アビドスのお医者さん先輩概念   作:かゆ、うま2世

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感想くれ!!!!!れ!!!


光、一筋

怪しいヤツ。第一印象はそれだった

 

 

悪い大人に狙われた、たった三人だけの学校。その中に紛れ込んだ、"医者"だなんて明らかに本名ではない名前で名乗る男

実際、男は名前の通り医者だった。私はあんまりだったけど、ユメ先輩はよく世話になっていたっけ

 

かなり長い期間、医者を怪しんでいた気がする。少し前から、変な大人に付き纏われていて───彼は、どことなく大人びていた

本質はどうあれ、大人っぽいモノに対する嫌悪感は私の中に強くあった。医者の事情を知らなくて、名前を名乗らない事に対する不信感も積もり続けた

 

 

それが爆発したのは───彼が仕事で外に出たのを、怪しいからと尾行した時

 

患者から聞き出した病名は、所謂不治の病だった

治療法は無し。最新鋭の医療技術を駆使しても、延命が精一杯───医療に詳しいわけじゃ無かったけど、それはあくまで一般常識の範囲内

 

 

『あのお医者さん凄えなぁ!いつ死んでもおかしくないぐらい苦しかったのに、完璧に治っちまった!』

 

 

医者は───それを、一度の治療で完治させた

 

 

『どういう事?』

『……君がここにいる事についてはもういい。どういう事、というのは?』

『あの患者、不治の病だった。どうやったの?』

『ふむ……』

 

 

不治の病すら治す───そういう不思議なことができそうな人間を、私は一人だけ知っていた。目の前で見せられたファンタジー、積もり積もった不信感────

 

 

『……黒服』

 

 

その言葉に、僅かな反応を示したのを、私は見逃さなかった

 

 

『お前、何でアビドスに来た?』

『何でも何も、僕の入学先だったから───』

『───とぼけるなッ!』

 

 

苛立ちのままに、躊躇なく発砲した。表情を驚愕一色に染めながら、弾丸をモロに喰らった医者は、そのまま倒れてしまった

……今にして思えば、短気なんてものじゃなかった。あの時の私は、何か言い訳めいた事を話されたらそれだけで激昂していただろう

 

 

『何、を────』

『お前───黒服のスパイだろ!私達の学校に、何しに来た!?』

『黒、服───?アイツか、待て、何か誤解を────』

 

 

否定しようとした医者に、私は再度発砲した。黒服との関係を認めた、と話も聞かずに判断して、傷つけた

医者が意識を失ったのを見て、私はその場を去った。あれだけすれば、もうアビドスには来ないだろうと思って

 

 

 

 

 

アビドスに戻って、砂祭りのポスターの一件が起きて

 

 

アビドス砂漠に行ったユメ先輩は、帰って来なかった

 

 

 

 

 

 

 

 

必死に探した。当てなんかない。それでも動かない訳には行かなかった。彷徨うように、私は砂漠を歩き続けた

 

死───その一文字が、頭に浮かぶ。ユメ先輩が遭難してから、かなりの時間が経っていた。それでも私は止まらなかった。砂漠の中を歩き回って、そして───

 

 

『………え?』

 

 

ユメ先輩を背負って歩く、一人の男が見えた

 

 

『………脱水症状と熱中症だ、つまらない症状だが、どちらも重度。僕がいて良かったな、もう治療は済んでいるから、さっさと戻って安静に────いや、君も少し危ないな。見せてみろ、同じ症状なら簡単に治してやれる』

『……何、で?』

 

 

あれだけ傷つけて、拒絶して───なのに、ユメ先輩を助けただけじゃない、私にまで手を差し延べる?

 

 

『何って何がだ?』

 

 

男は──────医者は、何も分かっていないような顔をしていた。素で言っているのだろうか、だとすれば尚更タチが悪い。あんな目に会わせたというのに

 

 

『私は───』

『……あぁ。何か誤解があるようだが、僕は君を責めるつもりは無いよ』

『……は?』

 

『確かに痛かったが、精神病の患者が暴れ出すのはよくある事だ。君がそうとまでは言わないが、色々と参っていたんだろう?だから、僕に当たった。……悪かったな、僕が早く治してやるべきだった』

 

 

私は終始無言だった。今思えば、それは罪悪感の表れだったのだろう。医者はそんな私の様子を気にも留めずに、私の手を引いて歩き出した

 

 

『帰ろう』

 

 

たった一言、医者だけはいつも通りだった

 

 

 

 

 

 

 

 

『ホシノ、少し付き合って貰えるか』

 

 

あれから数日。ユメ先輩の容体も良くなった頃の話だ

ユメ先輩は私と医者の間にあった事を知らない。本当に医者が気にしていないとして、あれだけの事をしておいて、医者に合わせる顔なんて無かった

 

 

『……何か、用?』

『個人的な野暮用でな、ホシノに手伝って欲しいんだ』

 

 

"君と話したい"

その誘いの裏に隠された本心がわからない程、私は鈍感じゃなかった。だから、私はそれに応じた

 

放課後に二人、砂が舞うアビドスの街を歩いて───医者は、私を墓の前に連れてきた

 

 

『来たよ、母さん』

 

 

その言葉と表情に、酷く驚いたのを覚えている

医者が浮かべた、どこか悲しげな笑顔───医者の表情が変わったところなんて、一度だって見た事が無かった

 

 

『……まぁ、見ればわかると思うが、僕の母親だ。アビドスに入学する前日に亡くなった、病死だ』

『……そう、なんだ』

『父親は物心ついた時にはいなかった。たった一人の家族で、憧れの人だった』

 

 

医者は、淡々と語った

 

 

『母は医者でな。僕もそんな母に憧れて、医者を目指した』

 

『全ての人を救う、完璧な医者───僕の目指すところはそれだ。だから……少しズルをしたんだ』

 

『僕の名前と、母との記憶の大部分。それを犠牲に、僕は僕を"医者"と定義した』

 

『不治の病だろうが治してしまえるのは、これによるものが大きい。言わば僕は、"他者の傷病を取り除く"という概念なんだ』

 

 

医者は笑って、『長々とつまらない話をしたな』と言った。否定も肯定もしなかったけど……正直、驚いたというのが本音だ。その後で、医者は言った

 

 

『名前を名乗らないのはこれが理由だ。今の僕の個人名は医者。戸籍から追っても、名前のところだけ読めなかった』

 

『黒服については……何かよくわからない取引を持ちかけられたが、断った。アビドスに来たのは本当に偶然だ、黒服との繋がりはない』

 

 

『君の不信感は晴らせただろうか』と視線を向けて、医者は微笑んだ

 

 

『……そこまで話したなら、誤解も何もないでしょ』

 

 

私は俯きながらそう言った。不自然なぐらい自然な笑顔が浮かんできて───でも、それでも胸の奥から湧き上がる感情は抑えきれなかった

 

 

『だから──────』

 

 

最後の言葉だけは、確かに震えていた

 

 

『────ごめん、なさい』

 

 

勝手な思い込みで傷つけた。もっと早く踏み込んで、ゆっくり話をするべきだった

後悔は、幾らでも出てくる

 

 

『気にするなよ。心に抱える問題も、また病だ。治療するのは医者の仕事さ』

 

 

…………表情が変わったところ、見たことないなんて言ったけれど

 

一度、たった一度だけ、以前見た事があった

ユメ先輩が意識を戻した時に、本当に、心の底から嬉しそうな笑みを浮かべたのを、私は見た事があったのだ

 

 

 

そう、丁度、今のような

 

 

 

──────────────────

 

 

 

「ホシノ!」

「うひゃあっ!?」

 

 

聞き慣れた男の声で、目を覚ました。なんだか、酷く懐かしい夢を見ていたような気がする

 

 

「やっと起きたか。もう放課後だぞ」

「え……うわ、本当だ」

 

 

慌ててスマホで時間を確認すると、医者の言う通り放課後になっていた。暗い教室に、ほんの少しの橙色の光が差し込んでいる

 

………それにしても、嫌な夢だった。あの頃の自分を思い出して自己嫌悪に陥ることが、今でもたまにある

 

 

「時にホシノ」

 

 

橙色の光を背に、医者は言う

 

 

 

 

 

「少し野暮用があるんだ、付き合ってくれないか?」

 

 

 

 

 

「………もちろん」




お医者さんプロフィールその4
ホシノの性格が変わったのは、お医者さんが原因

「ホシノも随分柔らかくなったな」
「……そう言ったの、医者じゃん」
「当然だろう、あの頃の君では後輩を怖がらせるかもしれない。よく切れるナイフみたいだったからな。傷病の原因は絶つに限る」
「人の性格に好き放題言ってくれちゃって………」
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