『神霆戦機 カミナギル』美人フェミさんが 巨大ロボで大暴れするそうです   作:cyanP

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第48話 壊れかけのレイディオ 後編

 

 

 田沼の対応は、業界的にじつにそつのないものだった。

 粛々と反省文謝罪文をしたため『日本視覚産業協会』へ送付。

 七大名会議に詫び状。永久追放になるのかどうかの判断がなされたが。

 

 会議にて七大名の前で詫び状が読み上げられ。

 そこには深い反省および謝罪の意と、『1年間の謹慎』を自ら申し出る旨が書かれており、それならばとその場が収まる。

 

 一年間の謹慎といえば、通常のタレントならばかなりの損害であり致命的な措置である。

 

 芸能界というものは、生き馬の目を抜く、一瞬の油断もならない世界だ。椅子取りゲームにも例えられるそれは、限られた席、ポジションの取り合いなのだ。

 一年間も休めばもう、すっかり誰かが自分のポジションに座りきっていて、容易には代わってもらえない。タレント生命の危機というワケである。

 

 ヤクザに例えるなら、小指を詰めた上に、縄張り(シマ)を一年間放棄するという宣言に値する。つまりそれはヤクザとしての『死』だ。縄張りは二度と戻らない。 

 

 そのぐらい厳しい措置。

 例え売れっ子アイドルの人気絶頂期であっても、事務所と揉めたり海外で充電と称して一年間現場から離れると『終わる』 

 戻ってきても、『あれ? YOUは今更なにをしに?』扱いになるなんてのは前例がいくらもあるので分かりやすいだろう。

 

 それを自分から言い出すことで、まとめて責任を取り。さすがの横暴な七大名でさえ、それ以上の追求を出来なくしてしまった。

 

 上手い。

 

 しかも、ところがどっこい田沼は元々出版業界の人間、作家である。

 ラジオやテレビが封じられても特に狼狽えたりしない。ホームグラウンドはちゃんと別にあるのだ。

 

 芸能界のボスだろうがなんだろうが、必要以上に恐れる必要が無かった。仕事自体はなんとでもなる。そういう読みから、この件に対しても率先して粛々と対応し、【ややこしい連中の溜飲を下げる】という大変めんどくさい問題を、ちゃちゃっと大人の処理をしてみせた。

 

 一番ヤバいポジションの田沼が上手く先鞭をつけてくれたおかげで、番組の聞き手役的なポジションの凛子は、もっと簡単な対応で済みそうに思われたが。それは一般的な感覚であって芸能界ではどうなるかはわからない。

 

 そう、そこが恐ろしいところであり

 この事件の真相。もっともこの業界、この商売、それにまつわる連中の業が出てくるところである。

 

 では、凛子はどうなったか?

 マネージャーが凛子の謝罪文を代筆して提出、幕引きという無難な流れとなるはずが、そうはならなかった。

 

 凛子が男どもの、いや世間全般の興味を駆り立てる女だったからだ。

 たまにそういうカリスマを持ったスターが現れる。どうやら凛子はそれらしい。

 

 この世界で商売をしている目端の利くやつほど痛いほど感じる。

 凛子のパワー。

 あとひと押しでそれは誰にも止められなくなるほど爆発的に膨れ上がるであろう。

 そう……。話題作の『映画』なんかに出たりすれば────。

 

 大きな力。大きすぎる力は幸福を呼べば、不幸も呼ぶ。

 

 この問題が起こらなくとも、凛子は意図せずすでに悪竜の尻尾を踏んでいた。

 

 そんな目立つ女に対して、圧倒的マウントを取れる状況が生じたらどうなる?

 この海千山千の業界人どもが利用しないわけがない。

 

 例の映画の主演の話である。

 当時、芸能界の大ボスが営むオルカニックプロダクションには『渡良瀬りりむ』という新人アイドルがいた。

 ルックスも芝居も歌も申し分ないにも関わらず、いまいち人気が伸びない、弾けない。

 『華がない』ということなのか。生まれついての何かが足りない。

 だが、そんなことはどうでもいい、話題性が無ければ作れば良いのだ。

 

 出せばヒット間違いなしの、某有名映画監督の次回作に『渡良瀬りりむ』をねじ込む算段が進んでいた。

 

 『主演』だ。

 主題歌も歌わせる。

 

 くだらないアイドル映画ではなく、本格的な社会派ドラマの大作だ。

 こいつはデカい。

 いくら地味なこの女でも、必ずや一気にスターダムへとのし上がってくれるだろう!

 オルカニックプロダクションにとっては大きなシノギが見込める絵図であった。

 

 ところがそれを邪魔する者が現れた。

 

『 久喜条凜子(くきじょう りんこ)』

 

 強烈なキャラクター。ひと目で印象に焼け付くとびきりのルックスと発言。

 気難しいことで有名な某監督がこの娘のために脚本を調整するとまで言い出して現場を驚愕させた女。

 圧倒的カリスマを纏うバケモノ。

 

 そんなのに映画の主演を掻っ攫われそうだ、というかほぼ掻っ攫われていると聞きつけたのだ。

 

 その女はオルカニックの肝いり『渡良瀬りりむ』がどんなに欲しても手に入らなかったモノを持っている。

 

『カリスマ(他人を惹きつける強烈な個性)』を佃煮にして売れるほど溢れさせている。

 

 そんな女、『久喜条 凛子』がぽっと出に現れて、オルカニックがあちこち手を回して準備を進めていた映画の主演を持っていかれたと……。

 

 だがここにきて、千載一遇の付け込めるチャンスを向こうが用意してくれたではないか。

 生麦事件のブリカスが如き悪巧みがオルカニック社長の脳裏に湧き上がる。

 

 

 才能があれば成功するなんてことはない。

 むしろ才能が、カリスマがあったせいで凛子は敵を作っていた。

 間違っても敵に回してはいけないヤツに目をつけられてしまっていた。

 

 謝罪記者会見を開かされることとなった。凛子単独で。

 それが芸能界の大ボスが出したご容赦の前提条件。(許すとは言ってない)

 

 『生意気な女に分からせてやりたい』という男の願望がうずいたか。

 いわゆる『わからせ』(R-18用語:生意気な女子供に身の程をわきまえさせる)か。

 

 ひらたくいうと『凌辱』である。

 凌辱とは、人をはずかしめること。特に、暴力で女性を犯すこと。

 

 圧倒的権力により、凛子のプライド、鼻っ柱をへし折り、その精神をグチュグチュに犯して従順にしてやろうという、女を物として扱うヤクザ世界の常套手段。

 

 若くて綺麗で勝ち気で生意気なムカツク女を屈服させたい。というジジイの暗い情熱。

 当然、凛子単独でやらせるべきである。オッサンの田沼などお呼びではない。

 

 執拗かつ陰湿に凛子を責めさいなみ、二度と自プロ所属のタレントの邪魔はさせねーぞという強烈なマウント仕草。

 

 

 なぜ凛子が謝らねばならぬのだ。

 いったい何を謝れと言うのだ。

 

 ここで凛子が殊勝,(けなげで感心なこと)に

「大変申し訳ありませんでした……」なんて

『女の涙』を流しながら素直に記者会見を大勢のカメラの前でやっておったならば、

 まだあるいは『1年ぐらいの謹慎』で済んだかもしれない……。

 もちろん映画の話なんか吹っ飛んでしまうが、それでも首の皮一枚で生き残れたであろう。凛子ならば。

 

 ──だが、するわけがない。

 

 件の真相を聞かされた凛子が激怒。

 

 七大名の大ボスであるオルカニックプロダクションの◯◯◯社長のところへ怒鳴り込み、社長室の机の上にあったヤクルト・ミルージュ200を◯◯◯社長の顔面に投げつけて帰ってきた。

(ホントはガラス製のでかい灰皿を掴みかけていたが、武士の情けでヤクルト・ミルージュ200の方にした)

 

 …………!!!!

 

「やっちまった」

 この凛子の所業を聞いて、誰もがそう思うだろう。

 無駄に敵を怒らせた、馬鹿なことをやらかした。多くの人がそう思うだろう。

 せっかく周りが沈静化するように段取りを付けてくれたのを台無しにしたとも。

 それがヤクザどもの薄汚い言いがかりであったとしてもだ。

 

 そんなことは凛子にも分かっている。芸能界が綺麗事では行かないことも分かっている。分かっているが。どこか奥まったところで好き勝手に他人の人生を喰い物にして遊んでいる輩に、黙ってやられたままにはしておけなかったのだ。業界を縄張りにして、そこで働く人間をどうとでもなると思っている奢った輩に、生身の人間として一発食らわせずにはいられなかったのだ。

 

 本来、調子のいい凛子なら。こんな状況程度。おかんむりのオッサンの一匹や二匹をなだめる程度、心にもない謝罪を、お芝居を、お涙を、平気でチャラチャラとやってのけてしまうぐらい、難なくできたかもしれない。凛子は元々それほど曲者の女である。

 

 だが今は、

 それが出来ない理由が凛子にはあった。

 

 凛子がその運命を分かつであろう決定的瞬間の決断において、決して男の力づくには屈しない。そう決意を固めるに至ったのは、何者でもない、この芸能界がそうさせていたからだ。

 

 それまで、すべてにおいて上っ面だけ、いい加減に調子良く生きてきた凛子が持った唯一の譲れない一線。

 

 波風立てるこだわりなんてダサいと思っていた彼女が、採算の合わない決断をする。たとえ負けると分かっていても戦うのだ。全力で、玉砕覚悟で咬み付いていく。

 

 凛子みたいな女子にはもっとも縁遠い泥臭い執念、似つかわしくない姿。

 死人となりて、敵陣に切り込んでいく武者のごとき覚悟が備わっている。

 

 それまでの周りを振り回す適当でいい加減な女とされていた凛子。もう変えようもない、ゆるゆるの性格に思われた彼女をそう変えさせた出来事があった。

 この芸能界が凛子にさんざん見せつけていた、味わわせていた、価値観を覆した出来事。

 

 それは──。

 

 

 

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