小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 Start your Engine! その言葉が、青年の心に火をつける。


第11幕 Henshin/快人を変身させたのは誰か

  十月十六日 深夜 台東区久瑠間 ドライブピット

 

 三人の前にカルサイトが立ち(ふさ)がる。

「あっ、さっきの! あれ……えーっと」

 気絶していたため詳細を知らない海里が、カルサイトの顔を見て何か考え始めた。

「……海里。車の中に入ってろ」

 快人が慌ててゴルドルパンの中に押し込む。

「えっ、ちょっ、なんで──」

「いいから……!」

 海里からすれば命の恩人を危険人物のように扱う快人を睨むが、強引に座席に座らされた。快人がドアを閉める。

「ゴルドルパン、施錠」

「えっ」

 考えを()んだイライザにロックを掛けられ、何やら雲行きが怪しいことに気付く海里。

「何、何、何……なんなのよぉ!」

 窓越しに抗議する海里を無視して、快人はカルサイトと対峙(たいじ)するが少し(およ)び腰だ。

「何しに来たかは聞かない……。でも、帰ってくんねぇか。お前が納得する答えは出ないと思うぜ」

 そう答えるが、カルサイトは背負ったクレイオーアの()を握る。

御託(ごたく)はいい……。答えないならば、力尽くで答えさせるまでだ」

 (さや)から大剣を引き抜き襲いかかってきた。

「うわっ⁉」

 快人は避けようとしたが床で滑って尻餅をついてしまった。

「危ない! ゴー! シフトカーズ!」

 成り行きを見ていたクリムの判断で床に無造作に置かれていたシフトカーが突然、息を吹き返したように動き出す。空中に小さな高速道路を敷きながら縦横無尽に飛び交い、多種多様な攻撃で快人からカルサイトを引き剥がす。

 しかし、カルサイトもやられっぱなしではない。クレイオーアを振るって攻撃を防ぐ。

「ボーイ! 大丈夫か⁉」

 クリムが快人を抱えようとするが、ホログラムのため触れられない。役に立たない体を恨みながら、声を掛けるだけに(とど)まる。

 一方の快人は黙って項垂れたままだ。

「どうしたんだね! 逃げないと危険だぞ!」

「……また、たすけられた。おれはなんて……むりょくなんだ……」

 どうやらこの一瞬で自分に対するさまざまな感情から(ほう)けてしまった。

 その間にも、シフトカー達が次々に叩き落とされてその数を減らしていく。

「ボーイ、しっかりしたまえ!」

 茫然自失した快人にクリムの言葉は届かず、瞳を伏せたままだ。

「やっぱり、じいちゃんには、なれないんだ……。じいちゃんみたいに……。おれは……だれもすくえない……」

「…………」

 その言葉に何を思ったのか声を掛けるのを止め、クリムはそっと肩の位置に手を置いた。

「……君にある青年の話をしよう。彼はある時、理不尽な理由でかけがえのない友を失いかけた。それから彼の心のブレーキが掛かるようになった。だが、さまざまな経験を積み、それを乗り越えて、彼は最後には『英雄』になった」

(えい、ゆう……?)

 その言葉に反応した快人が顔を上げる。

「君は超人だ。ただ『アクセルの踏み方』を忘れているだけだ」

「アクセルの踏み方……。でも、俺にはなんにもない……。何ができるって……」

 悲痛な表情を浮かべる快人に、クリムは優しくこう続けた。

「『変身』したまえ」

「……えっ?」

「誰でもない君が、君自身が運転するんだ。最初は怖いかもしれないが、今はただ自分の思うように走ればいい。大丈夫だ。君ならすぐに慣れるさ」

 快人はクリムの顔、そしてシフトカーを見た。ほとんどのシフトカーが床に倒れている。快人を(まも)るためだ。

「……俺なんかのために体を張ってくれたのか……?」

「君だからこそさ」

『誰かが困ったら助け合う。それが人だろう?』

『誰かが危機に陥った時は、互いに助け合う……。それが人間のルールではないのか』

 快人の心に「ヒーロー達」の言葉が思い起こされる。

「君は過去、大切な物を守れなかった。だが、今度は戦える」

「……俺に、できるかな?」

 快人は縋るようにクリムを見た。クリムは笑みで返す。

「オフコース。何故なら君は、一度とはいえ、私たちを倒した。あの怪盗アルティメット・ルパンの孫なんだからね!」

「じいちゃんの……『孫』。そうだ……じいちゃんにできて、孫の俺ができねえはずがねぇ!」

 快人は立ち上がりひざに付いたゴミを払う。

「もう──もう、悩むのはやめだ!」

 覚悟を決めアクセルを踏む気になった快人。その顔は先ほどまでとは違い、清々しく()々しい。

「俺はまだじいちゃんのことが許せねぇし……。じいちゃんの代わりになんか、なれないかもしれない。でも今は、俺がやれることをする!」

「いいぞ、ボーイ! ルパンガンナーの銃口を押し込むんだ!」

「銃口、これか」

 快人はルパンガンナーを構え、意を決して銃口を押し込んだ。

「変身! ……あれ?」

 高らかに叫ぶ──うんともすんとも言わない。

「な、なんで?」

 何度も押し込むが一切の反応が無い。

「おいおい、どうなって──うわぁ⁉」

 突然、ルパンガンナーの側面に()められていた紫色の宝石が砕け散った。

「……どうやら、ルパンガンナーのコア・ドライビアが傷ついていたみたいだね」

「えっ、それってつまり……?」

「リモコンに電池が入っていないのと同じだ。変身できなくなった」

「はぁ⁉ ちょっと、冗談だろ! こんな大事な時に!」

 焦る快人がカルサイトを見ればシフトカーがすべて床に落ちていた。当の本人は息を切らさず生身で、だ。

「やはり、お前がルパンだな。私と戦え。英雄になる者かどうかを、私に証明しろ」

 クレイオーアにロックオーツを嵌める。カルサイト・ジュエラーに変わった。

「ちょ、ちょ、ちょっと待てて! どうするんだよ! ベルトのおっさん!」

「べ、ベルトのおっさんとは失礼だね……」

「ベルトのおっさん」と言われクリムが困惑した表情を見せる。

「じゃあ『ベルトさん』! 俺はどうすればいい!」

 その言葉にクリムが一瞬目を見開くと懐かしそうな表情を浮かべた──ホログラムがかき消え、代わりにベルトの液晶部分に電光表示で作られた顔が映る。

「……ならば、君の可能性に賭けてみよう。私を使うんだ!」

「……はい?」

 意味不明な申し出に快人はポカンとする。

「君は進ノ介と同じ経験をした。君は今、彼と同じように走り出そうとしている。もしかすると上手くいくかもしれない……いや、上手くいくさ! さあ、私を腰に巻きたまえ!」

 それでも快人は()に落ちていなかったが、(うなず)くとスタンドにくくり付けられた「ドライブドライバー」を手に取った。

「OK、ベルトさん! 俺の心に火をつけてくれたアンタだ。その可能性乗ったぜ!」

 快人は帯を巻きつけるように、腰にドライブドライバーを装着した。

「ベルトさん」

「なんだい?」

「ありがとな、いろいろ。元気づけたり、ほら、その……じいちゃんを止めてくれて」

「……構わないさ。その時、やらなければならないことをやっただけだよ」

 一台の赤いシフトカー「シフトスピード」が黒いリストバンド「シフトブレス」を牽引(けんいん)して快人の手に収まる。

(こいつは……)

 快人が少し嬉しそうにそれらを(なが)める。来蔵がドライブをリスペクトしていたことが分かったからだ。

「どうしたんだい?」

「いや、なんでもない。『教習』頼むぜ。ベルトさん!」

 快人はシフトブレスを手早く左手首に巻いた。

「シフトカーを回転、レバーにしてそのシフトブレスに装填するんだ」

「レバーに……OK」

 教えられるままにシフトブレスにシフトカーを装填した。

「レバーを倒し変身するんだ!」

 レバーになったシフトカーを倒す。

「変身! ……あれ?」

 だが、ドライブドライバーもなんの反応もない。数回倒すがやはり何も起こらない。

「あれ、あれれ? おかしいなぁ? なんで、変身、できないんだよ!」

「……こちらから行くぞ」

 痺れを切らしたカルサイトが迫る。

「ちょ、ちょっと待って! ほら、頼むよ! 動けって! こんなところで諦められねぇんだよ!」

「やはり進ノ介でなければ……ん?」

「むっ」

 突如、カルサイトを跳ね飛ばし、一台の紫がかった黒いシフトカーが手元に来る。

「おっと、こいつは?」

「『シフトスピード・プロトタイプ』! そうか、ドライブシステムが完全に構築されていないこのシフトカーなら変身可能かもしれない!」

「つまり、お前が力を貸してくれるのか?」

 プロトスピードはそれに(こた)えるように小さな体を動かす。

「……よし。三度目の正直だ! 行くぜ、ベルトさん!」

「OK! スタート、ユアー、エンジン!」

 

 快人はドライブドライバーのイグニッションキーをひねり、プロトスピードをシフトブレスに装填、プロトスピードの後部を右手で持ちつつ左腕を回す──シフトカーを相手に見せつけるような格好になる。

「変身!」

 右手でレバーを引き上げるように倒す。ドライブドライバーの液晶に「S」の文字が浮かぶ。

「ドライブ! タイプ! プロト! スピード!」

 ガイダンス音と共に周囲に黒い機械のボディが浮かび上がり快人の体に装着──仮面ライダードライブに変身した。

「おぉ! やっと、変身できた! これが仮面ライダーか──おわぁ⁉」

 あこがれの仮面ライダーになって喜ぶドライブの胸に、赤いスーパーカー「トライドロン」から射出されたタイヤが(たすき)のように体に巻き付く。その勢いが強く、想定もしていなかったためドライブがつんのめる。

「うわっ。えっ、タイヤが巻き付いた⁉」

「トライドロンからタイヤが? 妙だな。本来プロトスピードに『タイヤコウカン』の機能は付いていなかったはずだが……」

「いや、そんなこと言われても……。あれ、なんか画面に映ってる」

 ドライブのヘルメットのスクリーンに、車をモチーフにした赤や黒、緑に白い物から、青、果てはフルーツまで、さまざまな姿をしたドライブの戦闘シーンが流れる。

「これはドライブの戦闘データだ! そうか、プロトスピードに内蔵された戦いの記録をこのタイヤを媒体(ばいたい)として反映させているのか。ボーイ、もしかするとこの姿は本来のスペックよりパワーアップしているかもしれない! プロトタイプという不完全ゆえになせる技だ! 名付けて『仮面ライダードライブ・タイププロトスピード』だ!」

 発明家としての(さが)か、子供のように喜ぶクリムに対してドライブは体を触って感触を確かめる。

「まあ名前はどうだっていいけど……。これで、俺も戦えるな!」

 嬉しそうな口調のドライブがファイティングポーズをとった。

「待たせたな! 真打ち登場だぜ!」

「……いいだろう、だがルパンではないお前が私を倒せるはずがない」

「おっと、それは聞き捨てならないね。このボディはかつてロイミュード百八体と死闘を戦い抜いた英雄、仮面ライダードライブだ。そう簡単に追いつけやしないさ!」

「なんであろうが、英雄の素質があるかどうか。それを確かめるためにお前を斬る。それが私に与えられた使命だ」

 曲がりなりにも仮面ライダーに変身したことで殺気をあふれさせるカルサイト。

 その目の前ではドライブが準備運動をして体をほぐしている。

「よし、久しぶりのタイマンだ。アルティメットルパンの孫の実力、って奴を見せてやるぜ!」

「あぁ。ひとっ走り付き合いたまえ!」

「……えっ、何それ?」

「ドライブの決め台詞さ」

「決め台詞! いいじゃんそれ! よし、じゃあ、俺も!」

 ドライブは腰をかがめてポーズを取る。

「『ひとっ走り付き合えよ』ってな! はぁああああ! おらぁ!」

 ドライブの強烈なパンチがカルサイトのボディに刺さる。

 こうして()しくも同じプロトタイプ同士の戦いの火蓋が切って落とされた。

 

「はぁああああ! かってぇえっ……」

 威勢(いせい)よく殴ったのはいいもののドライブの装甲(そうこう)をもってしても強固だったようだ。始まって早々、一旦距離を取って右手を振る。

「アイツ、中に何が入ってんだ……⁉」

「重装甲の相手に闇雲に攻撃しても効果は薄いだろう。敵のウィークポイントを見つけて集中攻撃するんだ」

「ウィークポイント……弱点か。でも、どうやって見つければ……あっ?」

 助言を受けたドライブがどうしようかと考えていると、ヘルメットのスクリーンにカルサイトの弱点が示された。

「弱点が映った?」

「これは『テクニック』の解析能力か! やはりこの姿は本来の性能を超えているようだ! ならば……」

「なら、何──うおわぁ⁉」

 二人が相談する間に距離を詰めたカルサイトに逆袈裟(けさ)で斬られ、吹き飛ぶドライブ。

「痛ってぇ……! ……こんの、何すんだ、よッ!」

「ぐっ……⁉」

 立ち上がったドライブが殴る。すると今までドーパントの攻撃に反応すら見せなかったカルサイトが後ろに()け反った。

「なんだ、今の感覚は……?」

 カルサイトは初めて感じた痛みに驚いている。

 一方でドライブも驚いたように自分の右手を見た。

「どうなってんだ? 急に力が出たような……」

「おそらく『ワイルド』の特性が君のパッションに反応したんだろう。それに、さっき仰け反るのを見たところ、勝機はある!」

「よっしゃ、一気に決めるぜ! ってどうすりゃいいんだ?」

「言っただろう、簡単に追いつけやしないと。この姿も『スピード』と(かん)するだけ、速さなら折り紙付きさ! さあ、レバーを三回倒すんだ!」

「レバーを三回? 分かった」

 まだ勝手がよく分かっていないドライブは言われるがままレバーを倒す。

「スピ、スピ、スピード!」

 ガイダンス音が流れる。

「なんだか、自転車で走った時みたいに風を感じる……」

 ドライブは体が軽くなったような感覚がした。

「いや、今の君は風よりも早いさ! さあ、反撃だ!」

「OK、行くぜ!」

 クリムの言葉通り、ドライブは目にも留まらぬ速さで部屋の中を縦横無尽に駆け抜ける。カルサイトの背後に回り、テクニックの能力で見つけ出した弱点──装甲と装甲の隙間──をワイルドのパワーでパンチを打ち込む。

 ()え間ない攻撃にカルサイトは防御に(てっ)していたが、弱点への攻撃が効いてきて少しずつひざを折り始める。

 その様子を見てドライブが、「よっしゃ、どうだ!」と一瞬立ち止まった。

「……はぁッ!」

「えっ──ぐはっ!」

 それが(あだ)となり、クレイオーアで切り上げられたドライブはバク転するように一回転して床に倒れる。

「イテテ……。ちょっと、調子乗りすぎた……」

 照れくさそうに頭を掻きながらドライブは立ち上がって再び攻撃を仕掛けた。

「ハッ!」

「うわぁっ⁉」

 先ほどとは打って変わり近寄るたびに反撃を受ける。攻撃が読まれている。

「どうなってんだ……。全然当たんないぞ。どうしようベルトさん」

 途端に打つ手がなくなったドライブはひざをついてクリムに相談した。

「武器を持った相手に接近戦は、やはり無理があったね……」

「ハァッ!」

 相談する暇も与えないためにカルサイトがクレイオーアを振りかぶる。このままではナスカよろしく真っ二つにされてしまう。

「うわぁ⁉ ちょっと、ベルトさん⁉」

「ならば、その戦力差は装備で埋めよう! カモン、『ハンドル剣』!」

 クリムの掛け声でトライドロンから一本の剣が射出されドライブ目掛けて飛んでくる。

「剣? あれか! よっと!」

 ドライブはカルサイトの兜割りを寸でのところでかわし、その肩を踏み台にした。

「何……⁉」

 ドライブは飛んできたそれを摑むと空中で半回転して背中を斬り裂く。

「グッ⁉」

 思わぬカウンターを受けたカルサイトは床に体を擦すりつけながら倒れる。

「よっし! って、なんだこれ?」

 手応えを感じガッツポーズをとるドライブ。ところがその手に持った武器を見て驚く。それもそのはず、剣に車のハンドルが取り付けた珍妙な武器だった。

「名付けてハンドル剣だ」

「見たまんま……もうちょっといい名前はなかったのかよ?」

「いや、別に私が付けたわけじゃ──」

 クリムがネーミングセンスの疑いを晴らそうとしていると、カルサイトがゆっくりと起き上がる。

「何を悠長(ゆうちょう)にしている。まだ勝負は終わっていないぞ……!」

「おいおい。まだやる気かよ?」

 ドライブはハンドル剣を肩に(かつ)ぎながら尋ねた。

「当然だ……!」

 冷静さがあった今までとは違い、鬼気迫る勢いでクレイオーアを構えた。本気を出したのだ。

 それを見たドライブはため息をつきやれやれと被りを振る。

「……しゃあねぇ。そっちがやろうってなら、こっちもとことんやるしかねえな!」

「ハァッ!」

「オラァッ!」

 ハンドル剣とクレイオーアの刃がぶつかり火花を散らす。

「俺にはやることができたんだ! そのためにも、ここで負けるわけにはいかねぇ!」

「ならば、証明しろ……! お前が英雄に相応しいのかどうかを!」

「上等だ! その目に焼き付けろよ!」

 二人の想いがぶつかった激しい攻防戦は、気づけば地下のドライブピットから地上に出るまで続いた。

 

 一方、ゴルドルパンに押し込められた海里は何かを思い出そうとしていた。

「んー……うむぅ……。誰だっけぇ……。あの人、絶対にどっかで見たことあるのにぃ!」

 苛立ってハンドルを叩く。どうやらカルサイトの顔をどこかで見たことがあった。首をひねって「いつだっけぇ。どこだっけぇ」と(うな)っている。

「……あれ? お兄ちゃんは?」

 ふと、ドライブピットに二人がいないことに気づく。

「外に出られました」

「えっ、いつの間に! 追いかけないと!」

 海里はシートベルトを締め、ギアをリバースに入れアクセルを踏む。ゴルドルパンを後ろに下げると一気にハンドルを切る。かなり危険な運転で前を向くとギアをドライブに入れ、アクセルを踏み込む。ゴルドルパンが凄まじい速度で地下通路を走り抜けた。

 

 電灯だけが照らす施設内に度々、瞬間的に(まばゆ)い光が照らす。正体は二人の戦士が傷つくたびに出る火花だ。

 見れば、両方の鎧に大小様々な傷が付いている。互いに隙ができるとそこを攻め、その度に相手が地面に倒れた。

 だが、何度倒れても二人は立ち上がる。自身の使命、プライドが、倒れることを許さない。

 ついには両者が同じタイミングで剣を振るった。

 ガギン!──金属特有の(かん)高い音を立てて鍔迫(つばぜ)り合いになる。

「くっ、流石に強ぇな……!」

 力では()が悪いと考えたのか、ドライブは片手で持っていたハンドル剣を両手で持つ──手が滑りハンドル部分を回した。

「ターン!」

「えっ、何──うわぁ⁉︎」

 ドライブが剣に引っ張られながら目にも留まらぬ速さでカルサイトを斬りつけると、即座にその場を離れた。訳が分からないドライブはハンドル剣を驚きの目で見る。

「な、なんだ? 今の」

「ヒット&アウェイ。それがハンドル剣での戦い方だ。少々暴れ馬なのが難点だがね」

 その説明を受けて、ドライブはハンドル剣をブンブンと振った。

「なるほどね。扱いにくいなら……センスで勝負だ!」

「ターン!」

 ドライブはハンドルを回しハンドル剣に導かれるまま無軌道に走り回り、カルサイトを一閃していく。

「くっ!」

 さしものカルサイトも思考が(ともな)わないハンドル剣の無茶苦茶な軌道は読めず、カウンターが思うように決められずに攻撃を受け続ける。

「Uターン!」

「ハァァッ‼」

 ハンドルをもう一度回したドライブはカルサイトの(ふところ)に入ると回転攻撃を仕掛けた。鎧の至るところを切り裂かれたカルサイトが地面にひざをつく。

「今だ、ボーイ! シフトカーをハンドル剣に挿しこむんだ!」

「了解!」

 ハンドル剣にシフトプロトスピードを挿し込む。ドライブドライバーの液晶がスピードメーターのような表示に変わる。

「ヒッサーツ! フルスロットル‼ プロト! スピード!」

「はっ!」

 ドライブは剣を頭上高く掲げると、地面を踏みつけ空高く飛び上がる。そのまま空中で全身を使って縦回転を始めた。一輪のタイヤのようなエネルギー体に変わっていく。

「いっけえぇぇぇぇ‼」

 ドライブはその状態でカルサイトに突っ込む。

「まだだ……!」

 迎撃するためクレイオーアのロックオーツを閉じた。

「カルサイト・ロッキング」

 カルサイトが鈍色のオーラを(まと)ったクレイオーアを思いっきり振るう。

 ドライブの必殺技「ターンスラッシュ・プロト」と、カルサイトの必殺技「剣磨斬(けんまざん)」がぶつかる。

 一瞬の押し合いの末、強烈な縦回転に耐えきれなかったクレイオーアのオーラが砕かれ、カルサイトはチェーンソーの(ごと)き攻撃を受けた。

「グワアァァァァ‼」

 強固な装甲を持つカルサイトが十数メートルの距離を鎧で地面を(えぐ)りながら吹き飛ぶ。

 剣を振り切ったドライブは、余韻(よいん)で数回転して地面に着地した。

「やったか⁉」

「多分ね……ん?」

 そこで地下からゴルドルパンが飛び出し、ドライブの傍で停車した。

「お兄ちゃん!」

 海里が出てくるなり急いで周囲を見回す。

「海里? お前どうしたんだ?」

「あの人は⁉」

 どうやらカルサイトを探しているらしい。

「アイツならあそこで──なっ⁉」

「……なんということだ……」

 ドライブは唖然とした。必殺技を受けたにも関わらず、カルサイトはまだ立ち上がろうとしていた。

「侵入者……排除……侵入者、排除……」

 それもどこか様子がおかしい。ひたすら同じ言葉を繰り返している。

「あっ、あれ……? どうしたんですか?」

 恐る恐る海里が話しかけるが、カルサイトは壊れたレコードの如く繰り返す呟きは一向に収まる気配がない。油が切れたロボットのように立ち上がると、クレイオーアを引きずって二人に近づいてくる。

「なんという意思の強さだ……。いや、執念(しゅうねん)というべきか……。ともかく恐ろしい相手だ」

 クリムが尊敬を越えた恐怖の感情を抱くと、ドライブもそれに同意するように頷く。

「……なら、終わらせてやろうぜ。それが今、俺たちが『やるべきこと』だろ」

「ああ……」

 ドライブはハンドル剣からシフトプロトスピードを抜くとシフトブレスに戻す。

「海里、離れてろ」

「……うん」

 ハンドサインで「下がれ」と指示したドライブに、海里は何か言いたげだったがゴルドルパンに戻っていく。

「カルサイト、だったな……。見ててくれよ、俺がヒーローになれるかどうか……」

 その言葉がカルサイトに届いたかは分からない。

 ドライブは自分の想いをぶつけるため、ドライブドライバーのイグニッションキーをひねり、シフトブレスの赤いスイッチを押す。

「ヒッサーツ! フルスロットル‼ プロト! スピード!」

 レバーを倒すとどこからともなくトライドロンと、カルサイトの周辺にエネルギーでできた四輪のタイヤが現れた。

 トライドロンはドライブの周りをすさまじいスピードで回り始め、その中心でドライブが構えを取る。

 そして、カルサイトは四輪のタイヤに挟まれ、ドライブ目掛けて(はじ)き出された。それに合わせてドライブがトライドロン後部のタイヤを蹴る。まるでピンボールのように飛び()いながら連続キックを見舞った。

「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハアァァァァァァ!」

「スピードロップ」を放ったドライブは最後の一撃でカルサイトの強固な鎧を貫く。地面に足で(わだち)を付けて止まった。

 振り返ると必殺技を受けたカルサイトの鎧から火花が飛び散る。

「カルサイト……エラー多発……機能停止」

 その言葉の直後、地面に仰向けに倒れると同時に爆発した。

「今度こそ……」

「あぁ……倒せたね。ナイスドライブ、だったよボーイ」

「ありがとよ……」

 こうして快人は初陣(ういじん)にも関わらず、強敵相手に(から)くも勝利を収めたのだった。

 

  同日 朝 山道

 

 運転席に座る快人は山間から昇り始めた朝日を浴びながらゴルドルパンを走らせる。目的地はアルセーヌ城だ。

 早朝の上に山中のため他に車はない。お陰で金色に輝くゴルドルパンが人目を憚ることなく走ることができる。

 ただ徹夜で走らせていた快人は眠気をこらえながら、チラチラと隣を気にしている。

(どうしたもんかねぇ……)

 助手席には毛布を掛けて眠っている海里──がカルサイトの肩にもたれていた。

 敵対していたはずのカルサイトとなぜ共にいるのかは夜明け前に遡る。

 

 カルサイトに勝利したドライブはシフトブレスからシフトカーを引き抜く。変身が解け快人が人に戻る。

「はぁー……なんとかなったな」

 服装含め少々ボロボロだが比較的元気だ。

「やはり私の見る目は間違いなかったよ」

「だろ? なんてったって俺はじいちゃんの孫だからな」

 クリムからの称賛を受けいくらか自信を取り戻したのか軽口を叩く快人。

 それを尻目に、海里が地面に倒れているカルサイトに近づいていく。

「って、おい、海里! 近づくな!」

 快人が慌てて止めにかかろうとする──海里が青い顔をして振り向いた。

「お兄ちゃん! この人、息してない!」

「……はぁ⁉」

 快人も急いでカルサイトの傍に寄り、口に手を、胸に耳を当て呼吸を確認する。

「聞こえない……」

「お兄ちゃん、お兄ちゃん! ど、ど、ど、ど、どうしよう⁉」

 パニックでまごつく海里。

「一一〇番! 一一九番か⁉」

 流石に快人も人を殺してしまったかもしれないという焦りで頭が上手く回らない。

 その中で唯一冷静なクリムがドライブドライバーに搭載された解析機能でカルサイトを調べる。

「落ち着くんだ二人共。死亡したわけではなさそうだ」

「えっ?」

 思わぬ報告に二人が驚きの声を上げる。

「ふぅむ……。詳細はドライブピットで調べないと分からないがね」

「じゃあ、すぐに運びましょう! お兄ちゃん手伝って!」

「えっ、お、おう!」

 二人は急いでカルサイトの両腕を肩に担ぐ、が。

「お、重い……!」

「本当に鉄筋が入ってんじゃねぇのか……!」

 二人掛かりでも持ち上げることすらままならず、引きずるのが精々(せいぜい)だった。

 そこを快人の機転でカルサイトをゴルドルパンに乗せ、三人は地下のドライブピットへと戻る。

 着いた直後からカルサイトは検査にかけられた。空中にホログラムのディスプレイが浮かび上がると、そこには人の姿ではなく無機質な機械の姿が映っていた。

「これは……」

「何か分かりました?」

「どこからこのデータを手に入れたのか……。このボディはサイバロイドZZZの改良型らしい」

「えっ?」

「改良だけでなく、プログラムも書き替えられている。これをやった人物はかなり腕が立つようだ」

「えっと……つまりこの人は、人じゃない?」

「あぁ。簡単に言えば、ロイミュードと同じだね」

「そんなぁ! やっとイケメンと知り合えたと思ったのにぃ!」

 出会いがあったと思っていたらしい海里は落胆(らくたん)して床に座り込む。

「おい、お前なぁ……」

 一戦(まじ)えた相手なだけに快人が(あき)れてしまう。

「おや? 面白い物があったよ」

「面白い物?」

「この個体には『対象を護衛する』プログラムが組み込まれているようだ」

「それの何が面白いんだ?」

「つまりこのプログラムの護衛対象を『人類』に書き替えれば、人を守護する戦士に変えられるはずだ」

 それを聞いた海里が凄まじい勢いで顔を上げた。

「本当に⁉」

「できるのかベルトさん?」

「あぁ。やってみよう。……懐かしい。私にもかつて『彼女』のような仲間がいたからね」

 クリムは()真面目で紫色のジャケットを着た、人、ロイミュード問わず、皆から愛された一体のロイミュードを思い起こしたのか、微笑みを浮かべた。

「人を守る戦士かぁ……カッコイイ──って、ちょっと待って。『彼女』?」

 その単語に引っかかった海里が聞き返す。

「あぁ、彼女──カルサイトがコピーした相手は『女性』だ」

「…………」

 衝撃の事実に口をポカンと開ける海里。その肩を叩く快人。

「なんていうか……残念だったな」

 すると固まっていた海里が首をブンブンと大きく振った。快人が思わず飛びのく。

 見ればずいぶんと鼻息が荒い。

「お、おい、どうしたんだよ?」

「いや、イケメンなのは間違いないし⁉ 機械とか関係ないし⁉ ()り好みしてる場合じゃないし⁉」

 自棄(やけ)か勢い任せか、海里がとんでもないことを言い始めた。

「えっ、いや、おい、お前、ヤケになるなよ……」

「うるさい‼ 優奈さんがいるお兄ちゃんとは違うんじゃ‼」

 とんでもない剣幕で一喝された快人は小さく手を挙げてすごすごと引き下がる。

 海里はそのままクリムに摑みかからんばかりに詰め寄った。

「ベルトさん!」

「な、なんだろうか?」

 凄まじい形相(ぎょうそう)にクリムの顔が引きつる。

「この人を良い人にできるって、言いましたよね⁉」

「あ、あぁ、可能性は──」

「言いましたよねぇ⁉」

「すぐにやろう」

 これ以上、下手なことを言えば、ドライブドライバーごと破壊されかねないと判断したクリムはすぐにプログラム改変に取り掛かる。

 快人はその様子を見て、「そんなに焦んなくても良いと思うんだけどな……」と苦笑した。

 

 数十分後。カルサイトのプログラムが改変できたことは、クリムにとって幸いだったと言える。ただ一つ問題が発生した。再起動に時間が掛かることだった。

「ボディを破壊しかねないほどのダメージを与えたからね。こればっかりは時間が()つのを待つしかないだろう」

「あぁー、早くたくさん話したいなぁ!」

 海里は待ち遠しそうにカルサイトの周りではしゃいでいる。

 ゴルドルパンの座席に座って待っていた快人が立ち上がった。

「……じゃあ、俺たちそろそろ帰るよ」

「えっ」

 海里とクリムの声が(かさ)なる。

「帰るの? この人は?」

「安心しろって、連れてくよ。もう大丈夫なんだろ? ベルトさん」

「あぁ、次に目を覚ました時はきっと力を貸してくれるはずさ」

 それを聞いた海里が満面の笑みで快人に抱きつく。

「ありがとうお兄ちゃん!」

「ああもう、離れろ。連れて帰らないと今度はお前が暴れそうだしな。その代わり世話はお前が『されろ』よ」

「もちろん! って、私は犬かい!」

「少なくとも、アイツの方がしっかりしてそうだしな」

「う、うるさい!」

 兄妹(きょうだい)喧嘩を始めたのを見て、クリムが微笑む。

(もう心配なさそうだね。ボーイ)

 快人の昨夜までの無気力な様子がどこにもないことに安心した。

「短い間だったが、君たちと一緒にいられて楽しかったよ」

 クリムの言葉に二人は暴れるのをやめると一緒に頭を下げる。

「ベルトさん、いろいろありがとうございました」

「いや、感謝するのはこっちだよ。少しでも贖罪(しょくざい)の機会を与えてくれたんだ。そして、これから君たちは大変な運命に立ち向かうことになるのかもしれない。だが、きっと乗り越えられると信じているよ」

 クリムの言葉に快人と海里は笑って大きく頷いた。

 二人はなんとかカルサイトをゴルドルパンの助手席に座らせ、隣に海里が座る。

 快人が運転席に乗り込んでハンドルを握った。

「ちょっと早いけど、免許認定でいいよな?」

「ああ、もちろんだとも。今の君ならどこまでも走っていけるさ」

「じゃあ、ありがとうベルトさん。またいつか」

「さようなら!」

「ボーイ、君が強い心で望めば、ルパンガンナーもきっとその想いに応えるだろう! では、ボーイ&ガール。シーユーアゲイン! グッドラック!」

 クリムからの激励を受け取った二人は手を振りながらドライブピットから去った。

 それを見送ったクリムは封印されていた時と同じ位置に戻る。

「さて、我々はまた眠りつくとしようか」

 そう言うと、クリムは再び全てのドライブの装備と共に地下深くに消えていく。たった一夜の忘れられない(にぎ)やかな秘密と一緒に。

 

 県境に(つら)なる国道に差し掛かると、海里は疲れたのかカルサイトに掛けていた毛布に潜り込んで眠っている。よほど気に入ったらしい。

 そのカルサイトに至っては不気味なほど動く──動ける状態ではない──気配すらない。

(……まあ、なんとかなるか)

 そう思う快人の顔は昨晩までの投げやりなものとはまるで違い、憑き物が落ちたようにスッキリとしている。

 すると山が開けた先に、朝日に照らされたアルセーヌ城が見えてきた。

「本当だ。綺麗だな……」

 一説によると、気分が沈んでいると周囲の色の見え方が暗く変化することがある。

 今の快人は自信がついたことで、ネガティブな感情のフィルターが外れて物の見え方が変わり、そうつぶやく。

 一転して輝くような目的地までもうすぐだった。

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