無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記 作:ルヴレ
一年目 1月3日
速報。51ちゃん、51ちゃんじゃなくなる件。
なんか、あの怪しいおねーさんが51ちゃんの名前を勝手に変えて来たんだけど。
え? 新しい名前?
覚えてないに決まってるでしょ! ドヤァ
変えた理由は、51ちゃんの名前は人間らしくないとかナントカ……。
いや、気にしてないって! (クソデカボイス)
何であのおねーさん勝手なことばっかするの? しかも今頃だけど、あのおねーさんの名前知らないよ! 名前名乗らずに人の名前変えるなんて……そんな秘密主義……え?
もしかして実験台にするんじゃなくて誘拐犯? ロリコンっぽいし。あのおねーさん。
うわー。脱出計画(おねーさんの屋敷のマッピング)は順調だけど、一刻も早く逃げないと、51ちゃんが食べられちゃう。あ、もちろん物理的な方じゃにゃいよ?
ふぅ。一通り愚痴は書いたし、寝るかー。
おやすみー。
一年目 1月4日
コホン。今の状況を簡潔に伝えよう。簡単に言えば────ロリコンおねーさんの屋敷から、脱出成功だぜ!
え? どうやって逃げたって? ふっ、簡単なことさ。
51ちゃんの部屋は一階──。しかも、裏庭に窓が繋がってる。つまり……。
朝にガラス割ってそこから逃げました。
え? 怒られる? 弁償? いやー、あのおねーさんと会うことは二度とないだろうし。うんうん。まさか51ちゃんの場所を特定するなんて、まさかそんなことあるわけないし? (フラグ)
ふぅ。お腹すいた。日記書きながら、ご飯でも食べ…………。え? ないんですけど?
いやん。やっちゃったよ。
食べ物、忘れた。
え? もしかして、51ちゃん馬鹿?
ま、気を取り直して、もう少しお腹すいたら、ちょっと殺って金稼ぐかー。
何をやるって? え、察してちょーよ。
よーし。もう夜遅いし野宿するかー。明日おねーさんが居ないことを祈るぜ。
一年目 1月5日
急募 ここどこ。
えんえん。朝になったら誘拐されかけてたぜ。
なんかちっさい少年と一緒に寝てる時に連れ去られてたらしい。少年が起こしてくれて助かったよん。
で、何とか誘拐犯をぶっ殺して助かったとこ。
少年が化け物が何だの言って、ビビって震えてて笑えないよ。こういうとき何すればいいの!? 誰か、助けて! 超絶美少女が助けを求めてるよ! 助けない選択肢はないよね? (迫真の笑み)
ま、助けてくれる人なんて、居ないんですけどね! ハハハハハ! ここ、貧民街っぽいし!
貧民街で呑気に日記なんか書いてんじゃねぇ?
51ちゃんに現実逃避させてくだせぇー。
あ、待って終わったかも。
ロリコンおねーさんが遠くに居るわ。51ちゃんの推定10.0の視力で見えるね! あ、視力? もちろん測ったことないぜ!
よし、まだ51ちゃんに気付いてないみたい! 今がチャンスだ! 逃げろぉぉぉ!!
え? ちょっと、少年。何で51ちゃんにしがみつくの? え? 君もしやロリコンおねーさんの協力者? (察し)
あ、ちょ、まっ……。やばたにえん。おねーさん私に気づいたんだが。オワタ。
51ちゃんを育ててくれた研究員のみんな、今までありがとう……。51ちゃん、逝ってきます……。
私は眠い目を擦って、名前を書いたリストを、何個か選び取った。
あの子には、何が似合うだろうか。やはり、F51だから、Fが最初に来る名前が良いだろう。Fから始まる名前のリストに選び直す。
「フェリシア……。これもいいな。うーん、フェリシティもあの子らしい。愛称をフェリスにするのもいいな」
しかし、私のセンスでは中々決められない。研究するのは得意な反面、芸術センスは皆無だからだ。
「あの子は私の娘として扱うから、苗字に合うものが相応しいな……。フェリシア・フォーゲット……。悪くないね。フェリシティ・フォーゲット。うーん、少し語呂が悪いかね? ……いや、しかしフェリシティは捨てがたい……。そうか! なら間にもう一つ名を挟めば少し語呂が良くなるかもしれない。例えば、フェリシティ・エル・フォーゲット。うん、これはいい。何処となく高貴な感じもするし、あの子の雰囲気にぴったりだ。──いやしかし、フェリシアも……」
「セレスト様」
私がぶつぶつ呟きながら、書いていたら、私の研究補佐のメルティが急に話しかけてきた。私はムッとして、機嫌悪く「なんだね?」と返した。
メルティは、呆れた様子で、言う。
「五月蝿いです。独り言をすぐに呟く癖はどうかと。あと、決まらないなら、引き取った子に選んで貰えばいいじゃないですか」
「その考えがあったか。なんだ、メルティ。勿体ぶらずに、それを早くいいたまえよ」
「何度も話しかけてますよ。セレスト様が気づいてなかっただけです」
私はメルティの冷めた目を無視して、名前の候補を書いたリストを、大切にファイルにしまった。
あの子は、喜んでくれるだろうか。
無感情なあの子に、勝手な期待をしてしまう。よくないと分かっていても、どうしてもしてしまうのだ。
あの子は大切な、サンプルなのだから。
「さぁ、選びたまえ!
きみの名前は流石に人間らしくない。だから、私が夜中まできみの名前を考えた。
この私が夜中まで考えた名前リストだ! 君が好きなのを選んで欲しい!」
私はF51に、リストを広げてみせた。しかし、F51は、無表情で、私を見て言う。
「(実験台だし、もちのろんだけど)私は、字が読めません」
「そうですか。では、私が代わりに読み上げます」
メルティは予想していたのか、リストを書き写したものを懐から取り出し、読み上げ始めた。
それにしても、私が自信満々に言った後に読み上げるなんて。私に恥をかかせるつもりなのだろうか。メルティは、結構意地悪である。
「まず、フェリシア。次がフェリシティ。あとは私が勝手に追加したフェデリカ。この、夜中まで起きてた割には少ない中からお選びください」
「す、少ないだと……? それに、勝手に追加するなんて、やめたまえよ!」
「……。(51ちゃん腹減ったぜ)」
F51は、無表情で空中を見つめた。
そうだ。この子は感情がないんだった。感情がないのに、自分で決めれるわけがない。
それさえできないことに、可哀想に思ってしまう。実際、彼女は可哀想なのだ。間違いではない。
「フェデリカがおすすめです。どうですか?」
「では、(なんかよくわかんないけど、めんどくさいし)それで」
「な、何だと…………」
私の頑張りが全て、メルティの一言で無駄になった。
そうだ。感情がないなら、勧められたやつにしてしまうに決まってる。しかし、F51が決めたことだ。悔しいが、これで決定だ。
「仕方がない。きみの名前は、今度からフェデリカ・フォーゲット。
よろしくね。私はきみを歓迎しよう」
「(名前長くて覚えれないぜ。ま、とりあえず、返事はしますけども?)はい」
そう返事を返した彼女は、いつもより感情が見える……気がした。
「そう思ったのだが、私の勘違いだったようだね。フェデリカ」
私は見知らぬ少年に、足を引っ張られているフェデリカに、言った。
フェデリカは、ひたすらに無表情で、無言でこちらを見続けるだけだ。
その足元には、大量の血液と共に、幾つかのお金が転がってた。私たちは人を殺したら、お金を貰える。
フェデリカは人殺しをして生計を立てるつもりだったらしい。もちろん、人を殺すことに抵抗はないようだった。
「どうして、逃げたのか、教えてほしい。私に不足があったのかね?
私はきみを手に入れるためなら、何だってしよう。勿論、私の位も、財産も、全てきみにあげる。ただ、きみは実験に協力してくれたらいい。大丈夫。最初にも言ったが私はきみを傷つけたりしないさ」
「(え、ちょ、怖すぎ。キレてます? どうかくだせぇ! 逃げる)許可を」
許可を?
意味が分からず、頭の中で繰り返す。あぁ。そう言うことか。少し経ってから、ようやく理解した。
彼女は話す許可を、私に求めている。なぜ? なぜ求めているのだろうか。分からない。この私が、理解できない。
メルティが、私の肩にぽんと手を置いた。
「フェデリカ──改めフリッカ。彼女、怯えてます。セレスト様、いくら何でも身勝手すぎますよ。あなたは自己紹介すらしない。自分のことは何も話さない。それなのに、彼女を手に入れようとする。
それでは、誘拐犯か何かにしか見えないかと思いますが。違いますか? フリッカ」
「(やっとまともな人、キター! 確定演出だよ、コレ!)違いません。(51ちゃんは、怖がってるの! 感情あるの!)」
私は彼女の返答に驚きを隠せなかった。
あぁ。フェデリカは、恐怖という感情を持っていたのか。よく考えたら、フェデリカが無感情になっているのも、恐怖のせいだろう。それなら、恐怖だけ残っているのも頷ける。
フェデリカは、完全な無感情ではなかった。それなのに、私は彼女を実験のサンプルのように扱って……。これではあの研究員の人たちと、何ら変わらない。最悪だ。謝っても謝りきれない。
なら、行動で示さなくてはならない。
これからは、対等に接してみせる。
「今更だが。──私の名はセレスト。セレスト・フォーゲットという。私についてきてほしい。お願いだ」
「あなたがそう望むなら、私は命令に従います。(そうじゃないとどうせ殺すんでしょ? 51ちゃん知ってまーす!)」
フェデリカは、無感情にそう返す。しかし、その瞳には、微かな恐怖が感じられた。
私が、彼女の感情を作ってあげたい。かつて、私を救ってくれた彼と同じように。楽しいも、嬉しいも、好きも嫌いも。それを知ることの喜びも。
「ところで、そこの少年は誰なのだね?」
「存じません。(てか許すまじ。こいつのせいで捕まったし!)」
私がフェデリカに張り付いている少年に話しかけようと、身を屈めたら、少年は私の顔を見て、ものすごい勢いで逃げていった。
「私の顔はそんなに怖いだろうか……」
「……。(怖いに決まってるよん。え? 少年に好かれたいの?
も、もしやロリコンだけじゃなくてショタコンも?)」
フェデリカは、無言で少年が去っていった方向を見るだけで、返事は返さなかった。
フェデリカはロリコンこえー。くらいしか思ってないけど、セレストは重く受け止めてます。