無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記 作:ルヴレ
異世界転生したら、死亡フラグを見事に回収した件。
お湯屋さんで働く有名な映画の、どんどん体が消えていくシーンって怖いよね。
やぁ。前回は不穏な感じで締めた三井空ちゃんです。
不穏どころかマジでやばいです。リアルちひろになってます。千にされちゃうよ。
「51ちゃんは気づいてない……か」
私はぐっすりと眠っている51ちゃんを見て、安堵する。私の手は、あの変な薬の影響か、透き通っている。それはもう、鉄格子を手だけが通り抜けてしまうくらいに、透き通っている。
え、幽霊?
「でも、手以外は透き通ってないんだよなぁ」
それがまだマシなところだろうか。すぐペってやったしね。ただ、問題は武器を握れないこと。このままじゃ処分確定では? はー。オワタ。
「ま、一旦寝ますかー」
私はいつも通り、壁に寄りかかって座った。そのまま目を閉じると、思ったよりも早く眠気がやってきて、直ぐに意識が遠のく。
「やめて。私、望んでいないの。ごめんね。ごめんなさい、あなたまで犠牲になってしまう」
寝る直前に、鈴を転がすような声が、一瞬聞こえたような気がした。
「アデル! アデル!」
ほとんど呼ばれたことのない名前だったから、私は少し反応が遅れた。鉄格子から差し込む光は間違いなく早朝のそれ。二度寝したいところだが、51ちゃんに体を激しく揺らされ、寝ることは叶いそうにない。南無。
「何?」
「アデルの手が……透けて……」
あ。
空ちゃん、完全復活! そうだ、昨日手が半分消えてたのをすっかり忘れてた! 昨日は夜だったから誤魔化せたけど、今は朝だ。手の透明度もバレバレ!
私は自分の手を見下ろした。
「…………やばたん」
なんと、昨日の二倍くらい消えてる部分が増えている。具体的には、腕の半分くらい透明になっていて、手の先はすでに消えている。
え、ちょ、待てよ。これはマジで死ぬ。どんどん薄くなって、最後には「私のこと、忘れていいから」って言って未練をヒロインに背負わせるタイプのキャラじゃん!
嫌だ。それだけは絶対に嫌!
「アデル。大丈夫なのですか。やはり、昨日の薬に何か入って……」
「大丈夫、大丈夫! 問題なし!」
私は全力で明るく振る舞って誤魔化した。51ちゃんを困らせたくない。
しかし、そう言った途端に激しい頭痛がした。
「う……」
「アデル!」
51ちゃんが不安そうに何か言っているが、脳内に響く別の声に遮られて聞こえない。
「早く……薬…………は……て」
こ、こいつ脳内に直接!? と考える余裕はあるけど、これ絶対重要な奴だ。
何かを訴えかけてる気はする。けれど、ノイズが走っててうまく聞き取れない。
「なんか、変な声がする……」
「どんな声ですか? 教えてください」
51ちゃんが真顔で聞いてくるので、私は頭痛の中でも、なんとか答える。
「えっと……早く薬はて? っていってる」
「多分、早く薬を吐いて、ではないですか?」
集中して聞いてみると、そんな気もする。吐くってどうやってやればいいの? 下剤? 持ってないですけど? 一瞬、51ちゃんの目がギラっと光った気がした。
え? なんか嫌な予感がするんだけど?
51ちゃんは私の口を無理やりこじ開け、人差し指を突っ込んできた。
「ぐえっ、くぁwせdrftgyふじこlp」
すごい、どこでこんなえげつない知識を? なんで全く躊躇しないの? 私はレインボーを地面に吐き出しながら脳死で別のことを考えた。
親友の前でゲロってるのは流石に、私の薄皮一枚残ってるプライドが傷つく。
「全部吐きましたか?」
「ヒロインじゃなくて、ゲロインだったんだ……。ワハハー」
「…………平気そうですね」
51ちゃんは私の吐瀉物を土の中に埋めて、証拠隠滅した。しかし、いつのまにか腕の付け根まで薄くなってるし、頭痛は消えない。
「……少し、遅くなった……かも?」
51ちゃんが不安そうな顔で、そう呟くが、残念なことに、消えるスピードは変わってない気がする。
脳内にはひっきりなしに謝り続ける女性の声がしている。
「ごめんね、ごめんね、私のせいなの。ごめんね」
ちょっと黙ってうるさい。脳内に呼びかけてみるが、女性の声は止まらない。こっちの声は聞き取られないらしい。都合のいいやつである。
「あのさ、51ちゃん。私、本当は……」
「ごめんなさい、ごめんなさい」
大切なことを話そうとしても、脳内で謝られ続ける。いや、怒ってないっす。なんで謝ってるの? そう聞きたいが、RPGのモブのようにひたすら同じ言葉を繰り返す女性には届かない。
このままではシリアスがシリアルである。
「私、本当の名前はね、アデルじゃないの」
「え?」
なんとか脳内の謝罪会見をガン無視して、シリアスに話す。
「私は、空。三井空って言うんだ」
しかし、そう言った途端、座っているのにバランスが取れなくなり、崩れて倒れた。
「あー……これ、やばいなぁ」
下を見ると、足がなくなっていた。脳内に響く声もどんどんと鮮明になり、頭痛がひどくなる。
「ごめんね、ごめんね。小さな小さな子供よ。あなたは今から空中都市に意識を飛ばされ、私と同化する。あなたは、消えるの。ごめんね」
脳内に聞こえる声は、ようやく違うことを話した。謝るbotは止めるらしい。
「空中都市……? 同化……? 消える……?」
「な、なんのことですか!? アデル! ……いえ、空!」
51ちゃんが、足のなくなった私を頑張って支えてくれている。
そんな中、コツコツと、誰かの足音が近づいてきた。
「おまえをF51にするべきか迷ったが──やはり正解だった。友人が消えかけても内心ではなんとも思えない。実に残酷だな、F51」
「空を、助けて。早く。私はどうなってもいい」
「メリットがない。メリットのある話をしろ」
近づいてきたのは、研究者だったらしい。私はそろそろ消えることを自覚し、51ちゃんに最後の言葉を告げることを決めた。
「私は、空中都市ってとこで、女の人? と同化する……らしい。
最後に、きみの名前を、決めさせてほしい」
「空……やめて、死なないで……! 私を、置いていかないでっ!」
51ちゃんは、私のことを必死に揺さぶり、消えていく私の体を抱きしめた。
私は脳内の頭痛を無視して、喉の奥からかろうじて叫んだ。
「51ちゃんの、なまえは、セレスト! セレスト・フォーゲット。私のことは、忘れて。セレストの好きに、生きて、どうかしあわせに……なって」
「できない! そんなの、私にはきみがいないと、ダメなんだ!」
「ああ……ありがとう。その話し方、久しぶり……」
なーんだ。テンプレで始まって、テンプレで終わっちゃうや。
アニメキャラとかがみんな似たようなこと言って、死ぬ理由がわかったよ。だって、この言葉が一番の願いなんだもん。
幸せに、私のことは引きずらずに、自由に。それが言えれば、満足。でも、そうだなぁ。心残りがあるとするならば──。
「日記、来世は、一緒に、書こう、ね」
淡く、一瞬だけ黄金に輝いて。
私は空気の散りとなって、消えた。
「しね」
セレストは、蝋燭で火をつける。あっという間に、研究所は炎で真っ赤っか。
赤ではないところなんてないくらい、炎は燃えても、セレストは熱くない。
「私が、あなた──いや、きみを助けに行く。そのために早く、空中都市に……」
フォーゲットは英語で忘れるという意味です。