組織にリーダーは付き物である。人一人の力には限りがある為、何か大きな物事を成し遂げるには相応の人数が必要になる。しかしただ頭数だけ揃っていても、十分な成果は見込めない。組織全体が一つの目標を共有してモチベーションを高め、個々が抱える短所を長所で補うように、機能的に働かせなければならない。それには全体を俯瞰し、まとめる役を担う者が必要だ。だから軍隊であれば指揮官がいるし、スポーツのチームであればキャプテンや監督がいる。
しかしリーダーといえども人間である以上、万能はあり得ないし常に現場に立てるとも限らない。例えば指揮官が負傷した場合や、キャプテンが風邪で寝込んでしまった場合などにおいても、組織が組織として成り立つ為には不測の事態に対する準備が必要だ。具体的な準備の方法は色々あり得るが、中でも効果的なのは、リーダーが不在の場合に指揮を取る代理をあらかじめ決めておくことだ。
例を挙げると、シャドウワーカーの前身の時代においては有里がリーダーを務めていた。そしてサブリーダーの役割は、後に有里の妻となるアイギスが担っていた。そしてその取り決めは実際に功を奏した。有里は一度、ある大きな作戦の直前に寝込んでしまったことがある。その時はアイギスが代理として指揮を取り、作戦を成功に導いたのだ。
「ちょっと待て。こんな大勢で押しかけたらまずいだろ」
ジュネスを出て堂島宅へ向かう途中で、特別捜査隊の先頭に立っていた陽介は一旦足を止め、皆を押し留めた。悠を除いて特捜隊は六人いる。小学一年生の女児を訪問するには、ちょっと人数が多すぎる感がある。菜々子の知り合いでない者もいるし、下手に緊張させては聞くべきことを聞けなくなってしまう恐れがあった。
「なら、どうすんすか」
「りせとクマは菜々子ちゃんに直接聞いた方がいいと思う。他に話聞けそうな人、誰かいなかったか……?」
実際に悠を探すのは情報系の能力を持つ二人なのだ。ならばりせとクマはまた聞きするより、自分の耳で聞いた方が効率的なはずだ。その間、他の面々はまた別の人間から話を聞ければ最善だ。では誰が良いか、陽介は改めて考え出した。
(一条や長瀬は……いや、悠が俺らよりあいつらと仲いいってことはないよな。それにこういう場合、女の子の方が……)
悠と女。陽介は相棒の知り合い全体からやみくもに考えるのではなく、一つの条件を入れて限定して考えてみた。すると数秒で脳裏に閃きが走った。
「そうだ! マリーちゃんに聞くのはどうだ?」
先月11日、ジュネスで悠が連れていた少女だ。陽介ははたと手を打ちつつ、異邦人風の少女の名前を口にすると、これは悪くない人選だと自分でも感じた。なお、女で言うならば悠は十日前からあいと付き合っているのだが、陽介はそれを知らない。この場の誰一人として知らない。
「誰すか、そいつ」
完二は訝しげだ。特捜隊でマリーと会ったことがあるのは、二年生組だけである。
「ああ、悠の……妹?」
「センセイに妹がいたクマか!?」
クマは着ぐるみの目を丸くした。
「いや、違うでしょ……」
千枝のツッコミが入った。そう、違うのだ。マリーは悠の『いもうと』ではない。悠自身はそう紹介していたが、現代語における『妹』という言葉の意味からすると明らかに間違っている。敢えて言うならば──
「妹……いも?」
学校の成績は優秀で、古語もそれなりに知っている雪子が呟いた。しかし雪子は足元に視線を落としていて、しかも小声すぎた為に呟きは誰の耳にも届かずに地の底へと消えた。
「よし、俺とりせとクマで菜々子ちゃんに話を聞きに行く。里中と天城と完二はマリーちゃんを探してくれ。一旦家帰って、眼鏡と武器取ってくんのも忘れんなよ!」
「何であんたが仕切ってんのよ」
さっさと方針を決める陽介に、千枝は不満げな顔を見せた。現時点の特捜隊で悠の代理が務まる者は、客観的に見れば陽介しかいない。しかし事前に悠が指名しておいたのならともかく、陽介が自分から名乗り出たような今の状況では、何となく素直に認めたくない思いがある。普段の陽介は軽薄な顔しか皆に見せていないことも、その思いを後押ししている。
「ごちゃごちゃ言ってる場合か!」
しかし誰をリーダー代理に据えるか、ここで議論している時間はない。今はとにかく緊急事態である。
「こんにちはー。久しぶり、菜々子ちゃん!」
千枝たち三人と別行動を取った、陽介たち三人は堂島宅にやって来た。呼び鈴に応えて小さく開けられた引き戸越しに、陽介は菜々子に声をかけた。アルバイトで鍛えた笑顔で焦りを隠しながら。
「お兄ちゃんいる?」
悠がここにいないことは、もちろん分かっている。しかし陽介は敢えて聞いた。人にものを聞くには手順が大切だ。先ほどジュネスで足立に聞いた時はつい失敗してしまったが、今度は段取りを踏むことにした。
「ううん……」
案の定、菜々子は首を横に振った。ここからが本番である。
「そっか、今日あいつと約束してたんだけど……」
内気そうな女児から有益な情報を引き出さねばならない。陽介は笑顔をますます大きく作って話を進めようとした。しかしそれを遮るように、突然『朗読』が始まった。
「栄華を極めたるソロモンだに、その
クマだ。この謎の生き物は時々謎の箴言を吐く。もし諸岡がここにいれば『マタイ伝とルカ伝か』とでも言って、意味の解説をしてくれたかもしれない。しかし悠の師は弟子の教育を中途半端にしたまま、御許に召されてしまった。弟子の弟子が一体何を喋っているのか、聖書を読んだことのない高校生の少年少女たちにはさっぱり理解できない。
「はじめましてー! ナナチャンって言うクマね! クマはクマクマ!」
解説抜きの聖句を喋るだけ喋ったクマは、陽介を押しのけた。覗き見するように少しだけ開けられていた、堂島宅の引き戸を掴んで全開にする。着ぐるみの大きな目は、伝説的な王さえ及ばない野の花を愛でるように細められている。
「おいクマ! って、しまった! 着せたままだった……」
陽介は相棒の危機にやはり冷静さを欠いていた。クマはフードコートで働いていた時からずっと、着ぐるみを『装った』ままでいるのだ。ジュネスでは早速人気者になっているが、町中で着ていては不審なだけだ。それなのに着ぐるみを脱がせるのを忘れていた。失敗である。
「え? だ、だれ?」
菜々子はしばらくジュネスを訪れていないので、最近雇われたマスコットをまだ知らない。いきなり迫ってきた満面の笑みを浮かべる大きな動物らしき顔にただ驚いて、小さな手を胸の前で組んだ。せっかく陽介が進めていた段取りは、全て吹っ飛ばされた。
「クマ、お前は引っ込んでろ!」
「ムー、ヨースケ! ナナチャンを独り占めするつもりクマね! そうはさせんクマよー!」
人の家の玄関前で取っ組み合いが始まった。手順も何もかもぶち壊しである。こうなると、もう一人の出番だ。
「ね、菜々子ちゃん」
りせだ。両手を後ろに回して腰を屈め、背の低い女児と視線を同じ高さに合わせる。
「え、もしかして……りせちゃん!?」
「そうだよー! 菜々子ちゃん、りせを知ってるんだ?」
「しってるよ! だいすきだもん!」
菜々子にすれば、最近は知らない『お客さん』が増えていて困惑させられることが多かった。直近では先週の火曜日、父親が仕事の関係者らしい青年を連れてきた。そして今日は従兄の不在中にその友達が訪ねてきたと思ったら、謎の生き物にいきなり迫られた。これで困惑するなと言う方が無理だろう。しかし今日三人目の客は、ある意味で菜々子よりも上手だった。
「ありがとー! 嬉しいな!」
さすがは職業アイドルである。陽介以上に板に付いた眩しい光を放つ笑顔で、内気な女児の警戒をあっという間に解いてしまった。
「うるさくしてごめんね? ちょっとお話ししたいんだけど……いいかな?」
「うん!」
花の色に狂ってしまったクマと、それを取り押さえんと格闘する陽介を置いて、りせは堂島宅の敷居を跨いだ。そしてリーダー代理の先輩に代わって、本題を聞き始めた。
「あのさ、お兄ちゃんのことなんだけど……」
「……」
しかし話を始めた途端、菜々子の顔に影が差した。りせは菜々子とは初対面である。しかも悠との付き合いもまだ浅い為、事前に菜々子について特に聞いてもいない。だが何とも可愛らしい少女の急な変化は、りせにある閃きを与えた。悠と菜々子の間に、何かよからぬことが起きている。そう察せられた。
「どうしたの? お兄ちゃんと何かあったの?」
「……さいきん、ちょっとこわい」
一歩踏み込んでみると、意外な言葉を引き出せた。いや、りせにとっては意外ではない。例えば先ほどジュネスのエレベーターホールで完二は足立に噛みついていたが、りせは違う。りせは特捜隊の他の仲間たちと違って、悠と個人としての絆が始まっていないのだ。だから完二にとっては許容しがたい話でも、いわば『事前情報』として受け入れる余地がある。
「怖い? お兄ちゃんが?」
「……うん。こないだ、テレビで……」
テレビ。よもやマヨナカテレビのことではあるまい。ならば──
「ナナチャン、元気出すクマ!」
りせが更なる真実に迫ろうとしたところで、それを邪魔するものが敷居の内側に飛び込んできた。もちろん色狂いの着ぐるみである。菜々子の顔から影は去ったが、再び困惑が戻ってくる。
「こら、クマ! 菜々子ちゃんが怖がってるでしょ!」
「ク、クマは怖くないクマよ……」
一瞬、ほんの一瞬だけ、クマは傷ついたように着ぐるみの顔を陰らせた。霧の世界で孤独に浸りきっていた人外は、以前までは想像もしなかった苦しみを最近になって知り続けている。昨年まで平和な孤独の中にいた菜々子が、従兄と同居を始めて以来、幼心に苦しみを知り始めたように。
「ほ、ほれ! クマはこんなにプリチーなんだクマ!」
クマは首のジッパーを開け、頭を持ち上げた。卵が内側から割れるように、『中の人』が着ぐるみの頭を掲げて現れた。
「ジャジャーン!」
白いシャツにバラの造花を挿した、金髪碧眼の美少年が表に出てきた。町を歩けば、着ぐるみとは違う意味で注目を集めるだろう『彼』は、両手で捧げ持ったけだものの頭を、ぽいと放り捨てた。そして胴体の中で跳び上がり、着ぐるみの下半分を蹴り倒す。両手を広げて足を揃えるポーズを華麗に決めて、堂島宅の三和土に降り立った。
「これがホントのクマクマ! ナナチャン、ドゥーユー・アンダースタン?」
本当のクマとは何か。それは謎である。仲間として共に戦っている特捜隊にも、クマ自身にとっても謎である。しかし脱ぎ捨てられた毛の生えた頭と胴体は、玄関の隅に投げ出されて微動もしない。外側のクマ皮は飽くまでソロモンの着飾りのようなもので、虚空から生じた『美少年』こそが実体であることを、動かないぬいぐるみが主張している。
「……」
野の花になぞらえられた少女は、あまりのことに目を丸くしている。しかしそれも長くは続かなかった。
「あはは! 中から人がでてきたー! おもしろーい!」
「ナナチャン! 分かってくれたクマね! そークマ! クマはカラッポじゃないクマ!」
クマは三和土に膝をついて、菜々子の手を取った。今日は一体何の為にここに来たのか、すっかり忘れてしまっている。敬愛する師匠の危機さえも、花の色香を前にしては物の数ではないらしい。
「ったく……まあいいか」
ここで陽介がやって来た。話はもう完全にあらぬ方向に行ってしまったが、敢えて元に戻そうとはしなかった。腕を組みながら、眉間に指を当てて考え込む。
「花村先輩、話聞いてた?」
手を取って笑い合う子供たちを脇目に、りせが陽介に話しかけた。小学生から高校生に至るまで誰もが憧れる、アイドルの顔は既に引っ込んでいる。殺人事件を追う特捜隊、つまりは戦う集団の情報担当要員としての、真剣な眼差しをリーダー代理に送る。
「ああ、聞いたぜ」
陽介はクマと揉み合っていた間にも、耳に入れるべき話はしっかり入れていた。りせもそうだが、陽介も菜々子の言わんとしたことは理解できたのだ。
「戻りましょ。今だったら見つけられる気がする」
聞くべきことは聞けた。もうここにいる必要はない。陽介は腕組みを解いて、頼もしい新入りの後輩に向けて頷いた。そして話を切り上げに入った。
「よし……クマ、行くぞ」
「えー? 来たばっかりクマよ?」
「しゃあねえだろ! ……っと、ごめんね、菜々子ちゃん。こいつ、ジュネスにいるからさ。また会いに来てやってよ」
「クマさん、ジュネスにすんでるの!?」
「そークマ! いつでもジュネスに来てクマ! 一緒に遊ぼう!」
もちろんクマはジュネスが住居であるわけではないが、そんな些末な間違いはどうでもいいようだ。そしてクマはジュネスで遊んでいるのではなく、マスコットとして仕事をしていることは、全くもってどうでもいい。どれだけ忙しく働いていようと、菜々子が来れば全てを投げ出すつもりが、今から漲っている。
「うん!」
十歳差の従兄妹たちの間に亀裂が入ったのは、悠の責任である。そしてそれを修復しないまま、一週間も放置していたのも悠の責任だ。言うなれば、『兄』は毛を吹いて傷を求め、しかも何の手当てもしなかった。そうしている間に、一人の異分子が自分と『妹』の間に入り込む隙を、悠は自ら作ってしまったわけである。
リーダー不在の特捜隊は再び集合した。場所はテレビの中のスタジオだ。全員が眼鏡をかけ、武器の準備も済ませている。あとは悠の居場所さえ分かれば、すぐにでも救出に向かえる状態にある。
「菜々子ちゃんが怖がってた?」
菜々子から得た情報を、別行動を取っていた千枝、雪子、完二に説明しているのは陽介だ。ちなみに千枝たちはマリーを見つけられず、収穫がないまま戻ってきていた。
「ああ、例のインタビューだ」
「鳴上君が出てた、あのニュース?」
諸岡の遺体が上がった今月10日、ちょうど今から一週間前の話だ。マスコミのインタビューに答えた悠が、夜のニュースで放映された。顔は映らなかったが、知り合いならば誰かは分かるはずだった。
「そう、あれを菜々子ちゃんも見たんだ。足立さんが言ってた堂島さんに叱られたってのも、その件だろ」
「そんじゃ、落ち込んでたってのは何なんすか」
完二が訝しげに問い質した。足立の証言によれば悠は堂島に叱られた他、落ち込んでいたとのことだった。それは完二にすれば、俄かに信じがたい話である。悠にはシャドウから助けられたのみならず、個人的にも色々世話になっているから。皇帝のアルカナに象徴される絆を通して『しまっている』完二の目には、鳴上悠はいつも頼りになる、男気溢れる先輩として映っていた。
「……本当に落ち込んでたんだよ。あいつは諸岡先生と仲良かったんだ」
アルカナの絆を通してしまっているのは、陽介も同様である。しかし陽介は他の仲間たちが知らない、悠の真意を本人から直接聞いている。
「俺らには嫌な先生だったけどよ……。悠は本気で先生の仇を取るつもりだったんだ」
犯人を殺すつもりだった、とはさすがに言わない。だが悠は本気だった。だから菜々子も本気で怯え、堂島も冗談として流さずに本気で叱ったのだ。そして足立が観察した通り、本気で落ち込んでいた。早紀の仇を本気で取るつもりでいた陽介には、相棒の気持ちがよく分かる。
「でも犯人が自首して……あいつは悔しがってた」
ただ陽介にとって、これは他人にはあまり言いたくない話だった。相棒として、仇持ち同士として、二人だけの秘密にしておきたかった。背中を預ける仲間であっても、踏み込んではいけない領域はある。状況的にやむを得ないとはいえ親友の秘密の一端を明かしてしまった無念さに、陽介は目を閉じて唇を噛んだ。
しかしそんな陽介が感慨に耽るのを、周囲は許してくれない。
「どうしてそれを先に言わないのよ!」
「そうよ! 無駄な時間使わせて! このガッカリ王子が!」
雪子と千枝だ。フードコートで陽介が悠を名前で呼んだ時は不満を心に留めておいたが、とうとう口に出した。
酷い言い草だが、彼女らにすれば陽介に文句を言いたくもなるのだ。この二人は先月の内に悠との絆を極めて『しまった』から。極めていながら、友達以上の関係にはなれなかった。悠はそれを後悔しているが、後悔は二人にもある。何がいけなかったのか当の二人にも分からないが、とにかく後悔している。
その一方で、陽介は自分たちもなれなかった、互いを名前で呼び合う関係になっている。異性と同性では名前呼びの意味は当然異なるが、気に入らないことには違いがない。それに加えて、陽介はよりによって二人にマリーを探させた。自分たちにはない都会的なセンスに溢れた少女を。これでどうして、この地雷踏みを責めずにいられようか。
もちろん客観的には、二人が陽介を責めるのはただの嫉妬と八つ当たりであり、理不尽である。しかし主観的には道理のある理不尽なのだ。矛盾した言い方だが、そう感じている。
「おま、そりゃねえだろ!」
「ケンカしてる場合じゃないでしょ! 探知始めるから、静かにしてて!」
言い合いを始めようとした上級生たちを、りせが遮った。絆を早々に極めてしまった千枝と雪子と違って、りせは悠とまだ何も始まっていない。全てはこれからだから、自分が知らない悠の秘密を陽介が知っていても、嫉妬することはない。たとえ悠がリーダーらしからぬ振る舞いをしようが、男らしくない気持ちを抱いていようが、先入観なく受け入れられる。呼び出されたヒミコの目は、絆の不条理に妨げられはしない。
(先輩、悔しかったんだね? いい先生だったんだ……)
ついでに言うと、転入したばかりのりせは諸岡に対する先入観もない。いかなる固定観念にも邪魔されない、りせの自由な認識は、ペルソナの感覚に乗って霧を見通していく──
「……見つけた! あっちよ!」
程なくして結果が出た。ヒミコを後ろに従えたりせは、霧の一方を指差した。所作に迷いはない。決まりである。あとは現場に向かって助けるだけだ。
「よし、指揮は俺が取る! みんな、遅れるなよ!」
陽介が指揮担当者に名乗りを上げた。今日は初めから事実上のリーダー代理をしていたが、ここで改めて宣言したわけである。しかし──
「早速ゴークマ!」
真っ先にクマが駆け出した。陽介より早く。
「急ごう!」
「待っててね!」
「先輩、今助けるっす!」
千枝と雪子が続き、完二も駆け出す。やはり陽介より早く。
「……」
「花村先輩、早く行きましょ。遅れるよ?」
「おう……」
ため息を一つ吐き出してから、りせに促された陽介も走り出した。
(やっぱ、あいつじゃないと駄目か……)
特捜隊は個性の強い面々が揃っている。よくもまあ、相棒はこんな連中をまとめていたものだと、感心と悲哀が半々になる。めいめい勝手に走る皆の背を見て、やはりリーダーは悠でなければならないと、陽介は改めて感じるのだった。そして自分は参謀と言うか中間管理職と言うか、割を食うのが役割だ。悲しいかな、自分は主役の柄ではない──
陽介の自己評価はともかく相棒への評価は必ずしも正しくないのだが、それは思いもしない。