「…………これでいい?」
「……はい、たしかに」
キヴォトス某所、暗いオフィスにて。
「契約書にサインも頂いたことですし……これで、ホシノさんがお持ちの生徒としての全権利は、私の元に移譲されました」
「これで正式に、アビドス高校が背負っている借金の大半は、こちらで負担することにしましょう」
黒服とホシノが相対していた。
「……ほんとうに?」
「ええ、ええ。大人というものは契約に縛られます。私が契約書に交わした条件を破ることはないと断言しましょう」
「……なら、いい」
「では、用意した車に乗ってください」
「……わかった」
そうして、車に乗り込むホシノ。
「……これは、どこに行くの?」
「アビドス砂漠だ」
運転手に聞くも、そっけなく答えられる。
「……」
ホシノを乗せた車は、夜の闇に消えていった。
「ホシノ先輩につけた発信機は?」
「ダメです、とあるビルに入った後から表示されません」
「流石にダメね……」
セリカとアヤネが教室でため息をつく。
『"いや、少なくとも黒服のいる建物はそこだとわかったから十分だよ"』
『うむ。あやつは隠れるのが上手い。場所がわかっただけでも行幸よ』
置かれているスマホからそう聞こえてくる。
「今日は、便利屋68の皆さんとお泊まり会ですね⭐︎」
「ノノミ先輩、お泊まり会じゃないわよ!カイザーを警戒してここで一泊するんじゃない!!」
「そうでしたそうでした〜」
『"あはは……"』
「ハルカ、この学校には爆弾は仕掛けちゃダメ。校庭にトラップとしてならいいと思うけど」
「は、はい!わかりました!」
カヨコとハルカがそう会話した後、ハルカは校庭に走っていった。
「こ、校庭が……」
「まぁまぁメガネちゃん、そうお堅くならないで〜?カイザーに学校を吹っ飛ばされるのと、カイザーを撃退するために校庭を吹っ飛ばすの、どっちの方がいいの〜?」
「そ、それなら校庭だけの方がいいですけど……」
「でしょでしょ〜♪」
なんとも言えない表情のアヤネと、上機嫌なムツキ。
「あらあら〜⭐︎」
「って校庭吹っ飛ばしていいわけではないでしょ!ノノミ先輩もなんか言ってよ!」
普段より人が多く、ワイワイしているのが楽しいノノミ。ツッコミのセリカ。
「ん……今回は頼りにしてる」
「うふふ、任せておきなさい?」
物静かな雰囲気のシロコをかっこいいな……と思ってるアル。言葉通り頼りにしてるシロコ。
彼女たちの交流は、明日に備えて早めに寝るまでの少しの間、和気藹々と続いたのだった。
翌朝。
「みんな、起きて」
「クフフ〜♪朝だよ〜!」
シロコとムツキの声かけによって目を覚ます面々。
「時間は?」
「8時ごろかな〜」
「じゃあ、ナツミ先輩の予想だとあと数時間ぐらいで来るわね!」
装備を整え、準備を済ませ、今か今かと待ち構える。
ビービービー!
アヤネのタブレットから警報が鳴る。
「来ました!半径10km内に正体不明の部隊が多数接近しています!!」
「十中八九カイザーだよね〜♪」
「ん、撃退しよう」
『"こっちは任せて"』
「はい!ホシノ先輩の居場所の特定、お願いします!」
「ん、敵は市街地を荒らしながらきてるみたい。私達は打って出るべき」
「そうね。敵は1方向からしか来ていないわ。校舎は私たちに任せて、あなたたちは行きなさい!」
「わかりました!アビドス市街地へ行ってください!」
ドガアァァァァァァン!!
「行け!行け!」
「進め!」
「うわぁぁぁ!?」
「はやくっ!早く逃げろっ!」
「この自治区にはもう、退去命令が下った!即座に退去せよ!」
カイザーPMCの兵たちが街を侵略していく。
「ふふふっ、ふふふふふふふ……」
その兵たちの中心にいる、カイザーPMC理事は、喜びを隠しきれなかった。
「ついに、条件は全てクリアした」
「最後の生徒会がアビドスを退学……これで実質的に、アビドス高等学校は消えた!」
「神殿ナツミが出てくるからアビドスに侵攻するななどと、黒服の意味のわからぬ発言ももはや関係ない!アビドス自治区は我々のものだ!!」
「報告します!対策委員会を発見!中央部の兵たちを倒しながらまっすぐ進んできています!」
「ふふふ、来たか……」
カイザーPMC理事の前に立ち塞がる、3人の生徒たち。
「ふむ、学校まで出向こうと思ったのだが、お出迎えとは感心だ」
「なんてことをしてくれたんですか!街がめちゃくちゃですよ!」
「ん、学校はまだ私たちアビドスのもの。侵攻は明白な違法行為」
『あなたを建築物等損壊罪と器物損壊罪で訴えます!理由はもちろんお分かりですね?あなたがホシノ先輩をこんな契約で騙し、アビドスの街を破壊したからです!覚悟の準備をしておいて下さい。ちかいうちに訴えます。裁判も起こします。裁判所にも問答無用できてもらいます。慰謝料の準備もしておいて下さい!貴方は犯罪者です!刑務所にぶち込まれる楽しみにしておいて下さい!いいですね!』
「ちょ、ちょっとアヤネちゃん!?いきなりどうしたの!?」
セリカだけがツッコミをする。
「…………何を言っている?」
カイザーPMCも困惑していた。
「まぁいい。訴えるのだったな?やってみるがいい。今まで何度も君たちが連邦生徒会に嘆願してきたように!」
『っ!それは!』
「今まで連邦生徒会が動いてくれたことがあったか?なかったはずだ。連邦生徒会は今動けないからな」
「連邦生徒会でなくともいい。今まで他学園が君たちに力を貸してくれたことがあったか?なかっただろう」
「誰一人、君たちに手を差し伸べる人はいない」
「ん、いたけど」
「なに?」
シロコの言葉に、続けて言葉を捲し立てようとしたカイザーPMC理事が止まる。
「ええっと、ゲヘナの風紀委員会、トリニティの栄光探究部、ミレニアムのエンジニア部からは援助を貰ってましたね〜」
たしかに(身内から)援助はもらっている。
栄光探究部は公式に物的補給もしている。
「連邦生徒会も、シャーレの先生が来たわよ!アンタの妄想で勝手に喋ってんじゃないわ!」
「……ふふふ、そうか……だが、そうだとしても。アビドスの最後の生徒会メンバー、小鳥遊ホシノは退学した。アビドス生徒会はもう存在しないも同然。君たちはもう、何者でもないのだよ」
【我慢してください、みなさん。これが作戦なので!知らないふりをお願いします!】
仲間内にしか聞こえない無線でアヤネが3人に言う。
「………」
「………」
「………」
言い返したい気持ちを我慢して、カイザーPMC理事の言葉を待つ3人。
「アビドス廃校対策委員会、だったか?君たちは非公認の委員会だったはずだ。正式な書類の承認も下りていない。つまり、君たちの存在を示すものは何もないのだよ」
「だが喜べ。アビドス高等学校がなくなれば、君たちはもうあの借金地獄から解放されるのだから」
そのとき、一つの電話の着信音が鳴る。
「ん?なんだ?」
カイザーPMC理事が電話を取り、スピーカーをわざわざオンにする。自分たちにとっていい知らせだろうと思い。対策委員会の面々を絶望させるために。
『カイザーPMC理事。やってしまいましたね?』
しかし、電話から聞こえてきた声は非難の声。
『アビドスに侵攻してはいけないとあれほど念を押したにもかかわらず、実行してしまうとは……残念です』
「黒服か!?何を言っている!?」
『先ほど私のところに先生が来まして。小鳥遊ホシノさんの退学届を、先生の権限として受理していないとおっしゃいました。つまり、まだ高校が存在している状態で、あなたは戦争を仕掛けたのですよ』
「なんだと!?」
『そして、あなたは街を攻撃してしまった。彼女が学校に在籍している状態で、戦争を仕掛けたと言うことは、私たちが先に手を出してしまったことになるのです』
「なんだ!?何が言いたい!」
『神殿ナツミが来る、ということですよ。あなたにはがっかりです。私はもう引かせてもらいます。それでは』プツッ
「おい!おい!!」
電話が切れ、それに怒声を浴びせる理事。
「あら〜。なぜか先生から座標が送られてきましたね〜?」
「ん、私達はそっちに行くべき」
「そうね。ここは、先輩に任せましょうか」
そんな3人の声で、対策委員会の面々に向き直る。
「くっ!よくわからんが貴様らは捕縛しておく!!大人しく捕まるんだ!!兵たち、いけ!!」
そう命じた瞬間。
何百本もの光の雨が、降り注いできた。
アビドス編後は
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