小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 そのライダー、ルパン。


Lupin's Stage
序 幕 Prologue/プロローグ


 深夜。男が一人、夜景が見えるビルの屋上に()う這うの(てい)でやってきた。

 その姿は決して人のそれとは言い(がた)い。人の形をしているが、赤を基調としたボディ、黒のシルクハット、映画のフィルムに似たマント、黄金の装飾と色鮮やかな宝石を散りばめた「鉄製の古風な怪盗」を思わせた。

 時折、全身に火花を散らして苦しみながら、(ふところ)から一枚の写真を取り出す。老人が小学生低学年ほどの二人の子供を抱きしめる、笑顔の写真。

快人(かいと)……海里(かいり)……。本当に悪いな……」

 男は名残(なごり)惜しそうに(つぶや)くと写真はその手から離れ、風に乗って夜空の彼方(かなた)へと消えた。

 そして、男は立っていられなくなったのかコンクリートの床に(あお)向けに倒れた。動かなくなる体を感じて、自らの最期(さいご)をこう締めくくる。

(さらばだ、我が愛しの家族。そして、永遠のライバル。(とまり)進ノ介(しんのすけ)……)

 仮面越しに微笑(ほほえ)み、残った力を振り絞り指鉄砲を作って夜空へ放つ──腕が力無く落ちた。

 次第に全身が黄金に輝く粒子(りゅうし)になって消える。男は自らが(つむ)いだ伝説──その先へと消えた。

 

 戦後、復興の(きざ)しを見せ始めた日本に一人の男がいた。

 男は人々を苦しめる悪人がいれば予告状を出し(またた)く間に成敗した。

「弱きを助け、強きを(くじ)く」

 その活躍を耳や目にした民衆はいつしか彼、ゾルーク東条(とうじょう)──またの名を「アルティメットルパン」を「伝説の怪盗」とも「英雄」とも賞賛した。

 だが、時が経つにつれて完全無欠に見えた彼にも人として(あらが)えないものがあった。

「老い」だった。

 ある日、彼は怪盗稼業の引退を決意した。伝説の怪盗の英雄(たん)が呆気なく幕を閉じた。しかし、それを(むな)しいとは思わなかった。彼にはすでに自身を想う妻、たくましい息子、愛らしい孫達──どんな宝にも勝る大切な家族がいた。

(たとえ英雄でなくとも一人の男として満ち足りるだけの宝がある)

 そう信じていた──はずだった。

 一度、英雄として(たた)えられた彼の心奥(しんおう)には、かつてのように「英雄になりたい」という想いがくすぶっていた。もちろん杖をつくまでに老いた体では諦めるしかないことはよく分かっている。

 だが、ある事件をきっかけに、終わりを待つだけだった彼の運命が再び大きく動き出すことになる。

 

 時は二〇一四年の四月。世界規模の連続爆破事件が発生した。

 のちに「グローバル・フリーズ」と呼ばれ、人類史上(るい)を見ない未曾有(みぞう)の大惨事。黒幕は百八体の機械生命体「ロイミュード」。ある発明家達によって作られたアンドロイドでありながら、自己進化が可能な彼らは更なる進化を目指し、その鍵が人類にあると(にら)んだ。

 結果、狙いは間違いでは無かったが人が持つ「悪意」に影響され、新たな種族として人類を支配しようと画策(かくさく)を始める。

 グローバル・フリーズとはロイミュードに内蔵された新型の動力機関「コア・ドライビア」を使用することで、周囲が鈍重(どんじゅう)になる現象「重加速(じゅうかそく)」──通称「どんより」を百八体が連鎖的に発動することで起こった事象だった。

 あわや世界の終わりかと思われた──人類にはまだ希望があった。ロイミュードの出現に呼応(こおう)するように現れた戦士「仮面ライダー」。仮面ライダーもコア・ドライビアを使用しているため、重加速を起こすロイミュードに対抗できた。

 仮面ライダー対ロイミュード。その戦いを目撃した人々によって、仮面ライダーは人知れず都市伝説として語られることになる。

 それは、かつてのルパンを思い起こさせる新たな英雄の登場だった。時折、活躍を耳にする彼ですら年甲斐(がい)もなく仮面ライダーに魅了された。

 

 そんなある日、かつての仲間からある情報が届く。

 日本のとある県境。森に囲まれた場所に存在する、ある発明家が所有していた西洋造りの城。

 その城内に秘密裏に製造された強化ロイミュードボディ「サイバロイドZZZ(スリーゼット)」が封印されているという。それを知った彼は一つの仮説を立てた。

(あくまでボディという『(うつわ)』でしかないそれに、自身の精神力──『英雄への想い』『宝への執着』『不老不死への願望』──を移すことが可能ならば、名実ともに復活できるのではないか)

 その考えに至った彼はほとんど「執着・暴走・狂気」に満ちた様子で、「どんな宝にも勝る」と思っていた家族にすら黙って城に向かった。 

 厳重なセキュリティが張り巡らされた城内を老いたとはいえ昔取った杵柄(きねづか)か、くぐり抜け情報通り封印されていたZZZを発見した。

 そして、仮説を実行した結果、目論見通りボディの起動に成功する。

 彼は老いた肉体、愛する家族と素晴らしい思い出を犠牲に全盛期以上の復活を果たした。

 

 ルパンは城を拠点として買い取ると怪盗稼業を再開する。

 ここで思わぬ誤算が発生した。超人となったことで盗みの仕事が以前よりも簡単になった──簡単になり過ぎた。

 次第に物欲に代わって名誉欲が強まり、ついには「英雄になる」という願望に火が付いた。

 ルパンは手近な見本として絶賛英雄の名を欲しいままにしている「仮面ライダードライブ」を調べた──正体に落胆(らくたん)する。

 人々から英雄と呼ばれる仮面ライダーの正体とは。

 ルパン(いわ)く、自分より歳が数回りも下で経験も浅い警察官、泊進ノ介と、発明家、クリム・スタインベルト──自らが手掛けたコア・ドライビアを搭載したロイミュードに殺害され、変身ベルト「ドライブドライバー」に意識を移した──の英雄と名乗るには不釣り合いのコンビ。

 憧れてすらいた「英雄ドライブ」に失望したことで、彼が出した英雄への復活の結論は、「ドライブを倒し『仮面ライダー』という称号を(おの)が物にすること」となった。

 手始めにロイミュードの本拠地に潜入した彼は、「死神」の異名を持つロイミュード、チェイスの「ブレイクガンナー」──拳銃を()したチェイス専用武器。これを使うことで「魔進(ましん)チェイサー」に変身可能──のデータを盗み出す。

 それを改良し、彼自身をさらに強化する武具「ルパンガンナー」、その他の多種多様な装備の作成に着手した。

 ある日、彼は完成したルパンガンナーを使い「変身」した──「怪盗戦士ルパン」が誕生した。

 新たな悲願成就の第一歩に高らかに笑うルパン。後はドライブを倒すのみ。

 だが、強化された肉体が得られるZZZのボディには重大な欠陥があった。

 本人さえ無自覚の心の暴走である。

 

 年の()が迫った十二月のある夜。東京のある博物館にルパンの予告状が届いた。

 予告された時刻、博物館に厳重な警備が敷かれる中、ルパンは目的の品を盗み出すと厳重な警官隊の包囲網を軽々かつ強引に突破した。そのまま去ろうとしたが「シフトカー」──ミニカーのような形、大きさだがコア・ドライビアを搭載したドライブの装備。二十台ほどありそれぞれが特殊能力を持つ──の横槍が入る。

 見ればそこに立つのはあの愛憎(あいぞう)入り混じる相手、仮面ライダードライブ。

 月の光の(もと)、ついにルパンとドライブの両雄が並び立つ。

 だが、「怪盗戦士」にかつての紳士的だった「伝説の怪盗」の面影は無かった。

 この時のルパンは「殺人は決してしない」という信念を持っていたにも関わらず、他人が傷つこうがなんとも思わない──英雄の代名詞となる「仮面ライダー」の称号を力ずくで奪おうとする「英雄」にはほど遠い「怪人」と化していた。その証拠に警察の包囲網もパトカーを爆破するという過激な方法と重加速によって突破している。

 ドライブと対決したルパンはZZZ由来の怪力を見せつけると、仲間の操縦するヘリコプターで退散した。進ノ介達は取り逃がしたものの捜査で正体が日本で半世紀に(わた)って活躍したゾルーク東条だと突き止める。

 

 そこでルパンによるトラック強奪事件が発生。盗まれたトラックと「トライドロン」──ドライブ専用のスーパーカー──によるカーチェイスの末に再び逃がしてしまうが、クリムはこれまでの経緯(けいい)からZZZのボディが盗まれたことを悟り、進ノ介をかつての自身の居城へと連れ立った。

 城ではルパンが待ち構えていた。彼は英雄と称えられるドライブに「心底失望した」と思いの(たけ)をぶつけ、変身。圧倒的な力でベルトを破壊し再起不能にした。

 目的である「仮面ライダー」の称号を倒したという理由で奪うと「仮面ライダールパン」と名乗り、進ノ介達を「敗北者」として嘲笑(ちょうしょう)して去った。

 

 そして三度目。歯止めが効かなくなったルパンは盗みではなく強引な理屈で正当化したテロ行為を予告した。人質を取ってまで進ノ介を抹殺し、仮面ライダールパンの存在を確実なものにしようとしたためだ。

 追い詰められた進ノ介だったが心の「エンジン」が復活したことで、それに(こた)えるように再起動したクリムがシンクロしたことでドライブに再変身。猛烈な反撃によっていとも簡単に逆転する。

 ドライブの渾身(こんしん)のキック「スピードロップ」が自らを打ち破った瞬間、ルパンは彼らこそが真の「正義の仮面ライダー」であること、自身が取り返しのつかない(あやま)ちを(おか)したことに気づいた。

 敗れたルパンは(いさぎよ)く負けを認め、ドライブに「仮面ライダー」の名を返上し爆散した。

 しかし、そこで彼の命運は尽きなかった。ロイミュードになったことでその特性である「コア」を破壊されない限り、消滅(死亡)することが無くなったのだ。

 結果的に目的の一つ「不老不死」と進ノ介のバディである詩島(しじま)霧子(きりこ)の「滅多に見せない笑顔という宝」を手に入れたことで満足し、三度(みたび)の復活を果たしたルパンは進ノ介を一方的にライバルに認定して去った。

 

 ZZZから解放されたことで、ルパンは()き物が落ちたように紳士的な性格に戻り──進ノ介にちょっかいを掛けながら──新たな人生を楽しんでいた。

 だが、ある仕事以降、ルパンは彼自身の存在を煙たがるロイミュード以外の相手からも怨みを買った。

 その上、今のルパンは仮にも不老不死だとはいえ安心できない状態だった。使用しているボディが高性能なZZZから下級ロイミュードのボディに代わったことで弱体化していた。一転、完全な不老不死からほど遠くなり、ある意味で人の方がマシだったと思えるほどの(もろ)い体。いつ何が起きてもおかしくなかった。

 

 ある日、ルパンはロイミュードの暗殺者が差し向けられたことを知る。

 自身の終焉を悟り、今では疎遠になった(のこ)される孫達に一通の手紙を書いた。

 その間、本来ならば()う必要のない危険な目に遭わせたくない「親心」と、あの一目見てから忘れられない、自分が盗めなかった「宝」を代わりに盗んでほしいと思う怪盗としての「信念」が反発しあった。

 どうにか自分の想いを書き切り、後はルパンガンナーとともに(しか)るべき時が来るまで安全な場所に保管するだけだった──その「最期の日」はルパンの予想よりも早かった。

 手紙を仲間に預けようとした矢先、ルパンはロイミュード100(イチゼロゼロ)に襲撃される。応戦したが相手の性能が上回り弱点のコアに致命傷を受けた挙句、ルパンガンナーを奪われてしまった。

 手紙は預けられたもののルパンガンナーを失い、絶体絶命の彼は永遠のライバル、進ノ介に「最後の挑戦状」を送ることを思いつく。

 しばらく姿を消していたルパンからの久々に届いた挑戦状に、エンジンが掛かった進ノ介は(まったく)く間に暗号を()き、指定された現場に急行する。そこでルパンに成りすましていた100の正体をあっさりと暴いてみせた。

 それに(じょう)じてルパンはルパンガンナーを取り返し参戦すると、今度は戦友として並び立った二人の英雄は見事仇敵(きゅうてき)を打ち倒す。

 無事、汚名返上したルパンは進ノ介に()てた手紙とルパンガンナーを残し、進ノ介の前から永遠に姿を消した。

 

 これにてルパンの物語は終わる──はずだった。

 しかし「アルティメットルパン」が遺した想いは彼の望み通りに新たなヒーロー(英雄)の伝説の幕を開けた。

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