【習作】黒子のバスケ、神速のインパルスを持つ男。   作:真昼

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大変遅くなりました。


第3Q

 ゴールデンウィークが明けて、ついに全国大会への切符を手にする為の地区予選大会が始まろうとしていた。

 桐皇学園が所在している東京では、まず大きく4つのブロックに分かれる事となる。それぞれA,B,C,Dと別れたブロックの優勝チームが今度は総当たり制の決勝リーグに進む事となる。そして、決勝リーグでの上位三チームがインターハイの出場権を獲得する事が出来る。

 桐皇学園は新設の学園であり、今までは三大王者に阻まれ決勝リーグに進む事も出来なかった。しかし、今年はキセキの世代のエース青峰、キセキの世代に迫る実力を誇る光谷が入ったことにより、十二分にインターハイ出場を狙えるチームに仕上がっていた。

 

「お、ワシらんとこはBブロックか。三大王者いないんはラッキーってとこやな」

 

 今吉キャプテンがコピーした予選トーナメント表を見て呟く。克樹や桜井も桃井からトーナメント表を渡され、それぞれ確認する。そして、毎度の如く青峰はサボりである。トーナメント表では桐皇学園はBブロック。そして、決勝リーグを今まで独占してきた三大王者の名前は見当たらない。

 

「三大王者(笑)じゃないですか? キセキの世代が今年から参入しますからね。王者なんて居ても居なくても関係ないですよ。キャプテン」

「そやな、光谷の言うとおりかもせえへんなぁ。やけども、キセキの世代どころか王者も居ないんやったら青峰が試合にも来なさそうやなぁ」

「ああ、それは確かにありえそうですね……。もしかしたら王者でさえ、舐めてかかって来ないかもしれないですけど」

「ありえるんが怖いとこやなぁ」

「まぁ、どちらにせよ。キセキの世代や無冠の五将の居るチームなんかと当たらない限り大丈夫でしょう」

「やな。王者も強いんやろうけど、あれらと比べたら見劣りすやろなぁ」

「いえ、三大王者の一校、秀徳高校には一人、キセキの世代が入りました」

 

 今吉キャプテンと克樹の会話に桃井が参加する。そして、重大な爆弾発言を落とす。練習に来ないものの、克樹と共に桐皇のダブルエースと認識されている青峰。それと同じレベルであるキセキの世代と呼ばれるメンバーの一人が三大王者の一角、秀徳高校に入った。

 

「ん~、やっぱラッキーやったんちゃう?」

「そうかもしれませんね。自力のあるチームに起爆剤が入ったようなものですから。えっと秀徳はAブロックか……。うわッ!? 正邦もAブロックじゃん」

「ホンマや。これは荒れるかもしれへんな」

 

 桃井の発言を受けて、他のブロックに目を通し始める克樹。そして、Aブロックのトーナメント表を見て思わず声をあげる。トーナメント表には三大王者の内、二校の名前書かれていた。それを見て、今吉キャプテンも目を光らせる。

 

「どっちが勝つんやと思う?」

「間違いなく秀徳でしょう」

「イレギュラーが起きなければまず間違いなく、秀徳高校が上がってくると思います。あと、Aブロックなんですけど……もう一校気になる所があるんです。もしかしたら台風の目になるかもしれません」

 

 Aブロックでの争いは王者同士の戦いになり、その上で覇者は秀徳高校と予想していた克樹と今吉キャプテン。その王者の争いにもう一校参加するかもしれない、と桃井が言う。

 

「桃井がそこまで言うんなら、そこそこ強いんやろな。どこや?」

「誠凛高校っていうんですけど」

「誠凛なぁ……。確か去年の大会で、決勝リーグにはおったけど、それかて三大王者にボロボロされとったイメージしかせえへんのやけど」

「はい、それであっていると思います。ただそこに、テツく……帝光の元メンバーが一人入りました。カッキーは知ってるかもしれないんだけど、帝光のシックスマンだった選手」

「んー……? シックスマン? なんだっけ? あっ! もしかして、桃さん。練習試合のあの影が薄い子?」

「知っとるんか?」

「知ってるというか……知らないというか。帝光と練習試合をしてた時にちろちろ見た子だと思うんですけど……」

「うん、その選手であってると思うよ。全中決勝には出てなかったから、カッキーは詳しくは知らないと思うし」

「秀徳には劣るやろうけど、もしかしたらってことやな。そならAブロックの方は桃井に任せよか」

「そうですね。こっちは予選通過に集中しましょう」

「わかりました。とりあえず青峰君に試合にはちゃんと出るように言い聞かせます」

「頼むわ。桃井の一番の仕事はそれかもしれへんな」

「頑張って桃さん」

「はい……」

 

 

 

 

 対戦相手に大型新人外国人がいるわけでもなく、桐皇学園は大した波乱も無く順調にトーナメントを勝ち上がって行った。

 今回の大会では、Aブロックに三大王者の二校が固まるなど、有力校が偏ってしまった為に、ゴールデンウィーク前に練習試合を行った鳴成の居るCブロック、三大王者の一角、泉真館高校が居るDブロックは波乱もなく予想通りの結末を迎えて、決勝リーグに駒を進めていた。

 

 そして、今から桐皇学園の予選トーナメント準決勝、決勝の戦いが始まろうとしていた。準決勝と決勝は一日で二連続行われるため、体力の消耗が激しくベンチメンバーを含めたチームの総合力が問われる戦いとなる。また、トーナメントの準優勝の学校までが冬のウィンターカップ予選の出場権が得られることになる為、準決勝も気が引けない戦いとなる。

 

 桐皇学園の準決勝の相手は希学園。弱くはないが三大王者には届かない強さ。もちろんキセキの世代の居るチームでは尚の事。今日は桃井が青峰を引っ張ってきたおかげで青峰も遅刻をせずに試合に出る。

 

「何でこんな雑魚ども相手に出なきゃいけないんだよ……」

「まぁまぁ、落ち着けよ青峰。むしろ、最近試合に出てないんだから、久々だろ?」

「そうですよ、青峰サン。青峰サンと試合一緒に出るの初めてですよボクは」

「……良、テメェ。……いつスタメン入ったんだ?」

「ぇぇえ゛!?」

「んー、この大会の中盤当たりからかなぁ。いや、あの時のウザさはすごかったよ」

「? コイツがウザいのはいつものことだろ」

「ほんっとウザくてスイマセン!?」

「いやこれ以上にウザくなるからすごい」

「マジかよ」

「マジだよ。後、この準決勝は見るもの無くてツマラナイだろうけど。次に上がってくるだろう霧崎第一は無冠の五将が居るから少しは楽しめるんじゃないか?」

「居ても意味ねぇよ」

「そうか?」

「ああ」

 

 そうして青峰、そして光谷の独壇場のような試合が始まる。

 桐皇学園の圧倒的な強さに観客席は静まり返る。そんな中でこの試合を厳しい目つきで見つめる者が居た。決勝で当たるだろう霧崎第一の花宮真だ。

 

 彼は無冠の五将と呼ばれるプレイヤーの一人である。中学時代、キセキの世代には届かないものの、十分に天才プレーヤーと呼べる資質をもった選手。そして、キセキの世代や光谷克樹が居た為に全中の優勝どころか決勝戦まで来れなかった傑物たち。それが無冠の五将と呼ばれる者達であった。

 

 本来なら花宮は隣のコートで試合を行っている筈だった。しかし、他のメンバーに試合を任せて、前半だけでも桐皇学園の試合を見に来たのだ。彼からすればキセキの世代が居る桐皇学園に対して、希学園の戦意は前半で消失する為、見るべき所は前半だけである。また、霧崎第一の試合も自分が居なくても負けはしない。危なかったとしても、後半から花宮さえ出れば、試合は逆転する。わざわざ全力を尽くしてまで体力を消費する必要が無く、桐皇学園側の手札も見れる。勝つ為なら手段を選ばない。その為、彼はここに居る。花宮真、『悪童』という肩書きを持った無冠の五将の一人はそういう男であった。

 

 

「今日は反射鏡の光谷だけじゃなく、キセキの世代の青峰も試合に出るのか。光谷だけなら潰せば終わりだったんだけどなぁ。ふはっ……まぁソッチを潰せばエサとしては十分か」

 

 花宮が呟く。そして目の前で始まりの笛が鳴る。

 試合は予想以上に桐皇学園のペースで進んでいく。

 花宮と克樹のプレイスタイルは似通っている部分がある。それはスティールの多さである。相手のパスをカットし、相手に点を取らせない。そして自身はカットしたボールを繋ぎ点数を取っていく。しかし、中身は全然別物である。克樹は視野の広さとその超絶的な反応速度でパスをカットするが、花宮にそんなものはない。しかし、スティール率だけで言えば花宮に軍配が上がる。それだけの成果を出す武器を花宮は隠し持っている。

 

 花宮が見ている先で、克樹が相手のパスをカットした。すぐさま相手のゴールへペネトレイトする。その姿を見て、花宮は速いと呟く。上から見ればある程度誰にパスを出すのかがわかる。花宮から見ればそれは簡単に『予測』出来ることで丸わかりだった。しかし、確実に克樹は『見て』から反応した。人間の反応速度の限界、神速のインパルスだった。そして、神速のインパルスはパスカットだけ恩恵を与えるものではなかった。パスがダメなら克樹をドリブルで抜こうとするが抜けない。相手は物理的に克樹の手が届かないようなパスをしていくしかなかった。

 

 再び桐皇学園側のボールとなった。しかし、今度の克樹はペネトレイトするわけでもなく、適当にボールをパスする。その先に居たのはキセキの世代のエース青峰だった。花宮も中学時代にキセキの世代を擁する帝光中と対戦したことはあった。その時はチーム全員、つまり五人共青峰に抜かれるという事態に晒された。そして、その光景が再び目の前で起ころうとしていた。

 

 やる気無さそうに希学園側へドリブルしていく青峰。バスケットボールに限らず、スポーツはある程度は腰を落とすものが多い。それは膝を上手く使うためである。膝の屈伸を使う事で人間はより速く、よりダイナミックに動く事が出来るのだ。しかし、今の青峰は違う。普段歩く時のような姿勢だ。完全に膝は伸びきっている。そんな体勢でゆっくりとドリブルして近づいていく青峰。それはバスケットボールの試合中としてはあまりにも異質な光景だった。体育館から一時的に音が消えたように花宮が錯覚してしまう程にだ。試合のコートではただ、ダムッダムッと青峰がボールを叩きつける音が聞こえる。

 

 そんな中でやっと、青峰にプレスを与えに希学園の選手が近寄っていく。しかし、その瞬間、青峰は一気に速度を上げる。先ほどまで膝を完全に伸ばしていた筈なのにだ。それは変則的なチェンジオブペースとして機能する。上から見ていた花宮でさえ一瞬、見失いかける程の速度の差異。プレスを与えに行った選手からすれば青峰が消えたように見えただろう。それほどに青峰は速かった。

 

 そして、そのままゴールへと突き進む青峰。次々に希学園の選手もプレスを与えに向かっていくが、チェンジオブディレクションとチェンジオブペース、そしてクロスオーバーによって 抜かれていく。希学園の方もシュートレンジに差し掛かり二人掛かりでブロックをしかけてくるが、それさえ躱し最後はただ放り投げたようなシュートでゴールを決める。

 

 そこまでの一連の流れがまるで映画のコマ送りのように映り、ボールがゴールに入った所で時間が戻ってくる、そんな感覚に花宮は見舞われた。気づかない内に浮きかけた腰を落とす。普通に戦えば、十中八九勝てない。そう思わせるプレイであった。

 

 このプレイを眼前で見せられた希学園側は集中力が一気にかけた事が観客席に居てもわかる。

 

 気づかず内に花宮の手は青白くなるまで強く握られていた。今まで桐皇学園の攻撃を見て、勝てないと認めてしまった自分に苛立っていた。それを認めてなるものかと。

 

「くそがっ……。次の決勝戦で、ぶち壊してやるよ」

 

 第一クォーターが終わった時点で見る所は見たとばかりに花宮は観客席から去る。怨念めいた呪詛を吐きながら。

 

 

 これまでのプレイによって流れは完全に桐皇学園に向いていた。第一クォーターを過ぎた時点で差が愕然と広がっており、希学園選手達の戦意は消失していた。結果、準決勝にも関わらず、これまでの予選と同じようなスコアに終わる。

 

 準決勝が終わり、それだけで今日は終わらない。二連続の試合の内、まだ片方が消化しただけなのだ。

 そして、ついに長きに渡った予選トーナメント決勝戦が始まろうとしていた。これに勝てば全国への道はかなり広がる事となる。

 

 試合前のアップを終え、ベンチに集まり最後のミーティングを行う。その最中も青峰は一人自由に行動していたが。

 

「霧崎第一のメンバーには無冠の五将の一人に数えられる花宮真が居る。十分に注意してください。特にこのチームはラフプレーが多いです。そこも十分注意してくださいね。実力通りやれば貴方達が圧勝します。それでは行きなさい」

 

 ミーティングの最後に原澤監督の激が飛び、光谷、青峰、桜井、今吉、若松、五人のスタンディングメンバーがコートに入る。

 

 『それでは、これからインターハイ地区予選、予選トーナメントBブロック決勝戦。桐皇学園高校 対 霧崎第一高校の試合を始めます』

 

 体育館にアナウンスが響く。

 

 




バスケ一口メモ

チェンジ オブ ペース:ドリブルの最中にスピードに変化を持たせ、そのスピードの緩急によって相手を抜くテクニック。バスケの基本であり、ある意味奥義にもなる。原作では青峰が得意とする。

チェンジ オブ ディレクション:ドリブルの最中に方向に変化を持たせ、その左右の動きによって相手を抜くテクニック。上と同じく基本的な動き。原作では注意書きはされてないが、基本的に皆使っている。

クロスオーバー:チェンジオブディレクションの一種。オフェンスプレーヤーが左右の動きでディフェンダーを揺さぶり、ボールを素早く左右に切り替えるドリブルでディフェンダーを振り切るテクニック。ボディーバランスと俊敏さが求められる技術。これも態々表記されていないが、ちょこちょこ原作では使われている。と思ったら第六巻P58で青峰が使用して伊月が叫んでました心の中で。


色々書いてて気になったんですけど、WC予選時に不思議な点が。
インターハイ予選での順位は
一位:桐皇学園 二位:泉真館高校 三位:鳴成 四位:誠凛
ここまでは決勝リーグ行ったってことでわかります。んで一位の桐皇学園が特別枠でWC出場ということで繰り上がったところまではわかります。その為、WC予選時にはこういう当たり方をしています(原作10巻P19、68、69参照)

1:泉真館 VS 8:希
2:鳴成  VS 7:霧崎第一
3:誠凛  VS 6:丞成
4:秀徳  VS 5:杉並西 ←ここはどっちが四位か五位かわからない。

うん。繰り上がったのはわかります。それで、予選トーナメント決勝まで行ったのが5~8位に入ると……、順位の付け方はわかりませんが。気になるのは希さん。
8位ってことは繰り上がってきたんですよね。この学校はどうやって決めたのかがすんごい不思議なんですが。もし、準決勝まで行ったチームを総当たりさせるんなら間違いなく、正邦高校が来ると思うんですよね。仮にも王者ですし。

ってことで、繰り上がったのは準決勝で桐皇に当たったからという設定をつける為に希には散ってもらいました。じゃなかったらキャラがわかる丞成にしようと思ってました。

あと、希が希高校ではなく、希学園にしたのは。小学生の時に通っていた塾がその名前だったからです。深い意味は無い。

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