小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 海東市、壊滅の危機。


第15幕 Crisis/街を襲った危機とは何か

  同日 夜 海東市 海東市立病院

 

 夜の(とばり)が下りた頃。アルセーヌ城に避難していた海里のスマホに快人が病院に運び込まれたとの連絡が入る。

 知らせに驚いた海里はすぐにゴルドルパンで病院へ向かった。

 

 病院に到着すると受付で快人の部屋番号を尋ね、快人の病室へ急いだ。フロアに近づくにつれ、遠くでも異変が起きていることに気づいた。

 快人の個室と教えられた部屋から医師や看護師が(せわ)しなく出入りし、(たび)々医師のものだろう怒声と快人の獣の咆哮(ほうこう)(ごと)き声が混じっていた。

(何……?)

 何事かと恐る恐る病室に近づいていく。

「やめろ、来るな‼ こっちに来るなぁ‼ 離せぇ‼」

「先生っ! 力が強すぎます! これ以上、抑えられません!」

 戦場かと思うような騒々しさに海里は戦々恐々として中を覗けば、衝撃的な光景が繰り広げられていた。

 快人が着せられた病衣がはだけるほど半狂乱になりながら叫んでおり、それを六名もの若い職員によって必死に抑えつけていた。

「待ってろ! 今、セレネースを筋注(きんちゅう)する!」

 鎮静剤を用意した医師が注射器を快人の三角筋に()した。

「これで、落ち着いてくれよ……」

「う、うぅぅ……」

 しばらくして目が(うつ)ろになると、快人はベッドに深く体を沈ませひとまず落ち着いた様子だった。

 それを確認した医師が「ふぅ」と息を吐き、(ひたい)の汗を拭う。抑えていた職員達もゆっくりと手を離すと疲れた顔で病室から出てくる。

「やれやれ……あっ」

 注射をした医師も出ようとしたところで、海里のことに気づいた。

「お騒がせして申し訳ありません」

 どうやら他の病室の見舞い人だと勘違いしている。

「いえ……この人、兄なんです」

「あっ……親族の方でしたか」

 医師は一瞬目を泳がせてから海里を見た。

「……何があったのか、ご存知ですか?」

「いえ、さっき突然電話がかかってきて……」

「そうですか……。ちょっとこちらへよろしいですか?」

 ベッドに横たわる快人を一(べつ)する──(うなず)いた。

 

 二人は近くの備え付けのベンチに座った。

「あの、兄は……?」

「今は……鎮静剤を注射したので、落ち着いているとは思いますが……」

「そうですか……」

 医師は言い(づら)そうに口を開く。

「お兄さんがここに到着した時には意識が定まっていませんでした。精密検査をした結果、強い打撲だけで骨折も無かったので、とにかく様子を見るため入院を……と思った矢先に目を開けたかと思えば暴れられて……」

 海里は先ほどの光景を思い返す。口にするのも憚られるほど、ひどい様子だった。

「お兄さんに何が起きたのかは分かりませんが、不思議に思うことがあります」

「……なん、ですか?」

「お兄さんは打撲以外、ほとんど怪我はありませんでした。ですが、あの様子はただ事ではありません。何かよほどの精神的なショックを受けたのだと思います」

「…………」

「ともかく話をされるなら、お兄さんが落ち着いてからがいいでしょう。ただ、退院後に心療内科に通院されることも考えられた方がいいかもしれません」

 そこで慌てた様子の看護師が駆け寄ってきたことで医師は立ち上がり、「すいません、失礼します」とその看護師の話を聞きつつ足早に去っていった。

 海里は病室に戻って中を見る。ベッドに横たわる快人。今は鎮静剤を打たれたため大人しいが意識が戻ればどうなるかは分からない。

 海里は目を伏せ、ゆっくりと病室のドアを閉めた。

(……とにかくお城から着替えとか……。持ってきたほうがいいかな……)

 

 病院を後にすることにした海里が玄関ドアを出た。

 傍を何台もの救急車が横付けし、中から多くの患者が救急隊員にストレッチャーに乗せられて院内へ運び込まれていく。その光景を意気消沈しながら横目で見る。

(事故かな──えっ?)

 ところがそれだけでは終わらない。続々と家族やカップル、友人を連れた大勢の市民が我先にと病院に殺到(さっとう)し始めた。さっきまで静かだった病院が一気に喧騒(けんそう)に包まれる。

 明らかに今いる医師では抱えられそうにない人混みでごった返す院内。受付の看護師も対応しきれず、大混乱の様相を(てい)している。

 見れば連れてこられた患者全員の意識が無いようだ。

(嘘でしょ……⁉)

 海里はその光景に絶句する。

 街に目を向ければ夜空をパトカーと救急車のランプが赤く染め、アナウンスで「安全な場所に避難するように」との指示が聞こえる。

 すると近所に住んでいるの人々が不安げな顔で病院に集まってきた──不意に、付近の建物の光や信号機、果ては街灯までが一斉に消灯した。

 突然の停電に周囲から人々から悲鳴が上がる。

 せいぜい救急車やパトカーのヘッドライトやランプの明かりがあるだけで真っ暗だ。

 しかし、すぐにポツポツと光が出て人々を浮かび上がらせる。スマホ画面の明かり。だが、その画面を見ていた人々は次々に焦燥(しょうそう)に駆られていくのが伝わった。

「あれ、圏外になってる!」

「ここ市内だぞ⁉」

「ネット繋がらないよ⁉」

 海里も確認すると確かに圏外になっていた。どうやら街全体に異常事態が起こっているのは明らかだ。

「世界の終わり……?」

 昨日まで何事も無かった街が災害時のような景色に変わるのを見て、海里がつぶやく。

 すると病院に明かりが(とも)った。取り付けられていた非常用電源が作動したのだ。

「……病院はまだ明るいから入ろう」

 誰かがそう言ったのを皮切りに市民が次々に病院へと入っていく。

(確かに病院なら、まだ安全かも……)

 人々の波に乗るように海里は病院へと戻る。

 その瞬間、海里と入れ替わるように病院の物影から一人、覚束(おぼつか)ない足どりでどこかへ歩いていったことは、混乱の最中だったこともあり誰も気づかなかった。

 

  同時刻 パビリオン本社ビル 管理室

 

「いったい、何がどうなってる⁉」

 皇神がビルの一室に声を荒げて入ってきた。

 彼女はさっきまで社長室にいたのだが、部屋の窓から街の光が消えたことに気づき、急いで管理室に来たのだ。

 中では十数名の職員が壁面の大型モニターで街の様子を確認しながら対応に追われている。

 モニターには海東市全域をデジタル化した地図が映り、四区とウィンズベイブリッジに「パワーダウン」と表示され、街全域の電力が供給停止になったことを知らせていた。

 皇神がその画面を苦虫を噛み潰した顔で睨む。

「誰だ……。誰がこんなことを……⁉」

「どうしたの? どうなってるの?」

 後から入って来たエスメラルダが職員の一人に尋ねる。

「分かりません! 数分前に突然、市内すべての電力が停止したとの報告が! 現在、原因不明です!」

「電力の供給は! 発電所はどうなっている!」

「はい! ……発電所及び、ウィンズベイブリッジの水力発電の供給が停止しています!」

「何⁉」

「マズイわ。じきに街全体が停電に──」

「そんなことは分かっている!」

 エスメラルダの指摘に、皇神は声を荒げた。

「早く対処しなければ、被験体の市民が街から離れかねん……! すぐに電力の復旧に取り掛かれ!」

「たった今、発電所の職員に通信を入れましたが連絡が取れません!」

「……停電で電話線も落ちたんだわ」

 エスメラルダがそう言ったことで、よほど慌てていたのか当たり前のことに気付けなかった皇神が舌打ちをする。

「ならばすぐに社の電気技師を出動させろ!」

「分かりました!」

 皇神の指示を受けて職員が他の職員に連絡を取る。

「一市街の発電所が止まるなど、まずあり得ない事態だぞ……!」

「……おそらく人為的なものと考えるべきね」

「……なら発電所の監視カメラを呼び出せ! 何か映っているはずだ!」

「はい! 呼び出しました!」

 モニターが発電所の監視カメラ画面に代わるが、停電の影響で「反応なし」と出ている。

「映像を巻き戻せ。録画が残っているかもしれん」

 巻き戻すと皇神の読み通り、録画が映っていた。

「ここだ。そこから再生しろ」

 画面には怯えた様子の発電所の職員達が逃げ惑っている──(もや)が現れて職員達を包んだ。

「靄?」

「しっ」

 どうすればいいのか分からず右往左往している職員は、突如、靄から現れた刃物に切り裂かれて次々と倒れる。画面全体に広がる靄が立ちどころに消え去り、そこからローブの怪人が現れた。

「……こいつか」

 ローブの怪人が発電所の中に入る──監視カメラの録画が切れた。

「天地……」

 エスメラルダが皇神の顔を見れば、先ほどよりは落ち着いた様子だ。誰の仕業(しわざ)か判明して少し安心したのだ。

「明らかにドーパントの仕業だ。クリスティーナに連絡しろ」

「それが先ほどから連絡を取っているのですが、繋がりません」

「何? どこで道草を食っている……」

 落ち着きを取り戻していつもの不機嫌な口調に戻る。

「仕方ない特殊部隊を出動させろ」

「はい、分かり──」

「社長!」

 一人の職員が指示を遮った。

「どうした?」

「たった今、海東市に繋がる国道・高速・海路、すべてが封鎖されました!」

「なんだと? そんな指示は出していないぞ」

「いえ! 封鎖しているのは、白を基調とする兵装をした部隊とのことです!」

「何⁉ まさか、連中の仕業か⁉」

「その通りです。アマチ」

 その言葉と共にイルズが皇神とエスメラルダの間に割って入るように現れた。

「きゃっ⁉」

 驚いたエスメラルダは傍に居た職員の影に隠れる。

「イルズ……!」

「今この時、あなたにとってはツイてない、私たちにとってはまたとないチャンスですね」

「あのドーパントは貴様らの差し金か!」

 皇神がモニターを指を差して問い(ただ)すが、イルズは笑いながら首を振る。

「いいえ。我々はまったく関与していません。自然発生した事象に便乗しただけです。お陰で今この街は財団Xが完全に掌握(しょうあく)しました」

 イルズが指を鳴らすと中央のモニターの画面が切り替わる。先ほどの報告通り、街に続くすべての道と海路が財団の装甲車や船舶で封鎖されているのが映った。

「貴様……!」

「さあ、この前の交渉の続きと参りましょうか。アマチ」

 怒り顔の皇神と、笑顔のイルズが向かい合う。

「街の心臓部、パビリオンがまともに動けない以上、もうどうしようもありません。そうそう、日本政府の介入は期待しないことです。財団がとうに買収していますから。今回の事件、結果によってはパビリオン一切の責任となるでしょう」

「そこまでして……それほどまで我が社を支配したいのか!」

「支配などとんでもない。提携したいと申し上げたでしょう。資金援助の見返りに御社の技術の少々いただきたいだけです」

「そう言って、最後には骨の(ずい)まで食い尽くす魂胆(こんたん)だろうがッ!」

 プライドから危機的状況だが断固として拒否の姿勢を示す。

「そんな剣幕で仰らないでください、アマチ。(かさ)ねて言いますが。今あなたの状況はツイてない、まさに最悪の状況です」

「くっ……!」

 皇神は答えが出せない。ここで折れてしまっては地下にある、ディア・サイバロイドZZZ・カースジュエリー・ロックオーツ、すべてが財団Xの手に渡ってしまう。

「財団の力があれば、ドーパント一体を制圧するなどは容易(たやす)い。対してあなた方はどこまで立ち回れるか」

 イルズの言う通り、事態を鎮圧できるとすればアリスだけだが、その当人とは連絡がつかず、どこにいるのか分からない。

「そうですね……」

 イルズが画面を見()えた。

「あのドーパントが街を壊滅させるまで、(こん)比べはいかがですか?」

「……なんだと?」

「我々につけば、今すぐにでもドーパントを殲滅(せんめつ)してさし上げましょう。ですが──言わなくても分かりますね?」

 その提案に皇神はただ黙ってイルズを睨みつけるだけだ。

「まあ、どちらにせよ状況は変わらないでしょう。英雄でも現われない限り。そう『デウス・エクス・マキナ(都合のいい英雄)』でも出てこない限りはね。でも、そういう存在はあなたが一番お嫌いでしょう? アマチ」

「…………」

 結局、皇神は押し黙り、事の成り行きを見届けるという選択肢を取ることになった。

 万事休すとなった、パビリオンのみならず海東市。タイムリミットもあまり残されてはいない。

 誰もが打つ手なしとなった以上、この事態を収められる者はいるのか。

 

 異常事態の中、地下で隔離(かくり)されたディアの目がゆっくりと開いた。

《『運命』の異常を検知。『局地的因果律(いんがりつ)操作プログラム』起動》

 その言葉でディアの瞳を(おお)いつくさんばかりの数列が流れていく。

 世界に何かが起こる──変わろうとしていた。

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