春休みが終わり、入学と進級という少し特殊な行事も無事に過ぎ。高校が正常に動き始めた頃、桐皇学園のバスケ部もまた始動し始めた。部活勧誘期間と仮入部期間を終えて、仮入部の部員の幾人かが正式に部員となり、練習が本格化してきたのだ。
基礎練習を終えて、本格的な練習に入る。少数のレギュラー陣が体育館半面を使い、それ以外の大人数で残り半面を使う。
克樹と青峰の入部によりレギュラー落ちした部員の仲良かった選手以外のほとんどが、二人のレギュラー入りに文句を出さなかった。理由があるとすれば、入部の時に二人が行った1ON1。圧倒的な実力の前に口を出すのが躊躇われたのだ。しかし、新入部員が正式に入って来た頃から、再び反発が出始めてきた。
「今日も青峰はサボりか」
そう、キセキの世代のエースである青峰が練習にほとんど参加しないためだ。練習に参加しに来るときも、ほとんどが克樹と1ON1をし始める為、チームとしての練習にはほとんど参加していないのだ。そんな青峰の自由な行動に、一時期は潜めた反発が再燃してきたのだ。
しかし、青峰が練習に出たくなくなる気持ちは、克樹も実は共感出来るものでもあった。この桐皇学園に入学してからはまだマシではあるものの、中学の時には克樹の相手が出来る部員はいなかった。基礎練自体は周りとも共に出来る。しかし、少し本格的な練習に入るとどうしても克樹と同レベルで練習できる人がいない。そんな事態になるのだ。
その為、克樹にとって練習自体をサボるというのはあり得ないが、青峰が練習に来る必要がないという言い分は十分に理解出来るのだ。正直に言えば、たまにくる青峰との1ON1が一番練習になるのも事実であった。
今日もそんな青峰が居ない中、桐皇学園バスケ部の練習は続いていく。
「皆さん、少し注目」
「集合!」
原澤監督の声に、キャプテンである今吉が集合を呼びかけ部員が監督の前に集まる。監督の近くに今吉が佇み、レギュラーが半円で二人を囲む。その後ろにそれ以外の部員が集まるという形が自然に出来るようになっていた。
「ゴールデンウィークが明けたら、すぐに全国の予選が始まるのは知っていると思います。決勝リーグまではトーナメント式です。一度でも負けたらそこで終わりです。その為、新メンバーも入ってきたことですし、試合慣れをしてもらおうと思います。土日とゴールデンウィークを利用して、いくつか練習試合を組みました。予選が始まるまでは、スタメン以外のレギュラーはほぼ白紙だと思ってください。今からスタメンだけ先に発表します。まずは今吉君」
「あい」
「若松君」
「シャーッス!」
「菊池君」
「オイッス!」
「光谷君」
「はい」
「そして青峰君」
青峰の名前が呼ばれるが勿論返事はない。代わりに部員たちがざわめく。実力があるのはわかっている。しかし、練習のほとんどをサボっている青峰がスタメンにまで選ばれるのは感情的に納得がかないようだ。
「とりあえず暫定ですが、次の練習試合はこれでいきます。スタメンに呼ばれた人たちはコートを使って2ON3を行ってください。それ以外の人たちはこれから指示する練習を行ってください」
「今日おらん、青峰のところはどないします?」
原澤監督が部員達に指示を出し、それぞれが散らばって行こうとするなかで、キャプテンとしての質問か今吉が監督に質問する。
「そうですね……。青峰君の代わりに諏佐君が入って練習するように。青峰君が居ない時はこれで練習してください」
「ほんならそれでいきますわ。おーい、諏佐はこっちの練習に参加しとくれ」
その後、克樹は青峰の代わりに呼ばれた諏佐とペアを組み、原澤監督の指示通り2ON3の練習を行っていく。
日が暮れてからも練習は続き、8時を過ぎた頃ようやく練習が終わった。練習が終わり、早々に部員達は帰宅し、部室には最後まで練習を行っていた今吉と若松の二人だけが残っていた。
「今吉さん!」
「どうしたんや? それと声大きいで。もう夜遅うから静かにな」
「今吉さんは良いんすか!?」
「何がや?」
「青峰のことっすよ! 練習も来て無い奴がスタメン入りするのはどーなんすか!?」
「……若松。ちなみに光谷はええんか?」
「光谷は練習にも参加してるし、実力もあんのわかってますから良いと思うんすけど。実際今日の2ON3も負けましたし」
「そやな、んで若松。今日2ON3やってどれだけ光谷から点取れた?」
「実質光谷から点は取れてないっすよ」
「そか、ワシも似たようなもんや。諏佐の方を攻めて点取ったのが実情やな。逆に光谷が攻めて来た時にバンバン抜かれてもうたしな」
「それは俺もそうっすけど」
「……言うとくけど、今日の光谷はヤル気ほとんど無かったで」
「はぁっ!?」
「っというか、いつもやな。ヤル気あんのは青峰と1ON1しとる時ぐらいか? まぁ練習出てくれるだけマシっちゃマシやけど。んでバンバン抜かれとったワシらやけど、……光谷はどっちかっていうと守備的なオールラウンダーや。……ヤル気のない光谷でさえ、あんだけ抜かれるんやで。攻撃的な青峰が本気になったとき、どれだけかわかるか?」
「……っ」
「それが答えや」
「今吉さんはそれで納得してんすか?」
「納得も何もないわ。ウチのチームが実力主義なんはわかっとったことや。若松もそれを了解してこの部活に入ったんやろ? ……もう遅いし、はよ帰るで」
「……ウィッス」
練習試合当日
これまでに桐皇学園は練習試合をいくつもこなし、克樹と同学年の桜井はレギュラーを勝ち取とるまでに至っていた。桃井もマネージャーとしてデーター収集の敏腕さを示し、原澤監督と部員達から認められていた。そして、これまで青峰は全ての練習試合をサボるという相変わらずな自由さを見せていた。流石に原澤監督も指示を桃井に行い、今日行う練習試合には桃井に連れて来られていた。
本日、桐皇学園は鳴成高校と練習試合を行う為に、鳴成側へと乗り込んでいた。鳴成は古豪と知られているが近年再び力を取り戻してきている高校だ。それに対して桐皇学園は新鋭に近い。桐皇学園も最近はスカウトに力を入れ、全国から有望な選手をかき集めているが、あくまで新鋭と呼ばれる部類である。
東京都には王者と呼ばれる高校が三校ある。ここ10年の間、東京都の代表となる3校は常に、この三大王者に占められていた。王者同士はほぼ互角であり、4位以下を突き放す形を取ってきた東京都不動の王者たちである。東京都の決勝リーグ出場の四校の内、三校は毎回その三大王者に占められ、残りの一枠を争うという形だ。
東の王者、秀徳高校。オフェンスリバウンドが特に強い、インサイドを主力としたチームで、前年度全国大会をベスト8という好成績を残している。
北の王者、正邦高校。古武術を取り込んだ特殊なバスケスタイルでディフェンス力のあるチームである。
西の王者、泉真館高校。突出した選手が居ない代わりに弱点もない、オールラウンドなチームであり隙が無いチームである。
この三大王者を崩さない限り、全国大会へは出場は出来ない。桐皇学園と鳴成高校のどちらも今年は全国を狙えるだけの力を備え、三大王者には情報を渡したくない。そういう利害が一致していた為、成り立った練習試合であった。
都内有数の力を持つ同士の練習試合。原澤監督がこの練習試合だけでも、強制的に青峰に参加させるのはこの為であった。
「しかしまぁ……、桃さんの情報収集能力はすごいな」
そう、克樹も生まれ変わる前は情報収集を得意として、それを元に分析を行ってを相手を封殺していくプレイスタイルを取っていた。しかし、桃井が集める情報とさらに、そこらから分析された情報。かつては情報を取り扱った者だからわかる凄さがそこにあった。
「カッキーもかなりこういうのは得意だよね。おかげで分析が楽になったよ」
「そうでもしないと、戦いにならないような相手とずっと戦ってきたからね」
克樹と桃井は前の練習試合の時に互いに持ち寄った情報収集、分析の話でかなり盛り上がっていた。おかげで気づいたら愛称で呼ぶ程度には仲が良くなっていた。
そんな、二人を見て、青峰が溜息をつく。
「こんな雑魚どもの情報を見て、何が楽しいんだか」
「ええっ!? で、でも、このデータすごいですよ青峰サン!」
「あ゛?」
「スイマセン! スイマセン! 口答えなんてしてスイマセン!」
「青峰ー。そんなに桜井くん苛めるなよ」
「あぁ? 苛めてねえよ克樹。勝手にこいつが謝ってるだけだろ?」
「ああ、そろそろいいですか?」
一年で集まって駄弁っていると、原澤監督が声を掛けてきた。
「さて、今日のスタメンは青峰君がいるので、前に言った通りにします。青峰君もいいね?」
「こんな雑魚相手出る価値ねえよ」
「ダメです。出なさい」
「はいはい、わかりましたよーっと」
ヤル気が無さそうな青峰に、原澤監督のスタメン出場命令が下る。試合に出たくても出れない選手が居る一方であまりにも不遜な態度だ。しかし、それを言える実力が青峰にはある。
「鳴成は今年はかなり調子が良いそうです。こちらのフルメンバーにどこまで出来るのか見せて貰いましょう。……叩き潰してきなさい」
そう言って選手に発破をかける原澤監督。それぞれが返事をしてコートに進む選手。
「青峰と一緒に試合をするのは初めてだな」
「ああ……。どう考えてもこいつら相手に過剰戦力だろ。俺は適当にやるぞ」
相手の選手を目の前に相変わらずの傲岸不遜ぶりだ。この会話が聞こえたのであろう鳴成選手の表情が歪む。
審判がジャンプボールの為にボールを投げ、試合開始となる。
そして始まる蹂躙劇。
第1クォーター、第2クォーターが終了し、試合の半分が終わった形となった。これから10分間の休憩だ。
スコアは84対12、圧倒的な差である。この時点で、鳴成側の心は折れていた。オールコートプレスをしているわけではない。しかし、ほとんどが鳴成側のコートでボールが行き交っていた。
青峰も克樹も互いに平面で強さを発揮するプレイヤーだった為に起きた現象である。この二人をドリブルで抜ける選手は全国で数えられることが出来ればいい方だろう。つまり、鳴成側はバスケであるにも関わらずほとんどドリブルという行為が出来なかったのだ。ならば鳴成としてはパスを繋げていくしかない。しかし、桃井が集めた情報によりパスの大半がカットされてしまう上に、パスが甘い時点で青峰、克樹の両名にスティールされてしまう。一度奪われてしまえば、二人の個人技でペネトレイトされてしまう。
前半はほとんど、この形で終わった。第2クォーターなどは鳴成の入れたゴールは僅か2ゴールだ。
「おい、コイツ変えろ」
休憩中に青峰が突然発言する。親指でコイツと差されたのはSGの菊池だ。青峰のいきなりな発言に休憩中だった菊池が激昂する。
「てめっ!! いきなり、ふざけんな!」
「3Pを外し過ぎだ。ありえねえ」
「なっ!? 練習にも出ねえようなテメェが言う事かよ!!」
「練習なんざ関係ねえよ。結果出せねえ奴はいらねえんだよ」
「テッッメッ!!?」
「ほとんどが俺と克樹の点数じゃねえか。しかも克樹はお優しいことに、わざわざドライブインした後にフリーのテメエにパスして、それを外してんのはテメエだろ」
青峰に前半の展開の現実を突き出され、押し黙る菊池。不遜な物言いに周りの部員達も青峰に掴みかかる勢いであったが、その言葉の前に沈黙する。
「ふむ、桃井さん。今日の菊池君の3P成功率はどれくらいですか?」
「えっと、10本中3本……。つまり三分の一以下です」
「確かに、少し低いですね。半分は欲しいですし……。菊池君と桜井君、交代で後半は行きましょう」
「「監督!!?」」
「コイツの言う事なんか聞くんですか!!?」
「はいはい、一回落ち着きけや。青峰の言うてることも事実やろ。実際、結果を出してるんは青峰と光谷の二人やないか。別に、この一回で公式戦のメンバーが決まるでもないし、とりあえず後半はこれで行く、でええやろ?」
今吉の言葉に憤ってた部員達も押し黙る。パンパンと手を叩きながら後半の準備をしてください、という原澤監督の指示で部員達が再び動きだす。
「よかったね、桜井くん。チャンス回ってきたじゃないか」
「ボクなんかが出ることになってスイマセン!」
「外すたびに、なんか奢れよ」
「ええぇ!?」
「脅すな脅すな」
後半が始まると、試合はさらに一方的なものとなった。鳴成側の心は折られており、先ほどまで桐皇側が唯一不振だった外からの攻撃も、青峰の脅しもあってか桜井が奮闘した為である。
最終的に203対21となり、桐皇学園の圧勝という前代未聞の結果に終わった。
「桃井さん、先日の試合の一年生3人のデータを見せて貰ってもいいですか?」
「はい、これですね」
「ありがとうございます。ふぅむ、桜井君は13本中10本ですか。クイックリリースも良かったですし、次の試合に使ってみてもいいですね。流石は青峰君……、96点ですか。ヤル気が無い状態でこれですか。ヤル気があればどれだけ点を取るのやら。光谷君は、と。……これはまた」
「どうかしたんですか?」
「光谷君のスティール数ですよ。こんな数字は初めて見ますね」
「……すごい。平面でのディフェンスに関しては青峰君を上回りますね」
「ええ……、ブロックの数も少ないわけでは無いですし。これは本当に狙えるかもしれませんね」
ゴールデンウィーク中の練習試合も終わり、全国大会予選の季節がやってくる。
さて試合だ!!
でも試合の状況なんて表現できるのか!? ならば書かなければいいじゃない!!
ってことで試合シーンはスキップ。下手に書くならこうした方が良い気がするのは私だけ??
いえ、モブ校だからこんだけ飛ばしたんですよ。ちゃんとした所は試合シーンも書くよ! きっと!!
バスケ一口メモ
ペネトレイト:DFの間をドリブルで出し抜き、相手ゴールに突き進むこと。
オールコートプレス:コート全面を使って、相手に積極的にプレッシャーを与えるディフェンスのこと。自チームがシュート決めた直後に用いる事が多い。
スティール:相手からボールを奪い、自分のボールにすること。