『神霆戦機 カミナギル』美人フェミさんが 巨大ロボで大暴れするそうです   作:cyanP

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第14話 アクアライン 封鎖できません!

 

 

 報道のヘリが状況の変化を叫ぶ。

 

「ロボットが!ロボットが山を降りました!」

「あああ、自動車道へ入ります!」

 

「東関東自動車道 館山線です! 東関東自動車道です! 東京湾アクアラインへ続く道です」

 

「アクアライン方面へ向けて移動をはじめました! 東京です、ロボットは東京方面へ向かってます」

 

 

 それまでカミナギルは上空をヘリが飛ぶのも気にする様子もなく。

 山を飛び超えたり、光りを放つビーム剣状の武器を取り出しては樹木を切り倒したり、蹴り倒したりを繰り返していた。

 いろんなポーズを取りながら、まるで剣術道場の巻き藁でも切る要領で、やってみては少し考え、またやってみる。そういった様子で何度も何度も繰り返していた。

 

 それが突然山を降りて自動車道を疾走しはじめたのだ。

 上空から見れば北西方向へ向かっての移動。東京湾の向こう側は『東京都心』だ。

 

「この先には『東京湾アクアライン』の『アクアブリッジ』がありますが」

 

 上空ヘリに乗ったカメラが下向きでロボットを映していたのをグイ~~ンとPAN(カメラポジションを変えずに向きを変える撮影技法)しながら、さらにズームをかけて、バーンとドラマチックに『東京湾アクアライン』までの道のりを映し出す。

 

「アクアブリッジは、確か戦車の重量では通行できないと聞いたことがあるような気がします。いやわかりません。何トンまで耐えられるのか確認できてません! 巨大ロボットの重量に耐えられるのでしょうか? それとも橋を破壊するつもりでしょうか?」

 

 リポーターが伝える不確かな情報が、よけいに現場の混乱と臨場感を伝えていた。

 いや、伝えていたと言うか演出していた。これ以上やるとクサくなる、ギリギリを攻める、なかなかのテクニシャンであった。

 

「みなさん、付近のみなさんは直ちに退避して下さい!」

 

 緊迫感あるリポーターの叫びとは裏腹に、沿道の様子はいつもと変わらぬ田んぼだらけの田園風景。

 変わらないどころか、野次馬がロボット見物に並んでる始末だ。

 マラソン中継かな?

 

 間が持たずにリポーターの言うことが途切れそうになると、画面はスタジオのキャスターの緊張した表情を捉えるカメラへと切り替える。上手いなテレビ局。

 そして、いったいどういうコネでこのポジションに付いたんだ? と聞きたくなる微妙なタレント達がスタジオに並んでいて、例のごとく毒にもクスリにもならん本人も何言ってるかわかってないだろ的なコメントが、貼り付けられた芝居じみた顔から垂れ流され始める。

 

 その中継はカミナギルコクピット内にも流れていた。

 

「ねーねーシエンちゃん。テレビがあんなこと言ってるけど大丈夫なの? 橋壊れない?」

 

 <心配ありません。フェアリー・オプションを先行させスキャンしています。橋の強度に問題はないでしょう>

 

「そうなの? カミナギルも戦車ぐらいの重さがあるんじゃなかったっけ?」

 

 <説明がまだでしたが、カミナギルの重量や衝撃が、ダイレクトにカミナギルの足裏の接地面で伝わるわけではありません。『網翼システム』によって、広く分散しつつ、自重軽減も行っております。おそらく橋に与えるダメージは、現行の戦車が通行するよりずっと少ないはずでしょう。>

 

「そうなんだ? つまり余裕なワケね! じゃ思いっきり行こうかシエンちゃん!」

 

 <行きましょうリンコ>

 

 

 

 

 東京湾アクアラインとは────。

 

 1997年

 東京湾の中央部を横切るために長大な橋とトンネルで作られた、驚くべき総延長、15.1キロメートルの自動車専用道路。

 約5キロメートルが海上橋、約10キロメートルが海底トンネルとなっている。

 

 地震が頻発するうえに海底部の軟弱過ぎる地盤は『マヨネーズ層』と呼ばれるほどの柔らかさ! 巨大構造物を作るなんて何かの悪い冗談だろう? という悪条件の難所。そこへ作ったのだ。

 そのあまりの厳しさと困難さから、技術者たちからは人類初の月面有人宇宙飛行になぞらえ『土木のアポロ計画』と呼ばれた。

 

 構想から30年以上の時を経て、総工費は約1兆4,000億円を費やし、ようやく実現に漕ぎ着けた、超超巨大都市大規模高速道路事業である。

 

 

 

 

 

 上空には各社報道機関のヘリだけでなく『UH-60J』といった自衛隊のヘリコプターも駆けつけていたが、偵察なのか何なのか特に何をすることもなく、ただ上空からロボットの様子を見守るだけで、マスコミのヘリの方がよっぽど接近して撮影しているほどだった。

 

「あああ今、たった今ロボットがアクアブリッジを渡り始めました。」

「大変です! 海ほたるパーキングエリアに居る方は直ちに川崎側に退避して下さい」

 

 ギラギラと太陽を反射する海面の散らばり。群青色の東京湾が映し出される。

 画面に映る灰色のウエハースにも似たアクアブリッジは頼りないのか頑丈なのか読み取れない姿でゆるいカーブを経て、まっすぐに海の上に架けられている。

 その上を疾走するロボット。

 

 ただ画面を見る限り崩壊するような脆弱さは見て取れなかった。

 視聴者は「なんだ壊れないじゃん」とツッコミを入れた。

 期待外れである。

 

「驚くべき早さです! 時速100キロは出ているでしょうか!? 巨大ロボットが海ほたるへ向かって疾走しています、付近に居る方は直ちに川崎方面へ退避して下さい!」

 

「ロボットは東京湾に浮かぶアクアラインの中継地点、海ほたるパーキングエリアを目指しています、すぐに退避して下さい!」

 

 カメラはひたすらロボットと海ほたるを交互に映すと。

 今度はもっとドラマチックにマラソンランナーを背中からゴールを舐めるように、ロボットの背後へと回り込んで撮影する。

 

「ええ、アクアブリッジは今のところロボットの重量には耐えているようですが、崩壊の危険も考えられます!」

 

「危険です、大変危険です、橋が落ちる可能性があります!」

 

 この暴走ロボットレース。

 ゴールとなる海ほたるの上にある複数の絡み合う高架路は、まるで遊園地に設置されたジェットコースターを思わせる姿。はかなく壊しやすそうな姿をしている。

 そこへ躊躇なく駆けていくロボットの後ろ姿。

 期待を煽る。

 それはこのあとの大惨事。テレビスタッフや視聴者から見れば対岸の火事。海の上だけによけいに対岸を見物する気分。被害が大きければ大きいほど盛り上がる。

 否が応でも娯楽的興味を引き付ける絶好のシチュエーションが完成した。

 

 

「ロボットは変わらず海ほたるへ向かってます、もうその先は海です、パーキングエリアよりさきは海底トンネルしかありません」

 

「どうか、どうかみなさん、逃げて下さい、命を守る行動をして下さい、我々にはロボットを止められません、逃げて下さい!」

 

 リポーターは叫ぶが

 カミナギルが走ってくる車線に被さるようにループして上を走る高架のカーブにはスマホやカメラを構えた少なくない人数の野次馬が並んでいた。

 こりゃちょうどいい展望台だ。特等席でロボットが見物できる!

 

 うわーっ! うわーっ! いい感じの高さから遮るもの無くロボット見物が!

 即席の観客席と化したループ橋はそりゃもう大騒ぎだ。

 道路の高欄に設置されているフェンスによじ登ってカメラを構える者までいた。

 

 元々、景色が良くて観光客がやってくる場所なだけに、みんないいカメラを持って集まっている。

 よく見るとその多くはオジサンだ。

 きっと家族にせがまれ、いやいやドライブにやってきて退屈していたのだろう。

 全然休息にもならない。明日はまた疲れた体を引きずって会社か……。

 

 そんな無期懲役囚人の面持ちで居たところへ、子供の頃から大好きなカミナギルの実物大のやつが走ってきた。

 

 オジサンの冷え切ったハート。

 むかしはあんなに熱かったのに。

 今はもう、うごかない……。

 

 言わば博物館で展示され、余生を過ごしている蒸気機関車。

 

 その真っ暗なボイラーに、突如 ブワァーッと火が入る! 烈火の炎だ! 爆発的に燃え上がる溜め込まれた大量の石炭! 情熱マシンが息を吹き返した!

 ポォォォォォォーーーー!!!!

 

「お父さん、あぶない! やめて!」うるせー! 女房子どもの声など耳に届くはずもない。

 

 避難? 寝言は寝てから言え。

「あー!! 良い方のカメラをクルマに置いてきた!! くそ~~~~!」心底悔しそうな叫びも聞こえてくる。特別列車がホームに入ってきたときの鉄道オタクでもここまで熱狂しないだろう。

 

 あああああ! カミナギルが直ぐそばを通り過ぎる!

 この高さ!

 この高さだ!

 

 ちょうどカミナギルの腰ほどの高さとなる、このループ橋から見るシチュエーションは。

 知っている! よく知っている!

 アニメで何度も見た、格納庫からパイロットがカミナギルのコクピットに乗り込む、あの高さと同じではないか!

 

 うおおおおおおおおお!

 今、一瞬俺は乗り込んだ! 確かに乗り込んだぞ!

 声には出さなかったが、その場に居たオジサンたちの心はあの日の興奮に包まれひとつになっていた。

 

『カミナギル』に乗れさえすれば、自分だって巨大な敵をバッタバッタ打ち倒せると信じていた、あの少年の日の瞳に。 興奮のあまり。

 

 「もういいやっちまえ! なんでもやれ!  俺が許可するぞカミナギル!!」 

 

 と心で叫びながらロボットの背中を見送っているオジサンたちであった。

 

 

 

 カミナギルは、海ほたるの中心部を貫く海底トンネルへと続く直線の道路を進むのをやめ、ループ橋がロボットの侵入を防ぐように眼の前に覆いかぶさっているのをかわして左側の側道へと入っていった。

 

 もうそこは周囲ぐるりと360度を海に囲まれた全長650メートルの島、木更津人工島。世界でも珍しい海上に作られた、海ほたるパーキングエリアの敷地内である。

 

『海ほたる』

 東京湾アクアラインのパーキングエリア。……となっているが、設備も規模もサービスエリア以上もあり、多くの人が訪れる観光スポット。

 

 上空から見るとちょうどジッパーの先っちょみたいなカタチをしている。

『YKK』って書いてそうな感じ。

 手前で2つの車線が枝分かれ、4つの車線の束に増えて、その行き止まりにある長方形の島。カミナギルは今、その一番左側の車線から島に上陸した。

 

「ああああああ、ロボットが、ロボットが、ロボットがとうとう上陸しました、海ほたるに居るみなさん急いで逃げて下さい」

 

「ロボットが侵入しました、ロボットが海ほたるへ侵入しました、危険です、みなさん逃げて下さい!」

 

 カミナギルは行く手に立ちはだかる高さ2.5メートルと書かれた車両制限の、黄色と黒の縞模様に塗られた頑丈無骨な鉄骨むき出しのゲートを、立ち止まることもなく少し減速しただけで難なく跨いだ。

 

 それがここでの唯一の障壁であったが、カミナギルに意味はなかった。

 人工島中央部にあるレストランや店舗設備で賑わう客船にも似た外観の建物へとズンズン接近していく。

 

「ああああああああ────ッ!」

 リポーターが叫ぶ。あたりに緊張が走る。

 

 頑丈な巨大ロボットに対してその構造物はあまりにも脆弱で少し触れただけでも崩壊してしまうだろう。

 

 しかしカミナギルはその脇を通り過ぎた。

 そしてそのまま人工島の奥、展望を兼ねた公園へと進んでいく。

 そこには海底トンネル掘削時に実際に使用されたというシールドマシンが設置され、その直径の巨大さを見せつけているが、カミナギルはそれよりさらに大きい。

 

 公園に入り速度を上げるとカミナギルは、躊躇なく人工島の端の部分にある、海中へと沈み込んでいく最後のコンクリートスロープを、波打ち際へと駆け下りて行った、次の瞬間。

 

 

 報道のリポーターはヘリから身を乗り出して見ていたが、完全にカミナギルを見失った。

 カミナギルがリポーターの予想とは違う、遥かに速い速度でジャンプし、そのまま上空へと加速したのだ。

 

 

「あっ!!!!!!!」と言ったまま、実況の言葉が途切れる。

 

 必死で空間を走査するリポーターの目。

 肝心なところを見逃したというパニックでますます視界が狭くなる。

 居ない! どこにも居ないぞ!!

 クソッ、どこだ! どこだ! どこなんだ!

 

 見つからない! 見つからない!

 

 10秒……30秒……50秒……、報道ヘリの爆音が東京湾の海面を叩きつけて響きわたるのに、空白の時間だけが過ぎていく。

 

 リポーターのひたいに玉のような汗が無数ににじみ出てくる。

 

 空を、海を、真下を、背後を、探しても探しても見つからない。

 

 どこだ!? おかしい! なぜだ!? なぜ見つからない! どこだ!!!

 

 若い世代しか居ないテレビクルーたちがカミナギルを見失って動転していた頃。

『海ほたる』の岸壁に並ぶオジサンたちは全員その行方を捉えていた。

 みんな落ち着いてはるか上空一点を見つめている。

 

 実はカミナギルは劇中、空中戦を行う描写が何度かある。

 戦闘攻撃機相手に、ジャンプとスパニア推力で飛び上がり迎撃するのだ。

 設定資料にはカミナギルのジャンプ力が記されていないが、相応の高度に達するであろうことは容易に想像がつく。

 オジサンたちは正確にカミナギルの動きを予測して捉えていた。

 

 そしてそれは自衛隊のヘリも同じだった、自衛隊の上官クラスは初代カミナギルが社会現象を起こしていた『カミナギルブーム』真っ只中を過ごした世代。

 

 当然知っている。

 その機動性を、ヤバさを。

 

 カミナギルのジャンプはただの擲射弾道を描くものではない、それならば弾道計算で容易に撃墜されてしまう。カミナギルのそれは空中で自在に高速機動できるのだ。スパニア噴射と網翼システムを使用すれば、空中で敵の攻撃機にケリを入れられるほど機敏に行動できるのだ。

 

 上官は口を酸っぱくして偵察ヘリのパイロットに指導していた。

「例え射出武器を所持していないとしても、決して高度1000メートル以下で接近するんじゃないぞ」と────。

 

 見えるものも見えないほどあちこち高速で視線をかき混ぜ、目が乾くほどカミナギルを探すリポーターの、その飛び出しきった眼球が、やっと、なんとか、視界の端で異変を捉えたのは、はるか先。

 

「あそこだ!」

「カメラ!あっちだ、あっち!」

「あれだ!!」

 

 それは海ほたるより4.4キロメートル先の海上。

 川崎市浮島の沖合に作られた直径約200メートル。

 海底トンネル換気用の人工島『風の塔』を支える円筒形の台座の盤面上だった。

 

 高さ90メートルと75メートル、門松の竹を思わせる段違いの二本の塔、その塔の間を全高20.8メートルの不穏な人影が駆け抜ける。

 

「ああッッ!!!!」

 

 だが次の瞬間には、再びカミナギルは空中へと飛び上がっていた。

 

「あああああああ~~~~~~」

 

 と、リポーターがなさけない声を漏らしてる間に、カミナギルはさらに4.4キロメートル先の向こう岸、神奈川県川崎側にあるピラミッド状の建物、浮島換気所の手前へと着地し、走り去ってしまっていた。

 いや分からない、そうなのか? よく見えない、おそらくそうなんだろう。

 

 何もかもが予想外過ぎてリポートを忘れてしまっている。

 

「ろ……ロボットは…」

 

「……ロボットは……東京湾を渡りました…………渡った模様です…………」

 

 

 

 

 

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