激震! 中世ヨーロッパ警察24時!!!【完結】 作:PureFighter00
で、バフォメット。ヤギ頭四足獣の下半身でコウモリじみた羽を持ち、巨根巨立させて胸にはオパーイ……どっかで見たことないか?
「ノーバディエクスペクツ、スパニッシュインクェッション!」
ででーんのSEと共に真っ赤な装束に身を包んだ異端審問官がエントリー。詳しくはモンティパイソンを見よう!
「邪教徒め、根絶やしにしてくれる!」
で、その邪教徒なんであるが。崇拝しているのは皆が予想する禍々しいバフォメットではなく、何というか……ギリシャ神話好きなら知ってるかな? パン(下半身獣でヤギ角持ちの半獣半人)とかサテュロスに似てまして、確かに股間のアレは巨大なんだが……
「キリスト教フィルタを外せキック!」
主役は高いところから逆光背負ってやって来る。父と子と聖霊と真実を守る中世ヨーロッパ警察だ!
「おのれ中警め! 神の裁きを受けるが良いっ!」
「数もまともに数えられないお笑い三人組に負けるか! ってか、この邪教っぽい人らは単なる遊牧民じゃね?」
「違う! 何処からか現れた魔女だ!」
「山の方に放牧してた人らが下の方に降りてきただけだんべ。それにその神像、君らの大先輩もギリシャ・ローマ時代に見てるパンやんけ」
パンは子孫繁栄の御守りとか信仰対象になってて巨根なんである。流石にチンコ丸出しはヤバいので、今は赤唐辛子っぽいツノ状のアクセサリーが土産物屋で売られている。
一説によれば、パンはインドの神格であるプーシャン(पूषन, Pūṣan)を起源に持つと言う。つまり言葉と共にカスピ海の東側から北上して伝わっためちゃくちゃ古い神様だ。
カスピ海東側北上したのはイラン辺りに語族の違う大勢力が存在したからだろう。この辺の話は語族分布を見たら分かる。
「そもそもさぁ、キリスト教が産まれたのはエルサレムだろ? それは異端審問官するぐらいだから知ってるわな?」
「バカにしてんのか!」
「旧約聖書とかヘブライ語、Ok?」
「何が言いたい!」
「ヨーロッパが印欧語族で発祥はインド。で、キリスト教ってかアブラハムの一神教ってアフロ・アジア語族とか、セム語族やんけ」
「だからどうした!」
「セム語族の基礎素養なんかまるでない印欧語族の土地に無理矢理新しい教えを広めていく過程なんだから、そらまぁ元々の宗教残ってんの当たり前じゃん。それをさも僕らは昔から居ました顔して威張ってていーと思う?」
「ぐっ!」
「ユダヤ教から派生した新興宗教だった癖に。それに君らスペイン宗教裁判の人だよね?」
おほん「そうだが?」
「君らが邪教判定したの表向きキリスト教に改宗したムスリムだし、後多額の借金してたユダヤ教徒やんけ」
説明しよう!
シャルルマーニュ大帝の時代、スペインのあるイベリア半島はイスラム国家に占領されてました。で、この後ウマイヤ朝に攻められてたムスリム勢力が帰順を条件にフランク王国の軍事介入を要請した。
「そう! これこそがローランの歌に歌われた……」
「ローランとかの殿軍襲ったのバスク人やん」
「え?」
「ロンスヴォーの戦いだろ? ムスリムと戦ったのその前で、がっつり身代金やら和解金やらせしめてて、それ奪われたのがロンスヴォーの戦い。俺中世ヨーロッパ警察だから中世詳しい。スペイン異端審問官嘘ばっか」
まぁ、結局シャルルマーニュ大帝もスペインからイスラム教徒駆逐に失敗してんですわ。金踏んだくったので負け戦では無いのだが。あとピレネー山脈で襲いかかってきた山岳民族バスク人こえー(話が盛り上がらないのでイスラムと戦った事に改変された)
「しっ……しかし我々はきちんと教皇から許しを得て……」
「ギリシャがイスラム支配下になって、イタリア半島ヤバいって状況を利用して、軍事的協力をチラつかせて無理矢理認めさせ、ムッチャクチャな理由で隠れイスラム教徒だけじゃなくユダヤ教徒まで惨殺したよね?」
借金チャラにしたろと考えてたからな!
「許可は……」
「代替り後の教皇にまで非難されとるやないかい」
意外に思われるだろうが、魔女裁判は多くの場合キリスト教本体より世俗勢力や民衆によって行われている。これは元々キリスト教のヨーロッパでの伝道が「周囲360度蛮族山盛り、強制したら寧ろ狩られる」状況から始まったのも理由の一つ。大体キリスト教は異端に優しい。異端であっても(キリスト教の)神に向き直り(これを回心と言う)、「ゴメンやで」したら「いいんやで」と迎え入れる。罪は罪だが、それは別にしてワイは
キリスト教世俗勢力が無茶な事が出来る様な……つまりキリスト教が欧米社会で支配的になるまで「異端審問みたいな事はできない」し、その頃異端なんてのは田舎も田舎、ど田舎行かないと存在しないのである。
実際スペイン宗教裁判やったの15世紀末。また、魔女だと告発されても別に魔女は隠れイスラムみたいに社会動乱やらないし、ユダヤ人みたいに財産持って無いから「心の病やね(ニッコリ)」で釈放されてたりする。
【心の病】
フロイト以前だから現在の精神分析とは違うのだろうが、「魔女として告発されたが、単に心の病でした」と言う事例結構あったみたいなんだ。
スペイン宗教裁判は反社会勢力だった隠れムスリム根絶と、ユダヤ人駆逐が目的だから……自白したら見せしめに処刑すんだよな……
【ユダヤ人】
ユダヤ人とキリスト教徒の大きな違いの一つが「不労所得を許すか」と言う部分である。ベニスの商人のシャイロックの様に、金貸して利息を取るのはキリスト教では推奨されておらず、つまりキリスト教が大流行した後に金融業やってたのは大半ユダヤ人。世界はユダヤに支配されてるだのなんだののムー的な奴は、実のところキリスト教が金融方面タブー視してたのが、その、ネ!
大体ですよ、15世紀初頭のフランスのど田舎ドンレミ生まれのジャンヌちゃんがキリスト教教義に詳しいんだから、この頃にはもうキリスト教化殆ど完了しているのだ。そのジャンヌちゃんがイギリス側の無茶苦茶なやり方で火刑食らったのが1431年、異端審問が無効でジャンヌちゃん無罪と異端審問無効化されたのが1456年。これだけ見ても「割と当時の宗教裁判は世俗権力絡まなければまとも」と言えなくもない。
「すると……バフォメットは……」
「ギリシャより古い時代からある神格が千数百年も後の魔女裁判の時まで現存すると思うか? ギリシャローマ時代にまだ新興宗教だったキリシタンが放牧中の連中の神事見て、なんかおどろおどろしい見方しただけよ」
「でも邪婬な……」
「牧畜してんだから多産願うの当たり前」
「だってちんこ禍々しいほどにデカいんスよ!」
「ギリシャあるある」
日本でもあるよね。また、一般的には悪魔的な存在が多産の神扱いされるパターンもある。織田信長さんのペンネームとして有名な第六天魔王、波旬である。
たまたま筆者の近くにも第六天信仰の痕跡があるが、欲自在天とも言われる波旬は淫猥を扱うからこそ子孫繁栄に功徳があると見做されて信仰対象になる事もある。ノッブの場合は武田信玄が「ワイは天台宗の偉い人やで」とマウントとって来たので「天台宗がナンボのモンじゃい! こっちは第六天魔王じゃ!」とイキリ返した、まぁそんな感じ。
「大体君ら、自分とこの神様意外はみんな邪教で悪魔扱いするやんけ。そもそもの存在として豊穣神とか地母神は性的におおらかであるのに、それが嫌だからDisるのいかんと思うよ?」
「うるさいうるさい! 邪教は邪教じゃい!」
「お、そんな事言っちゃう? そんな事ゆーてると一発かましちゃうゾ」
「なっ……何を……」
「農業国家フランスで根強い地母神信仰あったから、妥協したよねぇ?」
「……」
「ノートルダム大聖堂、ノートルダム(Notre-Dame)は我らが貴婦人……聖母マリア崇敬ですなぁ……」
「いやまて、ちゃんと理由があるんだ短絡は良くない」
「そうそう、止められないマリア好きをロジカルに処理する為に解釈論で随分頑張ってたよね……日本の憲法解釈かな?」
とまぁ、異端が周辺に少なくなって来た頃にようやく始まったのが異端審問で、無茶苦茶やってたのはキリスト教が権威を持ち、支配的になった地方からなんである。ヨーロッパがキリスト教に染まって行く過渡期を中世とするならば、中世ヨーロッパには実際異端が居たんだから軍事行動が必要になる訳で。異端審問みたいな悠長な事をしている暇はなく、異端審問をバカスカやる頃には異端なんてキリスト教支配域には殆ど残っていない。異端審問官がバフォメットを信仰する集団を摘発なんて話は殆どない……
フィリップ4世「全く、スペインの奴らとんでもない奴やな!」
次回引きと言う奴だ(真顔)
フランス、イギリス、スペイン……みんな外道!
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