無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記 作:ルヴレ
「クリスト・メーデリウス。お前の研究レポートは最高に良いものだった。お前には明日、指定した場所で賞状を受け取ってもらう」
「な……あの女装趣味が!?」
「あいつは家のコネで研究員になったんじゃなかったのか!?」
周りがザワザワと噂をする。私はポカンとそれを眺めていた。信じられない。クリストはそんなにレポートを頑張って書いていたのか?
けれど、横に補佐としてセレストが立っているのが見えた。
上級研究員が読み上げた内容は、感情についてだった。感情の芽生え方、方法、その逆で無くす方法など、それらが分かりやすくまとめてある。
セレストの書いたレポートだ。間違いはない。研究員が読み上げ終わるまで、私は信じられずに意識を半分飛ばしていた。
「なんで?」
私はセレストに問い詰める。しかし、セレストは何も言わずににこにこと微笑むだけ。
その笑顔が、嫌に嘘臭く感じてしまう。
「なんで、セレストの実験なのに、クリストのになってる……? セレストは、悔しくないの? 横取りされたんだよ?」
私がセレストの手をぎゅっと握ってそう話しても、セレストは変わらず笑顔。それどころか理解できない真実を私に伝えた。
「私は、自分からクリストに頼んだのだよ。フェデリカ」
今日の研究発表は、見事にセレストのものが賞をとった。けれど、表彰を受けたのはクリストで、セレストはその補佐として横に居ただけ。
私は悔しくてクリストを睨みつけた。しかし、クリストは心外だとばかりに言う。
「私はただ、セレストからお願いをされてやっているだけですわぁ」
「……でも、なんでセレストは……」
「そうです。意味がわかりません。……なんで、私に話してくださらないんですか」
メルティは表彰が終わってすぐなのに、セレストの頰を引っ叩いた。セレストは困ったような顔をするだけで、何も咎めない。
メルティの瞳には、底知れぬ激怒の色が浮かんでいる。
「……すまないが、私は明日、上層部に会いに行くのだよ。そのとき、雨に混ぜる薬も準備しなくてはならない。部屋に戻らせてもらう」
「言い逃れは止めてください」
「本当のことなんだ。悪いね」
セレストはメルティにあっさりと背を向けた。
私たちは、セレストを止めることができなかった。だって、明日に人殺しの罪悪感を元通りにする計画を実行するのは、本当のことなのだから。
一年目 9月4日
やほー。……なんちゃって。ちょっと愚痴を書こうと思う。セレストの成果が認められないのが悔しい。なんでクリストが受賞したことになってるの?
でも、明日はようやくセレストが世界を救える! それにしても、空中都市ってどんなところなんだろ?
私はそこまで書いて、パタリと日記を閉じた。セレストが買ってくれた洋服の中から、とびきりお気に入りの服を選ぶ。明日はこれを着て行こう。それから、武器も忘れずに。きっと雨の中に薬を混ぜるときに戦うだろうし。
よーし! 明日はきっといい日になる! うんうん! だって、みんなを救えるもん。私みたいに苦しんでいるみんなも、セレストのおかげで救えるんだ!
この時は、そう思っていた。
「フリッカ! 起きてください! フリッカ!」
メルティの危機迫るような叫び声で、飛び起きる。
「な、何?」
「セレスト様が……セレスト様が……!」
「えっ死んだの?」
111番曰く、こう言うときは、大体死んでるらしい。死亡フラグというやつだ。
死んだかぁ。ごめんね、ロリコン扱いしてて。多分ロリコンじゃないのに。
今までありがとう。セレストのことは忘れないよ……。
「生きてますから! 多分!」
「えっ生きてるの?」
脳内で天に向かったセレストに呼びかけていたら、違ったらしい。
メルティはむすっとした顔で私を見てきた。私は怒ったメルティに手を強く引かれ、セレストの部屋まで強制連行された。
「セレスト様が、朝になったらいなかったんです」
「…………また?」
セレストは誘拐されるのが特技なのだろうか? しかし、今日は大切な日だ。賞状を貰う日なのに、よりにもよって誘拐とは。
「……ん?」
セレストの部屋を眺めていると、私のものと全く同じ日記の表紙が、机の上にあった。
題名の部分は私と違って空いてある。
「セレストも……日記を書くの?」
日記を読んでみるか迷う。しかし、よく考えてみよう。人の日記を読むのは完全にアウトである。だって、友達がなんか本を読んでると思ったら自分の日記だった時、100%取り返す──つまり、読まれるのはめちゃくちゃ嫌である。
しかし……気にもなってしまうわけで。
「フリッカ。何か見つけましたか?」
「え……あー……うん。セレストの……日記らしきものを、見つけた」
「そうですか」
メルティ先輩は、躊躇いなく日記を開く。あっなるほど、流石先輩、強い。
しかし、最初のページを見て、思わず言葉を失う。
一年目 1月1日
やほー。黒髪黒目実験台系美少女の111番だぜ!
なんかよくわからないけど、実験施設をぶっ壊して、くれた友人のお陰で実験台じゃなくなった! らっきー。
……無言で私は次のページを捲る。まだ先があったが、これ以上読みたくない。
一年目 1月2日
衝撃の事実。シチューは美味い。はい。ということで、今日は無事にシチューを
また次のページに移る。最後まで読んでいないが、これから先の内容はわかる。
一年目 1月3日
なんか孤児院に連れて行かれたから、逃げます! どうやって逃げたかって? ふっ、そんなの簡単なことさ。
私の部屋は一階。しかも裏庭に窓が面している──つまり、窓ガラスを割って
怖くなって、私は読み飛ばした。全く同じ文面。些細な違いはあるが、逆にそれしか見当たらない、文章。
2年目 5月7日
今回は、みんなとお出かけ! ひゃっほーい! やったぜ! いまのところ、アイスを食べにいくつもり! でも私、後から震えが来るタイプなんだよねー。やばたにえ
「…………そんなこと」
私は恐ろしくなり、とうとう読むのをやめてしまった。なんで、どうしてセレストは私とほとんど同じ日記を書いているの?
文章の書き方、言葉の選び方、する行動。全てが同じだ。意味が分からない。私とセレストは、一体なんなのだろう。
「フリッカ。どうしたのですか?」
「……私の日記とセレストの日記、全く同じ」
私がそういえば、メルティは部屋の外に出て行った。そして直ぐに私の日記を持ってくる。
私はメルティから日記を貰い、セレストのものと比べた。
「……確かに、気持ち悪いほど同じ、ですね。──前から思っていたのですが」
メルティは、私のことを真剣な瞳で見つめた。私は驚いて固まった。メルティ先輩がこんな目で見てきたのは初めてだったからだ。
「フリッカは、セレスト様のクローンだと思います」
「え?」
私が、セレストの、クローン?
…………いやいや、それはない。クレス君じゃあるまいし。それに私はセレストほど賢くはない。髪の色も目の色もちがうし、喋り方もちがう。武器だって、蝋燭────ん?
あれ? セレストの武器も蝋燭では? あれ? でも私の武器は生まれつきなくて……あれ? なんで蝋燭なんて思ったんだろ?
…………思い出せ、私。もう少し頑張れば思い出せる気がする。
「フリッカは、生まれた時、どこにいましたか?」
「え? 研究所の中……だと思う」
「────セレスト様のことは聞いていません。フリッカの生まれた時を聞いているんです」
私が生まれた時…………。あ、待って。思い出した。
そうだ、私は培養液の中から出てきた。ある日から突然ブチっと意識が切れて、次に目覚めたら、緑色の液体の中にいた。
そして、言われたんだ。
「データが残っていてよかった」と。
「──私、確かに……クローンかもしれない」
「やはり、そうですか。なら、この後ろのページにも心当たりは?」
「うしろ……?」
メルティから再度渡された、セレストの日記帳の裏側を見る。何も変哲のない後ろ表紙だ。私は日記のページを逆側からめくってみる。すると、私の書いた覚えのない日記が見つかった。
「私は昔、セレスト様の日記を勝手に読んだことがあります。そのときに、全く読めない文字で書かれた文を見つけたんです。前半ページのおかしな文の理由は、きっとこの文字に隠されているのだと思います」
後ろの日記に使われている文字は、私の見慣れたものだった。
日本語。111番から教わった、文字。やっぱり、セレストも知っていたんだ。私は本当にセレストのクローンなのかもしれない。
「私……読めるから、読む」
私は日本語の日記を読み上げた。
フェデリカ=セレスト。