時々しれっと猿語録が飛び出すミアザさん   作:テルー

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第十五話

「感謝するよサイレンスタイガー及び北方士団(ノーザン・ナイツ)。君達の増援で戦況を好転させ完全勝利だ」

 

 南部騎士団の団長ジー・シンドマンはブリーフィングにて、整列したミアザ達にそう呼び掛けた。

 

「ハッキリ言って我々はメチャクチャ苦戦していた。倒しても倒しても魔物が無限に湧き出てくるんだから話にならないよ」

 

 南部のカザッテミは沿海部へ向けて広大な平野が広がる、王国の台所とも呼べる穀倉地帯。食料目当てに魔物の襲撃を受けることも日常茶飯事であるが、今回の数は常軌を逸していた。

 平野での戦いにおいて、数に勝る力はない。地平線を埋め尽くすほどの軍勢に応戦を続けてきた騎士達は、徐々に疲弊してきている。

 

「本作戦に、カザッテミの存亡が懸かっている。もししくじれば作物も人も食い尽くされるだろう」

 

 あちこちで唾を飲み込む音が重なる。ジーは頷き、作戦目標を告げた。

 

「単刀直入に言おう。君達には一点集中で敵陣を貫き奥にある召喚陣、そしてそれを守る者を叩いてほしい。信者曰く名をドラグオーク、不気味な黒い剣を持ち全身にタトゥーを彫った剣士だ。勿論メチャクチャ強い」

「……!」

 

 ミアザの鼓動が高まる。やはり、奴はここにいる。

 

「我々には必ず守らねばならないものがある。民の暮らしだ。急げっ遅れるな、ドラグオークを失神KOして召喚陣を潰すんだ。作戦名”鬼龍殺し(デビル・ラッシュ)”だ」

 

 遠くでは大勢の騎士が既に出陣しており、押し寄せる魔物達を真っ向から食い止めていた。喊声と足音、僅かな悲鳴がひっきりなしに響いている。

 

「王都騎士団の五百、北方士団の二百、我らが南方士団の千五百。この三部隊で正面を支える……ある意味”最強”だ。我々は側面から切り込むぞ! 付いて来い」

 

 ジーに従い、別動隊は草むらに伏せながら進む。魔物達は奮戦する正面の騎士達に気を取られ、全くの無警戒に見えた。

 好機と見たジーは剣を振り上げる。

 

「総員いけーーっ」

『おぉぉおおっ!!』

 

 鬨の声が上がり、ミアザ達は戦場へと駆け出した。

 

 

 

 

 

「カモがネギしょってやって来たぜぇグヘヘへ……」

 

 別動隊の動きを、ドラグオークは業眼(マイティ・ビジョン)で捉えていた。夥しい量の骨で組み上げた召喚陣に手をかざすと、新手の魔物が続々と出現する。

 

「やはり、骨の陣は木とは出力が違うな」

 

 そも魔物とは、朽ちた生命を依り代として負の思念が混ざり合った成れ果て。依り代は魔物が顕現する過程で圧縮され魔臓(デーモン・ハート)となる。

 

「骨は、入手性と魔物の誘引力が入り乱れた虹色触媒でやんす」

 

 信者の一人が首をカクカクと縦に振ってドラグオークの言葉を肯定する。

 死から生まれた魔物は本能的に生を求め、奪う。皮を舐め、肉を喰らい、骨の髄まで啜る。そんな彼らを人間(ご馳走)に見立てて組み上げた陣でおびき寄せるのが召喚の原理。

 陣の材料は魔臓と同じく、新鮮な動物に近いほど食いつきが良い。

 

「まあ、一番はドラグオーク様のおかげでやんすが……。あっしらでは、骨を使ってもこんな数は出てこないでやんす」

 

 ドラグオークの全身を覆うタトゥーは、自身の魔性を高める召喚陣でもある。水上を移動できたのもこれで足を水かきへと変化させたから。

 彼の存在に釣られ、シビャーの時とは比較にもならない数の魔物がカザッテミへと集結していた。

 

「虎柄のマントを着てない奴らは絶対通すな」

 

 ドラグオークは信者達にそう指示し、魔物達と共に別動隊へと差し向けた。

 

 

 

 

 

「召喚陣には着実に近づいている、この調子で行くぞ!」

「新手です! その数……少なくとも五百!!」

「ぶち殺せェ!! 鬼龍派(イビル・デビル)は信者まで皆殺しだぁ!!」

 

 別動隊の二百は、魔物の絨毯を突き抜けんと進撃を続ける。が、敵の動向に違和感を覚え始めた。

 

「こいつら、全然私の方に来ない……!」

 

 ミアザは通りすがっていく魔物を切り裂きながら歯噛みする。魔物達は何故かサイレンスタイガー一門を避けるように、北方士団を集中的に攻撃している。

 

「好都合です!」

 

 流麗な盾と剣捌きで魔物共を蹴散らしながら、リューゼインは召喚陣の方角を指し示す。

 

「サイレンスタイガーの方々、先を急いでください」

「何言ってるんですか! この数ですよ」

「だからこそと言ってるんですミアザ殿!!」

 

 リューゼインの背後をフォローしようとしたミアザだが、彼女は鋭い声で制する。さらに素早く反転し、飛び掛かってきていた狼型の横面を盾で引っ叩く。

 

「これ程の軍勢と、本当に真正面からぶつかったら勝ち目がありません」

「えっそうなんですか」

「すみません。この場の全員がミアザ殿というわけではないのです」

 

 ミアザにとってはアリを踏むように倒せる雑魚でも、他の者には脅威となる。このまま足止めされ続けたら、いずれ数に押し切られてしまう。

 

「ミアザ! ぐずぐずするな。他の者を思いやるなら、一刻も早くドラグオークを叩くべきなんだ」

「その通り。鎧持ち(ガーディアン)、君の力は作戦を遂行するためにある!!」

 

 マシェットとジーに急かされ、ミアザは後ろ髪を引かれつつも前を向く。

 

「すぐ片してきます!」

 

 目指す召喚陣とドラグオークは、このすぐ先。

 

 

 

 

 

「……来たな」

 

 ドラグオークは初めてミアザと邂逅した時と変わらず、他者を見下す傲岸な笑顔を浮かべていた。

 

「ドラグオーク。今更、何のつもりじゃ」

 

 ミアザが口を開くより早く、ユーゲンが絞りだしたような声で問う。

 髪は抜け落ち皺の寄った弟の顔を見たドラグオークは、問いに答える代わりその笑みを一層濃くした。

 

「……老いとは悲しいものだな、ユーゲン。可愛かった弟がこうも醜くなるとは」

「確かに()()は、お変わりないのぉ」

 

 負けじとユーゲンも歯をむき出す。

 

虎咬(タイガートゥース)を握れんで、拗ねておった時そのままじゃ」

「その虎咬のせいで、貴様ら一門は今日滅ぶのだ。あの日俺を拒んだこと、悔いても遅い」

「ぬかせ。いざ担い手(ミアザ)一対一(タイイチ)して、一太刀浴びたらあの日と同じように逃げた男に何ができる? ほれ、斬ってみよ」

 

 指先で顎の下を撫でるユーゲン。ドラグオークも剣の柄に手をかけ、斬り合いを始める構えすら見せる。

 

「はいはい、もういいでしょ」

 

 そこで、ミアザが年甲斐のない挑発合戦に待ったをかけた。一歩前に進み出て、ドラグオークに剣先を向ける。

 

「ったく、血の気の多いお爺ちゃんだわ。こいつと()るのは、私」

「ほっほ、頼もしいの。老いぼれは大人しく見て……おるわけにもいかんようだの」

「『』」

 

 龍咬(ドラゴントゥース)から漏れ出た黒いオーラが召喚陣の骨に絡みつき、人の形を象った。その数四体。

 絡め取った骨を得物とし、堂に入った構えを見せる仮初の剣士達。その姿に、サイレンスタイガー一門全員が奇妙な共感覚に襲われた。

 

「父上。これは……」

「間違いない。四人共、ドラグオークに斬られた一門の者じゃ」

「ミアザを殺すまで、有象無象(貴様ら)はこれで遊んでいろ。間違っても殺されてくれるなよ」

 

 ドラグオークがそう言い放つと同時、四つの影が遅いかかった。マシェット、ユーゲン、トゥルーファを中心に迎え撃つ一門を尻目に、ミアザはドラグオークとの決闘に臨む。

 

「じゃ、私達も始めましょうか」

「随分と無茶をしたな。虎咬で縁魔(サ・ルヤーマ)を打ち破ったか」

 

 ドラグオークの目は鎧越しに、ミアザの脇腹に残る傷跡を見抜いていた。

 

「おかげ様でね。曾お爺様から色々教われたわ」

「リディナスめ、まだ自我があったか。どれ、成果を俺にも見せてくれ──霞斬(ヘイズ・スラスト)

 

 出し抜けにドラグオークが剣を振り抜く。黒土を抉り、草とかき混ぜながら突き進む漆黒の剣気。戦場でたっぷりと騎士達の血を吸ったおかげか、前回を遥かに凌ぐサイズだった。

 

「……力任せね。基礎がなってない」

 

 それを前にしてもミアザは揺るがない。剣気の薄い一点を目掛け、虎咬を叩きつけて霧散させる。

 

「中途半端で投げだした、って感じよね」

「……」

 

 いかに膨大な剣気であろうと、密度が均一でなければ弱い部分からあっさりと瓦解させられる。

虎哮(ロア)を習得したミアザの目にはドラグオークの僅かな姿勢の歪み、それに伴う剣気のムラがハッキリと映っていた。

 

「もう一門じゃないんでしょ、未練がましくウチの技使うのやめてくれる?」

「だが俺を恨むのは筋違いだぞ。悪いのは土壇場で俺を追い出し、ユーゲンを当主にした奴らだ」

「どんだけ拗ねてんのよ。同じ一門の剣士なら、虎咬に選ばれたかどうかなんて関係ないじゃない」

「教えてくれ。お前は虎咬を握れるだけの弱者に従うことなど耐えられるのか」

「逆に聞くわ。虎咬を握れもしない奴に誰が従うってのよ」

 

 宝剣と言っても、さして厳しい基準はない。余程邪悪な野心でもなければ、握る程度は許してもらえるものだ。

 

「まっ私は誰より才能があるうえ剣にも好かれたんだけどね」

 

 テレザに刀身を撫でられた虎咬は、気持ち良さそうにその輝きを増す。

 これ見よがしなその様子は、なまじ才能だけは持ってしまったドラグオークのコンプレックスを強く刺激した。

 

「だから貴様という虎の子を殺し、一門も根絶やしにするんだろっ」

「その前にあんたを殺してやるわよ、ドラグオーク!!」

 

 憎しみと共に、ついに龍は本気でその牙を剥く。

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