無感情無表情と思われてるけど気づいてない実験台少女の日記   作:ルヴレ

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八ページ目。

 

一年目 5月8日

 

 今日は貧民街の方にある、小さい研究所に出張に行くぜ!

 本当は、セレストだけで行くはずだったんだけど、セレストは弱いから殺されたら大変だよねん。――ってことで、フリッカちゃんが護衛の代わりについていきますよ!

 フリッカちゃんなら、見た目が似てるから妹って言っても通じるのと、単純に強いから、らしい。

 お任せあれ、だぜ!フリッカちゃん最強だしね!

 

 

一年目 5月9日

 

 このページはビリビリに破かれていて、見ることができなかった。

 

 

一年目 5月10日

 

 ふー。フリッカちゃん、一生の不覚。切腹します!

 じょ、冗談だよ?

 あ、昨日のページ?メルティ先輩にお手紙を出すために破ったぜ!

 なんでこんなことになってるかって言うと…………。

 

 セレストが冗談じゃなくてマジで、出張の帰りにハラキリされて貧民街の病院に搬送されたからです。

 

 いやー。フリッカちゃん、護衛として情けなし。

 背後から急に襲ってきたものだから、びっくらポンだよ!え?古い?

 でも、フリッカちゃん、きちんとセレストを背負って近くの病院まで向かったんだから!フリッカちゃんの怪力のおかげでセレストなんて、空気と同じだったぜ!

 問題があるとすれば……。フリッカちゃんの着てる白いブラウスがセレストの血で真っ赤になったことくらいかにゃ。そのせいで、フリッカちゃんが殺したって勘違いされそう。

 

 あ、セレストは死んでないからね?ギリギリだったらしいけど。

 そろそろメルティ先輩が来ることかな?設備が整ってない貧民街の病院は、きついから、早く研究所に戻らないとね!

 

 

 セレストが、生きててよかった。

 

 

 

 

「セレスト様。この実験結果をどう思いますか?」

「そうだね。もう少し実験を続けてみたほうがいいかもしれない。ほら、最初は法則があるだろう?しかし、ここから途切れている。おそらく、何か……例えば、手の脂だとか、そんなものが接触してしまったんだ。」

 

 つまらない実験に、嫌々意見する。

 私は上層部に気に入られる必要がある。だから、いつもは行かない出張に出向いている。

 

 フェデリカは、無表情で遠くを見ている。暇すぎてぼーっとしている……のだと思う。

 フェデリカは、まだ十歳の子供。それを忘れそうになっていた。早めに帰ったほうが、いいかもしれない。

 

「さて、契約は結べたことだし、私は帰らせていただこう。お生憎、私の妹が暇そうにしているのでね。」

「あぁ、すみません、付き合わせてしまって。それにしても、妹さんにまで英才教育とは、さすが天才研究者のセレスト様ですね。」

 

 フェデリカは、社会勉強としてここに来ていると話を通してあるが、実際は、護衛として連れている。

 

 私は、ずば抜けた頭脳と身体能力を持つという、間違った情報をメルティによって流されている。実際の身体能力は、階段を登っただけで大きく息切れを起こすほど貧弱だ。

 しかし、弱いとバレて仕舞えば、殺されるリスクも高まる。なんたって、人を殺せばお金が手に入るのだから、弱い人間など、格好の獲物だ。それに、天才研究者なんて、いかにもお金を持っていそうである。

 つまり、ものすごく狙われる。クリストがいい例だ。

 

 身を守る為に、いつもはメルティを連れているのだが、いつも連れていたらさすがに怪しまれる……と言うことで、今回はフェデリカを連れているのだ。

 

「フェデリカ。帰るよ。」

「はい。(ようやくかー。長かった!何言ってんのかよくわからなかったから、暇だったぜ!)」

 

 フェデリカは、こくりと頷いて、私についてきた。この研究所は、小さい。

 研究室から出たら、すぐに外に出てしまった。

 

「う……相変わらず、貧民街は酷い匂いだ。」

 

 この研究所は、貧民街にある。貧民街では、仕事が殆どなく、人殺しでお金を稼ぐ人しかいないので、血生臭い匂いがそこら中に漂っている。

 フェデリカは警戒しているのか、短剣を構えている。そういえば、最初に会った時は斧を持っていた。フェデリカは、大体の武器を扱えるらしい。

 

「お貴族様だ、ラッキー。貴族は貰える金が五倍だもの。」

 

 一人の少女が、さっそく襲いかかってきた。フェデリカは、少女が放った弾丸を私の手を引いて避けさせ、そのまま勢いをつけて、少女の顎を蹴り飛ばした。

 少女は目を回して、あっさり倒れた。

 

「殺してはいません。(気絶はさせたけどね!あ、待って後ろにいるわ)」

 

 フェデリカはそう言いながら、後ろから襲いかかってきた男性を同じ方法で気絶させる。

 ――まだ百歩も進んでいないんだけど。私は憂鬱になり、頭を抱えた。

 

「セレスト!横に……」

「え?」

 

 油断していた私は、横から襲いかかってきた少年に気づけなかった。

 お腹が……熱い?

 気づいたら地面に横たわっていた。赤い液体が地面を汚す。意外にも、痛くないものだ。ただ、お腹が異常なほどに熱いだけ。少年の影が目の前に迫る。

 ああ、死ぬかもしれない。そう思い目を閉じる。

 

 しかし、少年が私にとどめを刺そうとしたところで、フェデリカが少年の背中に短剣を刺したので、何とか死なずに済んだ。

 

「が……は。フェデリカ。このまま家まで背負って帰れそうかね……?」

「この出血量は……!だ、だめ。このままだったら死んじゃう……。」

 

 フェデリカは、自分の着ていたスカートの裾を破って、包帯代わりに私の体をぐるぐると巻いた。そして、私を背負おうと、しゃがんだ。

 

「この……野郎!殺してやる……!せめて……妹……だけでも!」

 

 そうしている間に少年は震える足で立ち上がり、フェデリカに反撃をしてきた。

 

「死ぬのは、お前だ。」

 

 フェデリカは、目をカッと開いた。赤い瞳が、血走っている。少年だけを見ている。それ以外は、目に入らなくなってしまったようだ。

 

「……お前は……私たちの、敵。敵は……。

 殺すのみ。」

 

 怒りで正気を失ったフェデリカを宥めようと、体を動かそうとする。しかし、体はぴくとも動かなかった。

 

 フェデリカが、心臓に手を当て、そこから一本の剣を出す。

 

 それは、蝋燭で出来た剣だった。

 

 信じられない。私は自分の心拍数が異常に上がるのを感じた。

 あれは、私と同じだ。私も、最初は……。

 

「ダメだ!殺すなっ!」

「…………え。」

 

 咄嗟に声が出た。人殺しだけはダメだ。それだけは、確か。だって、111番。きみが言っていたじゃないか。

 しかし、フェデリカは、首を横に振った。

 

「なぜ。なぜ、ダメなのですか?だって、コイツはセレストを殺そうとしたんです。病院までは、遠いんです。失血死で、セレストは死んじゃうんですよ?なら、先に仇を討ちます。だって、だって……セレストが、…………。」

 

 フェデリカは、そう言いながら涙を流した。止めようとしたのか、何度も目を擦っているが、それでも涙は溢れてくる。

 フェデリカは、初めて悲しいと言う感情を見せた。

 

「死ぬなんて、当たり前だろっ!何変なこと言ってんだよ!この甘ったれたお貴族様がっ!」

「……私も、そう思ってました。」

 

 フェデリカは、そう言いながら少年に笑った。お世辞にも上手いとは言えない、へにゃりとした笑みだった。

 

「でも、私、おかしいんです。セレストと居たら、こころがぽかぽかほかほかあったかいんです。

 どうしてかは、分かりません。でも、このあったかいが無くなるのは、なんだか嫌だから。」

 

 フェデリカは、少年の首を締め出した。

 私はポカンとしてフェデリカを見た。

 え?今、そう言う雰囲気だった?絶対違うと思うんだけど。そう言ってあげたいが、声が出ない。ほら、少年も驚いて目を白黒させてるじゃないか。

 しかし、フェデリカは病院、とだけを呟く。

 

「……近くの病院に案内してください。いいですか、もう一回いいます。近くの病院に……」

「もうわかったから首を絞めるなっ!近くの病院まで案内してやるよっ!」

 

 何とかフェデリカの手を解いた少年は、息を荒げながら叫んだ。フェデリカは、不思議そうに言った。

 

「何でそんなに疲れてるんですか?それよりも早く案内してください。早く。」

「お前のせいだよ!」

 

 少年はイラついた様子で叫ぶ。

 フェデリカは、ようやく私を背負い出した。安心して、意識が遠くなる。私は、言い残したことを思い出し、少年に声をかけた。

 

「……きみ……。私のポケットにあるお金……治療費の残りはあげるから……。」

「え?いいのか?」

「い…………」

 

 いいよ。そう言おうとしたら、意識が糸を切るようにぷつりと切れた。

 

 

「ここは……?」

 

 私は目を覚ましてすぐさま辺りを見回した。

 お腹の辺りに違和感を感じる。ああ、またお腹を切り裂かれたのか。出張で切られたのは、これで七回目だっけ?背中を切り裂かれた回数よりはマシだ。背中は確か、十五回である。

 

 と言うことは、ここは病院なわけだ。そうじゃないと、私が生きているはずがない。

 

「あ、お前、起きたのか。早くお前の妹に会ってやれよ。毎晩泣いてたからな。」

 

 私を刺した少年は、今度は妹らしき女の子を連れていた。妹は警戒した目を送りながら、ぺこりとお辞儀をした。

 

「ありがとう。私のお金は使ってくれたかね?」

「……まぁな。」

 

 妹が、一本のアイスキャンディーを舐めている。あれを、私のお金で買ってあげたのだろう。

 私は妹に向かって微笑んでから、フェデリカの姿を探した。

 

「セレストっ!」

 

 しかし、私が見つけるより先に、フェデリカの方からやってきた。遠くには呆れた顔をしたメルティもいる。

 しかし、メルティの目の奥に、ほんの少しの不安そうな感情があることに気づいた。

 ……心配をかけてしまったかもしれない。

 

「セレスト様。背負っていきますので、帰りますよ。貧民街の病院より、うちの研究所の方が設備もありますから。」

「もう?私は今起きたばかりなんだけど。」

「今回は二人がかりなので、さすがにまた刺されることもないと思います。」

 

 メルティは、私を素早く背負った。フェデリカは、迷ったように視線を彷徨わせて、それからいつも通りの無表情に戻った。

 

 

 

 私は、思考する。

「わざと」大怪我をしてフェデリカを泣かすことは出来たが、しばらく動けなさそうだ。それにこの前、ナンパ役の研究者を「自分から」雇うのにも中々の金額がかかった。クリストにも払っているので、出費が痛い。しかし、あと少しで計画が完成する。

 

 ……それはともかく、早くフェデリカに感情を植え付けなければ。あとは、嬉しいの感情のみ。しかし、どこか不安な感情も読み取れる。嬉しいと言う感情が嫌いなのだろう。

 しかし、世界を救うためだ。どんなことでも、私はする。

 だって、111番。きみと約束したことだから。

 さて、フェデリカをうまく焚き付けるとしよう。




腹黒おねーさんセレスト。最初、フェデリカが異様にセレストだけ警戒してた理由がこれです。
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