休日なので連日投稿です
時間は遡り、カイザーのアビドス襲撃直後。
「クックック……お待ちしておりましたよ、シャーレの先生」
"……私が来るってわかってたの?"
私は、黒服と呼ばれている男と対面していた。
「ええ、ホシノさんに発信機がついていましたから……まぁ、遅かれ早かれ私もあなたと話したいと思っていたのですよ」
"……私のことを知ってるんだ"
「ええ。連邦生徒会長が呼び出した不可解な存在。あのオーパーツ、『シッテムの箱』の主であり、連邦捜査部『シャーレ』の先生。あなたを過小評価する者もいるようですが、私たちは違います」
(……シッテムの箱まで知ってるんだ)
「自己紹介をしておきましょう。私は、『黒服』と呼ばれています」
"……"
「まず、はっきりさせておきましょう」
「私たちは、あなたと敵対するつもりはありません。むしろ、協力したいと考えています」
「私たちの計画において、一番の障害になりうるのはあなただと考えているのです」
"それは、ゲマトリアとしての言葉?それとも、カイザーと組んでいる黒服個人としての言葉?"
「……おや、ゲマトリアを知っていると……いえ、考えてみれば当然でしたね。『アモン』があなたの所属する連邦捜査部シャーレ、その部長を務めているのですから」
「今の発言は、『黒服』個人としての言葉として受け取ってもらって構いませんよ」
"……そう"
「さて、話を続けましょう。私たちにとってアビドスなんて小さな学校は、全くもって大した問題ではありません。神殿ナツミが復学したのだとしても、私たちは手を出すつもりはないのです」
(手を出すつもりはない?もうすでに、今この瞬間に、アビドスをカイザーが攻撃しているのに?)
「ですが、先生。あなたの存在は決して些事とは言えない。敵対することは避けたいのですよ。そうですね……むしろ、私たちと組むつもりはありませんか?」
"……それが、カイザーと手を組んでいる個人としての言葉なら、断らせてもらう。私は、生徒の味方だ"
「おや、ゲマトリアとならば組むつもりがあると?」
"微塵もない。生徒に手を出すことに躊躇もしない大人たちに手を貸すなんて興味もない"
「おやおや、神殿ナツミ……『アモン』をそばに置いておいて、そんなことを言うのですか?私にはあなたの意図がわかりませんね」
"ナツミは確かに自分がゲマトリアだといい、あなたもナツミが仲間であることを肯定している。本音を言うならナツミにはゲマトリアを抜けて欲しいけど、あの子は人に言われてやるタイプの子じゃない"
「クックック……短い間の中のはずですが、なかなか的を射る発言ですね。確かに、私もそう思います」
"だとしても、あの子は生徒を悪いようにするような子ではないし、あなたやカイザーみたいな悪い大人と同じ存在でもない"
「クックック……ええ、そうですね。私は研究者であり、生徒の神秘を弄び、『崇高』へと至らせる存在です。しかし、彼女のアプローチは『統治』。生徒を無碍に扱う訳にもいきませんからね」
「では、先生はゲマトリアと敵対するわけでも、味方するわけでもない、と?」
"……私は、生徒の味方。ゲマトリア全員が生徒の敵ではないのはナツミに言われた。けど、生徒に手を出すなら、そいつの敵にはなるだけだよ"
「クックック……『アモン』を側においた上で、真理と秘技を手に入れられるこの提案を断るとは……あなたは面白い人ですね」
"あなたに言われても何も嬉しくない"
「これは手厳しい……ですが、一つお気づきでしょうか?あなたの行動には、正当性がない」
「小鳥遊ホシノさんはもうアビドスの生徒ではありません。あなたに一体何の権利があって、小鳥遊ホシノさんとの交渉に口を出すのですか?届け出を確認されていないのですか?」
"うん、まだ確認していない"
「クックック……これはこれは、想定が──
"まだ、「顧問」である私が、ホシノの退学届を受理、確認していない"
──……なるほど。そうきましたか」
"だから、ホシノはまだ対策委員会所属だし、まだアビドスの副会長だし、今でも私の生徒だ"
「……クックック、これは一本取られましたね。あなたが『先生』である以上、担当生徒の去就にはあなたのサインが必要……そういうことですか」
「なるほどなるほど。実に厄介ですね……」
"あなたとカイザーは、あの子たちを騙し、心を踏みにじり、その苦しみを利用した"
「ええ、仰る通りです。他人の不幸よりも、私たちは自分たちの利益を優先しました。否定はしません。私たちの行動は、善か悪かと問われればきっと悪でしょう」
"ホシノがいなくなった途端、学校を攻撃し、生徒たちを傷つけようとした"
「……お待ちください。学校を攻撃した、と?」
"そうだ"
「……少々お待ちを」
そう言って黒服は何やらタブレット端末を取り出して、何かを確認し始めた。
「……本当ですね、カイザーがアビドスを攻撃している……」
"……想定外?"
「ええ。私はカイザーPMC理事に、アビドスには攻撃するな、とちゃんと言っておいたのですが……あちらは何も考えていなかったようです」
「誤解を解いておきましょう。私は、本当にアビドスに武力的な手を出すつもりも、あなたとことを構えるつもりも、神殿ナツミと敵対するつもりもありませんでした」
"手を出してしまった以上、もう遅い"
「……そうですね。ですが、私個人はまだ間に合います。少々お待ちを」
そういって電話をかける黒服。
「カイザーPMC理事。やってしまいましたね?」
相手はカイザーPMC理事らしい。
「アビドスに侵攻してはいけないとあれほど念を押したにもかかわらず、実行してしまうとは……残念です」
『黒服か!?何を言っている!?』
「先ほど私のところに先生が来まして。小鳥遊ホシノさんの退学届を、先生の権限として受理していないとおっしゃいました。つまり、まだ高校が存在している状態で、あなたは戦争を仕掛けたのですよ」
『なんだと!?』
「そして、あなたはアビドスを攻撃してしまった。彼女が学校に在籍している状態で、戦争を仕掛けたと言うことは、私たちが先に手を出してしまったことになるのです」
『なんだ!?何が言いたい!』
「神殿ナツミが来る、ということですよ。あなたにはがっかりです。私はもう引かせてもらいます。それでは」プツッ
"……随分と容赦がないんだね?"
「ええ。あんなものに慈悲をかけて、アモンと敵対すれば、私に先は無くなってしまいますからね」
「それと、先生。小鳥遊ホシノさんは、アビドス砂漠のPMC基地の中央にある、実験室にいます」
「『ミメシス』で観測した神秘の裏側、つまり恐怖。それを、生きている生徒に適用することができるか──そんな実験をするつもりでした」
「もし実験が失敗したら、次はあの狼の神が代わりを、と思っていたのですが……やめておきましょう。早く生徒に連絡するといいですよ」
そう言われたのでさっさとアロナが言われた場所を特定した座標を送信する。
「それで、どうしますか?先生。あなたは非力だ。戦う術はなく、神殿ナツミはカイザーを潰しに向かうでしょう。ならば、あなたは無防備。攻撃されるとは思わなかったのですか?」
"……"
大人のカードを取り出す。
「……先生、冗談です。私にだって攻撃の手段はありませんし、アモンのお気に入りに手を出す度胸もない」
「確かに、それはあなただけの武器です。しかし、私はそのリスクも薄らとですが知っています。使えば使うほど削られていくはずです。あなたの生が、時間が」
「ですから、そのカードはしまっておいてください、先生。つまらぬことで使わないように」
"私は生徒たちのためならこのカードだって、なんだって使うよ"
「……そうですか。一体どうして、そんなことをするのですか?なぜ、取る必要のない責任を取ろうとするのですか?理解できません」
"あの子たちの苦しみに対して、責任を取る大人が誰もいなかった。それが、大人のやるべきことなのに"
「……クックック、大人とは『責任を負うもの』、そう言いたいのですね?」
「アモン……神殿ナツミも似たようなことを言っていました。『王とは、施政者とは責任を負うものであり、統治者になる権利を有するものもまた、責任を負わねばならない』と」
「大人とは、望む通りに社会を改造し、法則を決めて、規則を決め、常識と非常識を決め、平凡と非凡を決める者だと私は考えています。アモンに、『大人とは、統治者になる権利を有する者である』と暗に仄めかされた時、なるほど、とは思いましたが……しかし、責任を負うものという部分に共感はできませんでした」
「権力のないものを、知識のないものを、力のないものを、あるものが支配する。それが、大人だと私は思います。あなたは、それになり得たはずです」
"……"
「この学園における莫大な権力と権限、そしてこの学園都市に存在する神秘。その全てを、あなたは一度手中に収めた上で、手放しました」
「理解できません。真理と秘技、権力、お金、力……その全てを自ら手放す選択肢を、あなたはどうしてとったのですか?」
"……ナツミの説明を受けても理解できないなら、私が言ってもきっと理解できないよ"
「……そうですか。私はあなたのことを気に入っていたのですが……まあ、いいでしょう。あなたの側に神殿ナツミがいる限り、また会う機会はあります」
「そういうことですので、精々頑張って生徒を助けるといいでしょう」
「微力ながら、幸運を祈ります」
話が終わったと判断して、現場に向かうために踵を返す。
部屋から出ようとした時、後ろから声をかけられた。
「先生」
「……ゲマトリアは、あなたのことをずっと見ていますよ」
アビドス編後は
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