ペルソナ4 落ち武者の神   作:三尺

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死せる魂(2012/3/20)

『ね、君って暇でしょ』

 

 ある春の雨の日、悠はマリーと共に商店街を歩いていた。ベルベットルームの青い扉の前で、傘も差さずに佇んでいた少女に声をかけられ、町を案内しているのだ。惣菜大学でコロッケを食べ、四六商店でカエルの置物を買う。そして高台に上った。

 

『ち、違うよ! 今の詩とかじゃないから! た、たまたま心に浮かんだだけ! そう! それだけだから!』

 

 そこで詩と言うか歌と言うか、とにかく心に浮かんで溢れ出る言葉を聞いた。初めて聞いたはずなのに、とても懐かしいもののように。待ち望んでいた春が来て、梅に誘われて柳が萌え出る様を詠った和歌が、悠の心に浮かぶ。

 

(良かった……死んだなんて、やっぱり夢だったんだ)

 

 しかしそう思った途端、雨に煙る穏やかな景色は唐突に姿を変えた。春の日々がいくらか過ぎて暖かさが増し、辰姫神社に場所を移す。他人のいない寂れた世界で、たった二人だけの孤独に浸る。

 

『だから……思い出したい。何を忘れてるのか、私は誰なのか……知りたい』

 

『俺も知りたいな』

 

(え……あれ?)

 

 怯えたマリーに寄り添うように、悠の口は勝手に動いた。過ちの始まりを、してはならないと知っているのに、『契約』の言葉が勝手に出てきてしまった。その報酬は笑顔だ。

 

『じゃあ……私も手伝う。君が誰なのか、探してあげる』

 

 悠は逃れられない宿命のように、マリーと約束したのだ。するとまた場面が変わった。今度はジュネスだ。陽介も出てきた。

 

『……なあ鳴上、紹介してくんねえかな』

 

『妹だ』

 

 マリーは妹。だが『いもうと』ではない。それは菜々子だ。敢えて言うなら──

 

『アタシは人魚姫。もう帰れない人魚姫』

 

(じゃあ俺は……)

 

『キミは殺人者です。静かな微笑みで、落ち着いた声で。深い色の瞳で、はにかんだ指先で。アタシを殺したのです』

 

 悠は人殺し。人殺しは足立。即ち悠は足立。それは酷い真実だ。夏に告げられた真実は、どんな嘘よりも嘘のようだった。それは一体、どういう意味なのか?

 

『こっけいな演技はもうやめなさい。そしたらアタシも踊ってあげる!』

 

 またジュネスに戻る。ステージ上でりせが歌っていて、悠が伴奏している。

 

(演技……)

 

 演技と言えば演劇部だ。役者と言えば結実である。彼女は夏の神社でマリーと出会っていたはずだ。彼女が言うには、演劇とは現実以上の現実であるらしい。それもまた、どういう意味なのだろうか?

 

(演技じゃない、本物の気持ち……)

 

『リスト。嫌いなものの』

 

 夏が過ぎて、秋が来た。天城屋旅館で悠は聖別の証に触れて、マリーの好きなものを聞いた。そして悠が好きな人はマリーだった。演技ではない本物の気持ち。それは現実以上の現実。

 

『彼女の名を知っている?』

 

 マリーの名はマリーである。泡へと還る人魚姫や、翼をもがれた堕天使ではない。それはきっと、真実以上の真実。

 

『もう記憶なんか思い出さなくていい』

 

『ぺてんし……』

 

 秋が深まり、冬の足音が聞こえ始めた頃、悠はマリーとの『契約』を破棄した。その結果、どうなったのか?

 

『どうなっても知らないからね……』

 

 呪われた冬の日に、恋した少女はいなくなったのだ。全ての責任は悠にあり、全ての罪は落ち武者のものだ。神の名はクスミノオオカミで、死体は腐って蝶になる。

 

陰陽斯開(めをここにひらけて)二霊(ふたはしらのかみ)為群品之祖(もろもろのもののおやとなれり)……』

 

 

(またあの夢か……)

 

 堂島宅の自室で、悠は悪夢から目覚めた。マリーが生きていた頃と死んだ時の夢だ。死に損なったバレンタインの次の日から、繰り返し見るようになった。同じ夢を何度も見るとは、テレビドラマや小説であればよくある話だ。だがそれは創作だけの現象ではないのだと、十七歳の少年は毎晩のように思い知らされていた。

 

 永劫の絆を結んだ春の雨の日に始まり、『契約』をした日へと続く。何者かと互いに問いを発して、詩句が答えになる。そして恋をして、約束を破る。最後はマリーの死と、便箋に書かれた漢文をクマが朗読して夢は終わる。毎回同じである。

 

「……」

 

 布団から起き上がって、段ボールの山をよけながら窓まで歩いてカーテンを開けた。3月20日の朝は晴れていた。

 

(ようやく今日で終わりか。長かったな……)

 

 八十稲羽で過ごすのは今日が最後だ。明日の朝9時、悠は電車に乗って都会に帰る。長い長い日々だった。田舎で過ごした一年全体よりも、最後の一ヶ月間が取り分け長かった。

 

 虚ろの森で落ちるところまで落ちて、諸岡の墓前で一年間の総括を報告したのが、一ヶ月と少し前だ。しかし体感的には、あれから今日までが極めて長い時間だったような気がしていた。高校生にとって、退屈な授業を受けている最中は時間の流れが遅く感じるものだが、悠にとってバレンタイン以降の日々はまさにそれだった。一日千秋という言葉が相応しい。それでいて、まさに聞いていない授業のようなもので、何があったかはほとんど覚えていない。

 

 事実としては、2月の後半から3月までは特別捜査隊の皆と色々遊んで過ごした。菜々子も連れてピクニックに出かけたり、家に皆を招いて鍋パーティーをしたりした。ホワイトデーでは甘き死、もとい無臭のチョコレートの礼として菜々子に手作りのクッキーを作ってやり、仲間の女性陣にも配った。そして三日前には皆で高台に出かけて、青空の下で記念撮影した。

 

 そのはずなのだが、悠は覚えていない。遠い過去の出来事ではないのに、皆と何を話したか、自分は何をしたか思い出せないのだ。撮った写真の現物がなければ、高台に行ったこと自体さえ覚えていなかったかもしれない。

 

 陽介が焼き増ししてくれたその写真は、写真立てに入れてタンスの上に置いてある。構図は前列に女四人、後列に男三人だ。悠も含めて皆が笑顔である。

 

「悠、起きてるか?」

 

 堂島がやって来た。家主の叔父が部屋に来るのは珍しい。

 

「すっかり片付いたな」

 

「うん」

 

 引っ越しの荷造りは昨晩のうちに終えている。着替えや教材などは、いくつかの段ボールに全て詰め込んだ。陽介から貰った絆創膏や、堂島から貰ったコーヒーカップなども一緒だ。今日と明日の着替えは、ボストンバッグに入れてある。

 

「ん? 忘れ物があるじゃないか」

 

 さすがは刑事と言うか、目敏いものである。七人で撮った記念写真を指さした。

 

「あれ……ここに置いていこうと思う」

 

「そうか。それはいいが……お前最近、元気ないな」

 

「……」

 

 悠は虚ろの森での出来事を堂島に報告していない。人生最悪の惨劇を人に話す気にはなれなかったし、話したところでどうしようもないから。結果的に、シャドウワーカーは昨年の事件の真相を知らないままである。

 

「いい仲間があんなにできたんだ。別れるのは辛いだろうが……」

 

 知らないから、堂島は近頃の悠に覇気がない理由を誤解している。甥は仲間たちと別れるのが辛いどころか、むしろ早く別れたいと思っていることに気付いていない。

 

「いつでも帰ってこい。この部屋、今のままにしておくからな。夏休みになったら一ヶ月くらいいてもいいぞ」

 

 法王の絆が完了した堂島は優しい。鉄拳を振るう厳しい叔父であったのに、今となってはコミュニティの不条理を体現する一人として、優しい父親に化けてしまっている。不出来な息子はそれこそが辛い。

 

「ありがとう、叔父さん……」

 

 そんな辛さを隠して、『愚者』は礼の言葉を口にした。表に出てこない口の裏側では謝る。

 

(でも、ごめん。俺、もうここには来ないよ……)

 

 明日の朝にこの家を出れば、二度と戻ってくることはない。最後の一ヶ月は記憶に残らなかったが、それ以前の出来事も近いうちにきっと忘れるだろう。事件があったことも、優しすぎる家族と仲間が大勢いたことも忘れてしまう。そして自分も彼らに忘れられる。そう願っているのだ。

 

「今日は最後の日だろ。菜々子のことはいい。友達みんなに会って、やり残したことや言い残したことを済ませてこい」

 

 そうして堂島は部屋を出た。

 

(やり残したこと……か)

 

 そんなものはない。だがああ言われてしまった以上、今日は家に閉じこもっているわけにはいかなくなってしまった。朝から最低でも昼まで、できれば夕方まで何をすべきか、面倒極まりないが考え始めた。すっかり片付いた部屋を何とはなしに見回すと、仲間の写真が目に入った。

 

「……」

 

 悠がこれを置いておく理由は、笑顔の写真を持っていたくないからだ。陽介の絆創膏を始めとする、絆の証明も本当は置いておきたい。だがあまり大量に物を残しておいては、後でまとめて送りつけられかねない。別れの証として残しておく唯一の物として、悠は特捜隊七人の集合写真を選んだのだ。

 

 写真に写っているのは七人である。そこにマリーがいないのは、言うまでもないが──

 

(クマがいないな……)

 

 皆の中で最も明るく、最も眩しい笑顔を持っていた、謎の人外の姿も写っていない。いないことが、行方不明なままの仲間の一人の存在を、かえって際立たせる気がした。

 

「……」

 

 しかしだからと言って、クマの為に何かをするわけでもない。何もせず、誰とも会わず、何も考えないままに最後の一日を終えるだろうと、悠は自分自身を予測した。過酷な一年を過ごした少年は、始まる前より無気力になっていた。

 

 

 八十稲羽に再びの春が巡ってきた。今年は桜の開花が早く、風が吹くと花びらも舞った。初めの季節が戻ってきた町を、悠は一人で歩いた。学校は既に春休みになっているので、装いは制服ではない。昨年から休日によく着ていた、紺色のジャケット姿だ。手には何も持っていない。言うまでもないことだが、刀もない。

 

 一年前に来た頃とほとんど変わらない、稲羽市中央通りシャッター街にやって来た。恩師の思い出を連想させるバス停を脇目に、ガソリンスタンドを素通りし、タロットの解説書を買った四目内堂書店の前を通る。そうして青い扉の前まで来る。

 

「……」

 

 バレンタインの日以降、悠は何度かここに来ていた。だがベルベットルームには入らない。会いたい人はリムジンに乗っていないと分かっているから。分かっていながら扉の前までは来る。先月から頻繁に見る夢のように、全ての悪夢はただの夢で、ここに来ればマリーがいるのではないかと期待する気持ちがあった。他人の目には見えない装飾扉の前に、愛しい少女は何気なく立っているのではと。

 

 だがもちろん淡い期待は現実にならない。来るたびに裏切られる。

 

(いるわけないんだ……)

 

 半ば日課と化している非情な現実の確認。最後のそれを終えると、悠は踵を返そうとした。しかし──

 

『ようこそ』

 

 思いがけず声をかけられて、悠は振り返った。今のは現実の声ではない。夢と現実、精神と物質の境目にある扉の向こう側から、空気を揺らさない『声』として届けられてきた。堂島から話にだけ聞いた、現実の霧に現れるシャドウの声のように。ただし声の主は、もちろん恋した少女のものではない。リムジンの乗務員と言うか持ち主と言うか、そういう怪人の声だ。

 

「……」

 

 悠は躊躇した。ようこそと言われても、声の主に用はないのだ。しかし──

 

『お入りなさい』

 

(しょうがないか……)

 

 重ねて誘われて、悠は扉に手をかけた。人は無気力になると流されやすくなる。異界への扉を開いて、自分にしか見えない光に包まれた。

 

 

「お久しぶりでございますな」

 

 光が収まると、悠は青い高級車に身を置いている自分を発見した。声をかけてきたリムジンの主、イゴールは正面の席に座っている。向かって左側の席は空だ。見習いはいない。そして右側の席も空だった。

 

「マーガレットはただ今、席を外しております」

 

 分かっていたことだが、ベルベットルームに想い人はいない。なぜか小姑もいない。

 

「そう言えば私一人でお相手するのは、今までございませんでしたな。初めてお会いした時のことなど、覚えてらっしゃいますかな?」

 

「もう忘れましたよ」

 

 イゴールと初めて会ったのは一年前だ。だが正確に何日のことだったのかは、咄嗟に記憶から出てこない。何を話したのかも、もう覚えていない。ちなみにこの部屋に『姉妹』の片方がいない時は過去にあったが、もう片方はいた。鼻の長い怪人と一対一になるのは、一年間の付き合いの中でこれが初めてだ。しかし悠はそれも覚えていない。

 

「左様ですか。それも結構。過去に拘泥なさらぬのも、一つの生き方……」

 

 客人はすっかり愛想が悪くなっている。対する主人は、客人との間に置かれたラウンドテーブルに手をかざした。異様に筋張った悪魔めいた手と、青いクロスの間に光が灯る。その中からカードの束が出てきた。手品であれば一流の技である。

 

「占いは信用されますかな?」

 

(ん……?)

 

「ふふ、答えたくありませんか」

 

 イゴールの含み笑いを見て、連想的に思い出した。この怪人に占ってもらったことは、過去にもあった。結果は『今年、運命は節目にあり、貴方の選択によっては貴方の未来は閉ざされてしまうやもしれない』だ。そしてそれは大当たりだった。

 

 まさしくこの一年は節目だった。そして未来は閉ざされた。マリーの命と共に。

 

 悠は足立に敗れ、特捜隊はシャドウワーカーに敗れたから未来が閉ざされたのではない。マリーを救えていれば、殺人事件を解決できなかったことさえ、青春におけるアクセントの一つとして受け入れられただろう。最後の一ヶ月はとにかく楽しんで皆と思い出をたくさん作って、確かな満足のうちに都会に帰った。そして季節が巡って夏が来る頃にでも、再訪したはずだった。だがそれも全て、今となっては虚しい夢に過ぎない。虚構は現実に化けはしない。

 

「では参ります」

 

 そんな客の苦い思いに構うことなく、占い師は頼まれてもいない仕事を始めた。手を触れられないまま、カードの群れはクロスの上で整列する。二十二枚のカード全てが、同じ仮面が描かれた裏面を向けている。イゴールはそのうちの三枚を骨と皮だけの指で指し示し、表の寓意画を露にする。

 

「おや……これは興味深い。前と同じカードが出ましたぞ。いかがですかな? これをどう解釈なさいますか?」

 

 悠はラウンドテーブルに目を落とした。だが聞かれたことには答えなかった。

 

「……それは占い師が教えてくれるものでしょう」

 

 タロットカードの各々の意味くらいなら、悠も知っている。だからイゴールの問いに答えることはできる。しかしそれを頭から取り出すのも、口を動かして答えるのも億劫だった。

 

「ほっほっほ……私が申せるのは、カードそのものの意味しかございませんぞ。それをどう受け取るかは、貴方次第なのです」

 

 面倒くさがった悠に対して、イゴールは正論でもって答えてきた。

 

「この部屋で全く無意味なことは起こりません。マーガレットがここにいないのも、あの子なりに自らの運命と向き合った結果でございましょう。マリーがいないのも、同じことでございましょう」

 

「……」

 

 悠は目を伏せた。珍しく真っ当な占い師らしいことを言ったと思ったら、その途端にこれだ。未来が閉ざされる結果に終わったこの一年間の間に、失敗はいくつもしでかしている。その中でも最大の、そして最後の息の根を止める一撃となった人の名を、イゴールはあっさりと口にする。これで気分が良くなるはずがない。

 

 そして悪魔のような老人は占いの解説を始めた。初めて会った時のように、韜晦を多分に交えながら。

 

「では、今の占いの意味を申し上げましょう。カードは前と同じですが、位置は少しばかり異なっております。塔は前と異なり逆位置です。築き上げたものを一度壊し、新たなものが始まる……そういう意味です。月は前と同じく正位置。謎は未だ解かれていない……」

 

 謎──

 

「そして愚者は正位置……前と異なります」

 

 人生を暗示するタロットの始まりに位置する、愚者のカード。その意味は正位置では自由、可能性、天才だ。7月に自分で占いをした時も出たが、あの時は逆位置だった。

 

「鳴上様、貴方は何も持たない、ただの放浪者としてこの地を訪れなさった。そして多くの人々と向き合い、多くの花々を育て上げたのです。しかし今の貴方は花に飽き、生に倦んでおられる……」

 

 放浪者として八十稲羽を訪れ、落ち武者として去ろうとしている少年は奥歯を噛んだ。イゴールの言う通りである。悠は多くの人々と向き合い、多くのコミュニティを築いた。だが極めた絆の数々は、今となっては疎ましいだけだ。

 

「今さら……どうしろって言うんですか」

 

 全てを失った自分に何の可能性があると言うのか。何の自由が残されているのか、想像もつかない。未だ解かれていない謎とは何であるのかも分からない。見えるものは絶望だけだ。

 

「さて、それは私からは申し上げられませんな。ただ、運命とは決まっているようでいて、決まっていないもの。一つの行動、一つの認識、一つの言葉……。たったそれだけで、閉ざされていた未来への扉が再び開かれる……。そういうこともあるのです」

 

 これは慰めか励ましか、それともただの気休めか。はたまた安っぽい教訓か何かであるのか。何だかよく分からない言葉を貰った『愚者』の少年は、居た堪れなくなったように席を立った。

 

「……帰ります」

 

 しかし引き留められた。

 

「お待ちを。お忘れ物でございます」

 

 イゴールが指を鳴らすと中空に小さな光が灯った。白い光の中からフルリムの眼鏡が零れて、悠の手の上に落ちた。レンズはスクウェア型でフレームの色は黒だ。

 

「これは……?」

 

 4月にクマから貰った、霧を見通す眼鏡と同じ型と同じ色である。だがあれは引っ越しの段ボールに入れてある。ではこれはイゴールの手による眼鏡だろうか。この鼻の長い老人なら、これくらい容易く作れそうだが──

 

「いいえ。それは私がこしらえたものではございません。今は行方知れずのお仲間の手による、貴方の眼鏡です」

 

「なぜ……」

 

 なぜ家に置いてあるものをイゴールが持っているのか、ではない。小道具の一つや二つ、空間を捻じ曲げて手元に引き寄せるくらい、この怪人にとっては難しくも何ともないはずだ。マーガレットはマリーの便箋を作者に先回りして拡散していたのだから、イゴールも似たことができても不思議ではない。疑問なのは、なぜこれを悠に渡すかだ。

 

「お気付きですかな? それこそが貴方がた特別捜査隊の証……即ち貴方が最初に築かれた、愚者の絆の証明なのです」

 

 コミュニティが極まった時、担い手から証明となる物品を受け取るのが恒例だ。だが愚者は例外だ。あれはクリスマスの日に極まったが、あの日は仲間の皆から物を貰ってはいない。敢えて言うなら不思議とうまかったクリスマスケーキだが、消化してしまった食べ物は証明にならないのかもしれない。

 

「そんなもの……」

 

 しかしだからと言って、今日これを持ち歩く理由はない。イゴールが持っていろと言う理由も分からない。テレビに行く用はないし、用がなくても取り敢えず行くという気もないのだ。悠はあらゆることに気力を失っている。

 

「お持ちになるとよろしい。扉を開く一つの言葉を得る為に、きっと役立ちましょう」

 

 だが分からなくても、こう来られると仕方がない。

 

「……はい」

 

 議論や反論をするのも面倒だった。クマの眼鏡を受け取り、ジャケットの胸ポケットに入れた。同じポケットに入れてある櫛とぶつかる音がした。

 

 

「やれやれ……有里様も色々と至らぬ方でしたが、鳴上様はその上を行っておりますな。ワイルドとは皆がああなのでしょうか……」

 

 客人が去り、秘書と見習いも不在で一人になったイゴールは、深いため息を吐いた。そして現在と過去の客人について、独り言で評価を下す。

 

 有里は戦力では悠に勝るし、その他の色々な点でも勝っている。だがこの時、『駄目な人』という点においては悠の方が上だと、イゴールはお墨付きを与えたわけだ。ワイルドの後輩が先輩から得た、初の勝利と言えるかもしれない。もちろん不名誉極まる勝利だが、それがイゴールに余計なことをさせてしまった。

 

「私としたことが、客人に手を貸しすぎるとは……。これでは罰として、この部屋を追われてしまうやもしれませんな……」

 

 

(一つの言葉……)

 

 ベルベットルームを出た悠は町を歩いた。目的を持たずに家を出たのだが、青い部屋を出た時は考えが少し変わっていた。

 

(誰が俺に……?)

 

 風が吹いて、散った桜の花びらが一つ肩に落ちた。見上げてみれば、散るから美しいとよく言われる春の花が、風に吹かれて揺れている。美しいが、あと数日で散って消える。一年をかけて築き上げたものが脆くも崩れ去る。満開の桜はそんな感慨を抱かせた。

 

(陽介、叔父さん、菜々子……いや、違うな)

 

 特捜隊の仲間たち、稲羽支部の人々、そして菜々子。更にはテレビの世界と関わりのない町の人々。彼らの顔を思い浮かべてみたが、その誰にも期待できそうもない。彼らとはコミュニティで結ばれている。しかも誰も彼もが『我』の完了宣告を受けている。極まった絆は強固なのだ。桜が散るような塔の逆位置、即ち関係の崩壊は起こり得ない。死にでもしない限り。

 

 ならばコミュニティのない人。もしくは未だ完了していない人──

 

(そう言えば……俺ってコミュのない人とは、ほとんど話したこともなかったな)

 

 足立が言うところの『仕組まれている人々』以外の知り合いは、ほとんど誰もいない。無論、仲間以外のクラスの生徒や教師と話したことは何度もあったが、どれも表面的な関係ばかりだ。友人の数は多いと思っていたが、魔術的な絆を除くと友人は一人もいないに等しかった。何という貧しい一年を送ってきたのだろうと、今になって呆れてしまう。

 

(先生……)

 

 コミュニティのない親しい人は一人しかいない。諸岡だ。失意のどん底にいる自分が相談するのに、倫理の教師以上の適任はいないだろう。だが恩師は死んだ。死人は言葉を与えてくれない。しかもテレビの中で死んだわけでもないので、諸岡のシャドウを探すことさえできないのだ。ならば自分はどうすれば良いのか? 今日は誰に会えば良いのか?

 

(自分で考えるしかないのか……)

 

 他人に期待できないなら、自分で考えるしかない。当てがないまま『愚者』は一人で町をさまよった。現実の霧はとうに晴れているのに、悠は道に迷っていた。

 

 

(確かここで……)

 

 当てなくさまよっていたはずが、気付いたら諸岡との思い出の場所に来ていた。鮫川の河原だ。桜の花びらもここでは舞っていない。今日の天気は晴れだが、雪解けの水を湛えた川はきっと釣りに適している。諸岡ならば、川の主なる大物を軽々と釣り上げて見せたことだろう。だが今日の鮫川に太公望はいなかった。見回してみれば、一人の老女と一人の中年の男が、砂利の上に直接腰を下ろしていた。知らない人である。

 

 と思いきや──

 

「あら、貴方……悠ちゃん?」

 

 友人のいない八十稲羽にあって、『知らない人』から名前を呼ばれて、悠は驚いた。しかもこういう呼び方をする人は、魔術で結ばれた人の中にもいない。振り返ってみれば、喪服を着た老婦人が悠を見ていた。

 

「え……?」

 

「君は……鳴上君か?」

 

 そして恩師との思い出の場所にいたもう一人も、悠の名前を呼んだ。この四十前くらいに見える男は、友人とは呼べない。呼べないのだが、知り合いではある。そして顔と名前しか知らないような、表面的な関係に過ぎない人では断じてない。互いに被害者と加害者であるという、他にない関係にある人だ。

 

「生田目さん……」

 

 元議員秘書で、死んだアナウンサーと愛人関係にあった男である。実家は宅配業を営んでいるらしい、昨年の事件における犯人の一人、生田目太郎がそこにいた。会う約束はおろか探してもいなかったのに、なぜか出会ってしまった。

 

「あら、お知り合いなの?」

 

「え、ええ……あの、貴女は?」

 

 困惑しながら、悠は二人に近づいた。すると老婦人は黒いベールの向こうにある目を柔らかく細めた。

 

「私は黒田ひさ乃……忘れちゃったかしら?」

 

「あ……失礼しました」

 

 名前を聞いて思い出した。この喪服を着た人も知り合いではある。夏休みの夜に病院で清掃アルバイトをしていた頃に会っていた。だがそれきりで、顔を見るのは半年以上ぶりである。そんなごく浅い関係である為、もちろんコミュニティはない。

 

 

「こんな縁もあるものね……」

 

 三人は並んで腰を下ろし、川を見ながら話していた。生田目を中央に置いて、左手側にひさ乃が、右手側に悠がいる。

 

 話によると、ひさ乃は夏に悠と会ってすぐに娘夫婦と同居する為に稲羽を離れたのだが、今日は夫の墓参りに一日だけ戻ってきたらしい。この川は思い出のある場所で昨年からよく来ていたのだが、今日は生田目と会って少し話をしていたとのことだった。二人は以前からの知り合いではないのだが、不思議と親しみを覚えたらしい。

 

「僕と話そうなんて人は珍しいですよ。殺人犯だと言われていたのに……」

 

「でも違うんでしょ?」

 

「……」

 

 生田目は世間では一時期、山野と早紀を殺した犯人だと言われていたが、現在は違うとされている。真犯人である足立については、今でも世間には隠されているままだが、生田目を身代わりとして表向き裁くようなことはない。

 

「あの、生田目さんはどうして……」

 

 事実として、生田目は殺人犯ではない。しかし超常事件の犯人の一人ではある。誘拐でも重罪だ。善意によるものとはいえ、結果的に誘拐された者を命の危険にさらし、しかも七件も犯行を重ねたのだ。普通の事件であれば、年単位で服役することになったはずである。もちろん真相は公表できないが、世界の裏側に属する者たちによって超法規的に処罰されてもおかしくないのに、この通り自由の身でいる。なぜそうなったのか、悠は疑問を感じた。

 

「……」

 

 しかし生田目は口を噤み、左手の側を一瞥した。するとひさ乃は再び目を細めた。

 

「私に構うことはないわよ。老い先短いお婆ちゃんですもの。何を聞いたって驚かないし、言いふらしたりもしませんよ……」

 

 事件に関係する話でも何でも、気にせず話せと言っているわけだ。もちろんだからと言って、他人がいる前で全てを話すわけにはいかない。しかし生田目はある種の投げ遣りさを抱いて、貝になることをやめた。

 

「僕は……執行猶予みたいな状態なんだ。例の手口を再現できなくなってね」

 

 手口とは即ち、テレビに人を入れる力である。一度死んだせいなのか、生田目は力を失ったわけだ。

 

「……そうだったんですか」

 

 世界の裏側とは、法律が通用しない領域ということだ。もちろん一定のルールはそこに存在するが、杓子定規なものではない。何しろシャドウワーカーの背後関係には、生田目よりも遥かに後ろ暗い過去が山ほどある。そんな問題を抱える特殊部隊の、特に幹部たちにすれば、生田目を『犯罪者』と見なすのはなかなか難しい。しかも力を失った以上は、身柄を拘束する意味はほとんどない。生田目が解放されたのは、そういう事情によるものだ。

 

「君にも済まないことをした……許してほしいとも言えない」

 

「いえ、俺こそ済みません。危うく貴方を……」

 

 シャドウワーカーに生田目を責める資格がないのなら、悠にもない。生田目のせいで自分自身を含めた仲間たちが危険な目に遭ったことは確かだが、悠も生田目を殺そうとしたのだ。誘拐が重罪なら、殺人未遂も重罪である。互いが互いに対して罪を背負う身だ。しかも当の相手が罪を責めない。

 

「君に言うのも変だが……あのまま死んでいれば良かった……。そんなふうにも思うんだ」

 

 責めるどころか、罪が最後まで遂げられなかったことをこそ、残念に思うのだ。

 

「僕は仕事も愛する人も失って、残ったのはあの力だけだった……。向こうを聖域か何かだと信じ込んで、無意識にヒーロー気取りだったんだ。あの力は……真由美が与えてくれたんじゃないかって、そんなことも思った」

 

(この人は……)

 

 聞きながら、悠は肩から力が抜けるのを感じた。絆を教える『我』の助力がない中では、人と付き合った経験が乏しい少年は、生田目との間に壁を感じないではなかったのだ。

 

「でも全て……間違いだった」

 

 だが今、壁は崩れ去った。代わりに深い共感を覚えた。これほど相手の気持ちが分かると感じたことは、コミュニティにおいてもめったになかった。

 

(生田目さんは……俺と同じだ)

 

 一歩間違えたら、ではない。悠と生田目は瓜二つだ。過去と現在の状況が両方とも。ヒーロー気取りで、愛する人を失って、死ぬべき時に死ねなかった。

 

「今は……何をしているのですか?」

 

「何も……実家の仕事も今は手伝っていない」

 

 人生を滅ぼしてしまった人間に何もすることはない。それも悠と同じである。

 

「自殺を図ったこともあったが……それもできなかった。それなのに、真由美は夢には毎晩のように出てくるんだ……」

 

 そしてこんなところまで同じだった。どうして自分が生きているのか分からず、死んだ想い人のもとへも行けない。眠れば悪夢にうなされる。生田目は自分のことではなく悠について話しているのだとしても、何の違和感もない。まるで自分のシャドウが喋っているようだった。激しい言葉で責めるのではなく、ただ事実を述べるだけの影だ。言い方は真実の苦しみに満ちている。

 

 特捜隊の仲間たちも、もし自分のシャドウにこんな言われ方をしたら否定できなかっただろう。

 

「君は……どうしてる」

 

「……大切な人を亡くしました」

 

 痛いほどの共感に後押しされて、悠は自分の近況を『シャドウ』に話した。たった一言だけだが核心に触れた。堂島にさえ伝えていない、未来を失った原因となった出来事について、初めて人に明かした。すると生田目は顔色を変えた。

 

「まさか、君の従妹が……」

 

 最後に誘拐した幼い少女の身に異変があったのかと。誰も責めてくれない自分の罪に、改めて苛まれる。しかし悠は首を横に振った。

 

「別の人です」

 

 妹は生きている。何の奇跡で死の淵から生還したのか分からないが、とにかく菜々子は生きている。むしろ入院前より健康なくらいで、退院後は真冬も風邪一つ引かなかった。亡くしたのは──

 

(菜々子よりも大切な人……)

 

「そうか……」

 

 生田目は深く尋ねはせず、ただ視線を外して川を見た。その反応が、悠にはまたありがたかった。

 

「……」

 

 もし生田目との間にコミュニティがあったのなら、『我』はここで完了宣告を出しただろう。しかし誘拐犯との間に不条理な絆はない。今から新たな絆が見出されることもなかった。コミュニティがないことそれ自体に、悠は一つの安堵を得た。真実の共感が、魔術の安易さでお茶を濁されることはなかった。

 

 そしてもう一つ、魔術によらない反応が降って湧いた。

 

「貴方たちは素晴らしい人と出会ったのね……」

 

 ひさ乃である。この老婦人は絶望の二人組が話している間、口を挟まなかった。だがひと段落したところで話を総括した。怖いくらいに優しい声で。

 

「あの……」

 

 勝手に話をまとめられた悠は、思わず眉根を寄せてしまった。マリーはなるほど『素晴らしい人』ではある。生田目にとっては山野がそうに違いない。しかしだからと言って、ここで言うことなのか──

 

「愛する人がいなければ、人生なんて当てのない旅だもの。貴方たちは人生に意味を与えてもらったのよ」

 

 しかし人生の終焉が近い老婦人は、若者に睨まれても動じない。むしろものの道理を懇々と説く。

 

「先立たれたからって、その人を愛したことが嘘になるわけじゃないわ。生きていても死んでいても、大事なことは変わってない……」

 

「……」

 

 ひさ乃は悠や生田目に詳しく語ったことはないが、夫との別れにおいて後味が非常に悪い、辛くないことが辛いという、一種矛盾した別れ方をしたのだ。事実に裏付けられた、演技ではない本物の人生経験が、ひさ乃にこう言わせている。ベール越しに見える真摯な視線も相まって、悠は反論を封じられた。もちろん生田目も黙っている。

 

「貴方たちはまだ若いわ。だからね……長生きをしなさい。幸せを一杯感じて、それから向こうで愛する人に報告してあげなさい。お待たせってね……」

 

 向こう。彼岸。死んだ人が住まう国。生きた人間が住まう現世とは違う世界の存在は、実は人々に広く知られている。聖なる世界への出入口が何であるかが、知られていないだけで。

 

「いい? 死ぬことは怖いことじゃない。ほんの少し、寂しいだけ……。そう思えるようになってからじゃないと、向こうへ行っちゃいけないの」

 

(そうか……この人は死神なんだ)

 

 悠は半年以上前の出来事を思い出した。ひさ乃と初めて会った時、この喪服姿の老婦人は自分を死神だと言ったのだ。もちろん人間は死神ではない。老いた寡婦は人に死を与える力は持っていない。だがやはり死神だったのかもしれない。死がもう見えるところまで来ている女は、死の意味を若い二人に語っている。

 

「……覚えておきます」

 

 生田目は頭を下げた。元議員秘書は高校生の倍は生きているが、老婦人はそのまた倍は生きているのだ。大人同士ではあるが年季が違う。かつて一度道を踏み外した男は、人生の先輩に向けて後輩として頭を下げた。

 

「ふふ……ごめんなさいね。つい長くなっちゃった……」

 

 ひさ乃は微笑んで、腰を上げた。しかし背筋が伸びはしない。河原の小石に杖をついて、曲がった腰を支える。言葉は真理を語るが、体はやはり心配になる。悠は立ち上がった。

 

「送っていきますよ」

 

「あら、ありがとう。優しいのね……」

 

(俺は優しいわけじゃないです)

 

 絆を極めてしまった人とは会いたくない。だが絆のない人と話せて少し落ち着いた。閉ざされていた扉が開いた印象はないが、稲羽を離れる前に生田目とひさ乃に会えたのは良かったと感じた。そしてそれで十分だ。今から仲間その他の担い手たちに会って、余計な慰めなどを貰いたくはない。再会の約束などは、もっとしたくなかった。だからひさ乃を送って、終えたら家に帰る。そのつもりで老婦人に合わせた緩やかな足取りで、ここを離れようとした。

 

 しかし──

 

「あら、あの人って……」

 

 河原から階段へ向かおうとしたところで、土手の上に人がいるのに気付いた。一人の『少年』である。八十神高校の制服の上着を腰に巻き、顔に十字の傷が刻まれている。

 

「あれは……」

 

「ミナヅキさん……驚いたわ」

 

 現れた人の名はひさ乃が口にした。すると悠の脳裏に閃きが走った。

 

(え……あ、そうだ! 思い出した! この人があいつと引き合わせてくれたんだ!)

 

 ひさ乃は本人が自称する通り死神だ。ただし与えるものは死そのものではない。自然の法則が訪れるその日まで精一杯生きろと、人に人生の意味を教えるのだ。そしてミナヅキとの間にあるコミュニティこそ死神である。この符合は一体何であるのか? 急な疑問と、ある期待が湧いてきた。朝に家を出た時には欠片もなかったものである。

 

「本当に不思議な縁……悠ちゃんが来たと思ったら、今度はあの人が……」

 

 ひさ乃はまたも目を細めた。しかしミナヅキはじっとしていない。不思議な縁も、死神の絆の担い手を留めておけない。絆の主と『仲人』に手を振ることもなく、声をかけもせず、黙ってその場から立ち去った。多くの八十神高校の生徒が通学路として使う道を、ミナヅキは一人で歩く。

 

「あっ……待ってくれ!」

 

 絆を疎ましく思っている主は、去りゆく担い手に反射的に声をかけてしまった。しかし『少年』は待たない。鍛え抜かれた男の体を持つミナヅキの歩みは速い。年長者に歩幅を合わせることなど、きっと考えもしない。杖をついた人を連れていては、悠は追いつけない。すると──

 

「行ってきなさい。私のことは気にしないで」

 

 置いて行かれる方である、ひさ乃が背中を押してくれた。振り返ると生田目もそこにいた。

 

「大丈夫だ……」

 

 自称死神の老婦人と、いかなる言葉で表すべきかまだ明らかでない男。二人とはコミュニティではなく、普通の人間としての関係で悠と結ばれている。絆のない人が、ある人との関係を後押しする。どこかであったような状況である。

 

「……はい!」

 

 悠は大きな声で返事をした。そして階段を走った。未だ極まらずに残っている絆を担う、他称死神の『少年』を追った。走りながら、『愚者』の少年は思う。

 

 コミュニティの担い手は誰も彼もが人が良すぎる。全てを失った自分には会うだけで辛い。だがミナヅキはどうだろうか? 死は人生の終わりであり、人生の真実を教えるものであり、人生の意味そのものでさえある。それは即ち──

 

(一つの言葉って……あいつなのか?)

 

 ミナヅキと会ったのは、ひさ乃に紹介されて病院で名前を聞いた時と、文化祭を一緒に回った時だけだ。たった二度の付き合いなので、『我』の完了宣告はまだ受けていない。だが受けていないからこそ、何かのきっかけを得られるかもしれない。そう思えた。

 

 土手に上がった時には、もう制服を腰に巻いた姿はなかった。だが諦めはしない。ミナヅキを探して、悠は駆け出した。

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