時々しれっと猿語録が飛び出すミアザさん   作:テルー

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第十四話

 それから、ミアザは目覚めるまで四日を要した。

 

「良かった。目覚めないかと思ったよ……!」

 

 付きっきりで看病にあたっていたシオンが目にクマと涙を浮かべ、ミアザの手を握り締める。

 

「私、そんなに寝てた?」

「傷を縫う時も、身じろぎ一つしなかったんだよ。お医者様も驚いて」

「本当だ……傷、塞がってる」

 

 ミアザはまだぼんやりとした頭でそう返すのが精一杯。夢の中で先祖の霊に稽古を付けてもらっていたら四日も経っていたのだ、事態への理解が追い付いていない。

 

「ミアザ!」

「先輩!」

 

 相次いでミアザの病床へと駆け込んできたのは父マシェットに呼ばれてきた祖父ユーゲンと、後輩のオルカ・シャチャーマも一緒だった。

 

「あれっオルカが何で?」

 

 一門と関係のないオルカがどうやってここまで入って来たのか。そう聞くミアザに、オルカはあっけらかんと答える。

 

「庭にいたお爺さんにお願いしたら、通してもらえたっス」

「お爺ちゃん、部外者をみだりに立ち入らせたらダメでしょ?」

 

 物置や庭などの上辺は別だが、道場や白虎巣(ホワイト・ハウス)に一門以外が立ち入ることは御法度である。

 

「いやっ聞いてほしいんじゃ。オルカちゃんは激えろ……オホン、お主の可愛い後輩だしなっ。見舞いもダメでは可哀想じゃぁないか」

「ふぅん、そういうこと……。オルカ、こっちにいらっしゃい」

 

 前当主はルール無用か。ミアザはオルカを呼び寄せ、ユーゲンからできる限り引き離す。

 

「怒らないでね。孫娘の後輩を色目で見るなんてお猿さんと同じじゃない」

「やめなさいミアザ。猿に対して失礼でしょう」

「おおっ皆が冷たい目をしている……ワシは悲しいぜ!」

「自分の悪因悪果を呪ってちょうだい」

 

 孫娘と義理の娘から容赦なく愚弄され、ユーゲンは酸っぱいものを口一杯に詰められたような顔になった。

 

「父上には、後で私からも注意しておく。今はそれよりも伝えるべきことがあるんだ」

 

 マシェットが手を打ち鳴らし、場の空気を真剣なものに切り替える。

 

「昨夜、ドラグオークの居場所が割れた。王国の南だ」

「南って、今まさにうちの団長が遠征してる……」

「そうだ。大規模な召喚陣が展開されたらしい。鬼龍派(イビル・デビル)が暴れているようだな」

「予定より遠征が長引いてるのも、それが理由っスか」

 

 オルカがポンっと手の平を打つ。マシェットは頷きを返し、さらに決定的な情報を口にした。

 

「そして召喚陣と時期を同じくして、一人の剣士による被害が多発しているそうだ。黒い十字剣に大柄な体躯、相手の武器を積極的に破壊する剣術。目撃された特徴が奴と一致している」

「ぞっとしないわね。サイレンスタイガーの技を、王国の騎士団に向けるなんて」

「そうだ。これ以上奴を野放しにしては、一門の沽券にも関わる」

 

 ミアザが眠っている間、一門はドラグオークについて調査しつつ着々と出陣の準備を進めていたらしい。

 

「我々はじきに出発する。オルカ殿」

「はいっス」

「このことを、モルトゥヤ副団長に伝えてほしい。事後承諾にはなってしまうが……今は問答の時間も惜しいんだ」

 

 サイレンスタイガー一門に加えて本部の騎士が今以上に出払えば、王都は文字通りがら空きになってしまう。それは避けたい。

 

「了解っス!」

「では、頼んだ。ミアザは、傷が落ち着いたら増援と共に来なさい。北方士団(ノーザンナイツ)に、この屋敷で補給するよう話を通してある」

「分かったわ」

「当然、それも副団長に伝えるっスよね」

「気のつく子で助かる。ミアザをよろしく頼むよ」

 

 そう言い残し、マシェットは医務室を出て行く。ユーゲンもそれに続こうとして……ふと気になったことをミアザに問いかけた。

 

「ミアザや。体の調子は悪いかもしれんが……顔つきは随分良くなったのぉ。ドラグオークの話をしとる時はしょぼくれとったが」

「眠ってる間、曾お爺ちゃんに会ったからね。色々教わったの」

「何と……何か言っておったか」

「ずっと待ってたんだって。ドラグオークを倒すために、虎咬の担い手と話せるのを」

「そうか。……ワシがあの時、奴にトドメを刺しておけばなぁ」

 

 血を分けた兄への情から僅かに剣が鈍り、結果として逃走を許してしまった。指が白くなるほど拳を握り締め、当時を悔いるユーゲン。

 

「大丈夫」

 

 それを断ち切るべく、ミアザは身を起こして力強く宣言する。

 

「ご先祖様の想いも、お爺ちゃんの後悔も。私が全部背負ってあげる。私めっちゃタフだし」

「! ミアザ……」

 

 自信と闘争心に溢れた堂々たる姿。そこに正統後継者としての気概を垣間見たユーゲンは目を見開く。

 

「お主立派な……ウム、安心した。頼むぞ」

 

 思わず滲みかけた涙を誤魔化し、ユーゲンも最終準備のため背を向ける。

 

「それじゃ、自分もこれで失礼するっス。先輩、お大事にするっスよ」

「はーい。オルカも、モルトゥヤ副団長によろしくね」

 

 シオンに一礼して去っていくオルカ。扉が閉まるまでじっとその背を見届けたミアザは、長ーく息を吐いて再びベッドに体を預けた。

 

「ミアザ! 大丈夫かい?」

「うん……また、ちょっと寝る」

 

 戦の前だからと格好つけたものの、本調子には程遠い。今度は夢も見ず、深い眠りの世界へとミアザは旅立っていった。

 

 

 

 

 

「しゃあっ!」

 

 気迫一閃、木剣が風を切って唸る。渾身の袈裟懸けは相手の構えた円盾(ラウンド・シールド)と正面衝突し、構えごと後方にはね飛ばす。

 間髪入れず地を蹴り、袈裟懸けをおかわり。盾をひさいでなお有り余る威力に、相手は堪らず尻もちをついた。

 

「……お見事です、ミアザ殿」

 

 首元に切っ先を突きつけられたリューゼインは剣も手放してホールド・アップ。降参の意を示す。

 

「フーッ……よし。ありがとうございました」

 

 それを確認し、ミアザは大きく頷いて剣を引いた。

ミアザが起き上がれるようになって三日目、リューゼイン率いる北方士団が王都へ到着した。

 リディナスの教えを実戦で試すべく、ミアザがリューゼインに模擬戦を申し込んだのである。前回はリューゼインの堅い守りを攻めあぐねたミアザだが、今回は果敢な攻めが功を奏しての完勝。

 

「驚きました。たった一週間ほどで、恐ろしく強くなっていらっしゃる。お体の具合が優れないと聞いてましたが……」

「もう平気です。それに、ただ休んでたわけじゃないんですよ」

「あら。夢の中でも剣の稽古を?」

「……そんなところデス」

 

 図星も図星だが、先祖の霊に稽古を付けてもらいましたなんて神秘的でファンタジックなことは言えないミアザ。

 

「流石はミアザ殿。休息すら鍛錬にするとは、騎士の鑑ですね」

 

 これ以上突っ込まれる前にどう誤魔化すか……と考えていたミアザだが、リューゼインは何一つ引っかかることなく称賛してくれる。

 

「えっ。アリガト、ゴザイマス」

 

 もしかして自分は剣術馬鹿として認識されているんじゃないか? そう疑いつつも、これ以上藪をつつくわけにはいかない。

 リューゼインに再度しっかり礼をして、ミアザは騎士団宿所の私室で装備と自身の体調を改めて確認する。

 

「鎧も、虎咬も不具合なし。体は……絶好調ね」

 

 縁魔(サ・ルヤーマ)の影響で、鼻詰まりのような感覚は若干ある。しかしそれを差し引いても、ドラグオークと戦う前より圧倒的にミアザは強くなっていた。

 

「これが虎哮(ロア)の副産物か」

 

 ミアザは、虎哮の前段階としてリディナスに伝えられた極意を思い起こす。

 

『自らに巡る気を、手指の如く意識せよ』

 

 呼気や栄養を、体内でどう活力に変えるか。自身を構成する細胞一つ一つの活動さえもイメージする。

 それは自身の体を極限まで細かく意識するということであり、体捌きの大幅な向上に繋がった。踏み込みも剣の振りも、以前よりずっと鋭くなっている。

 

「肝心の虎哮自体は、ぶっつけ本番ね。稽古のしようがない……お爺ちゃんが教えてない理由も分かるわ」

 

 虎咬を手で弄びつつ、ミアザは首を捻る。

 夢の中だから、と言ってリディナスは何とミアザに虎哮を打ち込んできた。その身に受けた率直な感想は……

 

「確かに、()()()()()()()()()()()

 

 かくして、遠征の準備は整った。




◇決戦が迫る……!
次回更新は少し遅れるかもしれないんだァ
あらかじめ謝罪させていただいたうえでブクマと評価を押してもらおうかァ
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