無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記 作:ルヴレ
「三井空、あなたはトラックに轢かれて死んだのです」
「あ、テンプレじゃん」
私はいつのまにか死んでいたらしい。ここは、天国だろうか? 女神様らしきひとがいる。異世界転生をするパターンではないだろうか?
「転生特典はなんすか?」
「……あなたは、私と同化して死にます。だから……あなたは、無表情無感情のフリを、やめてください。お願いします」
「へ?」
急に意識が暗転する。どんどんと記憶が消え去る。私は助けを求めようと、女神様に手を伸ばした。
しかし、女神様は私の手をつかまかった。
やほー。歩きスマホしてたらトラックに轢かれてた系転生をした三井空でーす!
いやー。油断してたわ。家を出て十歩目くらいで死ぬなんて思わないじゃない?
ま、転生したって事は、どうせ異世界転生だよね? と信じて空ちゃんは生きているのでした。
やってみたくない? エターナルフォースブリザード! あと、夢まで見た魔力最強系とか。剣術最強系もカッコいいよね。無双してぇ。とにかく、異世界転生は夢がいっぱいなんじゃー。
……それなのに。
「……クソ過去重い系ヒロイン確定っすね」
何ということでしょう。
転生してからのこの三年、平和にお母さんたちと過ごしていたはずが、誕生日の次の日の朝には、実験台になって閉じ込められていたではありませんか!
そんなことってある!? 昨日の夜何があったの?
「あまりうるさく話すと怒られますよ」
「あー。無表情美少女系ロリは癒されるわー」
しかーし! 私と同室の女の子は、めちゃくちゃ可愛いロリ! ラノベなら、主人公に奴隷として買われて懐く系ヒロイン間違いなしである。──それを言うなら私もロリだけど!
「いいじゃん! あ、ここ地面土だしー、双六やろ! 双六!」
「すごろく……? 双六とは何ですか?」
「ワハハ! 私に任せて、楽しみに待っててね!」
不思議そうにしている、無表情系ロリこと、実験No.F51。51ちゃんって呼んであげよっかな?
51ちゃんが首を傾げている中、私は地面に指でマス目を書いていく。
そしてゴールまで書き終えて、まずいことに気づいた。
「サイコロないじゃん」
サイコロがないと、できない。代用品を探すが、残念ながら、大きめな石すら見当たらない。
私はがっくりと肩を落とした。
「ごめん。できにゃいぜ! 仕方ないし、ガールズトークでもしようぜ!」
「があるずとおく?」
私は頷いて、自分の理想を語り始める。
「ここは異世界確定じゃん? なら、私はチート無双をしたいね!」
「ちぃとむそう? とは?」
「あー、それはねー」
私は51ちゃんに向かって説明をする。その後も色んなことを話していたら、実験の時間が来てしまった。
「コイツを殺せ」
いきなりやってきたおじさんに、そう命じられる。
泣きながら暴れている子供を連れていた。口元を縛られているので、声は出ていないが、明らかに嫌がっている。
…………え? マジ? 鬱系の異世界系? ダークファンタジーってやつ? 私は困惑して動けなかった。
51ちゃんは慣れているのか、蝋燭を取り出して、子供に引火した。
「え」
肉の焼ける匂い。鼻が曲がりそうだ。しかし、その匂いはすぐに消えた。
子供がお金に変わったからだ。
why? お金に変わるのは魔物だけだよね? 普通?
人間も魔物扱いなの? え? 怖すぎ。
しかし、それが普通なのか、おじさんも51ちゃんも気にする様子はない。それどころか、おじさんは熱心にデータをとっている。
「やはり、F51と名付けただけある。お前は完成品だな。
それに比べて、111番。お前は何なんだ。何にもしないで立ち尽くしやがって」
あ。(察し)
ここ、殺し屋育成系の実験所? やばたにえん。よし、なんかそれっぽいこといって誤魔化さないと。
「すみません。次は確実に殺します」
「……ふん、それでいい」
やったー! 選択肢合ってたみたい! これ失敗したらマジで死にそうだなー。……次は人殺ししないとダメなのかも。
おじさんは不味そうなご飯を置いて、去っていった。
「けっ! 何なんだよー! 人殺しなんてしたくない!」
「どうしてですか?」
51ちゃんは不思議そうだ。
生まれた時から殺し屋なのだろうか?
「だって、人殺しって悪いことじゃん。私、悪いことなんてしたくないから!」
そう言っていた最初の日が懐かしい。
どうやら、この異世界、人殺しがノーマルらしい。わけがわからないよ。
でも、私空ちゃんは、自分の考えを貫きます! ──と言うわけで、51ちゃんに人殺し=悪い事だと言うことをめっちゃ布教しました。てか、現在進行形でやってます。
「51ちゃん。人殺し、ダメ。絶対。あ、でも命令に反したら殺されるからあんまり反さなくていいけど」
「どっちなんですか?」
51ちゃんは無表情で、しかし明らかに呆れた様子で私を見てきた。
なんか51ちゃん、話していくうちに表情がついてきた気がする。人見知りさんなのかな? 打ち解けてきてよかったぜー!
「あ、そうだ。私日記書くのが趣味だったんだよねー。ここから出たら、書きたいなぁ」
「にっき? にっきとはなんですか?」
いつも通り、私は51ちゃんに説明をしてあげる。
「毎日起きたことを記録するんだぜ! 例えば………………1月1日 やほー。51ちゃんだぜ! 今日、目が覚めたら実験台にされててやばたにえん……とか!」
「やほ……? やばた……? ……でも、記録……か」
ここにきて、初めて51ちゃんが興味深そうに頷いた。お? これは脈ありちゃいます? そう思った私は51ちゃんの手をブンブンと振り回しながら言った。
「お? 興味ありあり? なら、ここから出たら、一緒に交換日記やろうよ! 毎日交代交代で起きたことを書いていくの! ね? いいっしょいいっしょ!」
「……まぁ、やってあげなくもないですね」
私はポカーンとした顔をしてしまった。
え? え? (歓喜)
51ちゃん、ツンデレ? 可愛すぎない? 私は調子に乗って51ちゃんの肩を組んだ。
「そういえばさ、51ちゃん、敬語やめよ! 敬語なんて使ってると、悲しくなっちゃうぜ!」
「敬語……とは?」
「つまり、気軽に話してってこと! ほら! やってみて!」
「意味がわかりません。これが普通ではないのですか?」
な、なんと51ちゃん敬語がノーマルだった件。うーん、敬語系キャラもいいけど、51ちゃんってなんか賢い感じあるよね?
あ、そうだ!
「じゃあ、科学者系キャラでいこう! なのだね、とかを語尾につけてみてよ!」
「え? 分かりましたなのだね?」
違う、そうじゃない。天然キャラも入ってるよね? 絶対。私は首を横に振った。
「そうじゃなくて、そこは、わかった、だけでいいから! なのだねは……こんなことがあるとは、人生わからないものだね。……みたいな感じでシリアス感マックスで使うんだよっ!」
「よく分かりません。……それになんか恥ずかしいので嫌ですよ、それ」
私はがっかりして肩を落とした。51ちゃんは呆れた顔をして私をみてきた。励ますつもりはなさそうだ。けちー。
私はそのまま話し続けた。
子供は遊園地に行って公園にも行って、のびのびと遊ぶべきだとか、アイスクリームは甘くておいしい話とか、私はアセビの花が好きって話とか。しょうもないけど、そのしょうもないことすら叶わない世界をおかしく思う。だから、精一杯の楽しい話をしてやる。
「おい、コイツを殺せ。今回は三人も連れてきたぞ」
しかし、楽しい時間はあっという間に終わった。私たちは謎の機械をたくさんつけられて、人殺しをすることを強要される。
──はー。マジ鬱になるんですけど? 最悪だぜ。
「51ちゃんは、一人だけ、やって」
「……しかし。あなたは……」
「いいから、大丈夫だって!」
私は武器を握った。なんかよくわかんないけど、生まれたときからある武器だ。常にベッドの横に置いてあった。マイファミリーも意外に物騒っすね。
それは……イロモノ武器。棘のついた鉄球……モーニングスターってやつである。
しかし、めちゃくちゃカッコいいこれにも、問題点はある。
「重すぎだってぇ……」
めちゃくちゃ、重い!!! (クソデカボイス)
頑張って振り回して、一気に二人殺してしまった。……うぇ。吐きそう。吐いていいっすかね?
あれから何年も経つと言うのに、人殺しにはいまだに慣れない。けれど、無表情を固定できるようになってきた。私が顔を歪めると、研究員さんは明らかに嫌そうな顔をする。
そのせいでポーカーフェイスのプロになっちまったぜ! トランプは勝ち確だね! ワハハ。はぁ……笑えねー。
でも、51ちゃんの武器は蝋燭。前までは剣みたいな形だったけど、溶けてきて長めな蝋燭くらいになってきた。このまま使わせるのは、ヤバい気がするので、最近はだいたい私が殺してる。
はー。違うんだよ! 解釈違いだよ!
私が転生したいのはダークで鬱要素MAXな曇らせ系の異世界じゃなくて、魔法とか剣で無双してみんなにワーワー言われる系の異世界なの! あ、よくある乙女ゲーム系もいいかもな。
「No.111。お前も無表情で無感情な完成体だな。最初はぼーっとしていたから処分しようと思ったが、処分をしなくてよかった」
「寛大なお言葉に感謝します」
全力ポーカーフェイスでお辞儀をした。研究者は気分良さげに頷いて、帰っていった。
完全にいなくなったのを確認してから、不味いボソボソとしたパンを齧った。
「私は、無感情でも無表情でもない。勘違いしやがって……勘違い…………まてよ」
私は顔を勢いよくあげた。51ちゃんが驚いてこっちを凝視してきた。
「私、勘違い系過去重いヒロインだったんだ!」
「はぁ? ……どうしてそうなるのだね?」
え? いまなんて? 一瞬固まってから、ようやく理解する。
51ちゃんのセリフに、私は喜んで手を掴んで上下に振った。この、ツンデレめっ!
「使ってくれたよね? 今! 科学者系ツンデレヒロインだよね?」
「気のせいではないですか? あと私は科学者ではなくて実験台ですが」
しかし、51ちゃんは次の瞬間にはすんと無表情に戻っていた。……ツンデレなだけある。
それから何年も経って、私たちは色んなことを話した。51ちゃんも、話していくうちに表情がついてきてくれた。ただの人見知りだったようである。科学者系キャラはあれ以来やってくれないので残念。似合うと思うんだけどなー。
「51ちゃんは名前あるの? ここに来る前の名前ね!」
「ありません。……あなたは、ありますか?」
「あー……」
そう聞かれて、私はどっちの名前を教えるか迷った。
日本で過ごしていた時の名前か、ここで生まれた時につけられた名前、どちらを教えるべきか。
私は悩んでから、ここで生まれた時につけられた名前を教えた。
「アデルだよ。これからは、アデルって呼んでほしい。……えっと、もしよければ、なんだけど」
ここ何年も、もし幸せな時を思い出させてしまったら辛いかな、と思い、51ちゃんの名前を聞けなかった。けれど、名前がないなら、つけてしまえばいい。そう思った。
だって、F51なんて、名前ですらない。ただの、識別名。そんなの可哀想で仕方がない。勝手だけど、でもつけてあげたかった。
「私に、きみの名前をつけさせてほしい。いい?」
「はい」
「うん。えっと、今日考えておくから、明日教えるね」
「はい。……待っています」
51ちゃんは、そう言って頷いた。私は、51ちゃんに向かって、ニコリと微笑んだ。
51ちゃんは、最近実験に頻繁に呼び出されることが増えた。いつもの人殺しだけではなく、他の実験もされているようだ。
それに対して、私はいつも通り。──私は、そろそろ処分されるかもな。なんて柄にもないことを思ってしまった。
……あ、あれ? 今の全部死亡フラグじゃね? ヤバい、今日の夜には死んで、51ちゃんに「今までありがとう。きみの名前は──がはっ」って言って無念のまま死ぬパターンでは?
オワタ。
「と思っていたけど嘘だったぜ!」
その日の夜、結局無事に生きながらえた私は、名前を考えていた。
51ちゃんはクールだし、カッコいい名前がいいかもなぁ。例えば……ふ……ふぇ……せ……んー!
「思いつかにゃい。ダメだぜー!」
51ちゃん、ダメダメである。ちなみに私の飼っていた猫の名前はふにふにである。その時点でお察しの変なネーミングセンスを持つ私が、まともな名前を考えれるわけがない。
「おい」
暗闇の中、誰かの声が聞こえた。私はピクリと体を震えさせ、声の方向を向いた。
「111番。お前、これを飲め。いいか? 絶対だぞ?」
「え、あ、はい」
牢屋の鉄格子の隙間から、瓶に入った液体を渡される。
その液体は紫色で、変な泡が出ていた。
……これ死ぬやつー。料理下手系ヒロインが作る、あの物体そっくりである。絶対毒じゃん。え? マジで死亡フラグだったの? え? マジ?
飲みたくないけど、研究員ががっつり監視してる。あ、これ飲んだフリして口の中に溜めといて、あいつが向こうに行ったら吐き出すのがいいな。
作戦名 飲んだフリ、実行である。おらー。女は度胸じゃー!
私はちょっとずつ薬を飲み始めた。
「……ぅぇ」
まっず! やっべー。衝撃すぎてちょっと飲んじゃったよ。でも、それ以外は順調。ハムスターみたいになってるけど、多分暗すぎて向こうも見えてない。
「飲んだか?」
聞いてくるが、ハムスター状態の私は答えられない。ヤバい、詰む。仕方ない、ここは後ろを向いて吐き出してから答えるしか……。
「はい、飲みました」
しかし、後ろの方から私に似た声が聞こえて、そう答えた。あれ? 分身した? 隠し転生特典発動? そう思ったが、あの位置にいたのは51ちゃんだ。私の声真似で誤魔化してくれてるみたいだ。
「それでいい。……光栄に思えよ。お前は、この世界のために尽くせるんだ」
こつ、こつ。足音が消えたのを確認して、私は勢いよく薬を吐き出した。
「おえええぇぇ。不味すぎるよ!」
「私がいなかったら死んでましたよ。……まったく」
そう言いながら、51ちゃんは私の背をさすってくれた。私は咳き込むのを止めようと、手を口元に当てる。その時に、大きな違和感を感じた。
異常な程に、咳が防げない。まるで、手がないかのように。とある考えが脳裏に浮かぶ。しかし、手の感覚はしっかりある。
気のせいか、と私は思った。