無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記 作:ルヴレ
一年目 2月7日
やほー。今日も特に特別なことはないけど、明日は特別なことがあるし、書いとくね!
にゃ、にゃんと明日は盗んできた薬を飲みます!
え? 大丈夫かって? 知らないよ。おねーさんがこの薬を飲んで正気に戻ったら、秘密を共有する? みたいなこと言ってきたし。
秘密を共有って……何のこと?
ま、まさかおねーさん自分がロリコンなことをついにオープンに!?
え? おねーさんは多分ロリコンじゃないって?
………………フリッカちゃんだって、次の話をしてくれたら、警戒解いてあげてもいいかなって思ってるもん。
ま、おねーさんの秘密だって、明日には分かるみたいだし。明日フリッカちゃんが、おねーさんをセレストって呼んでたら、秘密を話してくれたってことで!
そろそろ寝るぞ! おやすみー。
一年目 2月8日
わたしがダメだったの。
わたしのせいで、みんな、死んだの。
わたしが、わたしが人を殺したから。ごめんなさい。自分のことばっかりだね。わたし。ごめんなさい。ごめんなさい。
111番君、わたしのこと、救おうとしてくれたのに。ごめんなさい。
一年目 2月9日
わたし、悪い子だから。同期君ともいっしょにいる資格もない。おねーさんと、メルティさんとも、一緒にいちゃダメだから。
人殺しなんて、なんでこんなことしたんだろ。
人殺しでごめんなさい。汚れててごめんなさい。
一年目 2月10日
フリッカちゃん 無事 復活!!! (満面の笑み)
え? 何があったかって? それを明日おねーさんに詳しく教えてもらうぜ!
だって、半分くらい意識飛んでたし! ワハハ!
フリッカちゃん視点だと、なんか薬を飲んだら、人殺しがダメなことだって急に気づかされたっていうか……。自分のしていたことの罪深さを感じたというか……。
なんというか、ある意味正気に戻ったって感じ!
正気に戻るってこういうこと!?
てかおねーさん笑ってくれて嬉しかったとか言ってたけど、普通じゃにゃい? フリッカちゃんはいっつも笑顔の天使だぜ!
なんかフリッカちゃん、割とライトに人殺ししてたけど、今考えたら、やばたにえんだぞ! 何人殺しちゃったんだろ? てか、なんで人殺しは悪いことじゃないなんて思ってたんだろ?
あと雨に当たるなって忠告されたんだけど、どーゆーことかわかる方、挙手を!
フリッカちゃんの予想だと……雨に濡れたフリッカちゃんが可愛すぎてまた誘拐されちゃうから説が有力だぜ!
可愛いすぎるのも罪だね!
……殺しちゃったみんな、ごめんね。
突然だが、私は今、今月で一番悩んでいる。
「そういえば、セレスト様。フリッカ、外に連れて行ってあげたらどうですか。ずっと働いて寝ての繰り返しな気がしますが」
きっかけは、その言葉だった。
私は大きな秘密を抱えている。恐らく、今の政府に言ったらすぐに殺されるような、そんな内容の秘密だ。
私はそれをフェデリカに話すか、決めかねていた。
私の実験をしている理由は、その秘密にある。そして、フェデリカには使用人しか取ることのできない場所にある薬を、幾つかとって欲しかったのだ。
だからといって、取れと命令していたら、奴隷か何かのように扱っている気がして、嫌だ。
そう考えていた時、メルティのその言葉で、二人で出かけた時に話してみようと、思い当たる。
もし、フェデリカが少しでもその時に感情を見せたなら、秘密を共有してもいいかもしれない。
「フェデリカ。きみさえ良ければ、今日は一緒に出かけないかね?」
「はい。(え? マジ? いいの?)分かりました。(絶対に)行かせてください」
フェデリカは、無表情で頷く。
一ヶ月経った今も、フェデリカは私に笑顔すら見せたことすらない。
今回のお出かけで、少しでも笑顔を見せてくれないだろうか。
私はそんな期待を抱いた。そうでもしないと、やっていけなかった。
しかし、フェデリカは女の子に人気だという、甘いスイーツのカフェに連れていっても、無表情だった。
もしや、私のように甘いものが嫌いなのだろうか。
そう思ったが、他の食べ物を食べた時と同じ反応だ。
「美味しいかい?」
「はい。(何これ! 甘い! フリッカちゃん今までで一番これ好き! めっちゃ)美味しいです」
……どうしよう、反応が薄い。他にいい場所はないだろうか。カフェを探すのに一晩使ったから、これ以外のプランを立てていない。
女の子が喜ぶところ……喜ぶところ……。私は研究の時よりも頭をフル回転させる。
そして、一つの場所を思いついた。
「フェデリカ。花は好きかね?」
「(花……? 何それおいしいの?)分かりません。興味はありますが、見たことがないので」
フェデリカの返答に、私はこくりと頷いた。
気にいる可能性は、……少しありそうではある。私は素早く飲みかけのコーヒーを飲み干すと、早速フェデリカを目的の場所に連れていくことにした。
そこは大して遠いところではない。しかし、この辺りの雰囲気とは真逆の、山の近くにある、静かな場所だった。
「これは……」
「これは、アセビの花だよ。私が一番好きな花なんだ」
私が連れていったのは、一面の白いアセビの花が咲く花畑だった。
私はお世辞にも女子らしさは少しもない。だから基本的に花は興味がない。けれど、アセビの花だけは違う。
私を救ってくれた、彼が好きな花だから。
「綺麗……です」
フェデリカはぽつりと呟いた。私は思わず瞬きを繰り返した。
フェデリカが、自分の意思で、綺麗だと……そう言ったのか?
「どうして、綺麗なんだい?」
私は、微かに震えてしまう声で、聞いた。フェデリカはしばらく黙って、それから私の目を見て言った。
「だって、同じ色なんです」
「同じ色?」
フェデリカはこくりと頷いた。無表情の口元がほんの少し、数ミリほど上がった。
笑った。
フェデリカは、笑ったのだ。私はどきどきと心臓が脈打つのを感じた。
心臓は左にあることが、はっきりと分かる。
あぁ。実験が、ようやく一歩進むのだ。ようやく、ようやくだ。これで私の悲願は達成できるかもしれない。
私は恐ろしくなるほどの感動を感じた。
「この花は、あなたの目の色と、同じ白色なんです」
フェデリカは、他の人にはわからないくらい、微かに──しかし、私には分かるくらいに笑った。
私は思わず、フェデリカの手を握った。フェデリカは少し驚いたのか、笑みが消えてしまった。
私はそれを少し名残惜しく感じながら、はっきりと言った。
「私は、きみに大切な秘密を隠している。そしてきみに、その秘密を話したい。
だが、その話はとある薬を取らなくてはできないのだよ。きみには申し訳ないが、研究所のその薬を盗んで欲しい」
「薬……? (秘密って? ロリコンなこと? それならフリッカちゃん、知ってるぜ!)」
急なことに驚いたのか……いや、無表情だからそれは定かではないが、フェデリカは私に問い返した。
私は白衣のポケットに入れていた、空の小瓶を見せる。黒いラベルの小瓶だ。研究所に黒いラベルの薬はこれしかない。
「この黒いラベルの小瓶だ。
この薬を盗って、きみが飲み終わった時、私はきみに秘密を共有しようと思う。
つまり、私の実験の目的を、話させて欲しい」
私が思わず手を取って熱弁すると、フリッカは、無感情に
「(よくわかんないけど)はい」
とだけを返した。
「で、今こんなことになってる……と。セレスト様。報告はしてください。せめて相談だけでも」
「いや……。私だってここまでフェデリカが落ち込むとは思わなかったのだよ」
「……嘘をつかないでください。ある程度予想はしてましたよね?」
「……何のことだか」
そして私は今、勝手にフェデリカに薬を飲ませて怒られている最中である。
メルティは、私の秘密を知っている、唯一の人である。確かに、メルティには相談しても良かった気がする。
そう思うくらい、一匹狼だと自負しているはずの私は思い悩んでいる。
「私は、罪人ですか?」
薬を飲んで少し経ったら、彼女は私にそう尋ねた。
あの薬は、人殺しの罪悪感を元に戻す薬だ。しかし、基本的には「罪人」なんて思考には至らない。
悪いことをしてしまったと軽く後悔する程度だ。しかし、フェデリカには強く効いてしまったようだ。
恐らく、体が小さいからだろう。──正直、予想通りだ。けれど、仕方がない。
これはフェデリカが「自分で選んだ」ことだから。私は何も悪くない。
よし、慰めてあげよう。そうしたら、実験通りなら元に戻ってくれるはずである。
「フェデリカ。きみは──」
「私は、穢れているんです。私に話しかけたら、あなたまで汚れてしまう」
フェデリカは、小さな体を丸めて、うずくまった。
……どうやら、もう少し放っておいてあげたほうが良さそうだ。
メルティの視線が痛い。私だって、やりたくてやったわけではないのである。……必要だからやった。それだけである。
「フェデリカ、気分は治った……」
「私に近づいたらダメです。あなたまで汚れてしまう」
次の日。フェデリカに話しかけたが、昨日とさほど変わらない。
仕方がない。フェデリカを説得しなくては。私は人と話すのが苦手だが、仕方がない。最大のコミュ力を使って話しかけてみるか。
「汚れる? 汚れると言ったが私は既に人殺しなのだよ。きみだって、見ただろう。私は研究所に火をつけたのだから。きみが汚れているのなら、自分の意思で人殺しをした私はもっと汚れているさ。私は人殺しの罪深さを知っている。けれど、目的のためならどんな手だって使う。使えてしまう! 私ほど罪深い人間は少ないだろう。
大丈夫。きみは悪くない。悪いのはあの研究者たちだ。きみの心を痛めつけないと約束したのに、破ってしまったね。やはり私こそが罪人だろう。きみは私を悪者だと思ってくれて構わない。そうすれば少しは心が軽くなるだろう? 私はきみがこの間笑ってくれた時は嬉しかった。あの時のようにまた笑って欲しいと思っているのだよ。きみはただ、楽しく過ごしてくれたらいい。そこまで気負わなくていいさ。もちろん、私はきみを……」
「セレスト様!」
メルティの声で、ハッとする。私の悪癖が出てしまったようだ。フェデリカは驚いたのか、大きな目をさらに大きくさせていた。
「す、すまない。驚かせてしまったかね?」
私は気まずくて、目を逸らした。メルティは、上手く話せない私の言いたいことが分かったのか、フェデリカにため息をつきながら、説明した。
「つまり、セレスト様は、そこまで気負うなと言っています」
「……気負うな、ですか?」
フェデリカは目を逸らしている私を、じっといつも通りの無表情で見てきた。私はこくりと頷いた。
「私は、悪い子です。それでもですか?」
「きみがそう思うなら、これから良いことをして償えばいいさ。
きみはまだ小さいからね。まだまだ時間は無限に等しくある。そう、例えばこんなことをすればいい…………コホン」
長ったらしく話しかけたら、メルティが察したのか睨んできた。フェデリカはその様子が面白かったのか、わからない。
けれど、ほんの少しだけ、覚えたての笑顔で、また微かに笑った。
「そう、その調子だよ。さて、私は研究に戻る。きみは今日も休みたまえよ?
明日に私の秘密を打ち明けるから、準備をしておくといい。────決して雨に当たらないようにね? いいかい?」
「(雨って何のこと?)はい。了解致しました」
フェデリカは、元通りのはきはきとした透き通った声で、返事をした。