震転のアイギス   作:3×41

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 広いフロアの破壊された窓辺に立つ少年に向かって、7つの銃口からタングステン皮膜のライフル弾が数十発単位で吐き出される。 

 その銃弾が向かう先のケムリの体には、じょじょに首から足元まで、黒と青いプラズマラインのスーツが、ケムリの細い体にピッタリフィットした形で転送されていた。 

 数百発のライフル弾の嵐がケムリの目の前に迫る直前に、ケムリはその亜音速で迫りくる銃弾の壁面に両手を向けた。

 

「アイギスを起動する」

 

 黒い強化硬軟骨格スーツの青いプラズマラインがバチバチと青い燐光を放つと、ケムリの両手の目の前に迫った銃弾の嵐が、突然、ピタリと、その場に静止した。

 アイギスの特殊兵装、アンチフィールドバリアが銃弾の運動エネルギーを停止させる。

 

 そして次にケムリは超電脳直列したアイギスの脚部に力をこめると、30メートル離れたテロリストにコンマ2秒で肉迫した。

 

「!?」

 

 アイギスのウルズリアクターは、ウルオスのプラズマリアクターの出力を遥かにしのぐ。

 その力場を脚力として出力することで、まるで突然目の前に現れたかのような錯覚を起こすような機動を可能にしていた。

 黒く薄い強化スーツの少年が突然自分の眼下に現れたことに状況認識が追いつかないパワードスーツを着ていないテロリストの男に、すでにケムリの黒い右手がトン、と触れていた。

 次の瞬間右手の電撃テイザーで男が気絶すると、その男が崩れ落ちる間に、ケムリは左腕部から左手の三人のテロリストに電撃モノカルボンアローを3本高速射出し、ケムリとテロリストたちの間を高速で飛翔した3本の黒いモノカルボン針が3人のテロリストたちの体に突き刺さり、電撃により神経系を焼き、一瞬で意識を奪った。

 

 残り3人。しかし残りの3人のテロリストはパワードスーツで武装しており、テイザー掌撃やモノカルボンアローは通らない。

 だからといってケムリにすればおいそれと殺してしまうのは気が進まない。

 しかしテロリストたちはケムリの逡巡はおかまいなしで重機関銃の銃弾が再びケムリを襲った。

 

「何するんだっ」 

 

 ケムリはむき出しの、しかし反作用場に守られた口からそう言葉を発すると、再び右手を掲げてアンチフィールドバリアで銃弾をすべて空間に停止させると、今度こそ姿を消した。

 アイギスのウルズリアクターの膂力で銃弾をすべてかわすこともできたが、もしそうすれば先ほど気絶させたテロリストたちをその銃弾が肉塊に変えただろう。

 パワードスーツに身を包んだテロリストたちの視界からは、ケムリは空間に停止して鈍い輝きを放つ数百個の大口径ライフル弾の向こうで、空間に溶けるように消えてなくなった。 

 

 そして電磁迷彩によって透明化したケムリにテロリストたちがスコープを起動する前に、薄い陽炎と化したケムリが3人のパワードスーツの男たちの懐を通り過ぎると、ケムリが右手に転送した低出力に抑えたプラズマソードが3人のパワードスーツと生身の体を貫通し、パワードスーツの電気系統と男たちの神経系統を焼き、その場に崩れさせた。

 

『いやーお見事っ。やるね~ケムリ君』

 

 破壊された窓の外からアルバニが青い車体をヒョコっと覗かせた。

 アルバニが覗いたビルの広いフロアの誰もいない一角から、バチバチとプラズマをほとばらせながら黒の基調に青いプラズマラインのスーツのケムリが姿を現した。

 

「こっちは別にやりたくてやってるわけじゃないんだよ。大体なんで僕がアイギスの適合者なんだよ……」

 

 生体サイコニクス兵器アイギス。

 人間の電脳と高度に感応し飛躍的な機能改善を経たこの兵器は、従来の戦闘に驚異的な変遷をもたらしたが、しかしこの兵器に唯一欠点があるとすれば、

 アイギスのサイコニクスに感応できる人間が極端に少ない。という点であり、ウルオスによって高度に訓練を受けた1000万人の人間の中で1人程度の割合でしか適合者を得ることができなかった。

 その適合者ですら、普通は20歳を超えたあたりからやっと数%感応しはじめるアイギスについて、15歳のころから90%以上の感応度を示す黒辻ケムリは、不本意ながら、アイギスキャリアーとしての活動を余儀なくされていた。 

 

「とにかく、僕はデータ保管殻に向かうから、アルバニはテッサになんて言い訳するか考えておいてくれよ」

『あ、ずるいな~。ケムリ君。こんな貴重な生の戦闘サンプルを独り占めするなんてオテント様が許してもボクが許しませんよ。それにそろそろ警察庁が複数のウルオス小隊をあっちで投入してくるはずだから、ボクの位置情報があったほうが混乱が少なくていいと思うよ』

 

 どうもこの自律思考戦車はケムリに同行するつもりであるようだった。

 

「まぁいいや。ついてこれるならついてきてもいいよ」

 

 そういうとケムリはフロアの白い壁面に走っていき、そのまま壁に激突する勢いで突っ込むと、その壁はまるで水面のように揺らぎ、ケムリの体を吸い込むと、次に瞬間に固まって、再び波間のような波紋を残した壁面になった。

 

『あー! 物質透過なんてずるいよー! まってよケムリくーん』

 

 自律思考戦車はアイギスの特殊兵装にブーブーいいながら、AI殻内でケムリの位置情報を確認し、廊下から迂回してケムリの後を追った。

 

 

 

 

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