十月十五日 深夜 海東市山間部 県境
「やめろぉ‼ 海里ぃ‼」
猫型の怪人、スミロドン・ドーパントに抑え込まれた快人は、海里がナスカに襲われる瞬間を見ていることしかできなかった。
手に持った剣が海里に向かって振り下ろされる──何者かの影が海里とナスカの間に割り込む。
「えっ……?」
海里はゆっくりと目を開けて見上げる。
その影の正体は、パビリオンの本社ビルから二人を追ってきたカルサイトだった。そして、手に握られたクレイオーアの剣先が地面に刺さっている。
「なんだ……?」
快人が少し体を起こすと、ナスカが断末魔を上げて爆散した。
「……ナスカ、排除」
正体不明の生身の人間が
「あ、あぶ──!」
快人が危機を知らせようとした、
「グッニャン⁉」
が、その爪はカルサイトに触れるどころか、肩に
「スミロドン、排除」
動作にすればたったの二回で、二体の仲間を失ったドーパント達は一斉にカルサイトに攻撃を仕掛ける。ビームやエネルギー弾、竜巻などの攻撃が迫った。
しかし、カルサイトは気に掛けることなく大剣を地面に突き刺した。コートのポケットからロックオーツを取り出す。
「オープン」
カルサイトはそれを逆さにした大剣のくぼみに
「ロック・カルサイト」
ドーパントの攻撃がカルサイトを包む──勢いが止まった。カルサイトがいた所に縦横二メートルの正方形の灰色がかった岩石が現れた。
「なんだあれ……?」
快人の疑問に答えるように、それにヒビが入り始める──内側から爆発するように破片が散り、そこから重厚な灰色の鉱石と西洋甲冑を組み合わせた剣士「カルサイト・ジュエラー」が現れた。
カルサイトは大剣を構えて、ゆっくりとした足取りでドーパント達に向かっていく。
「な、何をしている! やれ!」
異常事態に焦った様子の金色のマントを
空中に浮かぶ赤い女型怪人、タブーと、天候を操る白い怪人、ウェザーが、無数の光弾と猛烈な勢いの竜巻を放った。
それをそのまま受けたカルサイトだが歩みを止めることはない。静かに大剣のロックオーツを開け、閉めた。
「カルサイト・ロッキング」
大剣に光が灯る。二体に向かって横一線に振り抜くと剣から灰色の衝撃波が飛び出す。光弾と竜巻を上下に切り裂き、タブーとウェザーの体を通り過ぎる──体が上半身と下半身に断たれた。
「……タブー及びウェザー、排除」
道路と空中で爆発が起こり地面が大きく揺れた。ドーパント達が一瞬体勢を崩した。その隙にカルサイトが爆炎に紛れて飛び出すと、土器のようなクレイドールの体を細切れにする。
「……ふふ、無駄よ」
ところがクレイドールの能力の一つ「驚異的な再生力」により、体が
「私の再生能力に、貴方は追いつけな──」
言い終わる前に胸に大剣を突き刺れる。
「な、何をしているの、無駄だと──」
「外が無駄なら、内からならどうだ」
「えっ」
カルサイトはロックオーツを先ほどと同じ動作を繰り返した。今度は剣の形をした灰色のオーラが現れる。それがクレイドールの体を食い破るように広がっていく。
「消えろ」
「あっ、あがぁ……!」
本来のクレイオーアの刀身よりも何倍も大きいオーラが全身を包む。クレイドールは跡形もなく消滅した。
「クレイドール、排除」
ドーパント達も残るは金色と藍色のマントを羽織った二体のみ。
「ならば……!」
効果が無いことが分かったのか構えを取った。その頭に異変が起きる。頭の紋様に似た怪物「テラードラゴン」がテラーの頭部から分離するためにうごめいた。
「行け! テラードラゴ、ンっ⁉」
だが、その奥の手もカルサイトには意味をなさなかった。
あろうことか本体から
本来なら大立ち回りをするはずだったのだろうが、テラードラゴンは苦しみながらその巨体が少しずつ断たれていく。
流石に出ようとする力が働いており、カルサイトは両手で大剣を握りしめて強く踏ん張った。
結果、クレイオーアは怪物の頭を通り過ぎ、体を引き裂き、尻尾まで到達。まさに
「テラー、排除」
テラーを倒し、最後に残ったのはユートピアのみ。
ユートピアはマントを翻すと、先手必勝とばかりに十数メートルの距離を一気に
「貴様の生きる希望を
特殊能力を発動しようとするがカルサイトはまたもや反応を示さない。自分の手を見て考える余裕すらある。
「っ⁉ なぜだ! なぜエネルギーに転換されない⁉ はっ! まさか貴様──」
ユートピアが何かに気づいた直後、カルサイトがその頭を摑む。バキバキと嫌な音を立て始めた。
「あ、あっ、あがあぁぁ! あ、あぁっっ……あっ」
リンゴを握り潰すように強固なはずの頭が粉々になる。頭部がなくなったユートピアはそのまま膝を折り、爆散した。
「ユートピア、排除」
こうして七体の怪人はカルサイトによって、ものの数分で全滅した。
戦いを終えたカルサイトは大剣からロックオーツを外す。長髪を靡かせる人に戻る。
その戦いぶりに圧倒され地面に倒れたままだった快人は立ち上がり、快人達からすれば見ず知らずの相手に声を掛ける。
「あ、ありがとな。助けてくれて」
「…………」
とりあえず礼を言ったが、カルサイトは顔を
(なんだ、こいつ?)
「……そういえば、海里は?」
おかしな反応に首を
快人が駆け寄り、海里を抱き起こす。
「おい! 大丈夫か?」
「……貴様が、『ルパン』か?」
不意に背後から声を掛けられる。
「は?」
振り返ると、鼻先には大剣の切っ先があった。
「うおっ⁉ 何すんだよ⁉」
驚きのあまり咄嗟にそれを
「貴様がルパンかと聞いている」
「……なんの話だ?」
その名前が出たことで嫌な予感がした快人は
「なぜ、『変身』しなかった」
だが、カルサイトはさらに疑問を投げ続ける。
「変身? なんのことだよ?」
「貴様が、仮面ライダー、ルパンだろう」
(仮面ライダー……!)
その一言に反応して快人は反射的に驚きの感情を顔に出してしまった。
「やはり。さあ、変身して私と戦え。そして証明しろ。お前が、英雄に
表情の
「英雄……って、いや、いや、ちょっと待てって!」
今にも切り捨てられる──その時、深夜の闇を光が照らす。道路の電灯より
快人が光を認識した瞬間、破裂音と共にカルサイトの足元に無数の穴が開く。
「うわっ⁉」
「むっ……」
不意打ちを大剣の分厚い刀身で防ぐためにカルサイトは快人たちから距離を取らざるをえなくなった。
その間に、快人達の前に後部に八連装のガトリング砲が付いたゴルドルパンが停止した。ガルウィングが開く。
「お二人とも、乗ってください」
イライザの声が乗車を促してくる。
「イライザ! ナイスタイミング!」
「お褒めの言葉は後ほど。早く乗ってください」
快人は急いで海里とケースを抱え、時間稼ぎのためにガトリングを撃ち続けるゴルドルパンに乗り込む。
「シートに座ってください」
「ちょっと待ってくれ……!」
ケースを後ろの適当な所に放り、気絶した海里を助手席に座らせる。
「よし──うっ⁉」
準備を整えた快人も運転席に座るとシートベルトが自動できつく巻かれた。
「いってぇ……」
「しっかり捕まっていてください。飛ばします」
「えっ、おわあぁっ⁉」
イライザの一言でドアが閉まりエンジンが起動すると、プロドライバーも顔負けの急反転で来た道を逆走する。あっという間にカルサイトの姿が見えなくなった。
(……助かった、のか)
ドアミラー越しに変わっていく景色を見つつ、快人は危機を切り抜けたことに安心し、ふぅと息を吐いた。
一方、快人達を逃がしたカルサイトはその方向を見ながら立ち尽くしていた。
「逃がしちゃったみたいね」
「……問題ない。追跡システムは作動している」
背後から聞こえた声に、カルサイトは前を向いて言い返す。
「あら、随分と頼もしいのね」
「……なんの用だ」
カルサイトの隣にアリスが立つ。
「別に? これが最初で最後の顔合わせになるかもしれないと思っただけよ」
「……例え、そうなろうとも、それが私の使命だ」
自らの運命を受け入れているのか、カルサイトが無機質な目でアリスを見た。
「そう。まあ、せいぜい頑張ってね。機械のお人形さん」
先の展開をある程度読めているのか、別れの挨拶代わりに手をヒラヒラと振って夜の山道を
カルサイトはクレイオーアを背中の
プログラムによって導き出された行き先。
(……久瑠間運転免許試験所)
仮面ライダードライブとロイミュードの因縁の場所だった。
同日 深夜 台東区久瑠間
「……なぁ、どこまで行くんだよ」
二人を乗せたゴルドルパンは、快人が避難しようと思っていたアルセーヌ城を過ぎ去り、国道を通って台東区に入っていた。
安全なはずの城から他の場所に行くということは何か理由がある。
だが、イライザは城を過ぎてからというもの、快人が行き先を尋ねても一言も喋らない。画面にも背を向けたままで快人を見ようともしない。
そのためすっかり快人も諦め、窓の外に見える久瑠間の街並みを眺めている。
つい一カ月前まで、仮面ライダードライブがこの街を中心に活躍していたことは大々的にテレビで報道されたこともあり快人達も知っていた。
かつてグローバル・フリーズで助けてくれたヒーローがいた街。その事実を快人はどのように受け止めているのか。
「ふぁああ……ん? ここ、どこ?」
気絶していた海里が目を覚ました。
「ゴルドルパンの中」
「えっ、あれ? 怪人は? あの人は?」
察するに、カルサイトに助けられた直後に気を失ったようだ。
「まぁ……いろいろあって、今どっかに逃げてるところだ」
「……どっか?」
「知らねぇよ。 台東区なのは確かだけどな」
「えっ、 そんなとこまで来ちゃったの?」
「ほんと、どこに連れてく気なんだろうな……」
快人はうんともすんとも言わないモニターから窓に視線を移し、ため息をつく。
それからさらに数十分の間、ゴルドルパンが停車することはなかった。
「久瑠間運転免許試験場……?」
目の前にある看板にはそう書かれていた。
「免許ならもう持ってんぞ」
「いいえ、そうではありません。ここに快人坊ちゃんが手に入れるべき物があります」
沈黙を貫いていたイライザがここでようやく口を開く。
「やっと喋ったと思ったら……。何を手に入れるって?」
「英雄の力、とだけ」
「英雄の力……?」
「ねぇ、大丈夫かなぁ……。私たち、今、不法侵入してない?」
「ご心配なく。ゴルドルパンにはボディに外景を投影することで外部には見えないようにする、疑似的なステルス機能が装備されています。またカメラへのジャミング機能も搭載されており監視カメラにも映りません」
「と、とんでもない、車だねぇ……お兄ちゃん……」
「……まったくだよ」
二人が新たに判明したオーバースペックに驚愕していると、ゴルドルパンは建物と建物を繋ぐ渡り廊下の下で
「あれ? どうしたの?」
画面に映るイライザが宙にスクリーンを呼び出して操作し始めた。
「少々お待ちください。すぐに終わりますので」
「終わるって、何が──きゃっ⁉」
地面が沈み始めた、正しくは降下していく。
「エレベーター、か?」
快人の予想通りゴルドルパンはアスファルトの地面にカモフラージュされたエレベーターで地下へと降りていく。しばらくして底に着いたのかエレベーターが止まった。
「いよいよ、何かあるって感じだな」
「なんだろうね……」
不安な面持ちの二人を乗せたゴルドルパンは整備が行き届いた地下通路を走る。
一番奥に辿り着いた。そこは物がほとんど置かれていない広い空間だった。
「降りてください」
イライザの指示に二人は顔を見合わせるとゴルドルパンから降りる。
「……あっちこっちがボロボロなだけで何もねぇぞ」
少々の
「お待ちを。ただ今、呼び出します」
「呼び出す? 何を?」
するとゴルドルパンのバンパーからワイヤーが飛び出し、部屋の中央の床に張りつく。
「解凍中……。解凍完了」
床が割れ、地下から台座に乗った赤いスーパーカーと白と紫の二台のバイクを筆頭とする様々な車両が現れた。その中にはルパンビーグルに似たミニカーも大量にある。
「すっごぉい……!」
「こいつは……」
突然現れた特殊車両に驚く二人。
「坊ちゃん、あちらです」
ゴルドルパンのフロントライトが一点を照らす。赤い車のボンネットに置かれていたそれがライトを反射して、金色に光った。
「あれは……?」
「先代の
「じいちゃんの……?」
快人は床に置かれたミニカーを踏まないように慎重に進みながらボンネットの前に辿り着く。
そこにあったのは金色のメリケンサックに見える物と、後部にナイフがついた金色のミニカー。快人がその二つを手に取った。
「ボーイ。それは君の手に
暗い室内を英語交じりの男の声が響いた。
「えっ、何⁉ お化けぇぇっ⁉」
パニックになった海里がゴルドルパンの運転席にすがりつく。
「
快人は手に持った物を強く握って周りに目をこらす。
「どこだ。姿を見せろ」
「どこも何も、私は今、君の目の前にいるさ」
「えっ?」
快人が前を向くと一台の移動式のスタンドがあった。ベルトらしき物が取り付けられている。
「『目の前に』ってこの台か? って、あれ? これどっかで……?」
見覚えがあったそれを思い出そうとする──ベルトの液晶から青白い光が投影され、一人の壮年の男性を映し出された。外見から外国人に見える男は髭をたくわえ、きっちりとしたスーツに眼鏡を掛けている。
「キャー‼ お化けぇ!」
「落ち着け海里。ただのホログラムだ」
「イグザクトリー。この姿はあくまで、このドライブドライバーで投影しているだけにすぎない」
そして、男は自身がベルトにプログラミングされたAIだと語った。
「で、アンタは誰なんだ?」
「私はクリム・スタインベルト。ここにある装備のエネルギー源となる『コア・ドライビア』を作った発明家さ」
「『クリム』……」
「『スタインベルト』……?」
二人は名前に聞き覚えがなかった。
「……まあ、知らなくても当然さ。さて、こんな所まで来た君達はいったい何者かな?」
今度はクリムが品定めするように二人を見る。
「……俺は、東条快人」
「東条海里です……」
「ふむ。どうやら兄妹のようだが。それにしても『東条』、聞き覚えがある名前だ。私に東条という名の知人は少ない。その中で一番印象に残っているといえば……。ゾルーク東条だけだね」
「ゾルーク……!」
「東条⁉」
二人はまさか出てくるとは思わなかった名前を聞いて驚く。
「じいちゃんのことを知ってるのか⁉」
快人がクリムに摑みかかる──ホログラムのため
「『じいちゃん』? じゃあまさか、君達は……」
「俺達は、東条来蔵……ゾルーク東条の孫だ」
「…………」
素性を知ったクリムは黙り込むとしばらく目線を快人と床に交互に移す。何か言おうか、言わずにいるか、迷っている様子だ。
少し間を置き、二人の顔色を伺いながら口を開いた。
「君達は……ルパンがどうなったのかは、知っているのかい?」
クリムに尋ねられて、海里は顔を伏せ、快人は目線を逸らして答える。
「……ある程度は」
「そうか……」
するとクリムは二人に向かって頭を下げた。
「……すまなかった」
「えっ、なんで……?」
「彼が亡くなった原因は、間接的とはいえ私にも責任があるんだ」
「それってどういう……?」
クリムが頭を上げる。先ほどとは打って変わって覚悟を決めた表情だ。
「これから話す話は私にとって、君達に対するせめてもの、
それからクリムはこれまでのことを語り始めた。
かつての友だった
ロイミュードに対抗する戦士を
刑事である泊進ノ介を仮面ライダードライブに変身させたこと。
そこで仮面ライダーに興味を持ったルパンが、自分用に創った──様々な危険性から使用を断念した──サイバロイドZZZのボディを使ったこと。
最期は自身に致命傷を負わせたロイミュードを倒し、人知れず消滅したであろうこと。
他にも、ドライブと共闘した二人の仮面ライダーに、憎めない三体のロイミュードの最期など、彼が経験した一年半程を二人に伝えた。
話を聞き終わるまで、快人達は口を挟まなかった。だが、海里はゴルドルパンの座席に凭れて複雑な表情を浮かべ、快人はクリムに対する怒りからか両手を強く握った。
「……これで、話は終わりだ」
一気に話し切ったクリムが一つ息を吐く。
「……もし、アンタに体があったら、今頃ぶん殴ってる」
快人が怒りを隠さずに言い切る。
「そうだろうね。むしろそれで済むなら私も喜んで受け入れよう。だが、今ではそれも叶わない。私ができる唯一の
これで許されるとは思っていないが、と付け足しクリムはルパンガンナーを指す。
「……ところで、どうしてルパンガンナーが必要なんだい?」
「俺が二代目ルパンになるため……だと思う」
まだ怒りが収まっていないので少しぶっきらぼうに答える。
「二代目ルパン? まさか、君が怪盗アルティメットルパンに?」
「……でないと世界が滅ぶらしい」
「世界が滅ぶ。なんとも物騒な話だね」
「……でも、俺にじいちゃんの代わりが務まるのか……」
快人が半ば諦めた表情で目を伏せた。
「……またそんなこと言って、お兄ちゃんらしくないよ」
二人の様子を見聞きしてクリムは少し考え込んで尋ねた。
「ボーイ。君に何があったのか、よければ聞かせてくれないだろうか?」
クリムの申し出に快人は少し目を泳がせるとポツリポツリと語る。
「……恋人と一緒に怪物に襲われた。近くにいたのに救えなかった……。今も病院で眠ったままだ」
それから快人は、ある日祖父が
「……『彼』に似ているね」
話を聞き終えたクリムが呟く。
「えっ?」
クリムの言う「彼」とは──グローバル・フリーズで自身の不手際で同僚を失いかけ、無気力になることが多かった──進ノ介のことだ。
「実は彼も──」
クリムが進ノ介について話そうとした。
コツコツ──快人達が通ってきた地下通路から靴音が響いてきた。三人がその方向を見る。
「見つけたぞ。ルパン」
薄暗い出入り口の電灯に照らされたのは、クレイオーアを背負ったカルサイトだった。