「イジクさん、私と勝負してください」
「え?まぁいいけど……いや顔コッワ」
「あちゃー、やりすぎたねイジクくん」
「博士、貴方もこの後勝負してもらいますからね?」
「え」
普段お姫様口調とは思えないほどの形相でウィアドとイジクを睨みつけるエディ、そんな顔を見たカケルはまたしてもビビってたが……カケルの方を見る時にはいつものように慈愛に溢れてる顔に戻っていた。
「カケルさんも休める時は休みましょう?今日は私が先輩お二方にご教授していただきますから」
「ハイ!休んで見てますエディさん!!!」
笑顔でいながらあれだけの圧を放つエディに口答えが出来るわけもなく大人しくイジクとエディのバトルを見守ることになった。
そして始まるポケモンバトル。思えばカケルはエディのポケモンを見たことがなかった、故にウィアドに聞くと露骨に顔を顰める。
「エディちゃんのポケモン戦い辛いんだよね……」
「戦い辛い?」
「そうそう、見たらわかるよ。まぁ強いていうならそうだな……」
本当に嫌そうな顔をしてウィアドは言い放つ、その言葉を聞いてカケルは首を傾げることしか出来なかった。
「デバフカウンターのサブアタッカーポケモン──ってとこかな」
場面は変わりエディとイジクが対峙する。
ブチ切れてるエディに対してイジクは変わらずに余裕そうな表情をしていた。
「エディちゃんと戦うのは初めてだな、言っとくけど俺は──」
「手加減はしない、でしたわね?上等ですわ」
そして繰り出されるジャラランガ、変わらずに暇そうにしているが……エディの取り出したモンスターボールを視界に入れるとその気配を感じ取ったのか全体の鱗を震わせ警戒心をあらわにしている。
「ッ……ジャラァ」
「お……珍しい、ジャラランガが警戒している。相当強いか厄介な相手だな?」
「それは今から分かる事ですわ、行きますわよ……
エルレイド!」
そして出てくるエルレイド、しかし出てきたその姿は余りにも原種とかけ離れている。この姿は──!
「エルゥ!」
錆びたような外骨格の鎧に、腕に収まっているはずのブレードはまるで金属のように鋭く尖っている。
原種はブレードが肘まで伸びている、しかしこの姿は手首と腕の半分ほどの長さまでしか伸びていなかった、その代わりに剣を逆手に持っているような異質さを醸し出している。
「このエルレイドは……
「ご名答……私の相棒、トラウム地方のエルレイドですわ」
【エルレイド(トラウムの姿)】
《執行ポケモン》
『特性:きれあじ』
タイプ:エスパー・はがね
「おっと、あんま戦いたくないやつが出てきたな……だったら出すのは──」
「あら、私と戦う時はジャラランガを使ってくださらないんですか?私は本気のイジクさんと戦ってみたいのですが」
「は???」
煽るように言葉を吐き捨てるエディ、それに気付いたのかイジクはボールを探る手を止める。
「悲しいですわ、私はエモリュージョンも使えないですしフィールド展開も出来ない。だからこそ覚えるために使っていただきたいのに……イジクさんは使ってくださらないのですね」
嘘である──確かにエディはエモリュージョンもフィールド展開も使えない。だがバトルするのがジャラランガである必要はない、何故ならジャラランガ以外にも手持ちのポケモンはいるからだ。
しかしイジクはその意図に気付く、その手にはジャラランガのボールが握られていたが戻すことをやめた。
「なるほどな、わざわざ私を煽ってまでジャラランガと戦う理由はカケルくんか」
「あら、カケルさんの事は何も言っておりませんが?」
「わっかりやすい表情して何言ってんだよ、だが嫌いじゃないな!」
既にジャラランガとエルレイドの臨戦態勢は整っている、お互いが構えを取り出方を伺っている状況だ。
「あら、カケルさんの時のように攻めてはくれないんですの?」
エディが更に煽る。
普段このような事は言わないがキレるとかなり口が悪くなってしまう、数少ないエディの悪い癖だった。
「よく言うぜ……ならお望み通りこっちから行くぞ!【はどうだん】!」
「ジャア!!!」
まずは様子見の【はどうだん】、威力もそこそこあり必中であるこの技は相手の力量を測るのに最適と言える技だろう。
だがしかし、それは普通の相手と戦った時の場合である──
「
「エルッ!」
必中である【はどうだん】をその腕のブレードで見事に弾く。そしてその弾かれたはずの【はどうだん】は……
「チッ……やっぱ吸収されてやがる……」
「吸収?!あのエルレイド何したんだ?!」
「これから分かる事ですわ。さ、カケルさんに不甲斐ないところは見せられないですからね。本気で行かせていただきます!!!」
その声と共に弾かれるように飛び出すエルレイドとジャラランガ。
カケルの時とは違い鱗の衝撃をバネに空を駆けるジャラランガ、そんなこともできたのかとカケルは更に驚くことになるがここで驚きは止まらない。
「【スケイルショット】!」
「ジャッララララララァ!!!」
即座に展開される【スケイルショット】、普通に放つよりも数を増やし広範囲にすることでエルレイドの行動範囲を限定する。しかし──
「そんな攻撃、エルレイドにとってはいいご飯ですわ……!」
「エルゥ!!!」
放たれた【スケイルショット】向かって駆け抜けるエルレイド。当たる直前の物は弾き、避け、着実にジャラランガへと歩みを進めている。
そしてそのブレードにも変化が訪れる──
「あれ……ブレードが光ってる……?」
「いい感じにエネルギーが溜まってまいりましたね、そろそろ解放の時ですわ!!!」
エディの掛け声と共にブレードを構えて肉薄するエルレイド、しかしその距離感はジャラランガの射程範囲内だ──
「まぁそうなるよな!だからこそ弱点を突かせてもらう!」
光り輝くブレードにあえて殴りかかるジャラランガ。先程の光景通りならその拳も弾かれるはずだが……
「エルッ?!」
「エルレイド!油断してはダメです!」
解放寸前のブレードは逆に拳に弾かれてしまう。
全てが弾かれると思われたエルレイドのブレード、その弱点とは──
「意識外からの一撃……トラウムエルレイドの弱点はそこだ。自身の戦いの経験値がそのまま強さになる使いずらい強さってとこだな」
「くぅ……見抜かれてる……!」
「確かに出会ってから戦っている所を見たことがないな……」
戦闘経験の薄さ故に露呈する弱点、シンオウ地方ですら戦っている所は見たことがない。
だからこそイジクは見抜けてしまう、そしてそれを指摘する選択をする。
「エディちゃん、君負けるのが怖いんだろ」
「は……いえ、そんなことは……!」
「いいや事実だね、だからそれだけ強くても戦わないんだ」
事実を突きつけられ動揺してしまうエディ……だからこそだ、この試合でその動揺は命取りとなってしまう。目の前の敵から目を離すことすら勝敗の原因となるのだ。
「図星突かれて行動停止か?じゃあそのまま負けちまいな!」
「ッしまった?!」
既にエルレイドの腹には鱗が置かれている──ブレードで弾こうにももう遅い、ジャラランガは次の行動に移っている。
パァン!!!っと弾かれる音が鳴り吹き飛ばされるエルレイド、なんとか空中で体勢を立て直そうとするが同時に走り出したジャラランガの蹴りが腹に刺さる。
「エルレイドォ!」
「叫ぶだけじゃ勝てねえよ!」
近場の岩場まで吹き飛ばされ、勢いそのままに岩肌に埋まってしまう。余りの威力に抜け出すことが出来ずにもがくがダメ、苦しそうにするエルレイドを見て更に絶望したような表情をエディはしてしまう……
「あ、あぁ……ぁ……!」
「ふむ……もう終わりかな?カケルくんはどう思う?」
そして隣のカケルを見るウィアド、しかし──
「え……あれ、カケル?!おぉい戻ってくるんだ!」
既にカケルはエディとエルレイドに向かって走り出していた。
ウィアドからすればカケルが何を考えているのか分からない、向かったところで彼女らの代わりに戦うこともできないからだ。
「ん……?おーいカケルくん危ないぞ〜」
「分かってらい!っふぅ……エディ!
エディ!!!」
「カケル……さん……?」
息切れしながらも駆け寄るカケル、目のハイライトが消えたエディは一瞬カケルを見るがまた俯いてしまう。
「負けた……負けてしまいましたわ……」
「まだだろエディ!まだなんとかなるはずだ!」
「まさかここまでだったとは……にしても諦め早すぎないか?」
ブツブツと負けた、負けたと呟くエディに居た堪れない気持ちになる。しかしその心配も束の間、リオルがボールから出てきて唸り始める。
「グルルォ……ッ!」
「お?なんでリオル出てきてんだ?」
「なんだかかなり嫌な予感がする……!警戒しろパイセン!」
そしてその予感は的中することとなる──
エルレイドが埋まって岩に突如亀裂が入り爆ぜる。爆ぜた岩から飛び出してきたのはエルレイドの面影がない大きな獣、ジャラランガとリオルをその目に捉え咆哮を響かせる。
「ギャオォオオオオオオオオオッ!!!」
「なんだそれ!いやマジなんだよそれ!!!パイセン知ってるか?!」
「え、なにそれしらん、こわ」
「使えねー!!!」
「そのフォルムチェンジは……!」
後ろからウィアドも駆け出してくる、その様子から知っているようだがまるで遮るかのようにエルレイドが猛威を振るう。
「ガルラァッ!!!」
「うぉあ?!」
「「博士?!」」
口から放たれた衝撃波にウィアドは吹き飛ばされてしまう。即座にジャラランガとリオルが駆け出すがエルレイドはその動き出しを既に捉えていた。
「ジャッ?!」
「ジャラランガ!」
「ルォ?!」
「リオル!」
2人揃って相棒が吹き飛ばされてしまう、ボールに戻そうと試みるがかなり遠くに吹き飛ばされその案すらも取れなくなってしまう。
「聞いてねーよ!
「リオルが飛ばされちまった……!今あいつしか手持ちがいねぇんだよ!!!」
イジクは他のポケモンを構える、だがカケルはそうはいかない。ポケモンがいなければ自分の身すら守ることも出来ないのだ、まさに絶体絶命……
「そうだ!エディ!」
エルレイドのトレーナーであるエディに気付き近づく、しかし──
「負けた…私は負けましたの……無理だったんですわ……」
「エディ!おいエディしっかりしろ!」
揺すろうが顔の前で手を振ろうがエディは俯いたまま動こうとしない。いや、動けないのだろう。だがこのまま放置しても自分のポケモンに巻き込まれるだけ、どうするべきかと考えていると……
「くっそ……どうしたら……!」
「ここは私が足止めをしよう!行くぜピジョット!」
「ピュルリィ!!!」
【ピジョット】
《とりポケモン》
『特性:するどいめ』
タイプ:ノーマル・ひこう
「ピジョット?!他にもポケモン居たのか!」
「存外失礼だなオメー!流石にジャラランガだけじゃねーよ!」
弾かれるように飛び出したピジョットがエルレイドに向かって突撃する。通常のエルレイドなら簡単に切り落とせるが理性を失いただその力を振るうだけの獣の攻撃、当たるはずもなかった。
「ほら!いつそっちにヘイト向くかも分からんから行け!」
「っ了解!出来るだけ早く戻ってくるからな!」
と言ったもののエディを抱えながら移動するのはかなりキツイ、故に運びながら考えているが……
「ブモォ!!!」
「くっそ、こんな時に……!」
そして目の前に出てくる牛型のポケモン……ケンタロスが行く手を塞いできた。しかもその姿はカントー地方でもパルデア地方でもない──
「しかも……
瞬間、余りの速度に近づいてくる光り輝くケンタロス相手に死を覚悟する……
「ブモォ!」
「っ……?乗れって、言ってるのか……?
しかしケンタロスはカケルの元に足をたたみ、乗れと催促してくる
おかしな光景に頭にハテナを浮かべるが今は迷っている場合ではない。
「なら遠慮なく乗らせてもらうぞ!けど先にエディを乗せるべきか……?」
ケンタロスにはサドルも付いていないためかなり揺れることは間違いない、少し悩んでいるとケンタロスが一鳴きする。
するとエディの身体がフワリと浮かんだ、その光景にカケルは目を見開くがこれはありがたいと思う。
即座にまたがりケンタロスは走り出す。目指すはウィアドの研究所、今は安全な場所にエディを預けることがカケルの使命である……
「待ってろよパイセン、すぐ戻るからな!!!」
To Be Continued……