踏み入れた異変
「……残念、ギリギリ間に合わなかったね」
「くっそ……!」
バタッ!と前のめりに倒れるリオル。電気エネルギーは霧散し、ヤドランに拳が届く1歩手前で力尽きたようだった。
その様子を見てウィアドは2つの意味で焦っていた。1つはリオルが瀕死を超えた死にかけなこと、早急に手当てが必要なほどの大怪我なのは見て取れる。そしてもう1つ―――
(あっぶなぁああああい!!!ほんとに負けるかと思った!!!)
本物のボルテッカーと見間違えるほどの高威力。【でんこうせっか】のスピードを保ちつつ、【ふるいたてる】で最大まで高められたとくこうとこうげきの強さにはまさに舌を巻くほどの物。
(技同士のあの爆発、あれは自然に起きたものじゃない…!リオルが意図的に起こした身を焦がすほどの大自爆!リスクを負うなんてそんな生易しいものじゃないぞ?!)
ウィアドの言っていることは正しい。実際に起こしたことだが、リオルがフルチャージでためていた【かみなりパンチ】は右手、左手で新たに【かみなりパンチ】を溜め、横から殴りつけた。真正面から以外の一撃を喰らったアクアルマ・キャノンは疑似ボルテッカーを受け止めていたこともあり、その場で爆破。その瞬間に再度【でんこうせっか】を発動、煙に紛れてヤドランの背後に瞬間移動したように見えたのが一連の流れだ。
「いややり口を褒めてる場合じゃないよ!救急搬送だよ!!!」
「すんません……俺も……げん…か…」
哀れ、カケルも倒れてしまう。慣れないバトルを連日し続けた代償だろうか、頭は回らず体も動かない。調子に乗ってバトルしすぎだよオメー。
「勘弁してくれよ!えぇいもう!出てこいフーディン!【テレポート】でみんな連れてってくれ!」
「フゥディ……」
「僕の方がそういう顔したいよ!!!」
フーディンの力を借りてリオルとカケルを【テレポート】させるウィアド。リオルの治療は間に合ったがカケルは意識を失ったまま、よほど疲労がたまっていたせいか数日は目を覚ますことはなかった。
その数日間の間でウィアドは考える、そろそろ行かせてもいいのではないかと。
しかし不安もある、異変の元凶が何かは行ってみなければ分からない。些細な事が異変として起きてることもあるが、今回トラウム地方に起きている異変は今までと比較できない。その分大きな異変が起きているのは間違いないからこその不安。人間の命は1つしかない、故にカケルを死なせるわけにはいかないのだ。
「けどこの数日で本当に強くなったなカケル君とリオル……ヤドランが負けそうになるとは正直思わなかった…」
勝負に関しては既にほとんど心配はしていない。正直行かせて問題ないが……
「なーんか引っかかるんだよなぁ……」
自分の中にある不安、振り切れない小さなものだが引っかかる。小さいからと侮るなかれ、長年生きているこの勘は蔑ろにできないものだ。しかしこのまま特訓していても取り除くことは出来ないだろう、ならばやることは1つ、行ってもらうしかない。
「カケル君が起きたら話して行ってもらおう。それにトラウムもあまり長く持たないような気がする…リオル、カケル君を守ってやってくれよ…!」
そんなこんなで数日が経つ。カケルにも事情を話して出発してもらうことにした、トレーナーとしての準備と旅の準備、そして体調の状態などを確認して旅立つ準備をどんどんと進めていった。
「博士、これはなんです?」
「これは超強力懐中電灯だね、付けると太陽が落ちたんじゃないかって錯覚するぐらいの光が出るよ」
「とんでもねぇ兵器が準備物に紛れてんじゃねぇか!」
などのやり取りがあったり…
「えっと、この袋は?」
「それはカイロ…に見せかけたテルミット」
「こんなとこに置いとくなや!燃えるぞ全部!!!」
この博士、とんでもなく杜撰である。自分でも手伝おうとしたカケルだが、ふとした拍子に何か起きても自分の身が危険なのは分かったので任せることにした。
そして特訓と称したバトルをしようとしたがウィアドに止められた。明日には出発するというのに体力を使うんじゃねぇと遠回しに怒られたのである。
刻一刻と異変解決に行く時間が近づいていく、時間が経つにつれて気持ちが昂るのを感るが瞑想をしてみたりしてなんとか落ち着かせようとする。
「……ッだー!だめだ!落ち着かねぇ!」
「…?」
「ごめんなリオルゥ、マジで緊張する…!」
リオルが方にポンッと手を置いてくる。波動の核心を見たおかげかカケルの心の中を多少見れるようになったようだ。
「けど緊張してても仕方ないもんな…うん、取り敢えず頑張って寝てみるよ。ありがとうな、リオル」
「♪」
どうやらリオルも一緒に寝てくれるらしい。撫でている間に眠くなってきたのか、いつの間にか眠りに落ちていた……
~次の日~
「…思ったよりよく寝れてしまった」
「zzz」
「よく寝てるな……サンキューリオル」
起きて身支度を整える。数日の特訓を経て準備は万端、早速ウィアドの元へ行き荷物を受け取りに行く。
向かって見ればまた机に突っ伏して寝ているのが目につく。
「また机で寝てるよこの博士……まぁけど、俺の準備をしてくれてたんだもんな、責める事は出来ないか」
カケルはちらりとキッチンの方を見る。
色々やってくれたし、ご飯ぐらいはちゃんとしたものを食べてほしいとふと思った。これでも一人暮らしをしていたので軽い料理くらいは作れる。
「キッチン借りますね~っと」
冷蔵庫を開け、中に入っているものを確認する。
卵にトマト、レタスにハムや鶏肉が入っているのを見つけ、作るものを確定させる。
「お、スライスチーズもあるじゃん。サンドイッチで決まりだな。ハムサラダサンドと照り焼きチキンサンドにでもしよう」
「z……?」とてとてっ
「起きたかリオル、今飯作るからな」
まずは鶏肉から処理をしていくカケル。
塩コショウを振って下味をつけ、少し置いておく。余分な水分を抜くのも目的の1つでもある。その間に卵から終わらせようとする。卵をよく溶きほぐし、塩コショウで味付け、その中に生クリームを少量入れる。バターを引いて、その溶けた油に卵を入れる。弱火の状態から火を入れていくことによって、ふんわりとしたスクランブルエッグが出来上がるのだ。
レタスも水に付け、置いておく。こうすることによってレタスがパリッとし、食感が非常によくなる
下味をつけておいた鶏肉に小麦粉(片栗粉でも可)をまぶし、皮目を下にしてフライパンに入れる。この時火は中火にして加熱しすぎないように注意しながら焼いていく。
皮がパリッとし、いい焼き色が付いたら酒を入れ蓋をする。このまま5分間蒸し焼きにして更にじっくり火を入れていく。
その間に合わせ液を作る。醤油、砂糖、水を1:1:1で混ぜ、出来上がった混合液を5分経った鶏肉に入れる。この時に皮目を上にして裏からも熱を入れていく、数分たったらまた皮目を下にして蓋をし、5分焼いていく。皮が余計な熱を遮断し、柔らかくぷりぷりに仕上がるのだ。
焼き上がった照り焼きチキンを取り出し、タレを更に煮詰める。普通に食べるならかなり濃くなるが今回はサンドイッチ、中に塗ってソースにする。
パンにバターを塗り、たっぷりとスクランブルエッグを乗せてタレを塗りこむ。切り分けた照り焼きチキンを乗せ、その上に更にスクランブルエッグを乗せてパンで挟む。少しキツめにラップをして整形しておく。
もう1つも終わらせていこう、こっちはすぐに出来上がる。
こちらにもパンにバターを塗ってハムを乗せる。その上にスライストマト、水気を絞ったシャキシャキレタス、スライスチーズを乗せ、更にレタス、トマト、ハムを乗せてパンを被せる。こちらも先ほどと同様にキツめにラップをして、整形。5分も置けばきっちりと整形されるだろう。
その間にコーヒーの準備でもしようと湯を沸かす。その匂いに釣られてきたのか、ウィアドが欠伸をしながら起きてきた。
「おはよう……おっとこれは…!かなりご機嫌な朝食じゃないか!!!」
「大したもんじゃないっすよ、サンドイッチ作っただけですし」
「何言ってんの、人に作ってもらった料理ってのは美味いって相場が決まってるんだよ!早速頂いちゃってもいいかい?!」
「どうぞどうぞ、その為に作ったんですから。ほら、リオルもちゃんと座って」
「♪」ウキウキ
カケルとウィアドはコーヒー、リオルはミルクを持って食卓に着く。途中からフーディンとヤドランも出てきて一緒に食べ始めた。
サクサクと音を放つサンドイッチを食べ、飲み物を飲んで一息ついた頃だろうか。本命の問題へと取り掛かる。
「さて、ご飯も食べ終わったところで…今日早速行ってもらうよ」
「えぇ、その為に色々準備してきましたから」
「もう一回ちゃんと説明するね。一度行ったら異変を解決するまでは戻れない、その次元の住人と会話や協力関係になっても最終的には問題はない。だから基本的には原因を探しつつ冒険をしていく感じになるね」
改めて聞くと不安になるがおそらく大丈夫だろう、とカケルは考える。
いきなりトラウムに飛ばされたときはヒヤッとしたが今はリオルがいる、ある程度戦闘になっても問題はないだろうと思いつつやはり心配ではある。
「心配はないと思うよ、いきなり奇抜な戦闘方法仕掛けてくるその心持ちがあればきっと上手くいくはずさ!」
「何を根拠に言ってるんですか……けど緊張してても始まりませんからね。もう少し軽く考えます」
「うんうん、その意気だよ!そして…行こうか」
荷物を確認して、その場所へと向かう。
薄暗い地下の階段を下りていき、5分くらいたった後だろうか。自分よりも少し大きい
くらいの扉が見えてくる。
「ここだよ、中に入って扉を閉めたら異変の地方についてるはずさ」
「分かりました、ではしばらくのお別れですね……色々ありがとうございます」
「一生の別れじゃないさ!僕は僕の方で歴史やデータを探ってみるよ」
怪しいと思っていたがやはりこの地方の博士なのだろう、どうにかしようと考えているのは見て取れる。
(まぁ、俺のことをどうにかするなら寝ているときにしているか……俺の考えすぎか?)
「では……いってきます」
「あぁ、いってらっしゃい」
扉に手を当て中に入る。ギィっと、音を立てて扉は自然にしまっていく。
完全に閉まり、周りの音が静寂に包まれる。中は薄暗いだけで完全に真っ暗ではないようだ、そしてどれぐらいたっただろうか?1分?10分?もしかしたら1時間かもしれない。実際には十数秒ほどしかたってないのだがあまりに静かすぎて時間が長く感じる。
「……これ自分から開けていいのか?」
カケルは扉に手を当てて強く押す。入った時にはあんなに軽かったはずの扉が非常に重く感じる、何故だ?と感じながら更に扉に力を籠める。ギギっと音を立てて外の光が差し込んでカケルを照らしてきた、外を見渡してみればここはどこかのタウンらしい。
「なるほどな、こういった感じで異変の起きた地方に飛ばされるのか。てか眩しっ」
ここからカケルの冒険が始まる。今の地方の確認をしつつやらなければならないことは多いが今は少し感傷に浸ろう、あれほどハマり憧れたゲームの世界に足を踏み入れているのだから―――
To Be Continued……