小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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パビリオンに迫る、財団Xからの刺客。


第9幕 Manoeuver/裏で暗躍していたのは誰か

  快人達が襲われる数十分前 パビリオン本社ビル

 

 最上階の社長室から地下へと降りるエレベーターの中、皇神天地は左目を閉じて──右目は髪に隠れている──苛立(いらだ)たしそうに腕を組んでいた。

 目的の階でドアが開くと皇神は廊下の一番奥まで進み、壁に取り付けられた端末にカードキーを通し、強化ドアを開いた。

 中は以前と変わらない。円形を立てたような装置に(はりつけ)にされ体中に配線を付けたディアと、その装置に接続したパソコンの前にエスメラルダが座っていた。

 エスメラルダは持っていたスマホをさり気なく白衣のポケットに戻す。

「ドクター、また反応があったらしいな」

 その問いにエスメラルダは(うなず)く。

「えぇ。純正のロックオーツのデータが手に入る、かもしれないわ」

「二つ目か。プロジェクトは順調だな」

 皇神が机の上のステンレスのトレーを見る。ダイヤに似たコアが()められたロックオーツが置いていた。きっかけになった例のアレだ。

「アークを開くには残り、十一……いや十か」

 ディア()しに祭壇のような台座に置かれたアークを見る。

聖櫃(せいひつ)が開かれた時こそ、我らの念願が叶う」

「そうね……」

 意気込む皇神に、気落ちしているエスメラルダ。

「なんだ、何か不満があるのか」

「いいえ。何も……」

 その反応を(いぶか)しみながら皇神は「まあいい」と話を続ける。

「それよりもっと解析速度を上げられないのか。莫大な資金をつぎ込んでここまでの精密機械を揃えた。本来ならこれでも遅いはずだ」

 皇神が不満げに言う──エスメラルダが椅子を倒すほどの勢いで立ち上がった。

「そんなことをしたらディアの身がもたな──!」

 そこでハッとしてバツが悪そうに俯く。

「……なんでもない」

 緑色のメッシュを弄りながら倒した椅子を立たせて座り直す。

「ドクター、何をそんな気にすることがある? 相手は機械だぞ」

 皇神から見れば、ディアを気に掛け過ぎていることに奇異の眼差(まなざ)しを向ける。顔を合わせたくないエスメラルダは顔を伏せて「そうね」と小さく返した。

「……相変わらず、優しすぎるのがお前の悪癖だ。割り切れ」

 皇神は口を尖らせ、作業しているデスクに腰掛けてエスメラルダを見下ろす。

「我々の悲願である『世界を一つにする』ために、十二個のロックオーツのデータが必要なのはお前も分かっているはずだ」

「…………」

「計画に不備は絶対にあってはならない。……たとえ、あの『コソ泥』が死んだとしてもな」

「コソ泥」、ルパンが出没してから皇神は一刻も早くこの計画を完遂させるため──ある意味でエスメラルダと変わらない──異常な執着心を見せていた。

「不安の芽は必ず潰す……。なんであってもな」

 口では静かに言うが黒の革手袋を嵌めた左手を強く握る。

「…………」

 それから黙り込む二人。その沈黙を破るように皇神の腕に付けた端末から着信音が鳴った。デスクから立ちあがり液晶を見た。いつにも増して嫌そうな顔で着信を取る。

「なんの用だ」

『ハーイ、天地』

 画面に映ったのはパビリオンの諜報(ちょうほう)部員、アリス・クリスティーナ。

 彼女との付き合いはここ最近のことだ。皇神からすれば、突然「(やと)え」と売り込みにやってきた人物で、確かに今までどんな任務もこなしてきたが判然としない素性(すじょう)に不気味にすら思っていた。

『しばらくね』

「わざわざ挨拶を言うために、連絡を寄越したわけじゃないだろ。なんだ?」

 嫌味を隠さないあからさまな態度にアリスが苦笑する。

『まあ、挨拶だけでも良かったんだけど、ちょっと耳に入れておきたいことがあって。最近、街でおかしな事件が起きてるのは知ってる?』

 心当たりがあった皇神の顔が(けわ)しくなる。

「連続通り魔の話なら聞いた。風都の件も考えるとドーパントの仕業(しわざ)だろう。我が社のデータベースに無いガイアメモリを使用している以上、お前の担当のはずだな?」

『えぇ。見つけ次第すぐに回収するわ』

「お前に渡したエックスマグナムは特注品だ。ドーパント程度、時間は掛からんだろう」

 アリスが見せつけるようにエックスマグナムを取り出す。

『確かに威力は折り紙つきね。でも、マキシマムを撃つたびにメモリが破損(ブレイク)するのはなんとかならないの?』

「そのためのパンドラだろうが。中はカースジュエリーで満たされているから、フレームの自動修復機能を使えばすぐに修復できるだろ」

『それが手間なんだけど、まあいいわ。ところで……ねずみ小僧、って知ってる?』

 妙な質問に皇神が眉をひそめた。

「名前はな。街で盗みを働いてるらしい……が、計画に支障はないだろう。せいぜい好きにさせておけ、じきに警察が逮捕するはずだ」

『そう? ならいいんだけど』

 一瞬、アリスが安心したような素振りを見せた。

「何故──」

 それがさらなる不信感を(まね)いた皇神が尋ねる──遮るように地下の研究所が大きく揺れた。すぐに治まったが、二人は何事かと天井を見上げた。

「なんだ、今のは……?」

 直後に皇神の耳に掛けていた通信機が鳴った。

「別の通信が入った。切るぞ」

『えぇ』

 アリスとの通話を切り、即座に通信機のスイッチを押す。

「なんだ──っ⁉」

 通信機が耳(ざわ)りな音を立て、皇神は顔を(ゆが)めて耳から外す。

「ノイズが(ひど)くてよく聞こえん! はっきり喋れ! ……ロビーに侵入者⁉ 特徴は! ……白いスーツの男……? まさか……。分かった、すぐに向かう!」

 皇神が血相を変えて研究室を飛び出すとエレベーターに飛び乗り、目的地である一階のロビーへ急いだ。

 

 到着した皇神は外に飛び出す。

 辺り一面を黒煙が立ち込め、電灯は砕け、床が所々黒焦げになり数人の警備員が倒れている。推測するに先ほどの揺れは爆発によるものだった。

(くそ、脅しのつもりか……!)

 状況の把握につとめる──何者かの足音が響く。

「誰だ!」

 皇神はその方向を睨みながら声を上げた。

 薄らぐ黒煙の中から、白一色のスーツを着た白髪の青年が現れる。

 その人物の顔が見えたところで皇神は左目を見開く。

「お久しぶりですね。アマチ」

 青年は一切の敵意が無いことをアピールするように優しい微笑みを浮かべている。久しぶりの再会を心の底から喜んでいるように見えた。

 だが、対して皇神は警戒の姿勢を強めている。

「『イルズ』……? なぜ財団幹部のお前がここに……」

「いえ、財団職員の減少で大幅な人事異動がありましてね。組織の幹部級だった私も今では(てい)よく中間管理職に。そこで私が御社(おんしゃ)との提携を結ぶように仰せつかってきた次第です。まったく、ツイてない」

 イルズは微笑み続ける。それが自嘲(じちょう)からくるのか、笑顔以外の表情ができないのかは判別がつかない。

 ともかくその経緯を聞いた皇神が鼻を鳴らす。

「加頭の後釜(あとがま)か」

(ひら)たく言えば、そんなところです」

「何をしに来た。まさか『茶をせしめに来た』なんて言うつもりじゃあないだろうな」

「さっき言った通りですよ。財団Xは御社と提携を結びたい。それだけです」

「ガイアメモリに関してはウルスランドが『手を引く』と伝達を出していたはずだが」

 確かにネオン・ウルスランドという財団職員の判断でメモリは投資対象から外されていた。

「今更、財団はガイアメモリに興味はありません。作ろうと思えばいくらでも作れます」

「じゃあなんだ」

「我々が気にしているのは……縦二メートル、幅一メートル、高さ一・五メートルの箱型の物体です。心当たりが、ありますね?」

 その特徴に皇神の目元がさらに吊り上がった。

 イルズはフフフと声を出して笑う。

「相変わらず、あなたはすぐに顔に出て分かりやすい」

「……お前は相変わらず笑うだけでまったく分からん」

「さて、いかがですか? 財団がスポンサーになればさらなる技術発展が望めます」

「攻撃しておいてか? 断る。貴様らと手を結ぶ気など毛頭ない」

「絶対にですか?」

「くどい!」

 確固(かっこ)たる意見を聞いたイルズの微笑が苦笑に変わると、わざとらしくため息をついた。

「……お前、そんな表情までできるようになったのか?」

「えぇ。私もあれから学習したんですよ。いろいろと。……さて、こういう状況では、時に力ずくで言うことを聞かせることも有効だと学びました」

 そう言ってイルズが道を譲るように横に退()いた。背後に誰かが立っているが薄暗がりでよく分からない。

(誰だ……?)

 その相手が歩いてくると、唯一壊れていなかった電灯がその姿を照らす。

「っ⁉ なぜ、そいつがここにいる⁉」

 その正体に皇神は驚きを隠せなかった。

 

 皇神が部屋から飛び出した直後。エスメラルダは凄まじいスピードで端末を操作し始めた。

 ディスプレイにゲージが表示される。

 天井から宙吊りにされた一体のサイバロイドZZZの改良型「サイバロイドZZZ・マークⅡ」のプロトタイプが現れた。

 この個体は試作機故に用が済めば廃棄処分されるはずだったが、皇神に黙って残していた。そのため他の個体とは異なり、特別なプログラムが(ほどこ)された唯一の個体だ。

「お願い、早く……来た!」

 エスメラルダが祈るように手を合わせる。ゲージが百パーセントになり、宙吊りにされていたプロトがゆっくりと地面に降ろされた。

「プロトタイプ……?」

 エスメラルダは不安そうに声を掛けた。

「……サイバロイドZZZ・マークⅡ・プロトタイプ……起動」

 プロトが無機質なガイダンス音を発声し顔を上げる。

「……皮膚組織生成開始」

 体に皮膚組織が生成され、わずか数秒で一糸(まと)わぬ姿だが、人と寸分変わらない姿になった。そして、プロトは無表情でエスメラルダを見た。

「ドクター・エスメラルダを、確認。指示を」

「皮膚生成も、視覚機能も、発声機能も……。特に問題はなさそうね」

 エスメラルダは安心してホッと胸を撫で下ろす。続けてプロトの腕や足の皮膚を触りながら確認していく。

「問題なし……ね。早速だけど、これに着替えて」

 エスメラルダが再度、端末を操作する。壁から壁掛け式のコートハンガーがせり出し、グレーのロングコート、シャツ、黒のベスト、ジーンズ、ブーツの一式が現れた。

「了解」

 プロトは初めての行動であるにも関わらず、最初から知っていたかのように無駄無く着替える。

 それを横目にエスメラルダが引き続き端末を操作すると、別の壁からベルト付きの(さや)と、人間大の刀身がある両刃の大剣が出てきた。

「後はこの『クレイオーア』を……って、重い……!」

 滅多(めった)に力仕事をしない彼女には、五十キロはある大剣を持ち上げるには荷が重すぎたようで、そこから一歩も動けない。

 そこで着替えが終わり、鞘を背中に背負ったプロトが歩み寄ってくる。

「私に、任せろ」

 プロトは大剣の()を握ると、エスメラルダの力ではまったく動かなかったそれを軽々と持ち上げる。感覚を確かめるため手首を使ってクルクルと回すと背中の鞘に納めた。

 エスメラルダが息を切らせながら「大丈夫?」と尋ねるが、プロトは涼しい顔だ。

「問題ない。使い方は、プログラム済みだ」

 それを聞き、エスメラルダは白衣のポケットから鈍色のコアが()め込まれた──秘密裏に作った試作品──「カルサイト・ロックオーツ」を差し出す。

「上手く作動すればいいんだけど……。プロトタイプ、これの使い方も理解してる?」

 受け取ったプロトはロックオーツを一(べつ)した。側面に付いたスイッチを押し、クリアパーツの鍵部分を出す。

「問題ない」

「では、これからアナタの名称を別個体と区別するために『サイバロイドZZZ・マークⅡ・プロトタイプ』から……そうね、そのロックオーツにちなんで『カルサイト』に変更」

「名称変更……カルサイト。了解」

「じゃあ、カルサイト。これから指示する二人の保護を──」

《カルサイト。東条快人の力を確めなさい》

 頭に直接流れるような声──二人は磔にされているディアを見た。

「まさか、本当に『彼』を私達の計画に組み込むつもりなの?」

 数カ月、(ひそ)かに計画を進めていた二人だが、エスメラルダは東条快人が英雄になりうる人物なのかは未だに懐疑(かいぎ)的だった。

《エスメラルダ。皇神の野望を阻止できるのは彼しかいない。時間が過ぎれば計画は完遂する。私は力を二度と悪用されたくない。この惑星を決してメガへクスと同じ末路には向かわせない。そのためにも彼の力は不可欠……。しかし、今の彼にそれは不可能。彼のためにも、カルサイト。あなたは彼の所へ(おもむ)き、その力量を測り、自ら選択させる必要がある。ルパンになる者なのか、どうかを……》

 ディアの声はだんだんと弱まり、最後は力尽きたように止んだ。

「……命令を承諾」

 先に動いたのはカルサイトだった。床をブーツで踏みしめ、研究室に備え付けられた外部に繋がる非常用のエレベーターに乗り込む。ドアが閉まり、点滅ランプが地下から地上一階で止まった。

 それを確認したエスメラルダは緊張していたのか一息つく。

「……上手くいくと、いいんだけれど」

 

『ドクター!』

 エスメラルダの耳に掛けた通信機に皇神から通信が入った。茶髪をかき上げてそれを触る──一瞬、黄色い菱形(ひしがた)のピアスが見える。

「どうしたの?」

『今すぐあれを起動しろ!』

 焦り具合から、切羽(せっぱ)詰まっているのが分かった。エスメラルダはパソコンの前に座り、すぐさま言われた物を起動した。

「送ったわ」

『分かった!』

 作業を終えたエスメラルダもデスクを離れると、早足でエレベーターに向かいロビーへのボタンを押す。下りてくるまでの間、疲れを感じたエスメラルダは壁にもたれて目を閉じた。

 

 皇神の前に立っていた相手。ドーム型の頭、裂けんばかりの(まが)々しい口、黒いマントを羽織(はお)り、体の至る所に金色の紋様が入った、なんとも不気味極まる怪人だった。

『久しぶりだな……皇神』

 正体を知っている皇神は少なからず驚きを隠せなかった。だが、すぐに元の不機嫌な顔に戻る。

「なぜ、貴様がここにいる……カンナギ!」

 レム・カンナギ。彼は財団Xのアンノウンエネルギー開発担当だった。

 ある事件で、未来から時空を超えてきた「コアメダル」──約八百年前に途方もない欲望を持った一人の王のために錬金術師達が作成したメダル──と、地球外生命体「SOLU(ソ ル)」のエネルギーを持った「アストロスイッチ」を使い、「コズミックエナジー」と呼ばれる宇宙のエネルギーを(もち)いて怪人「超銀河王(ちょうぎんがおう)」に変貌し大気圏に赴き地球上の全エネルギーを自分の支配下に置こうと目論んだ。

 ところが彼もまた仮面ライダー達に野望を阻止され、自前の宇宙船「エクソダス」諸共爆散した──はずなのだが。

「残念ながら中身は、彼自身ではなく、精巧なコズミックエナジーでできたダミーです。実は彼がエクソダスと大気圏で爆散した際に、彼を構築するエネルギーがコズミックエナジーに変換されましてね。それが地球全体に降り(そそ)いだ。その反応を計測して、我々が粒子を回収して復活させた。というわけです」

 ことの経緯(けいい)を聞いた皇神が聞こえるように舌打ちする。

「最低最悪な人選ミスだ。財団Xでも一、二を争うほどがめついコイツを(よみがえ)らせるとはな」

『今でこそ、この姿になったがいずれまた私が世界──いや銀河を牛耳(ぎゅうじ)る時が来る!』

 自信満々に言い放った超銀河王の宣言に、イルズは苦笑し、皇神は呆れている。

「貴様の支配する世界など死んでもお断りだ」

『良いのか? 王に意見するなど。身の程を……知れい!』

 超銀河王が皇神に指先を向けると、そこからレーザーが飛び出した。

「くっ!」

 皇神は寸ででかわすとロビーの受付のデスクに潜り込み、通信機からエスメラルダを呼び出す。

「ドクター! くっ!」

 呼び出す間にも無数のレーザーによってデスクが削られていく。

『どうしたの?』

「今すぐあれを起動しろ!」

 向こうからキーボードを叩く音が聞こえる。

『送ったわ』

「分かった!」

 後は届くのを待つだけだが、デスクはレーザーで皇神の姿を視認できるまでに半壊していく。悠長(ゆうちょう)に待っている時間は無い。

(出るしかなさそうだな……)

 皇神はデスクから身を(さら)すと、イルズと超銀河王の二人を睨んだ。その内、一本のレーザーが頬を掠めた──一筋、血が垂れる。

「聞け!」

 皇神の言葉でイルズが攻撃をやめるように手で制す。

 超銀河王が不服そうに、一旦、腕を上げて攻撃を中止した。

「財団と手を結ぶ気になりましたか?」

「断ると言ったはずだ。私は、自分の力で世界の頂点に立つ……。貴様らには、二度と邪魔させん!」

 毅然(きぜん)とした態度で(すご)む皇神。

『皇神よ。何も持たないお前に何ができるというのだ?』

「……くっ、ふふふ、はははは!」

 普段ならば微笑みすらしない皇神が珍しく大口を開けて笑う。

『なんだ、気でも触れたか』

「……『何も持たない』だと? 貴様は、私が非常時に何の準備もしていない、とでも思っていたのか? 本当にそう思っていたのなら、貴様は本当の馬鹿だ!」

『なんだと──ぐわぁ⁉︎』

 その言葉に怒り攻撃を再開しようとした超銀河王だったが、空から猛スピードで飛来した何かが跳ね飛ばして皇神の前に着陸する。水色に着色された機械のスーツケースに鉄の翼がついたような代物(しろもの)だった。

「遅い……!」

 文句を言いつつケースに付いたペダルを踏みこむ。簡易的なパワードスーツへと変形した。上半身に装着すると、開いている隙間を()うようにアーマーが展開し、見る見る内に鋼鉄の鎧が形作られていく。最後に顔をモニターが(おお)うことで、若干の違いはあるが消滅したメガヘクスに似た姿になった。

「それは……!」

 今まで余裕(しゃく)々といったイルズの顔色が一変する。

「どうしたイルズ。お得意の笑顔はどうした。ああ、これか? 面倒だったぞ、未知の物質でできたこいつのボディを再現するのはな! さあ行くぞ!」

 メガヘクス似のパワードスーツを着た皇神は、背面ウィングに搭載されたジェットエンジンを噴射して超銀河王に突っ込んだ。

『ふぅん! 所詮(しょせん)はこの程度か!』

 超銀河王は押されつつも突進を受け止めてみせた。

「馬鹿を言うな! まだまだ小手調べだ!」

 続けて脚部のブースターの噴射し、その勢いで超銀河王を蹴り飛ばす。

『グゥウウウ!』

 強烈なキックを受けた超銀河王は床に無数のヒビを入れながら後退した。

『貴様ぁ、これをくらえい‼』

 お返しと超銀河王が羽織っていたマントを皇神に向かって投げ飛ばす。

「目くらましのつもりか!」

 浮上してマントをかわす。

『馬鹿め! それはただのマントではないわ!』

「何?」

 ヘルメットのモニターにアラートが表示される。

(「後方から物体が接近」……⁉)

 見ればマントが巨大なブーメランに変わり、ビルの内壁を切り裂きながら方向転換して迫ってくる。

「ちっ! 背面ジェット出力最大!」

 負けじと空中を舞うことで不意打ちを避けた。だが、鋭利なブーメランは地面に落ちるどころか、スピードを上げて追尾してくる。それから逃れるため皇神は猛スピードで飛び回った。

『どこまで逃げられるか、見物だな』

 勝負は決まったと言わんばかりの超銀河王。確かにこのまま持久戦に持ち込まれれば、いずれは体力を使い果たし皇神の敗北は(まぬが)れない。

 現に皇神の画面にはエネルギーの急速な減少を知らせるアラートが鳴る。このままではエネルギー切れで墜落する方が早い。

(ならば、一か(ばち)かだ……!)

 皇神はブースターの出力をさらに上げた──急転回しブーメランに向かっていく。

『ふはははははは‼ 奴め、血迷ったか!』

「はあああああぁッ‼」

 ブーメランにぶつかる寸前、皇神はブーメランに手刀を叩き付ける。

「砕けろおおぉッ‼」

 刹那(せつな)。辺りに(まばゆ)い閃光が走った。それが収まると両者は交差した──ブーメランが不意に二つに分かれる。

『何⁉ ぐぅわぁっ⁉』

 ブーメランから猛スピードで飛ぶ二本のカッターと化したそれは、一方は見当違いの壁に刺さり、もう一方は超銀河王の胸に直撃すると壁に磔にした。

『ば、馬鹿なぁっ……⁉」

 壁に張り付けられもがき苦しむ超銀河王。

 対して、皇神はゆっくりと地面に降り立つ。

「パビリオンの技術力を舐めるな……!」

 だが皇神も疲弊(ひへい)しているのが肩で荒く息をしていることで分かる。装着しているスーツも至る所から火花が飛び出し壊れかけていた。

『……ならば、銀河の王たる我の力も見くびるな‼ ぐぅうおおおおおぉッ‼』

 超銀河王は胸に刺さった得物を勢いよく引き抜くと地面に叩き付けた。ダミーのため血こそ出ないが、青いコズミックエナジーが胸から放出されていく。イルズが言った通りエナジーで体が構成されている以上、修復しなければ超銀河王は間もなく消滅する。

 両者、ボロボロの体で向かい合った。

「うっ……」

 しばらくして限界が来たのか、先にひざをついたのは皇神だった。

 この絶好のチャンスを超銀河王は見逃すはずもない。

無様(ぶざま)なり皇神! くらえい! これが銀河を構成するコズミックエナジーの力だ! はあああああぁッ‼』

 (てのひら)から人一人が消し去れる大きさのレーザーが発射され、皇神に迫る。

「くっ!」

 皇神はそれを左腕で防ぐ。しかし、焼き石に水。打開策が無ければ、これで勝負ありだ。

『皇神よ、そのまま何も成し遂げることなく消滅するがいい‼』

 すると防戦一方だった皇神がその言葉に反応してゆっくりと顔を上げる。

「断る……。私には果たすべきことがある。絶対に成し遂げてみせる。そのためにも……貴様ら(ごと)きに足踏みしていられるか! 覚悟しろカンナギ‼ 完膚(かんぷ)なきまでに、地獄に叩き返してやる! 『リミッター解除』‼」

 右腕が波打った筒状のアームキャノンに変形した──皇神の隠し玉だ。

「アームキャノン出力最大‼ くらえ、カンナギ! ここで消えるのは貴様だ‼」

 右腕に左手を添え、アームキャノンを構える。発射口から青白いビームが放たれ、カンナギが放つレーザーを押し戻す。

『ぬぅおおおおぉッ‼』

「はあああああぁッ‼」

 決して広くない空間で超銀河王のレーザーと皇神のビームが拮抗(きっこう)する。

『我はコズミックエナジーの力で、銀河の王となるのだああああああぁッ‼』

「全を個とし、個を全とするメガへクスの力……これこそ私が求めた力だ‼」

 曲げられない野望を持つ二人。ぶつかり合う互いの信念と力。同等の力を持つ者同士の総力戦──決着は意外な形で決した。

 互いのエネルギーが反発しつつ増幅したことで、逃げ場を失ったエネルギーが球状に(ふく)らみ、大爆発を起こす。ビルをとてつもない熱と爆風が襲い、ほとんどのガラスが砕け散った。

 

「ぐっ!」

 爆風に巻き込まれたことで限界に達したメガへクスのスーツから皇神が射出され、床へと投げ出される。スーツは黒焦げになり、スマートだったフォルムもただの鉄くずと化し、見る影もない。

「天地!」

 床に倒れた皇神の傍にいつの間にか着いていたエスメラルダが駆け寄る。

「大丈夫⁉」

「奴はどうなった……⁉」

「分からないわ。とにかく立って!」

 皇神はエスメラルダの肩を借りながら立ち上がり、爆煙の向こう側を見た。薄っすらと辺りが見えてくる。そこから「ツイてませんね……」と今まで高みの見物を決め込んでいたイルズの声が聞こえた。

「まさか、アマチ。あなたの力がここまでだったとは……。嬉しい誤算です」

 煙が晴れた先には、笑みを深めたイルズが立っている。

 そして、その隣に仁王立ちする超銀河王の姿があった──体に大きな筒状の風穴が空いていた。

『……残念無念……』

 その言葉を残して超銀河王は地面に倒れると爆散した。

「あれほどの不利な状況から、相打ちまで持ち込むとは。賞賛に値します」

 真横に居たイルズは爆発の(あお)りを受けたはずだが、軽く拍手をしながら何事もないように話を続ける。

「ますます提携を結んでいただきたくなりました」

「……断る」

「良いんですか? そんなことを言って、今に──ん。通信ですね、少々、お待ちを」

 通信に出たイルズの顔色が少しずつ変わった。

「……なんですって、それは本当ですか? ……分かりました」

 通信を切ったイルズは気まずそうに笑って向き直る。

「まったくツイてないですね。あなたは私が思っている以上に、悪運が強いようで」

「なんの話だ……?」

 肩で息をしながら皇神が怪訝な顔をした。

「あなたが知る必要がないことです。仕方がありませんね。今日は退散しましょう。ですが、次こそよい返事を期待していますよ」

「何度来ても答えは同じだ。痛い目に()いたくなかったら、二度とここには来るな」

「痛い目には遭いたくはありませんが、それこそ無理な相談です。では」

 (きびす)を返したイルズの体にノイズが走る。粒子となり跡形もなく消えた。

「ちっ……やはり、ホログラムか……」

「そんなことより大丈夫? スーツを着ていたとはいえ、少なからず体も痛めてるでしょう? 血も出てるわ」

「この程度なんでもない……。それより私の体を心配するなら、早くロックオーツの生成を終わらせろ……」

 肩を支えて心配するエスメラルダをよそに、皇神は不愛想に返す。

「まったく……素直じゃないわね」

「うるさい……」

 財団時代からの友人である二人は、正反対の性格ながら素を出せるほど信頼し合える者同士だった。このつれない態度もエスメラルダからすれば照れ隠しと変わらないことは、皇神も気づいているはずだ。

 エスメラルダは困った顔をして笑う──本音を悟られないように。

「ホント、素直じゃないんだから……」

 二人は研究室に続くエレベーターに乗り込んだ。

 

 エスメラルダは口では皇神に優しい言葉を掛けるものの、心の中ではその言動が目に余っていた。

 だからこそディアに計画阻止の提案を受けた時、皇神の目を盗んでカルサイトのプログラムの書き換えや装備の作成、諜報部員のアリスと組んだりと裏で暗躍していた。

 皇神からすれば隣で笑顔を見せる親友が裏切りを考えているなど考えつきもしない──少なくともそれに気づくのは今ではなかった。

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