

 

 

 

 加えて、辺りの廃屋には使えそうな物資は無かった。

 

 今あると言える水と食料は、あの机の上にある分だけだ。

 

 周辺の立地も大まかに分かったので、そろそろ青年の元に戻ろう。

 

 彼にはこれでもかというほど、聞かなければならないことがあるのだ。

 

 まだ寝ていたら、叩き起こしてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 仮拠点へ戻ると、青年も目を覚ましていたようだ。

 

 ベッドの上で辺りを見回している。

 

「あ…目が覚めてよかった」

 

 

 

「…えっと…、私を助けてくれたのはあなたですか?」

 

 

 

「はい、瓦礫の下敷きになっていたところを。

 

 まだどこか痛むところはありますか?」

 

 

 

「いえ、特には…

 

 あの、ありがとうございました」

 

 

 

「いえいえ、助かったのならなによりです。

 

 それより色々と聞きたいことがあるんですが、いいですか?」

 

 

 

「ぁはい、私に答えられることなら」

 

 

 

 青年は寝起き声で答える。

 

 まだ起きてから水も飲んでいないのだろう。

 

 残りの水と食料を取り、ベッド近くの椅子へ腰掛け小棚に食事を並べる。

 

 

 

「じゃあまずは、あなたの名前はなんですか?」

 

 

 

「えっと、私は神和 詩月(しんわ しずき)と言います」

 

 

 

「なぜあそこにいて、なんであの崩落に巻き込まれてしまったんですか?」

 

 

 

「ぁと、ちょっと待ってください。

 

 …!あれだ、“オールエンド”に襲われたんです!

 

 それで、逃げてる途中で家が倒れてきて、下敷きになったんです。」

 

 

 

「えっと、流れはわかりました。

 

 それでその“オールエンド”っていうのは、いったい何者なんですか?」

 

 

 

「え、“オールエンド”を知りませんか?

 

 えと、“オールエンド”っていうのは《終わりを告げる存在》とも言われていて、突然現れては建物や人なんかを全部壊していくんです。

 

 私もオールエンドから逃げてきて、あそこでやられたんです。」

 

 

 

「…もしかして、ここら辺の壊れてる街は全部、その“オールエンド”がやったんですか?」

 

 

 

「そうです。

 

 まだ遠くの街や昨日まで私のいた場所も“オールエンド”が現れてなかったんですが、ついに襲われてしまいまして。」

 

 

 

 聞きたいことをほとんど教えてくれた。

 

 あの荒廃ぶりは、そのオールエンドとやらが原因のようだ。

 

 ということは、今朝のあれもオールエンドがやったと見て良いだろう。

 

 だがそうだとしたらやはり、なぜ昨日は助かったのか?が疑問である。

 

 

 

 オールエンドが人々や街を壊して回っているのなら、尚更私たちを見逃した理由が分からない。

 

 この廃屋だって、ボロボロで外から中が丸見えだ。

 

 私たちに気づかないわけがない。

 

 

 

「…あの、ところであなたの名前はなんですか?」

 

 

 

 …そうだった、私はおそらく記憶喪失なのだった。

 

 当然名前も、あそこにいた理由も分からない。

 

 見たところ彼は怪しい物でもないようなので、私の情報も共有しておこう。

 

 

 

「あぇっと…、私はその、多分記憶喪失らしくて、自分の名前も、ここがどこなのかも全く知らなくて…」

 

 

 

「そうだったんですか…

 

 じゃあせめて、あなたのことを何と言えば良いですか?」

 

 

 

 自分の名前、全てを完全に忘れたわけではなく、ほんの少しだけ思い出せそうなこともある。

 

 名前を思い出そうとすると、アル…なんとかだったような感じがするのだ。

 

 それらしい記憶もないので、この「アル」を今の名前にしておこうと思う。

 

 

 

「えーと、じゃあ「アル」って呼んでもらっても良いですか?」

 

 

 

「分かりました。

 

 あ、私のことは苗字でも名前でも呼んでもらって良いですよ。」

 

 

 

「じゃあ詩月さん、私をその…、人のいるところまで案内してもらっても良いですか?」

 

 

 

「良いですよ、私も一人で行動はしたく無かったので。

 

 こっちとしても、誰かと一緒にいるのは心強いですから」

 

 

 

「了解です。

 

 詩月さん、これからよろしくお願いします!」

 

 

 

「こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 

 

 〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-〜-

 

 

 

 朝食を片付けて、残った僅かな水や使えそうなものを持ち、外へ出かける。

 

 詩月はもう自分で歩いていけるまでに回復したようで、自分でもその回復能力に驚いていた様子。

 

 昨日の彼の状態を思い返すと、とても一夜そこらで治る様な怪我では無かった様に感じるが、現にこうして元気よく歩いているのだから不思議なものだ。

 

 

 

 今通れそうな道は、昨日通ってきた道と、山が消えてできた道だけだ。

 

 他に通れそうなところはない。

 

 これからどんなことが待ち受けているのだろうか。

 

 少しばかりの不安を覚えながら、私たちは今ある道を進んだ。

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