踊っていない夜が気に入らないアビドス生徒なんていません 作:予備肉食
○月✕日
やぁやぁ今日からここに日記を書いていこうと思うよ。
私の名前は
アビドスを彷徨っていて、好きなことは夜に踊ること。
毎日夜に踊ることが日課な至って普通のキヴォトス人であーる。
え?毎晩踊るのが日課なのは普通じゃない?
知るかーいこれが私のスタンダード!好きなことを毎日やってもいいやろがい!
…まぁ昼はともかく夜は特にやることもなくて退屈だし踊るしかないんだよね。
さて、今日の出来事は…うーん特筆して書くべきことがないな〜。
ユメちゃん先輩もホシノンもあれからも相変わらず頑張ってるみたいで結構結構!
ちゃんと仲直りも出来ていい感じ〜。
ただホシノンはユメちゃん先輩にずーっとベッタリだねぇ…流石にトイレに行く時は自重してるけどそれだけのためにわざわざコンパス持たせるってよっぽどだよホシノン。
こんなところかな。
今日の踊りのキレはいい感じだった!
△月□日
やっほ〜踊メグルだよ〜。
今日の砂漠はところにより砂嵐が吹き荒れてる以外異常なーし。
そういえば今日は将来有望そうな子を見かけたな〜。
あれは将来ユメちゃん先輩くらいでっかくなるとみたね、間違いない。
遠目からホシノン達を陰から見てたけどなにしに来たんだろ?
あの制服って確かネフティス中学のだっけ。
卒業後はウチに来てくれれば嬉しいけどウチは3…2人しか居ないし来ないだろうな〜。
望み薄って考えてた方がよさそうだね。
しかし新入生か…ユメちゃん先輩も今年で卒業しちゃうし誰か入学してくれないとホシノン寂しくなって死んじゃうよ〜。
せめて1人でもいいから入って欲しいし頑張れのエールを沢山送っておいた。
今日の踊りもアビドスの未来に捧げるぞー!
○月■日
おいっすー今日も元気な踊メグルちゃんだよー。
なんと今日は遂にユメちゃん先輩卒業の日だー!祝えー!
なんだぁそのスピーチは…?いいスピーチじゃねーかチクショー!!ブラボー!!
うう…あんなにおっちょこちょいで死にかけてた先輩がこんなに立派になって…!
そしてホシノンもこんなに成長して…!
感動で涙止まんねーよぉ!!
ん?なんかホシノン涙出そうになってるの我慢してない?
我慢するなぁー!!!バカヤロー!そこはしっかり泣いとけー!
あ、泣いた。そうそうそうだよそれでいいんだよ。
それはそれとしてどうやらユメちゃん先輩は卒業後はカウンセラーになるとか。
確かにあの包容力に包まれればどんな悩みも吐き出しちゃいそう。
やっぱり天職なんじゃないかな〜。
まあ多分カウンセラーならアビドスにまた来れる可能性あるけどユメちゃん先輩アビドスの内情知ってるだけに負担になるからってお金取ってこなさそうなんだよねぇ。
そうはいかないとホシノンもお金を渡そうとするんだろうなぁ。
……本当に卒業できて良かったねユメちゃん先輩。
直接言うことは出来ないけど心からの祝福を…卒業おめでとうございます。
今日の踊りはあなたのために。
その日アビドス高等学校では2人だけの卒業式が行われていた。
1人はこの学校を巣立つ生徒、梔子ユメ。
そしてもう1人、学校に残り送り出す生徒、小鳥遊ホシノ。
卒業生が1人なので進行はとても早く、着々と卒業の時が迫っていく。
そして早くも卒業生のスピーチが始まった。
「卒業生代表挨拶。冬の厳しい寒さも和らぎ、桜の蕾が色づく季節となりました。…ふふっ、固い挨拶はこの辺にしておこっか」
「ユメ先輩まだ始まったばかりじゃないですか…まぁいいですけど」
元からそこまで張り詰めてこそいなかった空気が完全に弛緩する。
向かい合う2人の表情はとても穏やかで、それでいて少し寂しさを纏っていた。
「ありがとう。…ホシノちゃんはさ、あの日のこと覚えてる?ほら、署名を集めててホシノちゃんに助けて貰った時のこと」
「…ええ、よく覚えてますよ。今となっては忘れて欲しいくらいですけど」
「あの時ね、凄く心細かったんだ。誰も相手にしてくれなくて、それでも私は生徒会長だからどうにかしなきゃーって躍起になってて」
「そんな時にね、天使が舞い降りたんだ。風で舞った紙をわざわざ拾ってくれて、不用心な私を不良から守ってくれて、それでいて可愛い、そんな人が」
「美化しすぎじゃないですか?」
「そんなことないよ、全部事実だもん。…正直に言うとあの時の私はちょっと諦めかけてたんだ。やっぱり1人じゃ無理なのかもって。そんな時にホシノちゃんが現れてくれてね、私とっっっても嬉しかったんだ」
「私結構酷い態度とってたと思うんですけどそれでも嬉しかったんですか?」
「?ずっと優しかったよ?むしろ忠告を聞かなかった私の方が酷いくらい」
「はぁ……そうですね、ユメ先輩は人の忠告を全く聞きませんでしたね。砂漠に出る時はコンパスは絶対忘れるなって何度言っても忘れてましたし」
「ひぃん…い、今はもう肌身離さず持ってるもん!」
「それが当然です。…特に先輩はうっかりすると死んじゃいます。あの時私がどれだけ探し回ったか」
「あ、あの時はちゃんと持ってたんだからね!?本当だよ!?」
「仮に本当だったとしてもどこかで落としていたら意味がないでしょう。虎の子のリュックサック型水筒も穴が空いた欠陥品掴まされてますし。…本当によく生きて帰ってこれましたね」
「本当に不思議だよね。私ももう駄目だと思ってたのにいつの間にか助かってたんだもん。かなり衰弱してたから記憶がハッキリとしなくて大したことも覚えてないけど」
「私も必死だったからか当時の記憶があんまりありませんね。ただ死にものぐるいで先輩を探してたとしか」
砂漠で約1ヶ月の遭難。普通に考えて生存は絶望的な中ユメは奇跡の生還を果たした。
「私が今生きてるのって夢みたいだよね」
「やめてくださいよ、縁起でもない」
「ふふっ、そうだね。夢じゃないもんね。それじゃあそろそろちゃんとした挨拶として締めよっかな。……今日までアビドス自治区の方々、そしてホシノちゃんに支えてくれたお陰で私は今卒業の日を迎えることができました。今まで見守ってくれて、助けてくれて、本当にありがとうございました。最後にアビドス高等学校の復興と、ホシノちゃんと新入生の健康をお祈りして、卒業生代表挨拶とさせていただきます。以上、アビドス高等学校、梔子ユメ」
ぱちぱちぱちぱちと1人分の拍手が2人だけの室内に寂しげに響く。
ユメはそれに満更でもなさそうにエヘへと笑いながら自分の椅子に座り、そして今度はホシノが1枚の紙を握りしめて立ち上がる。
在校生代表挨拶の始まりだ。
「先に言っておきますけど私はユメ先輩みたいに挨拶はなあなあでやりませんからね。こうやって文書もちゃんと作ってきましたから静かに聞いていてくださいね」
「うん、わかった!」
「…在校生代表挨拶。春の陽気が穏やかな今日、桜の花々がまるで本日という日を祝福しているかのようです。ユメ先輩、ご卒業おめでとうございます。1年前、先輩と初めて出会った日のことを私は少し後悔していました。もう少し、優しく声をかけることが出来たんじゃないか、先輩に対して失礼な態度だったんじゃないか、と。
しかし先輩はそんな私をなんでもないように優しく、温かく歓迎してくれました。それだけではなく、先輩は大オアシスへの花火探しや、生徒会の谷への宝探しなど学校の復興を考えながらも私のこの学校での生活を少しでも彩ってくれようと頑張ってくれました」
ホシノがちらりと前見るとニコニコとした顔のユメと目が合った。
もっと続きを聞かせてと黙って促してくるユメに少し頬を緩ませながらホシノは続きを読み進めていく。
「私は『弱っちいユメ先輩は私が守ってあげないといけない』と常々思っていました。これは実際そうでしたが、正しくはそうじゃありませんでした。私たちは『守り護られ』の関係でした。私がユメ先輩の身を守り、ユメ先輩が私の心を護ってくれていた。それを大きく感じたのは、皮肉なことにユメ先輩が遭難して死にかけた時でした。
もしユメ先輩が帰ってこなかったら、私はあの日した残した酷い言動を一生呪うことになっていました。そしてそんな私をユメ先輩は出会っ時と同じように赦してくれました。
結局のところ私の方がユメ先輩の多大な優しさで護られていたらしいです。ユメ先輩、今の私はどうですか?あの頃に比べて成長出来ていますか?なんにせよ先輩はもう卒業するのですから心配させる訳にはいきません。ユメ先輩は私にとって本当に理想の先輩でした。私は先輩の護るを受け継ぎ、後輩を真の意味で守ります。
私は…わた…し…」
声が震え、俯くホシノ。彼女の作った原稿用紙に落ちた雫が書いた文字を滲ませる。
だけど問題はない。問題は無いのだ。
残り数行で、このスピーチは終わるのだから。
溢れる涙を堪えてユメと目を合わせる。
「私は先輩から、溢れるくらいの優しさを貰いました。幸せを貰いました。
堪えたと思った涙はやはり溢れていた。
酷い顔なんだろう。
しかしホシノは決して俯くことはなかった。
ユメの目を見て全て言い切った彼女の目には別れの寂しさこそあれど、憂いは無かった。
「最後になりましたが、ユメ先輩のこれからのご活躍とご健康をお祈りし、お祝いの言葉とさせていただきます。以上、在校生代表、小鳥遊ホシノ…ってうわユメせんぱむぐぐっ!」
感情が抑えられなくなったのだろう、スピーチが終わるやいなやユメは立ち上がってホシノに抱きついていた。
「ボジノ゙ぢゃ゙ぁ゙ん゙!!!私゙ボジノ゙ぢゃ゙ん゙が後゙輩゙でぼん゙どに゙よ゙がっ゙だぁ゙ぁ゙ぁ゙!!!」
「っ……私も、ユメ先輩が先輩で本当によかったです」
………こうして名残惜しくもアビドス高等学校の卒業式は無事に終了した。
「ホシノちゃんこれあげる」
「あげるって、これユメ先輩の盾じゃないですか…」
「いいのいいの、卒業生から在校生への贈り物だよ」
「でもユメ先輩私より弱いのに盾なんか捨てたら死にますよ?」
「ひぃん…言葉が強いけど否定できない…。えっとね、私はこれから卒業してホシノちゃんにはこれから後輩ができるでしょ?」
「ええ、そうですね。二人できます」
「だったらホシノちゃんにはその盾が必要になるはずだよ」
「え…?」
「ホシノちゃんが強かったから、私はそんなに守るってことが出来てなかったかもしれないね。それでも私なりにこの盾でホシノちゃんを守るぞーって頑張ってたんだ。でも卒業すると守るのは私1人になっちゃって、そうなるとこの盾は自分だけを守るには大きすぎるかなって。だからね、ホシノちゃんはこれから入ってくる後輩のことを…この盾で守ってあげて」
改めて差し出されたユメの盾をまじまじと見つめて手に取る。
それはかつてユメがホシノを守るための盾だったもの。
その盾が今、ホシノが後輩を守る盾へと変わる瞬間であった。
ホシノはなんだか少し重く感じるのと同時に、力が湧いてくる感覚がした。
「…分かりました、この盾は有難くいただきます。それはそれとして今日は途中まで皆で送っていきますけどユメ先輩は何か新しく自衛手段を用意してくださいね。ユメ先輩は銃1つじゃ心許ないんですから」
「ひぃん…が、頑張って働いて何か用意するね…」
「そういえば卒業したら何するか決めてるんですか?」
「あっそっか言ってなかったね。私カウンセラーになるんだ」
「カウンセラー、ですか?」
「うん!性格とか人当たりとかがいいから向いてるって言われてたから目指してみようって思ってたんだ」
「へー、誰に言われたんですかそれ?」
「え?えーっと……誰だっけ?」
「…まさか騙されてたりしないですよね?」
「ほ、本当だよーっ!?ちょっと誰に言われたかは思い出せないけど絶対向いてるって言われてた気がするんだよ?」
「はぁ…まぁでも確かに向いていそうですね。応援してますよユメ先輩」
「うんっ、いつか必要になったら私のこと呼んでもいいからね!」
お互いのこれからの話に花を咲かせながら校門に向かう2人。
校門には2人分の人影があり、ユメとホシノに手を振っている。
あれが件の後輩候補生だ。
「ユメせんぱーい!ご卒業おめでとうございまーす!」
「ユメ、卒業おめでとう」
「わぁー!ノノミちゃん、シロコちゃんありがとう!」
「ノノミちゃんもシロコちゃんも卒業式に参加してもよかったんですよ?何もこんなところでずっと待たなくても…」
「そうだよー。気を遣ってくれなくてもよかったのに」
「いえ、そういう訳にもいきませんよ。1年間苦楽を共にしてきたお二人なんですから積もる話もあったはずですし」
「ん、生徒水入らずであるべき」
シロコがキリッとした顔でサムズアップしてみせた。
ホシノは気を遣われて申し訳ないと思う反面、最後にちゃんと向き合って言いたいことを言い合える場になりとてもありがたかったのでなんだかなぁと頭をかく。
「うんうん、ホシノちゃんもついに先輩か〜。ちゃんと優しくしないとダメだからね?もうちょっとだけ話し方とか柔らかくなったらなぁ…。目を輝かせてる時のホシノちゃんとかすっごく可愛いのにもったいない…」
「…いやそれは流石に」
「あれ?ユメ先輩知らないんですか?ホシノ先輩たまに自分のことおじさんって言ってますよ?」
「ちょっ、ノノミちゃん!?」
「ん、最近はうへ〜が口癖になってる」
「シロコちゃんまで!?」
「え、何それ知らない!ホシノちゃん、帰るまでに洗いざらい全て吐いてもらうからね!」
「は、話してやるもんですか!」
そのまま4人でわちゃわちゃと喋りながら校門を離れていく。
そこでユメはおもむろに足を止め振り返った。
たまに遊びに来るかもしれないけれど、しばらくはもう見ることは出来ないだろう校舎を目に焼きつけていく。
「今までお世話になりました!来年からはホシノちゃんとノノミちゃんとシロコちゃんをよろしくお願いします!」
そう一礼してユメはホシノの横へ戻っていった。
卒業生が去った後には門出を祝福するように桜が風に揺れていた。
卒業後の話を考えるのは難しい。
続くかな? 続けばいいな ホシノ好き
8/1(追記)
よくよく考えてみたら時系列的に既に後輩二人と接触してる事に気づいたので少し書き直しました。