無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記   作:ルヴレ

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完全に伏線回。次回あたりが伏線回収です。


十一ページ目。

 

 一年目 9月1日

 

 セレストが喜んでくれた。

 私は、嬉しかった。

 

 私は、もう感情に蓋をするのはやめようと思う。私は私のして生きる。だから、ごめんね、111番。

 

 きみのふりをしていた。それが私の思い浮かべる普通の人間だったから。

 きみのフリをしたら、きみを知りうる誰かにきみの場所を教えてもらえると思っていたんだ。でも、きみを信じるよ。きみは私に会いに来てくれるんでしょ? 

 きみと交換日記する約束もしたし、早く帰ってきてね。

 私、待ってる。きみの話を、もっと聞きたい。

 

 

 一年目 9月2日

 

 セレストの研究発表会は、なんと明後日らしい。早く言ってくれれば良かったのに。

 でも、私に嬉しいが芽生えた事で、レポートが書けたらしい。……セレストのやりたい事、叶えられたら、いいな。

 

 …………そういえば、セレストはどうして感情に関するレポートなんて書いてるんだろう。セレストに感情がないからとか? うーん、なんだろう。

 あ、それとも上の人たちが、感情についての情報を欲している……とか? うーん、やっぱりそんなわけないか……? 

 

 

 

「そして、今日は9月3日。──フェデリカ。きみは、私と同じなのだね」

 

 全て読み終えた私は、パタリとフェデリカの日記を閉じる。フェデリカは、見た目によらず、彼女の話し方をコピーしたものを日記に書いていたらしい。

 

 最初の日、私はフェデリカに日記帳をあげた。

 それは、とあることを確かめたかったから。あまりにも私と似ていたから、試してみただけ。

 

「まさか、当たるとは……。勘というのも捨てられたものではないね」

 

 私は、くつくつと笑みが込み上げてくるのを感じた。彼女が私なら、事は一刻も早く進めなければならない。見たところ、気づかれるのは時間のうち。しかし、運良く彼女は途中から記憶がないらしい。

 あの、運命を決めた日までの記憶がせいぜいあるくらい。確かに私もあの日以来検査をした覚えはない。

 

 あの蝋燭は魔法なのか。──ならば、私の疑問は全て消える。

 あとは調べるだけ。それで、ようやく私の願いが叶う。

 すやすやと穏やかな顔で眠るフェデリカは、汚れを一切知らない顔をしていた。あぁ、私も彼女のように無知のままだったら、そっくりそのままフェデリカになっていたことだろう。

 

「…………それにしても、なぜ私がロリコン扱いだったのかね? 私、もしかして嫌われてた?」

 

 

 

 

 私はメルティたちに、出張だと嘘をついて大図書館に行くことにした。護衛にはクリストを連れて行く。彼とは既にそう言う契約をした。金を払う限り従う彼は、扱いやすい。

 

「で、セレスト。何を探すんだ?」

「禁書を探している。きみは、禁書庫に忍び込めたりしないかね?」

 

 私が大図書館の目の前で言うと、クリストは目を大きくさせた後、諦めたように笑った。

 

「上等。なんの本が欲しいか言ってくれたら、忍び込んでやるよ」

 

 

 クリストがあっさりと盗んできた本を読む。どんな手段を使ったかは聞かない。興味がないからだ。

 盗んできてもらったのは、歴史の本。

 なんの変哲もない、しかしなぜか禁書の本。

 

 

「魔法使いについて…………あった」

 

 本のページを何枚かめくると、年表が出てきた。年表を辿ると最後の魔法使いについての記述がある。

 私が知りたいのは正しくこれであった。

 

「最後の魔法使いは、世界を救うために魔法をかける。そして永眠する……。それが私の知っている歴史だったが──これはこれは」

 

 そこには普通の本と全く違う記述があった。

 私はこの歴史に元から違和感を抱いていた。最後の魔法使いは、かつての人類最強の賢者だったらしい。それなら何故、世界を元通りにできなかったのか。なぜ救う方法が「人殺し」だったのか。

 しかし、この本で全てがわかった。これが禁書なのも素直に頷ける内容だ。

 

「最後の魔法使いは、世界を救う魔力が寿命により亡くなっていた。だから、現状維持のために人だけで生態系を一時的に築くことにした。

 そのために、魔法使いは死体が酸素と共に金に変わるようにして、金をコピー品の食べ物と交換できるような制度を我々が作った」

 

 そこまでは、大体が私の予想内。けれど、そこから先は無くなったと思っていた憎悪がまた出てくるほどの内容だった。

 

「魔法使いが復活したときに移る肉体を作るために、実験台を作った。無表情で無感情なものが、魔法使いの肉体に相応しい。そう。それこそ人形のような存在。そしてとうとう期待の実験台を見つけた。

 そしてその完成体に最も相応しい実験台を──」

 

 びり。紙の端が破けていることに気づく。私らしくもない。けれど、そこには最悪なことが書いてあったのだ。

 

「F51と、名付けた」

 

 ああ。そうか、そうか。F51か。無表情で、無感情な文字通り人形役の完全体。確かに、言われたらそういえなくもない。

 

 

 

「どうした、天才研究者サマ? そんなに怒って」

「……クリスト」

 

 彼の声で、私の脳内を埋め尽くしていた熱が、すっと引いた。

 クリストは呆れたような顔をして、ふんわりとしたドレスにシワがつかないように私の隣に上品に座った。

 

「F51って、誰のこと? 見たところ、お前の知り合いか…………お前自身ってとこだろ?」

「…………。フェデリカのことさ。彼女は私が名前をつける前は、F51と呼ばれていた」

 

 なかなかに鋭いところをつかれる。私は嘘はつかず、しかし真実は言わずに慎重に話した。

 しかし、クリストは本当のことを言っていないのがわかっているのか、ため息をついた。

 

「あなたが話したくないなら、無理は言いませんわぁ」

「その話し方、気持ち悪いからやめてくれないかね」

「……ふふ」

 

 クリストは意地悪く笑った。長い金色のまつ毛が伏せられ、目の下にまつ毛の影を作った。

 

「お前、フェデリカと言ったことが真逆だな」

 

 私は沈黙を返すしかない。フェデリカは、例えるなら天使だ。汚れを知らない、感情ももちろんある、普通の女の子。

 でも、私は汚れている。普通が一番似合わない人間だと、我ながら感じている。

 だから、真逆。私はすっかり捻り曲がってしまったから。

 

「ねぇ、クリスト。明日は契約通りに頼むよ?」

「分かってる」

 

 クリストは、銀色のナイフをクルクルと回して、ドレスの中につけているガーターに戻した。そして、ふと思いついたように呟いた。

 

「それにしても、論理性と効率性を何よりも重視する、無感情なお前らしくもない。

 禁書は、研究内容と関係ないよな?」

「ああ、そのことか」

 

 私はニコリと笑った。嘘笑顔がすっかり染みついた表情筋は、難なく自然な笑みに調整してくれる。

 私は研究など、興味はない。私が興味を示しているのは、空のことだけ。勘違いも甚だしい。

 

「関係ないよ。ただ、私が知りたかっただけ」

「ふーん」

 

 クリストは興味なさ気にそう返してきた。自分から聞いたくせに、マイペースな奴だ。

 私は代わりに、フェデリカの日記を読んでから密かに気にしていたことを、クリストに尋ねた。

 

「そういえば、私はロリコンなのだろうか」

「は?」

 

 お前何言ってんの、みたいな冷たい目で見られて、この話は終わったのだった。




セレストさん、あのシリアスな話をしている最中も、ロリコンを気にしてました。
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