激震! 中世ヨーロッパ警察24時!!!【完結】 作:PureFighter00
古代から中世初期までは、吟遊詩人が酒場や宮廷やそこらで英雄詩や恋愛の話を弾き語りしてみんなに伝えてました。まぁ、歴史も神話もそんな感じです。そもそも本とかありませんし。あっても文字が無いし文字読めないし。YouTuberみたいなのがそこら歩いてて、酒場や祭りの際にネタ披露してる姿を想像したら大体当たりだ。
ここにギリシャ・ローマの時代から「聖書」という物を書写して伝えて来たキリスト教──の中でもガチ勢である修道士会という連中がエントリーして来る。
で、今日はこの修道士会による「書写」の話なのだが、時代が時代なので些か現代では信じられない様な事が常識になっている。
書写というのは元本見て、文字を同じ様に書き写す行為である。現代日本人に分かりやすく説明すると写経みたいなものだ。だから書き写しミスや誤字、或いは文字が下手くそ過ぎて読めない……というのもあるにはあるが、近代著作権法が成立する以前は「他人の著作物を、修正した方が良いと思ったら修正しても良い」とされていた。現代的な著作権法で保護される「同一性保持権」が無いのである。
実際、キリスト教の新約聖書を見てみよう。手持ちに無ければ日本国際ギデオン協会をググると良い。このキリスト教系団体はひたすら聖書を配るという組織であり、筆者は大宮で予備校生してた時にギデオンの新約聖書1冊貰った。
でだよ、新約聖書読めば分かるのだが……最初の方にある4つの福音書(マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネ)はキリストの生涯を伝えた話なんだけど、あらすじ殆ど同じで内容が少しづつ違うのである。
そもそもだ、昔の聖書は一冊の分厚い本ではなく、マタイの福音書ならマタイの福音書だけで一冊になっていたのだ。というか、今一般的に知られている「新約聖書」はやたら沢山ある「聖書」の中で、キリスト教徒自身が「これは聖書」「これは聖書じゃない」と選別して「聖書として認められてる奴」をまとめたアンソロジーなのである。
現代日本に生きる我々としては、何で似た様な話が4冊分も有るのか。どれか正しくてどれか間違ってんじゃねーのと思わないでもないが……昔は修正や脚色がある程度許されてたからね、仕方ないね。
実際キリスト教クラスタは多数の派閥を擁しており、聖書と見做されない書をベースにしたクラスタもある。有名な所だとグノーシス派とか。
【グノーシス主義】
キリスト教成立した1世紀頃地中海辺りで流行ってた神秘思想。教義が硬く定まる前のキリスト教と混ざり、キリスト教の中では異端視されるキリスト教グノーシス派なるものを爆誕させた。
まぁ、当時の常識に従い聖書外典(現存する聖書というアンソロジーに収録されなかった物語)や偽典(流石にこれは無しやろという扱い受けている物語)を多数生み出して毎回揉めてる。その様はガノタが「映像化されたら正史」とか「宇宙世紀以外は認めない」とか「オカルトはいかんでしょ、ユニコーンは正史じゃねーし」「オカルトはZからやろ」と揉めてるのに似てる。
この様な経緯から、キリスト教修道士会は「極端に違わなければ良いが、改変が加えまくられた書籍はNG」という所に落ち着いた。先に挙げた新約聖書冒頭の福音書が複数人により編纂されたとか、内容に細かな齟齬があるのはこの為である。
そして話は漸く中世ヨーロッパでの書写に移る。
そもそも文字を使って物語や学説を保存するという文化に乏しいゲルマンやノルマンやスラブの方々は、口伝で情報を伝達した。また、書写する時でさえ「修正や改変が許されてた」当時の常識により彼らの口伝は時々により改変が適宜追加される。
アーサー王伝説なども、ごく僅かな史書に依れば……イギリスに居たらしいローマの軍事指揮官がでっかい戦いで敵と相打ちしたぐらいの記録しかないのだが、マーリンの助けを借りてウーサー・ペンドラゴンが敵の妻を腹ましただの、剣を引き抜きアーサーが王になっただの
のである。
しかもアーサー王物語の「初期」には魔法が沢山出てくる。当時の常識では超自然の存在が魔法を行使するのは常識であり、イギリス・フランスでは湖の精霊が魔剣くれたり偉人を育てたりすると信じられていた。これが時間が100年単位で経過して「キリスト教の布教が進む」と、神様以外の超常の力は悪魔の仕業なので「魔法を使う奴は異端」という新しい常識が生まれて物語の中から魔法が消えて行く。アーサー王はエクスカリバーの鞘に「持っていれば持ち主が血を流す事はない」魔法がかかっているし、シャルルマーニュのパラディンであるオルランド(ローラン)は魔法の角笛持っているが、キリスト教の影響が強くなる段階ではガラハードがロンギヌスの槍やマグダラのマリアの盾、遂には聖杯手にして
各地に散らばるアーサー王伝説を集めてまとめたトマス・マロリーは苦悩したであろう。各人が勝手に話を盛るもんだから整合性が取れていないっ! 情報網が敷かれたIT(インフォメーションテクノロジー)全盛の今とは異なり、情報伝達が吟遊詩人頼りだった当時は良かったのだが、修道士会が持ち込んだ書写での「余り変化しない物語」成立は物語の伝承に多大な影響を与えた。
で、更に。
元々話は盛って良いと「2次創作に寛容なハーメルン」みたいな感じの当時の創作界隈に於いて、キリスト教という教えは雨後のタケノコみたいにニョキニョキ生えてくる「聖書」を妥当性とか辻褄合わせしながら「体系的な矛盾の無い話」に作り替えてきた。この辻褄合わせの屁理屈が所謂「神学」という奴で、この神学知識がないまま聖書を読むとカトリックという一大勢力がこねくり回した理屈が破綻してしまう。後にグーテンベルクが活版印刷発明して聖書を庶民が読める様に配布しまくった結果としてカトリック教会批判が始まり、プロテスタントが生まれる訳である。
また更に、神学とかキリスト教の知識体系は中心部に真理(神)が存在して、真理から現象を解釈する。今日一般的な「科学」が現状から真理を探って行くのと真逆なのである。よって、他稿でも触れた四体液論とか四大元素説に基く食事療法(熱・寒・乾・湿の4パラメータでロジックを組む)など、現象から原理を導くのではなく、まず真理を構築してから現象を読み解くという神学的アプローチをするものだから、現代から見たらトンチキ極まる学説がやたら広まってしまうのだ。
或いはこう言えるかもしれない。
古代はハーメルンみたいに2次創作全盛期。クロスオーバーばっちこい!(実際、アーサー王伝説に出て来るトリスタンは別のトリスタンが出て来る物語からクロスオーバーで参加してたりする。ランスロットも多分そう)
中世ヨーロッパは互いに無矛盾な物語を構築し始めた時代で、近世というのは無矛盾を追求して「現象から原理を探求する」科学が育って行く時代。
良くナーロッパでは体系的に編纂されて、プログラム的に呪文を組み替えるなんて描写が出て来るが、むしろ地域毎にファイアボールの呪文が違って効果もバラバラで、更に呪文の中に意味がない一説が含まれてたり、危ねぇからって意図的にデバフ掛かってる呪文をデバフ部分唱え間違えて大惨事とか、ファイアボールの呪文の正式を決めるために魔術師ギルドが真っ二つに割れて大論争みたいな感じの方が中世ヨーロッパ的ではないかしら?
中世ヨーロッパでは常識が違うのである。
この常識の違いを加味せずに「現代人の常識で」なんかファンタジーをファジーにやるから変な事になるし、時にはアホが極まり過ぎて魔法GPSがレーダーの様に作用するとか現代の常識すら知らない阿呆な物語を書いてしまう。(GPSはレーダーじゃねぇよ……)
「……というわけだが……他人に説明求めといて惰眠を貪るとはどーゆーことだパンチ!」
「ホゲェェエ! 長いよ、3000文字超えてるやん!」
「どーせ転生前もありがたーい教師の授業で惰眠を貪り、俺ラノベ書いて生きてくからラノベ沢山読むんだとかトンチキな真似してたんだろがっ!」
「ラノベを読むことでしか摂取出来ない養分があるんですよ」
「わー、たーのしーで字面を目で追うだけの読み方して身につくもんなんて無いわタワケ! それで身につくなら教科書だって読むだけでテスト満点取れるわっ!」
「うっ……痛いところを……」
「そんな残念なキミに特別に良い文章修行方を教えよう。これはマジで利くので心に刻め──文章が上手い人の著作を書写しろっ!」
「そんなんで文章上手くなるの?」
「実際書写すると手ぐせで言葉を自分がよく使うフレーズとかにしがちなんだ。自分の手ぐせを抑えて文豪の言葉の選び方を学ぶと文章構成力が上がる。語彙も増える」
「じゃあ僕は四葉……」
「あ、そいつ文章下手だぞ。下手な奴真似して下手な文字書きになりたいのか?」
「え? ◯クヨ◯大賞作ですよ?」
「あそこは選者まで日本語語学力が残念だからな(天を仰ぐ) 所沢サクラチルタウンの愉快なフレンズを過信するな。出来たら岩波、少なくともマトモに校閲入れるとこの本を読め」
テニヲハレベルで破綻してる文字列刷って売る本屋があるとは思わなかった(真顔)
ただまぁ、創作に於いては「話の中で無矛盾」なら別にいーんじゃないかなぁ、と。史実の中世ヨーロッパを忠実に描き出しても面白くなかったら仕方ないし、私も変な事を「中世ヨーロッパでは〜」と言わなければ気にもしないし。
ただ、覚えておいて欲しいのは……本来ファンタジーとかで広範に共通概念として構築された「ナーロッパ」的なものは、異世界創造が割とめんどくさいから指輪物語などの先行事例を取りまとめて成立しており、既に中世ヨーロッパとはかなり乖離している。(ってーか、指輪物語やホビットやゲド戦記なんかはクソめんどくさい異世界構築をガチでやってるので、解説本含めて全部読んでおくとかなり地力がつくと思う。ただしハマり過ぎるとリチャード・ギャリオットやグレッグ・スタフォードみたいに「独自言語の創造」という、トールキン先生(言語学教授)でもないのに無茶する羽目になるから気をつけよう)
また更に最近はモノカキなのにモノを知らないという大変残念な人々が横行している。若い人は世界史で中世ヨーロッパ部分だけは必死こいて学んで欲しいものである。
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