無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記   作:ルヴレ

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おや?フリッカちゃんのようすが...?


十ページ目。

 

 一年目 8月15日

 

 同期くん、めちゃくちゃ不器用。

 

 はー。フリッカちゃんも人のこと言えないけど、同期くんもダメだね。刺繍どころか手縫いすら難しそう。

 フリッカちゃん? 手縫いすらできないぜ! 玉結び? なんかそんな技ができなくてねー。針は折らなくなったんだけど、やっぱ難しいわー。

 

 それにしても同期くん、手伝ってくれるなんて、やっぱり優しいぜ! 口は悪いけど! 口は悪いけど! (大事なことなので二回言った)

 セレストの誕生日まで、あと二週間! 頑張らないと! 

 

 

 一年目 8月23日

 

 あれから8日……。フリッカちゃんは裁縫名人になったのであった……。

 と言うのは半分冗談! 

 フリッカちゃん、なんとか刺繍やり終わったぜ! 疲れたー。

 あんまり上手くはないけど、出来る限りは尽くせたはず! 

 あとはセレストに手紙を書かないと! ……なんて書けばいいの? フリッカちゃんは感情あるからね? とか、書いちゃう? 

 流石に誕生日に書くのは良くないかなー。

 えーっと、まずはお誕生日おめでとう、とか? フリッカちゃん、きみから教わった文字以外書くのは下手だから、読めないかもなー。

 

 ま、でもこう言うのは気持ちさ! うんうん。きみもそう言ってたし。

 

 

 一年目 8月31日

 

 料理の練習もした。プレゼントのラッピングは……ちょっとぐちゃってなってるけどばっちり! 

 はぁ……。やほー。寝起きのフリッカちゃんです。眠たい。

 今日はセレストの誕生日。なんだけど……。はぁ。怖いや。

 自分でも何が怖いかよくわかってない。

 少なくとも、喜んでくれなかったら悲しいから怖い、とか、失敗したらと思うと怖い、とかそう言うわけじゃない。

 セレストは何があっても、間違いなく喜ぶ。セレストは、そう言う人だから。私がセレストのために尽くすことは、セレストの実験が進む。

 セレストは、実験が進むことを一番重視する。だから、喜ぶ。

 分かってるのに、なんで怖いんだろ? 手が震えちゃう。

 ……ねぇ、こんなことしてて、いいのかな。きみのフリをしていて、いいのかな。また教えてね。111番。

 

 

 

 殺して、殺して、また殺して。

 時に傷つき、傷を焼き、苦痛にもがき苦しみ、なんとか傷を治す。

 そして、また殺して、嫌われて、怖がられて、避けられて、それでも殺す。

 だって、死ぬのは怖いから。そう思う私は、落ちこぼれだ。「本物」にはいつまで経っても敵わない。

 

 

 

「フェデリカ。いくら何でも下手すぎないかい? ラッピングもぐしゃぐしゃだし」

「…………そう?」

 

 僕はフェデリカの完成させたらしい、透明なラッピングから見える刺繍を見て、思わず言った。

 数日前、フェデリカは僕に手伝うように言ってきたが、「下手」と一言ダメ出しされた。……なんかコイツだんだん僕みたいになってきた気がする。口が悪くなってきた。

 技術的には……針を真っ二つに折っていたときよりは……まぁ、成長したと言えるだろう。

 しかし、あれは刺繍……なのか? 確か花を刺繍したとか何とか言っていたが。

 目の前にあるのはどう見ても潰れた卵焼きの刺繍である。

 

「どこが、花?」

「ほら、ここが、花びら。……ここが……なんか、あれだよ、あれ……あ、そうそう、真ん中のとこ。アセビの花を作った」

「意外に君って語彙力がないよね」

 

 今日はセレストの誕生日。毎日夜なべで作っているのか、フェデリカの隈がすごいことになっている。

 今日、セレストは夕方まで実験で帰ってこないらしく、料理をサプライズで用意できるいいチャンスだ。

 

 …………しかし、僕は知っている。メルティがフェデリカのしようとしていることを察知し、無理矢理セレストにスケジュールを詰め込んだことを。

 そして、都合よく料理の素材が置いてあるのも間違いなくあいつのおかげだ。フェデリカはラッキーとしか思ってないようだが。

 

「……ねぇ、もしかして珍しく正しく伝わってない? なんか勘違いされてなくない? ヤバい」

「やば……? 何なんだい、それは?」

 

 フェデリカは一瞬顔を輝かせたが、顔をぶんぶんと振って料理本を開いた。

 

「そうじゃなくて、よし、頑張らないと!」

「そうだね。何を作るの? 簡単なのにしときなよ?」

 

 フェデリカは、レシピ本を開いて、とある写真を指差す。それはマカロンの乗ったケーキ。……正直無理そうである。マカロンって確か難しかった気がするのだが。

 

「これ……やりたい」

「…………後悔しても知らないからね?」

 

 

 そして二時間後。マカロンは案の定大失敗して、ただのケーキだけが完成した。今、僕たちは、失敗したマカロンのような何かをたべながら、ケーキの飾り付けをしている。

 

「それにしても……クレス、ケーキ作りは得意なんだね」

「クリストが作らせてくるからね」

 

 僕は遠回しに「甘いものが食べたいですわぁ」とだけを言ってくるクリストを思い浮かべて、すぐに消した。あいつの顔はなるべく見たくない。

 

「よーし、次はハンバーグを作ろう。フリッカちゃんに……任せといて」

「ねぇ、君そんなキャラだった?」

「え? ……うん」

 

 フェデリカのテンションが高い。あまりにも高すぎて普段との差に驚く。

 まず、何なんだ。自分をちゃん付けって……。それにフェデリカは料理がすこぶる下手なのだが、自覚はないのだろうか。

 

「ま、いいや。時間がないし、急ぐよ」

 

 

 僕たちは、たくさんのご馳走を用意して、部屋を飾り付けた。

 しかし、あと少しでセレストが帰ってくるというときに、フェデリカの様子がおかしくなった。

 

「フェデリカ、何で震えてるんだい?」

「…………。分からない」

 

 フェデリカは、ガタガタと震えていた。アイスを食べた時、怒った反動で震えてしまったフェデリカを思い出す。もしかして、嬉しいという感情に、拒絶反応が出ているのか? 

 

「……多分、怖い」

「失敗するのがかい?」

「……ううん、違う。でも──」

 

 フェデリカは、首を横に振る。そうしてから、ふと大人っぽい表情で笑った。

 唇が上がるだけでなく、目尻まで下がる笑み。顔のいい彼女が笑うとそれはそれは美しい。しかし、どこか諦めたような表情でもあって。この表情は、とてもフェデリカらしくなかった。

 

「……いつもみたいにふりをするのは、もうやめようと思った」

 

 

 

 最初の日。

 私────フェデリカはセレストに拾われた。

 そして、日記帳をもらう。

 

「……誰が一番普通の人間か」

 

 日記を書こうとしていたペンが、日にちのところで止まってしまう。

 仕方なく、自分の中で人間らしい人物を思い浮かべる。やはり思いつくのは、111番──きみだった。

 

「彼女なら、こう書くだろうな」

 

 一ページ目に、やほー、と書く。彼女が朝起きるたびに叫んでいた意味のわからない言葉。

 恐らく、最初に書くのがいいのだろう。

 何て書けばいいか、よくわからない。だから、きみの真似をする。だって、どうでもいいから。

 

「そう思わないと、また殴られたときに、苦しいから」

 

 あのお姉さんは、危険な人だ。それは何となくわかる。私のことは実験動物としか見ていない。

 実験動物として、相応しい表情をしないと。無表情、無感情。それを心がける。でも実はね、本当は知ってるの、私。楽しいも、悲しいも、嬉しいも、怒りも。

 でも、思い出しても苦しくなるだけだから。蓋をしないと。いつも通りに。

 

 

 次の日、お屋敷から逃げ出した。わざと怖いという感情を見せてあげる。昨日にわかったけど、あのお姉さんは、私に感情ができることを望んでいる。

 そして、無表情無感情と勘違いしてる。

 それにしても、どうしてそんなに可哀想と言わんばかりな目で私を見るんだろう。

 私は幸運なのに。みんなが殺されている中生き残れた運の良い実験台なのに。丈夫でよかった。お陰で八つ当たりに殴られても、死なないもの。

 ああ、それにしても日記は難しい。でも、きみに渡すならしっかり書かないと。

 

 次の日も、次の日も、また次の日も。

 感情が少しずつ出てきたかのように演じる。笑って見せたり、怒って見せたり、泣いて見せたり。

 ただ一つ、うまくいかないことがある。みんなにきみの真似をして喋っては見てるけど、効果を感じない。……口が強張って動かないのだ。殴られるのが怖い。

 

 

 そして、今日はセレストの誕生日会。私は嬉しいを見せることを恐れている。

 

「ふりって、何だよ?」

「今から言うこと、内緒にしてくれないかな?」

「……言える相手がいるとでも思ってるの?」

 

 私はクレスに全てを話すことにした。本当は無表情無感情なんかじゃないこと。今まで感情が成長しているように見えたのは、全てセレストのためにやっていた演技だと言うこと。無感情じゃないと辛いときに余計に辛く感じるから、感情に普段は蓋をしていること。

 けれど、嬉しいを演じると感情の蓋が大きく開いてしまうこと。だから、嬉しいふりはできないこと。

 

「君、馬鹿じゃないの?」

「え?」

 

 クレスはそれだけしか、言わなかった。

 何が馬鹿なのか、わからない。クレスは私を睨みつけた。

 

「……セレストに、そのことを話さないの?」

「うん」

「君は、今でもあいつがフェデリカを殴ると思ってるのかい?」

「……思って、ない」

「ならどうして、話さない」

「セレストが、悲しむから」

 

 悲しんだら……私が………………。ダメだ。無表情無感情を意識しないと表情に感情が出てしまう。

 ぎゅっと服の裾を握った。そうしないと、辛くなる。

 あれおかしい。どうして私は辛いんだろう。今まではこれが一番辛くない方法だったのに。

 

「セレストの望みは叶えてあげたい。だから、言わない」

「……分かったよ」

 

 私は、きみのふりをやめた方がいいのだろうか。きみを演じるとこころが痛む。

 ねぇ、111番。私は、どうすればいいの?




フェデリカ視点がなかった理由。
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