時々しれっと猿語録が飛び出すミアザさん   作:テルー

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第七話

「ミアザ殿。刻みが甘いです。しっかり刻むから煮込んだ時に蕩けるんです、味わいが深まるんです」

「は、はいっ!」

「オルカ殿。根菜の皮はもっと薄く剥きましょう」

「ウッス!」

「折角の糧食です、良い物を作って出ますよ!」

 

 朝と昼の中間地点。誰もいない厨房内に、凛とした指揮が響く。自身も手際良く骨付きのバラ肉を切り分けながら、リューゼインはミアザとオルカに調理の指示を飛ばしていた。取った骨は水を張った鍋で煮込み、出汁にする

 食材の下ごしらえが終わると、彼女は後は任せろと言わんばかり作業スピードを上げた。

 

「流石は王都、良い薪です。……~~♪」

 

 ご機嫌に鼻歌まで唄いながらタマネギと根菜類をじっくり炒めると、香ばしくも甘い香りが厨房を満たし始める。

 

「な、何か……リューゼインさんキャラ違くない?」

「料理人の目になってるっス」

 

 呆然と見守る二人をよそにリューゼインは具材の中に肉を投入、さらにいつの間にかアク取りまで済ませた出汁を注ぎ込んだ。

 鍋に蓋をし汗を拭った彼女は、二人に向けこれ以上ない笑顔を見せる。

 

「よしっあとは待つだけです」

「そうですか。……良かったです」

「あ、あざーっス」

「ふふふ。羊肉はですねえ……」

 

 出来上がりを待つ間、二人はリューゼインの料理に関する様々な蘊蓄を聞いていた。

 嘘か真かこれ以降、ミアザとオルカを食事当番に固定すべきだと主張する団員が続出したという。

 

 

 

 

 

 翌日。日の出とともに王都を出発して数時間、ミアザ達三人はワカチャンオメ湖のある湿地帯の目前まで来ていた。

 

「すごいっスねリューゼインさん。御者までできるなんて」

 

 自分が馬に乗るまではできる騎士も多いが、馬を馬車に繋いで操るとなると難易度は跳ね上がる。

 模擬戦でミアザ相手に勝てないまでもしぶとく粘る戦闘能力に加え、調理や御者の技術までリューゼインは心得ていた。オルカの素直な賞賛に、彼女はくすぐったそうな笑顔で返す。

 

「騎士団長の別名は無謬騎士(コンプリートナイト)ですからね! 自分で戦うだけでなく、騎士団の役に立つスキルもバッチリなのです」

 

 戦闘員が戦闘以外の技術を高いレベルで修めていれば、部隊の非戦闘員を一人減らすことができる。その分戦闘員や武器を増やせれば、自然勝率も上がる。

 

「まあ、モルトゥヤ先生の受け売りなんですけれど」

「私達も馬術、ちょっとは練習しないとね」

「ミアザ殿はそのままでも良いと思いますよ? 前線を単騎で押し上げられる者が、指揮官からすれば一番頼れますし……む」

 

 軽快に大地を転がっていた車輪の音は、徐々に炊き立ての米をかき混ぜるような粘っこく重いものに変わってきている。リューゼインは馬を降り、一旦馬車から外してやった。

 自由になった馬が近くで草を食み始めたのを確認し、リューゼインは御者から騎士へと意識を切り替える。

 

「これ以上は車輪がはまり込んでしまいます。歩きましょう」

 

 三人は湿地帯を湖へ向けて歩いていく。先頭は最も反応と機動力に優れるミアザ、後ろを攻守のバランスが良いリューゼインが固める。

 

「んかぁっ」

 

 虎咬(タイガートゥース)で生い茂る植物を雑に斬り飛ばし、道を開くミアザ。足元にしみ出すほどの水分を含んだ地面もお構いなし、彼女はいつもの甲冑姿で突き進む。

 

「派手に動けば迎えに来るかと思ったけど……気の利かない連中ね」

「先輩分かってるっスか? お呼ばれしたわけじゃないんスよ」

「ふぅん、向こうも簡単に居場所を特定されるわけにはいかないってことか」

「ミアザ殿、オルカ殿」

 

 普段通りのやり取りを見せる二人を頼もしく思いつつも、リューゼインは指揮官として思考を巡らせる。

 いよいよ足場が悪くなってきた。行くにも退()くにも、もう自由は利かない。

 

「ご注意を。周囲に昔の土石流によって流されてきた岩が目立っています……仕掛けてくるなら、──っ!」

 

 この辺りです。リューゼインがそう言い切る前に、茂みの奥から何かが鋭く射出される音がした。

 

「はぅっ!? うーっ……」

 

 直後に硬いもの同士が激しく衝突し、次いで植物を踏み倒す慌ただしい音と呻き声が小さく漏れてくる。虎咬を閃かせた残心そのまま、ミアザは密集したガマの向こうを睨み据えた。

 

「びっくりした。……あっちですね」

「えっ。今、何したんスか?」

「何って……飛んできた矢を打ち返したんじゃない」

「何を言ってるこの先輩は?」

「ほら、行くわよ。相手はまだ生きてるんだから」

 

 遅ればせながら大盾を構えたオルカにさらっと返し、ミアザは曲者の元へと向かう。顔を押さえ倒れていたのは、一点を除いてはさして特徴のない女だった。

 

「! この意匠。鬼龍派(イビル・デビル)のものです」

 

 女の左腕に巻かれていたスカーフには、二本角と蛇の下半身を持つ男が刺繍されている。近くに落ちていたクロスボウにも同じ意匠が彫りこんであった。

 リューゼインの指摘を受け、ミアザはキリッとした眉を顰める。まるで大きな毛虫を見つけたような反応だった。

 

「デカデカと犯罪者のマークを付けて行動するなんて、私には理解不能」

「だ、黙れ……!」

 

 その一言が逆鱗に触れたか、女は顔から血を流しつつも反駁した。

 

「恵まれてばかりの騎士共に、我々の気持ちが分かるものか! 死ね!!」

「うるっさいのよ」

 

 ゴッゴッゴッ

 

 クロスボウに跳びつこうとした女を易々と組み伏せ、ミアザは宝剣の柄で女の鼻面を三度に渡って叩き潰す。

 

「その薄い顔、もっとペシャンコにするわよ」

「もう既にペシャンコっスよね。それ以上はやめてあげてほしいっス、気絶してるし」

「……ちっ、やり過ぎた」

 

 凄んでいたミアザは、女の胸倉を掴んでいた手を乱暴に離す。本当は強めに脅して何かしら情報を聞き出したかったが、力加減を間違えた。

 リューゼインは女の顔から血と泥を拭ってやりつつ、自分達が鬼龍派の拠点に近づいていることを確信した。

 

「先制攻撃を仕掛けてきたということは、大袈裟に言えば近づけさせたくない物が近くにあるということ」

「ここからは、より抵抗も激しくなる?」

「はい。クロスボウは通常の物でしたが、魔法の行使も考えられます。十分に注意して進みましょう」

 

 草丈は背伸びをしても届かない程になり、水も地面だけでなく(くるぶし)の下を浸すまでになる。そろそろワカチャンオメ湖のほとりに差し掛かるところで、話し声が風に流れてきた。

 

「不用意な攻撃は控えろと言ったであろうがっ。いたずらに我々の存在を知らせておろうがっ」

「すんません。アイツ鎧持ち(ガーディアン)にビビって、自分が止める間もなく撃っちまったもんで」

「ここは王都攻撃の重要地点であろうがっ。失えば、()()()に注いだ魔臓(デーモン・ハート)が全て無駄になるであろうがっ」

 

 話していたのはボロを着た髭面の男と、被り物なのか狼の顔を持つ人物。彼らが立っている付近には掘っ立て小屋があり、中からは異様な気配が滲み出していた。

 リューゼインは咄嗟に拾ったクロスボウを構え……すぐにやめる。

 

「今回はここまでにしましょう。(わたくし)達三人だけでは、何があるか分かりません」

「はい。拠点の場所は割れたし、十分ですね」

 

 距離は遠く、相手の詳しい数も分からない。そんな状況で中途半端に手を出すのは危険だ。

 

「貴様、風評を流すため王都の者と接触したな。その鎧持ち(ガーディアン)の名前は分かるか?」

「王都にいる若い女の鎧持ちとくれば、ミアザ・サイレンスタイガーでしょう」

 

 素直に撤退しようとする三人だったが、続く彼らの会話に後ろ髪を引かれた。

 

「もしかして、先輩は有名人なんじゃないスか?」

「当たり前のこと言わないで。史上最年少の鎧持ちよ? 王都の愚民共は私の名前を聞くだけで、涙を浮かべて握手の右手を突き出してくるわ」

「恐らくこの会話を聞かれたが最後、その名声は地に落ちると思われますが……いえ。ちょっと待ってください」

『ミア、ザ……?』

 

 ミアザの名前が出た直後、掘っ立て小屋から何かが這い出してきた。

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