【習作】黒子のバスケ、神速のインパルスを持つ男。   作:真昼

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気づいたら先にコッチを書いてた件。


第1Q

 全中の大会が終了し、幾ばくかして克樹は今、自身が通っている中学の校長室にいた。校長室から見える外はそろそろ紅葉の季節を終え、落ち葉が目立ってきている頃合いの頃だった。

 

「では、こちらからの推薦を受けて貰えるということで、問題ないかね光谷君?」

 

「はい、こちらこそ。原澤監督これから3年間ご指導の程をよろしくお願いします」

 

 校長室で克樹と担任教師、そして推薦を受けてくれないかという相手方の高校の監督が対面していた。

 克樹には他にもいくつもの推薦が来ていたが、色々な条件とわざわざ監督自身が克樹の中学まで来て勧誘しにきたということで、桐皇学園高校に決める事となった。

 

「しかし、こちらのような無名の学校に来てもらえるとは思わなかったよ」

 

「王者と呼ばれる所に挑む事が好きなので」

 

 そう言って、克樹はちょっと間を開ける。事実、克樹は中学の3年間、キセキの世代と呼ばれる集団を持っていた帝光中学に挑み続けていた。

 

「それに……。無名とはいえ最近はスカウトにも力を入れていると聞いていますよ?」

 

 そう言って原澤監督を見やる克樹。

 それに対して原澤監督はお手上げとばかりに微笑みながら、口を開く。

 

「ええ、光谷君が入ってくれるということで、これから3年間は全国を……いえ、全国でも優勝を狙えるチームになったと言えます」

 

「優勝ですか? 大きく出ましたね。キセキの世代の彼らがどこに行ったかもわからないのに……。まさか?」

 

 原澤監督のあまりにも確信を持った優勝を狙えるという言葉にある可能性が克樹の中で浮上する。キセキの世代と呼ばれる『あの』集団に対抗できるのは克樹を除けば無冠の五将と呼ばれた人達と……、キセキの世代その人達ぐらいのものだろう。

 しかし、桐皇学園に無冠の五将と呼ばれる人たちが入ったという話は聞かない。これらから考えれる事は……。

 

「ええ、考えている通りだと思いますよ。光谷君は頭も回るようで頼もしいですね」

 

 原澤監督が答え合わせでもするように言葉を口にする。

 

「……キセキの世代が入ったのですね」

 

「その通りです」

 

「……ちなみに誰が?」

 

「それは入学してからのお楽しみとしませんか?」

 

「そうですね。桐皇学園に入ってからも気が抜けませんね」

 

「それは頼もしい。キセキの世代は我が強いですからね。ただ、一つだけ詫びなければいけないことがあります。推薦前にお話しした光谷君中心のチーム作りをするということが難しくなるかもしれません」

 

 すまなそうな顔をする原澤監督。その言葉に反応したのは克樹ではなく、今まで一言も会話に入ってこなかった克樹の担任教師であった。

 

「そ、それは約束が違うのではないですか!?」

 

「ええ、こちらとしてもまさかOKされると思ってなかったのですよ。これに関しては本当に申し訳ないと思っています」

 

「いえ、キセキの世代が入るとなれば仕方がないことだと思います」

 

 担任の言葉を制したのは克樹であった。克樹程キセキの世代の凄さを身をもって知っている者は少ない。

 

「彼らには天才という言葉も安く見える存在ですからね」

 

 克樹はかつて戦った試合を思い出しながら溜息を吐きつつ答える。

 

「そんな卑下するものではないと思いますよ、光谷君。君の試合をビデオに撮らせていただいたのですが、相手が行動を起こしてから君が反応するまでの時間は……わずか0.11秒でした。これは人の限界速度と呼ばれるものです。神速のインパルスの由来ですね。ポテンシャル的に君はキセキの世代に劣っていないと思っています」

 

「そこまで高く買って頂いているとは、有り難いものです」

 

「……そこまで光谷を買って頂いてるのに、何故光谷中心のチームにならないのですか?」

 

 再び、担任が口を挟む。

 

「先ほど言った通り、キセキの世代は我が強いのです」

 

「まぁ、彼ら協調性とかあまりなさそうですもんね」

 

「ええ、だから光谷君には申し訳ないですが……」

 

「わかりました。その件も込めて推薦を受諾します」

 

「ありがとうございます」

 

 この後は和やかに話が進み、克樹は正式に桐皇学園に進むことになった。

 

 

 

 

 

 四月

 

 入学式を終え、推薦組はそのまま部活に顔を出す事となる。

 

 桜の花びらの大半が散って、そんな散った花びらを踏みしめながら克樹は第一体育館の方へ足を進める。体育館の傍に寄ると、バスケボールが弾む音と、バッシュと体育館の床が擦れる事で出る特有な音が聞こえてくる。

 このバスケ特有の音と、体育館から聞こえる掛け声だけで、この学校がバスケに力を入れている事がわかる。

 

 体育館に入ると、春先と思えない熱気がそこには広がっていた。克樹が体育館に足を踏み入れた事に気づいたバスケ部員が何人かが克樹の方へ顔を向ける。その内、糸目でメガネを掛けた部員の一人が他の部員に指示を出し、一時的に練習を切り上げ克樹の方へ足を向ける。

 

「君が……、光谷克樹君か? ワシが桐皇のバスケ部のキャプテンをやらしてもろうてる今吉や。期待してるさかいに、これからよろしゅうな。ちなみにポジションはPGや」

 

 そうやって、にこやかに手を出してくる。克樹も出された手に握手で返事をする。

 

「んー……、もうちょっと待ったってな? 推薦組は君合わして何人かおるねんけど、全員が集まってから色々説明しよう思っとるから。ちなみに君が一着やな。集まるまで、ウチの練習でも見て待っといてな」

 

「わかりました。こちらで見学していますね」

 

 克樹がそう言うと今吉は少し驚いた顔をして、克樹の顔に改めて目を向ける。

 

「どうしました?」

 

「いやー。自分、随分と真面目やなぁっと思ってな。全国のスタープレーヤーはもっと我が強いと思っとったわ」

 

「性分なもので」

 

「そか、じゃあもうちょっとそこで待っといてな」

 

 そう言ってから今吉は練習に復帰する。

 それからしばらくの間、克樹が練習を見学していると、外から走ってくる足音が聞こえる。徐々に近づいてくる足音から、この体育館に向かって来ているのだと推測できる。

 

「スイマセン! スイマセン! 体育館の場所がわからなかったもので!!」

 

 いきなり謝り始める克樹と同学年と思われる生徒。このタイミングで入ってくるということは彼も推薦組なのだろう。

 そう判断した克樹は彼に声を掛ける。

 

「君も推薦組かい? 何人かいるみたいだから、全員が集まるまでここで待ってて欲し……」

 

 いらしいよ、と続けようとした克樹の言葉を遮って彼がしゃべり続ける。

 

「そんな! 遅れてしまってゴメンナサイ! 初日から集合時間で遅れてしまうなんて、ほんとスイマセン!」

 

「いや、あの……」

 

「こんな、ボクが生きててスイマセン!」

 

「……」

 

 ―――なんだろう……、このマイペースなウザイ子は。

 

 克樹の謝り続ける彼に対しての第一印象はこうだった。

 

 それから、彼も落ち着き一緒に見学を始める。ウザイ彼の名前は桜井良と言うらしい。

 

 

 そんな見学開始から一時間ほど経っても、推薦組の残りのメンツは来なかった。

 

「推薦組ってこれだけなんでしょうか?」

 

「んー……、最低でもあと一人は居ると思うよ」

 

「そうなんですか」

 

「そなんやけどなぁ……、先に器具の場所でも説明するかなぁ。おーい若松! 二人に倉庫とか説明したって」

 

 克樹と桜井が話してる最中に一時的に休憩に入ったチームから抜けてきた今吉が会話に加わってきた。

 どうやら、今吉にとってもここまで遅くなったのは予定外なようで困り顔だ。

 若松という先輩がこちらに来て、倉庫と器具の説明をしていく。若松は一年が集合に遅れたことに少し憤っているようだ。

 そんな時、外から女性と男性のケンカ声が聞こえてくる。

 

「初日に遅れるなんて! もうっ早く行くの!」

 

「わぁった、わぁった。だからそんな押すなっての」

 

「そんなこと言って、帰る気満々だったじゃない!」

 

「どうせ、雑魚ばっかだろ? 別に良いじゃねえか」

 

「もう! そんな事ばっか言って! ほら、急ぐ!!」

 

 休憩中だった事もあって、外の声は倉庫の中にも良く聞こえた。声がこの体育館に近づいてくることもあって遅れた推薦組だと推測できる。そして、そんな不遜な声を聴いて青筋を浮かべる若松以下部員達。

 

「すいませーん、ばっくれそうになった子を連れてきましたー!」

 

「そかそか、おおきにな。そんで君はどちらさん?」

 

 バスケ部の代表として、今吉が女性に質問する。倉庫からはまだ、姿は見えない。

 

「あ、はい。このバスケ部のマネージャー希望です。既に監督にはOK貰っています」

 

「おお、ウチの部にも女性マネージャーが出来寄ったか。ありがたいことやな。じゃあついでに君も自己紹介しよか」

 

「えぇっと……、やっぱり一番最後でしたか?」

 

「そりゃもう、断トツやな。おーい! 倉庫の二人ちょっとこっち来てくれるかー?」

 

 キレる一歩手前の若松を置いて、呼ばれた克樹と桜井は倉庫から出て、部員達の前に出る。

 

 

 

 そして克樹にとって、約9か月ぶりに目にする存在がそこには居た。

 

 

 何度も戦った。その度にチームとしては負けた。しかし、個人としては負けてはいないと克樹は思っている。

 

 

 

 そう、紛れもなくキセキの世代の一人でありエース。

 

 

 

 全中ナンバーワンのスコアラー(点取り屋)

 

 

 

 『青峰大輝』

 

 

 

 

 そして、青峰も克樹に気づいたのか、口元を皮肉気に変える。

 

「へぇ……、さつき。さっきの発言撤回するわ」

 

「え? どの発言?」

 

「たった一人除いて雑魚ばっかに変更」

 

 青峰の突き刺すような眼光が克樹を射抜く。

 

「久しぶりだな。青峰」

 

「テメェもな」

 

 軽く挨拶を交わす二人。

 

「まぁまぁ、面識あんのはええけど、コッチにも紹介して欲しいんやわ。ほな改めて、ワシが桐皇のキャプテンはってる今吉や。他の部員は……、まぁぼちぼち覚えていけばええやろ。一年はとりあえず自己紹介やってな、やってたポジションとか」

 

「はーい。これからマネージャーやらせていただく、桃井さつきです。これから宜しくお願いします」

 

 桃井が挨拶すると、部員から一斉に拍手が起きる。それほど女性のマネージャーが入るのが嬉しかったらしい。

 

「え、えっと。桜井良です。ポジションはシューティングガードやっていました。よろしくお願いします」

 

 先ほどと、うって変わってまばらな拍手が起きる。

 

「光谷克樹です。ポジションはスウィングマンやポイントフォワードをやっていました。これから宜しくお願いします」

 

 克樹が挨拶すると、拍手の代わりに少しざわめきが起きる。小声で「あれが神速のインパルスを持ってるとかいう奴か」などと囁きあっている。

 

「青峰。ポジションはパワーフォワード」

 

 耳をかきながらやる気無さそうに答える青峰。その態度に何人かの部員がキレそうになる。そこを今吉が部員を、桃井が青峰を抑える。

 そのタイミングで原澤監督が体育館に入ってくる。

 

「「チワーーッス」」

 

 部員が一斉に監督へ挨拶する。

 

「紹介は済んだようですね。では突然ですが、レギュラーを変更します。青峰君と光谷君をレギュラーとして入れます。桜井君はこれからの様子を見てからという形です。代わりに暫定ですがレギュラーから水木と北原を外します」

 

「「な!?」」

 

 監督が言った言葉に今吉を除いて、部員達に動揺が走る。ざわめく部員達に今吉が「静かにせい」の一言で黙らせる。

 

「ウチのチームが実力主義なんは今さらやろ? 強いならレギュラー入り、当たり前のことや。そして単にこの二人がワシらより強い、それだけや」

 

 残酷だが、こういう強豪校ではよくある光景だ。頂点に近づくほど、実力主義にシビアになる。

 

「へぇ、今吉サン……、だっけ? わかってるじゃねえか」

 

 青峰が不敵にも発言する。発言していない克樹もそこらの高校生部員程度には負ける気はない。

 

「納得できたみたいですね。なら練習を続けてください。一年の皆さんは私がこれから更衣室等を説明しますので、着いてきてください。そこで着替えてから練習に参加してもらいます」

 

 監督の言葉で、一通りの顔合わせは終了となった。

 

 そして着替え終わった後、練習に参加しようとするが、そこで青峰から声がかかる。

 

「光谷、1ON1しようぜ」

 

「やりたいが、今から練習って雰囲気の中で出来るのか?」

 

「ええ!? お二人ともそんな!?」

 

 そんな会話が聞こえたのか、監督が一考する。

 

「ふむ、良いでしょう。レベルの違いというものを知ってもらうのも大事ですしね。……こちらの半面を開けなさい!」

 

 

 そして急遽始まる1ON1。

 最初は一年のわがままに文句を見せつつ、それを見ていた部員達が少しずつ黙り始める。

 部員達の目の前で行われる激闘。

 全国レベルでもお目に掛かれないようなスピードの応酬。

 バスケをやっているからわかる圧倒的な実力差。

 部員達を嫌でも黙らせるだけの強さ。

 

 最初は部員達も残りの半面で練習をしていたが、いつのまにか体育館にいる全ての人の目は二人の戦いに釘づけとなっていた。

 

 

 こうして、光谷克樹の高校一日目が終わった。




バスケ一口メモ ポジション編

バスケは5人でやります。
基本はフォワード二人、ガード二人、センター(以下C)という組み合わせ。

フォワードにはスモールフォワードとパワーフォワード(以下SFとPF)
ガードにはポイントガードとシューティングガード(以下PGとSG)

SFはドライブが上手い人に任されやすいです。特に一対一の突破が出来る人。そして点を取るのが役目です。中に切り込んだり、ポストプレイをしたりと大忙しなポジション。原作の選手では黄瀬や灰崎。

PFはSFより体格が良かったり、大きい選手が務めます。名前の通りパワーで攻める形でオフェンスリバウンドをとるのも重要な役目です。また、スクリーンをしたりと戦術的にも重要なポジション。原作では火神や青峰。スラムダンクの桜木花道のポジションもコレ。つまり主役になりやすい?

PGはチームの司令塔であり頭脳。単にガードとも呼ばれる。ゲームメイクをしなければいけない重要なポジションで、オールラウンダーな選手が務める事が多い。戦術が変わると役割が変わりやすい為、プレイも頭も器用さが必要。原作では伊月や高尾、赤司。

SGは名前の通りシューターです。ロングシュートの得意な人が務めます。しかし、それだけでなく、攻めに守りに重要なポジション。PGの代わりに司令塔に成ったり、自分で切り込んだりと実は近代バスケでは花形ポジション。原作では緑間や日向、桜井、氷室。世界的に有名なマイケル・ジョーダンのポジションであり、花形ポジションとなったのは彼のせいとも?

Cはなにより大きくジャンプ力がある選手が務めます。ゴール近くでの仕事が多く、リバウンド(ゴールから外れたボールを確保する行為)やブロックショット(相手シュート時に防ぐ行為)を主に行い。ゴール下において強さを発揮するポジション。
原作では木吉や紫原。


ちょっと特殊なポジション

スウィングマン(以下SW?)
右へ左へと縦横無尽に動きながら、SFとSGの仕事をするポジション。ただ、単にSFを差す場合もある。DEAR BOYSの哀川和彦やあひるの空の夏目健二(トビ)とかのポジションっぽい。点取り屋にありがちなポジションですね。

ポイントフォワード(以下PF)
名前の通り、フォワードの場所でPGの役割を果たすポジション。PG、SG、SFを同時にこなすまさにオールラウンダー。さらに、視野の広さが大事になる。
陽泉戦での伊月がまさにこれな動きです。本作の主人公のポジションになります。


っていうか黒子ってどこのポジションなんでしょうかねぇ……。点を入れないSF?

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