激震! 中世ヨーロッパ警察24時!!!【完結】   作:PureFighter00

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Lion-Heart killed John Lackland
Lion-Heart killed John Lackland
Debts come and broke John's Heart
──Oh-a-a-a-oh──


欠地王ジョンの悲劇

それは今やなろう界隈では良くあるハナシ。彼は異世界転生してある王家の末弟として生を受けた。本当に良くある話である。末娘も含めたらごまんといる(白眼)

 

「今回クッソ長いから中世ヨーロッパ警察ネタはお休みです」

え? 最終話なのに?!

 

ただ、彼がそこらのなろうの主人公と違うのは、父王がプランタジネット朝初代国王ヘンリー2世で、兄貴がなんか強烈な猪突猛進戦争大好きっ子である獅子心王リチャードであった事だ。

彼の曾祖父はエルサレム王であったし、彼の母親は……残念ながら恋愛脳のオタであった。

彼の母であるアリエノール・ダキテーヌに関しては一項を割く必要があるだろう。フランスの裕福な貴族であり、当時のフランス全土の1/3を所有していた。このアキテーヌ公領は南仏にあり、南仏文化の中心地だったのだ。彼女の父は十字軍遠征後に何故か宮廷愛やら騎士物語を語るトレバドールをやるなどした。オタの英才教育というか、何というか……

15歳でフランス王妃となり、第二回十字軍遠征に参加してコンスタンチノープルの優雅さに眼をキラキラさせて、旦那のルイ7世と共にエルサレムに復活祭まで滞在した。尚、南仏のオタねぇさんであったアリエノールさんは大した軍功もなく、正直に申せば物見遊山の邪魔ものであった。ルイ7世は信仰に篤く真面目に十字軍してたのに。

で、折り合いが悪くなりルイ7世と離婚して、次に嫁いだのがイングランド国王ヘンリー2世だ。新設王朝の王であるヘンリー2世はアリエノールの元に集まる吟遊詩人らが語るアーサー王の物語を王朝の権威付けに利用し、恋愛脳だったアリエノールはアーサー王物語に恋愛要素を盛り込んで行くのであったー……

 

 

【恋愛要素】

アーサー王物語に出て来る王妃ギネヴィアはアーサー王の妃である。然し乍らアーサー王配下の中で完璧超人しているランスロットと恋に落ち、王と最強騎士の両方からの愛によろめく王妃は……などと、どう見てもランスロットとギネヴィアの道ならぬロマンスは、南仏気質の恋愛脳の好みが反映されてる様な気がします(要出典)

 

 

こんな環境下で育ち母アリエノールの薫陶を受けたリチャードは、立派なアーサー王オタとなり西洋騎士道の鑑と呼ばれるほど無茶苦茶な生き物となった。父祖が参加して、実母まで参加したという十字軍に参加したリチャードは正に獅子奮迅の活躍をして母を喜ばせたり、心配させたりなどした。10年の在位中、イングランドに滞在したのは僅か6ヶ月。国王とは一体何なのか。

 

 

で、漸くジョンの話に戻る。

幼い頃、アリエノールがリチャード(アーサー王オタ)を溺愛し、ジョンは父王ヘンリー2世に愛された。実は彼の二つ名であるラックランド(所領無し)は父王ヘンリー2世が名付けたものであるという(可哀想に……というニュアンスなのであろう、その当時は!)

そもそもジョンが所領を持てなかったのはフランス国王との政治的な関係から「ジョンがまだ2歳だった頃」にヘンリー2世の子らに所領相続させた為であり、余りに幼いジョンには所領配分出来なかったのである。この一件からも透けて見える様に、大国であり歴史が長いフランス側はイングランド側に対して優勢であり、然し乍らアリエノールはフランスのアキテーヌ公領を所有するフランス貴族だ。この辺に橋田壽賀子めいた身内や関係者によるドロドロとした愛憎劇と人の情が絡んだネットリ物語が隠れている。

また、アーサー王オタ母子の騎士道熱愛により十字軍に燃えに燃えたリチャードは国の資産を片っ端から売り払うわ増税するわでやりたい放題。しかしこれは政策的にアーサー王物語を是認して広めたヘンリー2世とアリエノールの奸計により国民からの支持を受ける(ある意味ではマスコミを利用した大衆煽動の様なモノである)

で、ルイ7世の子であるフィリップ2世だが。王領が余り多くない彼にとって、アキテーヌ公領は魅力的な土地であるし、離婚してイングランドに嫁いだ親父の元嫁がフランス国内に自領を持つのは嬉しい状態では無い。封建制なので名目上君主であるフランス王フィリップ2世はアキテーヌ公に対して戦争時に参戦を求める事が出来るが、その軍を率いるのは南仏オタ女さんで恋愛脳のアリエノール(先王の先妻)だ。戦果を期待する方が阿保であろう。だからイングランド王家の継承権持ちで勇猛果敢なリチャードを支持して血族に組み込もうと画策した。無理矢理婚約させるなどもした。しかし恋愛脳の薫陶を受けたリチャードは(フランスよりも)小国の姫とくっついた。婚約は解消された。更に一緒に参加した第3回十字軍でもリチャード周りには塩対応された。そらまぁムカつく。

そこでフィリップ2世はリチャードには見切りを付けてジョンをあれこれしようとしたが、大体計画は失敗した。担ぐ相手がジョンという時点で何故察しなかったのか。

 

しかし、そんなジョンにも転機が来る。誰にも明日は来るんじゃいとは誰の言葉であったか。長い冬もいつかはあけて暖かな春の日が来るのである。但し、冬が終わり春が訪れるその頃には春一番が吹き荒れるのだが。

兄と和解して仲良くなり、そして国民から愛された十字軍の英雄である兄がうっかり死んだ。ジョンが王になる日が来たのだ!

 

が。

国庫はすっからかん(十字軍遠征費用とリチャードの身代金で消えた)、所領や臣従者もリチャードが売り飛ばしてフランス王家との関係は悪化中(大体リチャードとアリエノールのせい)、有るのは借金ばかりで国民人気も無い。臣下からの人望に関しては語るまでもない!(ついでに言うとキリスト教会からも好かれていない)

 

無理ゲー

 

そう、良くも悪くも獅子心王リチャードが余りに眩く輝いてしまったが為に、ジョンは余計に無能に見えてしまうのだ! 言わば中世暗黒時代なんて呼称もこのパターンであり、直前の帝政ローマが異常なまでに高輝度だったから「暗黒に見えるだけ」 私が見るにジョン欠地王も普通によくあるレベルで失策犯している程度で、神武以来(このかた)クラスの無能とか、1000年に一度クラスの愚鈍ではない。

たまたま、偶々先代がリチャード1世で大人気君主だったのと、その大人気君主が借金こさえまくったのが悪いのである。じゃあどうするんだよこの借金! 踏み倒せとでも言うのか!(逆ギレ)

 

惚れてしまえばあばたも笑窪、坊主憎けりゃ袈裟まで憎い……人は先入観に囚われやすい。それは中世ヨーロッパでも同じだ。確かにジョンは誓いや約束を良く反故にしようとしたり、税金を新設して財源にしようとした。現代日本でもやる事だ、ジョンをバカにするなら現代日本の霞ヶ関の官僚も同様にバカにされるべきであろう。

 

しかし、時代は封建制なのである。国という保護装置が機能するから臣従するのであり、保護装置が機能せずに自治防衛が必要になるなら国な権威は失墜する。この様な理由でジョンの治世に国の権威は失墜した。これにより従来王の下にいた貴族の地位や権利が増し、資産を持つ庶民の力も強くなって行った。

 

その結果産まれたのがマグナ・カルタであり、国や国王の権利や強制力を制限するという考え方だ。世界に先駆けて生まれた「憲法」は獅子心王と欠地王の継投が失敗した為に【出来てしまった】のである。

 

言ってしまえば、基本「領地の中では」支配者階級が好き勝手するのは当然の権利だった。通行税取るのも、狩猟権や漁業権設定するのも自由。変わった所では初夜権と言う「新たに結婚する女性が処女か確認する権利」なんてのまであった!

 

 

【初夜権】

まぁ、権利というより義務に近いという説もある。処女の破瓜(はか)の血が受胎時に悪影響を及ぼすだのという俗習があり、領主が処女を抱いて先に処女膜破っておく方が良い……という話なんだが、キリスト教的には相容れない俗習だし、割礼の一形態、なのかなぁ?

大体だよ、新婚女性がみんな美人とは限らんからなぁ……

 

【割礼】

チンコの皮を切除したり、女性の陰核切除したり。中東原産の一神に見られる宗教儀式の一つだが、キリスト教は中東ではなくギリシャ・ローマで伝承された為か、割礼という儀式そのものが無くなった。古代ギリシャは自然のままの姿が至高で、男性などは包茎の方が良いとまで言われていたからだ。この為、ルネサンスでギリシャ・ローマ万歳思考に染まった時代に作られたミケランジェロの「ダビデ像」は、ユダヤ教徒のダビデなのに割礼されていないという時代考証的に難がある作りになっている。

 

 

イングランドではこの後「貴族議会による国の運営」という立憲君主制に舵を取り、後々議会制民主主義が芽生える基礎になった。それ以前も何かを決める際に有力貴族を入れての会議が行われる事はあったが、システムとして規定されたというのは大変大きい。何故か……ジョンが役に立たなかったからである。

 

確かにジョンは大陸側にあったイングランド領を戦争で殆ど失った。キリスト教会から破門されて、その解除の為に一回国を全て教皇に譲渡せざるを得ない状況になったり、マグナ・カルタを撤回させようとして反乱起こされたりもした。異世界転生して王族の末子になる予定があるならジョンの事を良く学んでおくと良い。大体なろうで王族末子に産まれた奴らが出会う困難などジョンに比べればぬるま湯である。数百年後になっても「アレは無いわー」と不人気さでは一二を争うイングランド王だぞ。

 

これとは逆に、ジョンに勝ちまくって王領を増やしたフィリップ2世の名声は高まった。人呼んで尊厳王(オーギュスト)欠地王(ラックランド)とはど偉い違いである。なんせ残された肖像画すらレベルが違う。Wikipediaで2者の肖像画を見比べてみよう!

 

 

【フランス側イングランド領】

話が複雑になるのだが、イングランド王家はフランス国内に所領を持ち、その所領安堵の為にフランス王に臣従している。この為現在のフランス国内にはケルト系言語であるブルトン語を話す地域があり、ブルトン・レイと呼ばれる騎士や妖精が出て来る物語はブルトンの響きからブリテン島の物語かと思わせつつ……実はブルトン語話者が居るフランス国内に伝わる物語である。

 

 

イングランド側としては、フランス側にあったイングランド領は「元々我々の土地」である。何故ならそこはイングランドの王妃の所領だったからだ。フランス側として見たら、そこはフランス王がアテキーヌ公として封じた場所であり、そこはフランス王国の領土でアリエノールがイングランドに嫁いだ段階で接収すべきであった(まぁ、ルイ7世の時にはそんな余裕は無かったのだが!)

更に申せばキリスト教的には離婚は許されていない。神の前で結婚を誓うのだから、それを反故にするのは神に対しての誓いを破棄すると言うこと。なぁに神様裏切ってんだチキショーめ!

 

……この様な双方の思惑により、ドーバー海峡を挟んで対峙した2国の仲は険悪になってゆき、後の100年戦争に繋がって行くのである。ジョンの何が悪かったのだろう? ジョンが悪いとしたらそれは「その時その場にいた」というだけではなかったか? 拗れる要因はどちらかと言えばアリエノールとリチャード1世段階で揃っていなかったか?

 

現代思想の潮流としては、自由主義や平等主義などの源流はフランス革命にあると見做されている。ベルサイユのばらで有名な時期である。しかし、私が見るに「中世ヨーロッパの終わりの始まり」はマグナ・カルタにこそあると思われる。恋愛脳エアリノールとその子である兄弟こそがヨーロッパにおける中世を終わらせ始めたのではないか……

 

これより先、イングランドはウェールズやスコットランド、アイルランド制圧と共にフランス側への領土戦争を繰り広げ、議会政治を進めて行く。フランスはフランスで中央集権体制へと国の運営方法をシフトさせて行く。いずれも封建制とは少しづつ違った政治体制ではある。

また、百年戦争という本当に100年近く続いた戦争の中で、次第に騎士の有用性は減少して行き、射撃武器による火力の集中が重要になって行く。

華やかな騎士が戦場を駆け巡る騎士の時代は終わるのだ。

 

彼らの踵にあった黄金拍車はもう回らない。




ラストの用語解説
【黄金拍車】
ほんっとーに近年の漫画やアニメの「騎士の鎧」で見かける事が稀になったが……騎乗して戦う騎士の鎧には、馬の腹を蹴って乗り手の意思を伝える為の「拍車」という部品が着いている。馬は多少の刺激には動じないからギザギザ付きのこの拍車で腹を蹴って意思疎通をするのだ。
よく見ると宇宙の騎士テッカマン(初代アニメ版)にすら「宇宙の騎士だから拍車付けとくべ」と意匠が残って居るのだが、テッカマンブレードではこの意匠が消えている(まぁ、ベガスに拍車で意図を知らせる必要無いしね) 初代アニメ版テッカマンの製作陣は騎士っぽいデザインを探る為に西洋甲冑資料をよく見たのであろう。また或いは、製作陣が戦後流行ったアメリカの西部劇見て拍車を見知っていた可能性もある。
ベルセルクのグリフィスの甲冑にも拍車着いてるが、ガッツの「狂戦士の鎧」には拍車が付いていない。ありゃ馬上戦闘を想定していないからだ。

日本では乗馬の際に拍車を使わなかったからどうしても失念してしまうのだと思うのだけど、多分もうそこまで意識を払って作画する人も居なくなるだろう。資料調べずラノベ書きはラノベ見て絵や話書くからな。
例えば、エルフ(馬と何故か話せる)とかガンダルフ(マイアだから馬と話すぐらい楽勝)が拍車を付けないなんてのは良いこだわりだ。全くそういう考察がなく、思い込みや手ぐせで拍車を忘れるのは怠慢だ。しかし今のUGC小説界隈では批判や批評は原則禁止。怠慢はどんどん伝染して行く。

リチャード獅子心王の話書きたいんやけど

  • 誰それ?
  • あの面白いおっさんか! 書け!
  • 欠地王も忘れずに書け
  • あ、フランスDisる気だなてめー
  • 修道騎士会の事書いてからな!
  • むしろサラディン
  • 胡椒の話を飛ばすな
  • 飯の話は?
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