小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 人の本性は、本人にしか分からない。


第14幕 Tragedy/事件の真相はどんな悲劇を生んだのか

  十月二十日 夕方 海東市 海東大学 

 

 すべての授業が終わり校舎から続々と学生達が帰宅する。

 その相手が校門から出たところで快人は声を掛けた。

「……水木先輩」

「えっ、東条君? どうしたの?」

「すいません。ちょっと二人きりで話がしたくて」

「えっ、でも……」

 水木は申し訳なさそうに連れていた友人達を見る。

「いいよ、いいよ。二人で帰るから」

 気を()かせた友人達が帰っていった。それを見送り水木は快人に向き直る。

「で、どうしたの? 話って?」

「すいません。できるなら人目が無い所で話したいんです」

「そうなんだ。なら、私のウチに来る?」

「はい。お願いします」

 笑みを浮かべて提案してきた水木に対して、快人は表情を一切崩さなかった。

 

 水木の住居に向かう間、水木が世間話を振るが快人は曖昧(あいまい)に返す。

 その様子に水木が戸惑う内に彼女が住むアパートに着いた。部屋は二階にあり中に通される。

 落ち着いた雰囲気で、台所とリビング、隣にドアに仕切られて寝室があるようだ。

 リビングには胸ほどの高さの棚があり、いくつかの香水が入った小瓶と写真立てが置いてある。写真立てには快人が拾った写真より成長して高校生になった三人の写真が飾られていた。

「お茶を入れるから待っててね」

 水木はローテーブルの傍にカバンを置いてそそくさと台所に向かう。湯を沸かし、茶瓶の中に茶葉を入れる。準備が終わり、コップを二人分用意しリビングに持っていく──窓から外を見るように快人が背中を向けていた。

「あれ、どうしたの? 座っててくれてよかったのに」

 用意した物をテーブルに置いていき、コップに緑茶を()れる。

「先輩」

「何?」

「先輩は、今回の事件に関係してますよね?」

 ガチャン──コップが横倒しになり入れたばかりの緑茶がテーブルにこぼれた。床に垂れてカーペットに染みを作る。

「どうして、そんなことを言うの?」

 友人とはいえ心外だと水木は左手で置いていた布巾でテーブルを拭く──右手でカバンの中を静かにまさぐった。

「私がそんなわけ、ない……無い! なんで⁉」

 水木は取り出したメガネケースの中を見るが、そこに入れた物が無くなっていた。本来なら眼鏡が入っているはずだが、それは顔に掛けている。ならば、そこに入っていた物とは。

「もしかして、探しているのはこれですか?」

 快人が振り向くとその手に、人の腕が袋を持ち、袋の口から宝石があふれ出ているデザインの「T」に、英語で「シーフ」と書かれた黄緑色のガイアメモリを握っていた。

「なんで……?」

 見つけられると思っていなかった水木が驚愕している。

「先輩。一昨日、病院で荷物を落とした時、真っ先にそのメガネケースを拾いましたよね」

 指摘の通り、水木は落とした眼鏡には目もくれず一目散にメガネケースを確保していた。

「あの時、眼鏡も落ちたのに先に拾ったのがそれだった。俺のじいちゃんが言ってました、『何かあった時、最初に守ろうとするのがその人にとって一番大切な物だ』って。だから大切な物が入っていると思いました。……ガイアメモリだったんですね」

 快人はテーブルを挟んで、距離を取りながら話を続ける。

「これに写っているのは先輩ですね?」

 水木が落とした写真を取り出して見せた。

「それは……!」

「これも病院で落としたのを拾いました。それで思うところがあって、昨日、風都に行きました」

「風都に……?」

「そこでご家族が亡くなっていたことを知りました。先輩の親友が起こした通り魔事件『鎌鼬事件』のことも」

 快人は写真をジャケットに戻し、「ここから先は俺の想像ですが」と前置きをして推理を話し始めた。

「動機はおそらく『前回果たせなかった復讐を終わらせる』ため。偶然か必然か、先輩は最後の一人の居場所を知った。ここで疑問が一つ。その気になればチャンスはいくらでもあった。なのに実行しなかった。なぜか」

 居場所を知っていた以上、犯行はいつ起きてもおかしくなかった。

「前回と違って、犯人として捕まった諸刃は刑務所の中。このまま襲えば過去の事件との繋がりから、今度こそ疑われるかもしれない。それを避けるために、わざわざ諸刃を脱獄させてもう一度身代わりにした。そうすれば『犯人は過去に同じ事件を起こした脱獄犯だ』って警察は考える。それに被害者が一人だと『私の目標はこの人です』と伝えてるようなもんだ。だから不特定多数を襲って、本命が誰か分からないようにしつつ、より諸刃に疑われるようにした」

 もし事実ならば自己中心的な理由だ。他の被害者からすればたまったものではない。

「でも、それなら! 私が犯人である可能性があるだけよ! 証拠にはならないわ!」

「確かにすべては俺の想像、でも自信はあります。特に……犯人が別にいたことについては。なぜ俺がそう思ったのか。理由は『襲われた人の症状』です」

「……症状?」

「これまでの事件の被害者は二パターンいました。一つは『切られたことによる外傷』。一つは『外傷が無く意識不明になる症状』。俺達が襲われる前後の事件を見ると、綺麗にこの二つに分かれていた──例外は一人だけ。あの高架下の女性」

 ここで話があの事件に戻ってきた。快人にとって()まわしい事件に。

「あの女性は鋭利(えいり)な刃物で傘とドレスの背中部分を切られていた。このパターンの場合、被害者は『切られたことによる外傷』になるはず。なのに、そうはならなかったのは……彼女が『偶然切られなかった』からだと思います。ところが彼女は意識不明になった。さて、これを解決する答えは、『別々の相手に二回襲われた』」

 快人はメモリを持った手でピースサインをして「二」を強調した。

「それなら、あの不自然な状況も分かります。雨でできた足跡は彼女が歩いて来た方から続いていたのに、体は入口に仰向けで倒れていて、脱げた靴が頭の近くにあった。想像するに、彼女はまず諸刃に襲われたが、傘のせいで目測が狂ったのか難を逃れた。靴が脱げたのもその時。彼女は勢いに押されて倒れる。諸刃は仕留め損なったことに気づかずにその場を離れた。しばらくして助かった彼女は立ち上がった。靴を拾おうとしたのかも。そこでもう一体のドーパントが現れてトドメを刺した──どうですか一応辻褄(つじつま)は合う。理由はまだあります。女性を切った刃物は鋭利なのに、俺達を襲ったドーパントの刃はせいぜいコンクリートを削る程度。優奈が切られた時もそう。服は切れてなかった。俺はこれが犯人の持っていたメモリによる誤差、つまり犯人がまだいると考えました」

 これで高架下の件についても、犯人が複数人であることも一応の説明がついた。

「でも、それは俺がガイアメモリを知っていたから考えたことです。知らない人なら思いつきもしないだろうし、その後の事件の症状も不審に思っても原因は分からない。現に警察も病院も分かっていない。一つ確かなのは犯人は諸刃だという強い疑惑だけ。少なくとも自分には疑いは向かない。完全犯罪だ──だがハプニングが起きた。それが先輩に疑いの目を向けたきっかけでもある」

 そこで話を区切ると水木を見据えた。本人は顔色を悪くして、黙って見てくるばかりだ。

「諸刃が想像より早く逮捕されたこと。それを知った時の先輩の慌てぶり。そして、落としていったこの写真」

 再び写真を取り出す。

「これには先輩たちの繋がりを『匂わせる』以外に、ある証拠がありました」

 快人は写真を顔に近づけた──鼻を動かし匂いを嗅いでいる。

「これには(かす)かに香水の香りが残っている。見れば古い写真です。匂いは長く残るものじゃないから、最近付いたもの。実は俺は事件現場で同じ匂いを嗅いだ気がします。風光園の先生も言ってました。千尋さんが好きな匂いなんですよね?」

 文字通りこの写真は証拠を匂わせていた。

「先生にも……」

「これで俺の話は終わりです。どうですか先輩? 真相を話してくれませんか?」

 証拠を突きつけられ水木は脱力して床にへたり込む。そして、涙ながらに話を始めた。

「えぇ、そうよ。あの人達が姉さんを自殺に追い込んだ! だから私は陣君とガイアメモリを使って復讐したのよ! 私が姉さんのため──!」

「先輩」

 快人が冷たい口調で聞きたいはずの自白に口を挟んだ。

「俺は『真相を話してくれ』と言いました」

「えぇ、だから──!」

「そこまで『妹さん』より自分が大事ですか?」

「──えっ?」

 その言葉に水木の動きが固まる。

「もう人の人生を『盗む』のはやめてください──『千尋さん』」

 辛そうに顔を(ゆが)めた快人から、その名前で呼ばれた水木は目を見開く。

「何を、言ってるの……。私は奈央よ! 水木奈央! 姉さんじゃ──!」

「違う。先輩は姉の千尋さんだ」

「な、何を証拠に──!」

「眼鏡」

「えっ……?」

 快人が顔に掛けている眼鏡を指す。

「その眼鏡、伊達(だて)か、そこまで度は入ってませんよね? 先生から聞きました。奈央さんは生まれつき視力が弱くて、近くの物もよく見えなかった、って」

「…………」

「先輩はあの時、眼鏡無しでメガネケースを拾った。蟹丸巡査から財布を受け取った時も。そう、眼鏡を掛け直す前です」

「しゅ、手術をして良くなったのよ! それだけで、私が千尋姉さんだとは言え──」

「利き手も逆だったんじゃねぇのか?」

「っ!」

 快人が敬語を取り払い語気を強めると、水木がたじろぐ。

「アンタ達のことが知りたくて、先生からアルバムを借りた時に気づいた。食事の時の写真を見て二人の利き手が逆だって」

 快人が感じた違和感、二人の食器の持ち手がそれぞれ逆に写っていた。ちなみに一卵性の双子の場合、利き手が(こと)なるのは少なからずあることだ。

 写真を突きつけながら双子の手を指差した。

「見てくれ千尋さん。アンタは『右手』で、妹の奈央さんは『左手』でピースしてる。俺たちを襲った時も、メガネケースを拾った時もだ。いつも右手を使ってた」

「……右利きに……矯正(きょうせい)したのよ」

 水木は項垂れて苦し紛れにしか聞こえない弁解を言う。それを聞いて快人は一度息を大きく吐き、目を閉じた。

「……証拠ならまだあるぜ。先輩が千尋さんである。決定的な証拠が」

「……何よ?」

「俺は図書館に行って当時の新聞を見た。遺体には『腰の部分に(あざ)が残っていた』とあった。それは橋の欄干にぶつけた跡じゃなくて、妹さんが落ちる寸前にアンタが付けた(あと)だろ?」

 快人は手首を返し写真を見る。

「昔から、ただ一人の家族である妹さんに……怒りやストレスをぶつけるための()け口として」

 一見、仲が良いように見える写真だが、そこには裏の意味があった。

「この写真でアンタは奈央さんの腰に手を回してる。最初はただ手を置いてるだけだと思った。でも痣の件を知って考えた。子供の頃から──この時も『やってた』んじゃないのか」

「…………」

 水木は黙り込むとガクンと顔を伏せた。

 

 観念したと思った快人はゆっくりと水木に歩み寄る。

「もう終わりにしよう、千尋さん。これ以上、罪を(かさ)ねちゃいけない。自首しよう」

「……くっ、くっ」

 快人は水木が泣いている──と思った。

「ククク」

 だが、それはだんだんと、

「クックク……アハハハッ!」

 腹の底からおかしいと言わんばかりの笑いに変わった。

 水木は眼鏡を外すと床に放り捨てる。その顔には、ついさっきまでの姉を思う妹の表情が消え去り、目が血走っていた。

「たっくよぉ、奈央のヤツも、お前もなんで『アタシ』の邪魔ばっかすんだよ?」

「千尋さん……?」

 本性を見せた水木の変貌ぶりに快人が思わず後退った。

「ムカつくんだよ、お前らみたいな偽善者。奈央のヤツもあの時、イイ子ちゃんぶりやがったから、ムカついていつもみたいにやってやったんだ」

『仕返しなんてやめてよ! お姉ちゃん!』

『なんだよ、お前には関係ないだろが!』

『痛い! やめて!』

「ガキの頃から、奈央が痛がってるのを見るのが楽しくてさ」

「アンタ……!」

 快人は拳を握り締め、怒りを滲ませる。それに気づかない水木はまるで笑い話のように喋り続ける。

「奈央もツイてねぇよな。アタシにしつこくちょっかいをかけてきたあいつらに、やり返してやるために買ったメモリを使うのを止めようとしなかったら。死ぬことはなかったんだからさ」

「……は? どういう意味だ……」

『ふん、コイツを使えばあんなヤツら……』

『ガイアメモリ……⁉ いつの間に……!』

『目にもの見せてやる……!』

『やめてお姉ちゃん! そんな物捨てて!』

『あっ⁉ 何しやがる! 離せ!』

「奈央はアタシがメモリを使おうとした時に揉み合いになった。『お姉ちゃんやめて』なんて言ってたけど、どうせアタシのメモリが欲しくて奪おうとしたに決まってるさ」

 自分の言葉に自信を持っているようだが、はたしてその時、正常に考えて行動していたと言えるかは(はなは)だ疑問だ。

「そして揉み合ってる内に、メモリが奈央に刺さった」

『シーフ!』

『あっ……』

『アタシのメモリが!』

『……う、うっああ……あああ!』

「体に合わなかったんだろうね、苦しんでよろけた拍子(ひょうし)に橋から落ちてった」

『あっ──きゃああああああぁぁぁぁぁ……!』

「…………」

 話を聞いた快人は怒りの形相(ぎょうそう)で水木を(にら)む。

「ところでさ、アタシがこのメモリを使って、『一番最初に盗んだ物』はなんだと思う?」

「……なんだ」

「『奈央の人生』だよ」

「は? ……いや、そういうことか……! 例え双子でもアンタが『奈央さん』としていられたのは!」

「そう。流石に奈央が死んだ時はアタシだって焦ったよ。でも、この状況は使えると思った。奈央の人生を盗めれば、アタシは『周りから恐がられてる荒っぽい姉』から『みんなから好かれる優しい妹』にだ~い変身、ってわけだ。すぐにメモリを取り返して、刺した」

 その時の記憶を思い返した水木は恍惚(こうこつ)とした表情を浮かべると「最高の気分だったよ」と言ってのけた。

「噂で誰もがメモリの力に飲まれるのが分かった。アタシは力を使って、奈央の人生を奪えるか試した。結果、大成功。その時から奈央に成り代わって生きることにした。その後、すぐに陣に『奈央』として連絡して『アタシ』が死んだことを伝えた。そして──」

「……復讐っていう大義名分を作ったわけか」

「そうそう。陣もすぐにノリ気になったよ。『親友の(かたき)討ちだ』ってね。それから陣にもメモリを買わせたんだ。それにしても、あの時の『泣き虫ジン』の顔と言ったら……今、思い出しても笑っちゃうよ」

 水木はひとしきり笑った。

「ビックリするくらい奈央がアタシだってバレなかった。奈央の性格まで盗んだみたいでね、同じくらい丸くなれたからか誰にも気付かれなかったよ。嬉しいことにみーんな『姉さん』のことで心配してくれた」

「テメェ……!」

 妹の死を弄び続ける水木に、快人の怒りが爆発しそうだが必死に堪えている。

「それから『姉さんへの復讐の日々』というアタシがメモリを使う日々が始まった。最高だったよ。いつも大勢で威張(いば)ってた連中が、一人になるとなんにもできずに大泣きして謝ってくるのを見た時はね。でも七人目で陣がしくじって捕まっちまった。まあ後始末はアタシがやっといたけど」

 共犯ではあるが力を貸した親友のことをなんでもないように言った。

「で、使う内にアタシも慣れてきて、盗んだ物を『宝石』にできるようになった。もっと使ったら、好きなものを盗めるようになった。意識とか記憶・知識・力、なぁんでも!」

「っ! でもガイアメモリを使えば、毒素に飲まれていくはずだろ。なんでアンタは普通でいられたんだよ!」

 アリスから伝えられていた情報から、快人が怒気(どき)交じりに尋ねる。

 メモリを使う以上、毒素に(むしば)まれる危険性は特殊な方法でない限り絶対に(まぬが)れない。

「言ったろ。アタシはなんでも盗めるんだ。例えば──優しい親の理性もね」

(理性? まさか……!)

 快人は新聞記事の相談欄の一文を思い出した。

「じゃあ、穏やかだった旦那さんが急に豹変(ひょうへん)したのは……!」

「すり減るアタシの理性を(たも)つためにね。犠牲になってもらったんだよ。ソイツだけじゃなくて、いろんなヤツにね」

(なんて奴だ……!)

 まさに水木は他人の人生を「盗み」続けていたのだ。

「それから五年の間にアタシは解散したEXEの新しいリーダーになった。元々、(すさ)んだ連中だからね。『奈央さん』が少し優しい言葉を掛ければ、犬みたいについて来た。そこでメモリの力を強化した」

「……『メモリの強化』……?」

「アンタが見た、腕に付いた刃や煙幕は元々シーフの能力じゃない」

 水木はクイズを出したように挑戦的な視線を送る──快人はハッとする。

「まさか、能力すら盗んだのか⁉」

「正解。メンバーを何人か使ってね。お優しい『奈央さん』のためなら、簡単に体を差し出してくれたよ」

「仲間すら……」

「そんなこんなでアタシは高校を卒業して、こっちの大学に入学することにした。風都はアタシを知る人間は少なくないからね。何かでボロが出たらマズイし、離れるには丁度いい機会だと思った。あんた達と会ってからも、気晴らしとか理性のためにそこら辺のホームレスを襲ったりした。そして半年くらい前に街であの女を見かけた」

「イジメグループの最後の一人……」

「そう。そこらのホームレスの理性じゃもたなくなってたアタシは、この街でもっとたくさん襲うにはどうすればいいか考えてた。その矢先にあいつを見つけた。そこで思いついたんだ。鎌鼬事件の再来だよ」

「やっぱり全部アンタの仕業だったのか……」

 快人とて最後まで水木が主犯格とは思いたくなかったことが、怒りを通り越して悲痛な表情をしていることから分かる。良心が残っていることを信じていた──その望みはたった今打ち砕かれた。

「そこはあんたの言った通り、アタシに疑いの目が向かないようにするため。わざわざ同じメモリを見つけて脱獄までさせてやったのに、陣の野郎はあっという間にムショ送り。小遣い稼ぎにと思った取引もパーになった」

「……だから病院であんなに焦ってたんだな」

「ったく、相変わらず肝っ玉は小さくて、使えないヤツだよ。まあ、前も今も共犯者である『奈央』のことを黙ってるのは認めてやってもいいけどね」

「……もういい。最後に聞きたいことがある……!」

 快人は今までの所業(しょぎょう)の数々を聞かされ、再び湧き出る怒りを堪えながら最後の質問をした。

「なんで俺達を襲った……!」

「え?」

 その質問に水木は目を丸くする。

「なんでって、『あそこにいたから』に決まってんだろ」

 そう当然のことのように言い放った。

「……は?」

「だーかーら、たまたまあんた達がいたから。目撃者を消すのは当たり前だろ?」

 あまりにも身勝手な言葉に快人は二の句が()げない。反対に水木は笑顔を見せた。

「そうそう。優奈のヤツ凄いよ。あれから一週間も、気分が穏やかなんだ。流石だね。まあアタシが気づくまでしばらく襲ってて──もう少し早く気づいていればねぇ」

 襲う相手が少なくなっただろうと、水木は心にもなさげに残念そうに言う。

「テメェ……もう許さねぇ!」

 ついに堪忍袋の()が切れた快人がガイアメモリを床に叩きつけて殴り掛かった──目の前にメモリが浮かぶ。

「なっ⁉」

 糸で吊るしているわけではなく、完全に重力に(さか)らって宙に浮んでいる。

「オイタはそこら辺にしときなよ」

 浮いていたメモリが一直線に水木の手元に納まる。

「六年も使ってるとさ、こんなこともできるようになるんだぜ」

 (いと)おしそうにメモリに頬擦りすると快人を見た。着ていた服の胸元を下着が見えるほどはだけさせる。

「シーフ!」

 水木は胸元に浮かんだコネクタにメモリを刺した。体の周りを紫の(もや)が包む──消えると、あの夜に遭遇したシーフ・ドーパントになった。

 狭い部屋の中で向き合う一人と一体。快人は、蛇に睨まれた蛙のように動けない。

「じゃあ、まず……」

「がっ⁉」

 シーフは快人の胸を右腕の刃で貫き、体を持ち上げる。

「……かっ、かか……ぐうッ!」

 シーフはフードに隠れた顔を満足に声も出せない快人の耳元に近づけた。

「安心しな、加減してやったから切っても盗むだけ。死にやしないよ。でもさ、あんたは知り過ぎた。それに」

 腰に(ゆわ)えつけた小袋から紫色の欠片を取り出し、快人に見せつける。

「あんたの髪を切った時に何か盗んだみたいでね。気づいたら入ってたよ」

「……まっ、さかっ、おれが……おかし、かっ、たのは……! ぐぅっ……!」

 死なないとは言うものの、刺された感触と痛みで快人は苦しみながら胸い刺さった刃を抑える。

「カケラってのは、みっともないだろ? ちゃんとした形になってる方がいい。それにあんたなら良いのができそうだ……ん?」

 シーフは快人の胸元に何かを見つけた。欠片を袋に戻し、それを手に取った。

「こいつは……」

 それは桜の形をしたペンダント。

「や、やめ……」

「……面白いこと思いついた」

 シーフはペンダントから手を離すと窓を開ける。

「あんたみたいなのは、徹底的に痛めつけないと分からない(たち)だろ? だからあんたの大切なものと一緒にこの街を無茶苦茶にしてやるよ」

「な、に……⁉」

 窓枠に足を掛けた。

「それに、そろそろ彼女自慢の理性も切れそうだからさ……あんたの理性アタシにくれよ。んで、自分は何もできない臆病者だって、一人で絶望してなッ!」

 その言葉で快人の体が宙に浮いた。窓から投げ捨てられたのだ。

 同時に刃先から紫色の宝石が飛び出すと欠片が一体化して、宝石になってシーフの手に納まる。

 ガシャン!──ぶつかった音と衝撃で再び体が浮くと、今度こそアスファルトの地面に叩きつけられた。

 窓の下の駐輪場の屋根がクッションとなり、そこをバウンドして地面に落下した。

「ぁっ……あぁぁっ……」

 地面に落ちた快人が薄れゆく意識の中で見えたのは、人に戻り笑顔で手を振る水木の姿だった。

 

「さてと」

 床に捨てた眼鏡を掛け直し、スマホを取り出す。

「すみません! 家の前に人が倒れていて! 救急車をお願いします!」

 水木千尋は再び水木奈央に成り代わり、悲痛な声色で助けを呼んだ。

 しばらくして救急車が到着し、地面に倒れている快人を救急隊員がストレッチャーに乗せ、病院へと運んでいく。

 その光景を集まって来た野次馬の後ろで、水木が快人から抜いた六角形の紫色の宝石を手で弄びながら、一人ほくそ笑んでいた。

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