無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記 作:ルヴレ
一年目 1月2日。
やほー。銀髪赤目実験台系美少女のF51だぜ!
なんかよくわからないけど、実験施設をぶっ壊して、助けに来てくれたらしいおねーさんに、日記なるものを貰ったので、書いて見てる。
いやー。しかし、何を書けばいいの?
てか昨日の実験から何も食べてないのでお腹すいたんだが。51ちゃん、泣いちゃうよん。
え? テンションダルい? 日記ってこう言うの書くんじゃないの? 隣の部屋の111君が言ってたんだけど。
ま、それはともかく、向こうからいい匂いがするぜ。あれは、シチューだね? 51ちゃん天才だから、知ってるよ?
あのおねーさん、やべー人2号だったらマジで辛いんだが。いきなりかびたパンとか牛乳渡されたら、泣くぞ?
いや、んー。確かに助けてくれた時も、意味わかんないこと言ってたよ? 実験道具にする、とか。白日の下に晒す、とか。あ。(察し)
もしかして、51ちゃんの可愛さに見惚れちゃった? で、自分の見た目の参考にしたいのかにゃ? おねーさん綺麗な人だけど、なんか怖い雰囲気あるしね? うんうん、なるほどなるほどー。
そういうことにしとこう。
おっと、ここでおねーさんに呼ばれたから、今日はおしまい。かびたパンだったかどうかは、明日報告するぞー。
一年目 1月3日。
衝撃の事実。シチューは美味い。……はい。と言うことで、昨日は無事、初めてのあったかいご飯を食べれましたとさ。
いや、怪し過ぎだっての。あのおねーさん、絶対なんか企んでるな? こちとら実験台歴十六年だぞ? あのおねーさんには、私のやべーやつセンサーが鳴り響いてる。間違いない。あの人、やばい人(確信)。
いや、だってね? あの人、私に変なこと言ってきたから! キミの体じゃなくて、中身に興味がある、とか。感情は、私たちで作っていこう、とか。
いや、何言ってんの。天使のような、優しくて寛容で慈悲深い心を持つ51ちゃんでも引いちゃうよ。
51ちゃん、感情あるからね! あと、中身に興味あるって何!? 怖すぎだって! え? もしかしてそう言う奴ですか? (察し) もしかして ロリコン?
いやー、確かに51ちゃん現役の十二歳女子だけども……。
鳥肌立つぜよ。やめてくだせぇ。
とにかく、あのやべー人は警戒しつつ、逃げどきを見計らいたいぜ! 51ちゃんなら出来る!
この世界は、悪意と殺意に満ち溢れている。人を殺すとお金を手に入れることができる。そんなルールで構成された、平民の社会では、その傾向は特に強い。
そんな、悪意と殺意に満ち溢れた、貴族以外の街に立ち寄った私は、あの子と出会った。
平民街にある、実験施設の研修を目的として、私は派遣されていたのだが、その酷さにまず、驚いた。
実験施設内には、ボロボロに傷つけられて、泣いている子供たちが閉じ込められていたからだ。
檻の中には、時折赤いものが見える。血だろう。虐待を受けているのだろうか。
「あれは、何?」
私が問い詰めて見ても、研究員は、何とも思わないらしい。
「あれは、完成品に処分をさせる予定の失敗作ですよ。感情がなくなった完成品に失敗作を殺させて、我々はお金を得ることができるんです」
「……ふーん。感情がないなんて、興味深い」
私は気付けばそう口にしていた。
研究員は、完成品に興味が出たと受け取ったのだろう。媚びた笑顔で、私にこちらです、と呼びかけてきた。
「これが、完成品のF51です! 無表情無感情、しかも強い! これこそが、理想の戦闘用ロボットです!」
完成品──あの子との出会いは、これが最初だった。
私はそのケースに閉じ込められた少女の瞳に、飲み込まれそうになった。
陶器のような白く滑らかな肌。質素なワンピースを身に纏っていて、その腕からはところどころ傷痕が見えた。
すっと鼻筋の通った鼻。やや血色の悪いが形のよい唇。どれも美しいパーツで構成されている。しかし、何と言ったってその赤い瞳。全く光がこもっておらず、死んだ魚のような目をしていた。
表情も、ピクリとも動きはしない。私の方を向いたが、何とも思っていないようだ。
私はそんな彼女に、興味心が湧いた。
「キミの名前は?」
「………………(え? 誰? 怪しくない?)」
少女は、無表情のまま何も言わない。しかし、研究員の方を向いて、小さく口を開いた。
「(殺されるのは嫌だし一応取った方がいいっすよね?)許可を」
鈴を転がすような、可愛らしい声だ。しかし、同時に無表情な声色だった。
「いいだろう。話しなさい」
研究員が、偉そうに許可を出した。少女はようやく私の方を向いて、一言だけ口にした。
「(やほー)F51です」
「F51……。名前はつけられてないのか」
私はこの少女が、どんどん哀れに見えてきた。無表情無感情に育て上げられ、名前さえつけてくれない。
挙げ句の果てには、毎日人殺しをさせられる。
私の冷たい目線に気づいたのだろうか。研究員は、少女をケースから出すと、少女を連れながらこちらです、と手招きしてきた。
「F51は、最強の戦闘道具です。今から強さをお見せします!」
強さか。別に興味がない。私はこの少女の感情というものに、ひどく惹かれている。逆に言えば、それ以外は特に惹かれていないのに。
何個か、少女のような無表情な実験台の入ったケースを通り抜けた。
同じような通路を歩き続け、ようやく広いところに出た。
研究員は、通路についていたドアを閉めて、鍵をかけた。
「失敗作を連れてこい。始末させる」
「(えー、また? 嫌なんだけど? え、殺さないと、51ちゃんを殺す? しゃーないですねー)はい。わかりました」
少し違う服を着た研究員が、コンピューターを操作して、一人のおどおどとした少女を無理矢理連れてきた。
「嫌だ……! 嫌だっ! 殺すのね!? そうでしょ! 私知ってるんだから!」
「やれ」
命令され、F51は動き出す。
斧を構えて、F51は一歩前に出た。
「や、やめて! 殺さないでっ! お願い! 私、まだ死にたくな……」
F51は、無言で泣き叫ぶ少女を、一振りで殺した。
ものすごい腕力だ。もしかして、改造でも施されているのだろうか。
泣き叫んでいた少女は、キラリと光り、いつの間にかお金に変わっていた。
F51は、無表情でそれを見ている。
私は酷く気持ちが昂るのを感じた。ああ! ダメだ、この子をこのままにしたくない!
無表情無感情だなんて、可哀想で仕方がない。
「私が、救ってあげる」
私は一本の蝋燭を取り出した。
この世界では、一人一つ、生まれたときから武器を持っている。何が出るかは、完全にランダムだ。
そして、その武器を使って人を殺したら、お金をもらえるのだ。
私の武器は、この一本の蝋燭だった。
「さぁ、ショーの始まりだ。この閉鎖された空間で、キミたちは生き残れるかな?」
「せ、セレスト様。い、一体何を?」
「私はこの子のことが、気に入った。キミたちに興味がなくなっちゃったから、もういらない」
私は蝋燭で、実験室に火をつけた。この火は、私にダメージが入ることはない。
私は少女を抱き抱えた。抵抗する様子はない。抵抗しろと言う命令があればするだろうが、彼女は無感情だ。
命令がなければ、何もできない。
「初めまして。理想の実験台、F51。今度から、私がきみのご主人様になるのだよ」
「主? (何言ってんの、この人)」
「大丈夫。いずれ分かるさ。これからきみは、私の実験道具になってもらうのだから。私は彼らのように、きみの心を痛めつけたりはしないさ。ただ──キミの身体ではなく、中身に興味があるんだ。
安心したまえ。きみを救うために、私が奴らを白日の下に晒してあげよう」
私は少女に安心させるように微笑んだ。
そして、F51を抱えたまま────堂々と研究室から出ていったのだった。
「どうかい? シチューは美味しいかな? コピー品ではない、本物の野菜と肉を使ったんだ」
「(めっちゃくちゃ人生で一番)美味しいです」
「……そうかい」
F51は、別に美味しいとは思っていないのだろう。きっと、最善の選択肢を選んだだけに過ぎない。
無表情で、無言で食べるF51は、美味しく食べているようにはちっとも見えなかった。
「そういえば、きみの名前はF51だと言ったね」
「はい」
「他に名前はないのかい? もっと人間らしい名前は」
F51はしばらく悩んだ後、「ありません」と答えた。
「うん、そうか。なら、私が新しい名を考えてやろう。明日には、考えておくからね」
「はい。(ま、F51で満足なんだけど……)」
F51はどうでも良さそうに言って、またご飯を食べ始めた。私はその様子を眺めながら、これからのことを考える。
F51に、感情を与えたい。それが、私の反逆の第一歩の実験だ。
感情を植え付けられる方法を、何としてでも考えなくてはならない。
「きみに誓おう。私はきみに感情を与えると。共に感情を取り戻そうではないか」
「……。(え? どゆこと? 51ちゃん感情あるんだけど? 何言ってんのこの人)」
私はF51の手を握り、その無感情な瞳をじっと見て誓ったのだった。
勘違いものはいいです。