感想は非ログインでも書けるようになってるぜ!
真面目な話の後は日常をいれとけ
「…………暑い」
その日、対策委員会の部室は熱気に包まれていた。医者がいる以上、エアコンをつけないなんて愚かな行為はしない。哀れ、エアコンは天寿を全うしたのである
「確かにこの暑さは……先輩達も溶けてるし………」
「ん、酷暑」
しれっと混ざったシロコ*テラーを加えた、対策委員会七人。文字通りスライムのように地面に溶け出したホシノと、寝転がってソファを占領している医者以外はなんとか平常を保っていた
「───先輩、これは"医者の不養生"というやつでは?」
「………汗が出ている内は大丈夫だ。僕たちのすべき事は、白石が来るまで耐える事…………だから、膝は貸さなくていい、暑いんだ」
「あら、よろしいのですか?」
ノノミに膝枕されている事以外は、別に医者は普通だった。確かに暑いし、汗も流れているが、別に医者は普通だった
問題など無い。ないったらないのである
「ん、なら私がやる」
「もう一人の私は下がって、私がやる」
「私は一緒に住んでるから、どうすれば先輩が喜ぶか知ってる」
「私も知ってる」
「………元気だな」
元気過ぎて困る。などと思いながらも、医者は眩しそうにその様子を見つめた。元気なのはいいことである。
「………てか、白衣脱げば?」
「セリカ、それは………」
事情を知っているシロコ*テラーは苦い顔をした。医者は、自分の着ている白衣が母親の形見である事をセリカに話していない。この場でシロコ*テラー以外に唯一事情を知っているホシノは溶けていた、役立たずである
「………諸事情あってな、脱ぎたくない」
「?」
「……はぁ」
色々と面倒臭くなった医者は、未だに膝枕を続けているノノミの頬に手を伸ばした
「………高すぎるな」
「……???」
普段からは考えられない異常行動に、その場の全員は混乱した。医者の真意が全く見えなかったノノミにできる事は、大人しく頬を撫でられ続ける事だけだった
「……ん」
「せ、先輩?」
「…………シロコ、こっち。あぁ違う、僕と住んでる方の」
「?……ん」
困惑しながらも、呼ばれなかった方のシロコに勝ち誇ったような笑みを向け、シロコ*テラーは医者の元へと近寄った。そして────
「えぇ!?」
「先輩!?」
「ん……!」
「……………???????」
医者が、シロコ*テラーに抱きついていた。体はソファに寝かせたままで、上半身だけをシロコ*テラーに預けている。一見首筋に噛みついているようにも見える姿勢であり、普段の距離感からすればあり得ない行為だった
「ん、ぅ……やはり、君はいいな…ひんやりしていて、気持ちいい…」
医者の目的は、シロコ*テラーの体温であった。同居に加え、健康診断で体に触れる機会も多い。医者は彼女の体が人と比べて冷えている事に気づいていたのだ
当然だが、突然の行動にシロコ*テラーの脳は限界だった。普段はどこか一歩引いているというか、どこまでいっても友人として距離感を崩そうとしない医者が、自分を求めてこんなにも近くに寄っている。情報が完結しない、宇宙狼である
「……………………はっ」
数瞬の硬直の後、シロコ*テラーは医者から急いで離れた。強いストレスがかかった時のように息が浅くなり、姿勢も崩れている。視線は右往左往しており、耳からは煙が出ているようにすら見えた
「……ダメか?」
そして、そんな状態になっているシロコ*テラーに追い討ちをかけたのが、抱きついたままの医者のこの言葉である。何としてでも、医者はシロコ*テラーを逃がさないつもりだ
「な……ダメかって……ど、どういう意味……??」
普段の彼女からは絶対に聞かないような声色だった。上擦っており、最後の方は消え入るような声だ。少なくともシロコ*テラー本人は今まで聞いたことが無かった
「必要なんだ…君(の体温)が……」
「ひ、必要なの……??」
「……あぁ。……ダメか?」
「だ、ダメって……いうか……あぅ……」
シロコ*テラーが混乱している内に医者は手を伸ばす。頰に添えられた手は、普段より熱い。しかし、その温度がシロコ*テラーの脳を更に混乱させた
「…………へぇ〜?」
医者の異常行動に誰もが動けなくなる中、真っ先に声を上げたのはノノミだった
ノノミが医者に膝枕をしていたのは、苦しそうにソファで寝転ぶ医者を見かねたからである。ノノミは医者を信頼している。熱中症にならない程度の水分補給と体温調節を済ませていると信頼した上で、単純な暑さに苦しんでいる医者を心配して、少しでも快適にしようと膝枕をしてやっていた。だが───
「ちょーっと、流石に私も怒りますよ〜?」
そんな気遣いも露知らず、医者はシロコ*テラーを求めていた。ノノミにとって、これは裏切りに等しかったのである
「あ……この、おい!離せ!」
滅多に聞けない焦った医者の声と同時に、ノノミの腕は完全に医者をホールドした。もう抜け出すことは不可能である
「嫌でーす☆」
「僕は熱中症にならない程度には水分も体温も調節しているし、ある程度余裕も持たせている!だが、それは外部接触の無い場合だ!これは明らかに不味い!」
ノノミの体温は特段高いわけではない。平均的な体温───だが、この暑さの中、それに密着されて仕舞えば、それは正常な体温とは言い難くなってしまう
「僕だけじゃない、君も危ない!だから離せ!」
「ふふ、細いし力もあんまり……ちゃんと食べてますか?」
「話を聞───暑……」
医者は限界だった。とりあえず水分を取りたかったが、この状態ではそれも不可能。汗は止まらず、体温が上昇する一方
そんな中、動いた者がいた
「先輩……!」
「あら?」
シロコ*テラーである。"先輩を助けなければ"という思いが、混乱の最中にいた彼女の体を突き動かした。結果、シロコ*テラーは医者の頭を胸に抱いた。挟み込まれるような体制ではあったが、持ち前の低体温は確かに医者を救った
「んぁ……シロ、コ…?」
「大丈夫、先輩……?」
「……少しマシになった。助かったよ……シロコ」
「……ん」
一時はどうなる事かと思った状況だった。とりあえずはこれで安心、白石が来るまでどうにかなるだろう しかし、そんな考えは甘かったのである
「───なら、もっと強くしても大丈夫ですね!」
「んぎっ……!?」
「先輩!?」
ノノミの怒り、絶賛継続中である
「だから、離せと……!し、シロコ!どうにか…………ぐぇ」
結局、この状態はエアコンの修理が完了するまで続いた───総評として、医者は有罪である
お医者さんプロフィールその3
仕事の都合上、人脈は多い
「僕の知り合いか?大体どの学園にもいる。いざという時、頼れる人間は多い方がいいからな」