小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 今、時を越えて新たな伝説の幕が開く。


第17幕 Lupin/時を越え戻ってきた伝説のヒーローとは誰か

  同日 朝 ウィンズベイブリッジ

 

 ルパンガンナーから絢爛(じゅんらん)豪華を表現した音声が響き渡った。

 銃口から映画のフィルムのようなものが飛び出し、快人を囲うように回り始める。そこにはアジトで見た通りのルパンが戦う様子が映っていた。

「これは……じいちゃんか?」

 その映像はまるでルパンとしての戦い方をレクチャーしているようだった。

「なるほどな。大体分かった!」

 瞬く間に見終え、次にそのフィルムに緑色を基調にした──来蔵の姿とは違う──ルパンの姿が映し出される。

 今、新たな伝説の幕が開く。

 

 快人は「L」の字を書くように、ルパンガンナーを握る右腕を大きく振って、あの言葉を叫んだ。

「変身!」

「ルパン!」

 ルパンガンナーが自らの名を呼ぶのに合わせて、ルパンが映ったフィルムが体に張り付く。一筋の光が輝き、消えた時──ここに怪盗戦士「仮面ライダールパン」が復活した。

「仮面ライダールパン……ここに参上!」

 右腕でマントを翻し、そう言い放つルパン。すると足を踏み鳴らして嬉しそうな反応をする。

「くぅっー‼ かっけぇ! 今の俺!」

 続けて自分の姿を確認する。来蔵のルパンとは違い、シルクハットを被ったような頭ではなく、ヘルメットのように丸くなっている。髭の部分も少し短く、目立つ金色の装飾もほとんどない。ボディの色が緑色に代わり、マントは膝裏までに長く、宝石の部分が黒い。

 来蔵の姿と比べると派手さが控え目だ。快人の経験の浅さを表しているのだろう。

「うーん、じいちゃんのとは違うな」

「なんだ、それ……⁉」

 シーフは快人が変身したことに驚愕している。

「だから、言ってんだろ? 仮面ライダールパン、だよ。ル、パ、ン」

 ルパンは摘まんでいたマントの端を離し、言い切った。

「お前、仮面、ライダー……だったのか⁉」

「いいや、今、決めた」

「……は?」

「じいちゃんの願い通り、俺がヒーロー──仮面ライダーになるって、覚悟を決めた」

 ルパンは右手にルパンガンナーを握り、左手も握りしめファイティングポーズを取る。

「待たせたな。真打ち登場だぜ! オラァッ!」

 ルパンガンナーで殴る。シーフがテーブルをなぎ倒しながら吹き飛んでいく。

「いてぇえ……」

 シーフが顔を抑えて(もだ)えている。

「どうだ。あの時の俺とは違うだろ?」

 高架下の時とは違う、確かな手ごたえを感じていた。

「うぅ……」

 突然の逆転にシーフは臆病(おくびょう)風を吹かれて逃げ腰だ。

「……覚悟しな。アンタが襲ったみんなの怒り、俺が代わってアンタに返すぜ」

 ルパンは怒気を含ませて冷徹に言った。

 そこからルパンの猛攻が始まる。不良の喧嘩のような随分と乱暴な戦い方ではあるが、シーフを打ちのめしていく。反撃の隙は与えない。

 攻撃を受けてもルパンガンナーを打ちつけ相殺する。

「ぐぅぅ……」

 今や身を隠すためのフードはズタズタになり、あの威勢(いせい)はどこに行ったのか、シーフは怯える子犬のようになっていた。

「ぅう……うん!」

 敗戦濃厚になったからか転びそうになりながら逃走した。

「おい、待てコラァ!──あっ」

 追いかけようとして、優奈が雨に濡れた地面に倒れていることに気づいたルパンは、駆け寄って抱き上げると近くのベンチに寝かせる。そして、雨で張りつく前髪を邪魔にならないように優しい手つきで整えた。

 最後に、そっと頬を撫でる。

「待っててくれ。すぐに終わらせる」

 ルパンはシーフが逃げた方向を見る。まだ遠くまでは逃げておらず、フラフラとした後ろ姿が見える。

 十分に追いつける距離、地面にはシーフの小袋から出た宝石が点々と落ちていた。見失う方が難しいだろう。

「逃がさねぇぞ……!」

 ルパンは全速力で後を追った。

 

 追いかける最中、シーフが近場にあった廃倉庫へと逃げ込むのが見えた。

「……おおっと」

 追いついたルパンだったが、入る直前で踏みとどまった。すぐには倉庫へ入らずに入り口の陰から中を覗く。

 中は土埃などで汚れてガランとしている──たった今、シーフが入っていったはずだが人影が無い。

(どこだ……?)

 ルパンは辺りに注意を払いつつ中に入った。

「おらぁ‼」

「うぐっ⁉」

 だが警戒が甘かったらしく、入り口のすぐ上に隠れていたシーフに背後から切りつけられ、ルパンは前のめりに倒れる。

「ちっ、何も出ねぇ!」

「くっ、そ」

 不意打ちで姿勢を崩したルパンはルパンガンナーを杖にしてゆっくりと立ち上がる。

「でも、今だぁ‼」

 この瞬間を逃がさないと、シーフが刃をブンブンと振り回して迫ってきた。

「や、べ……!」

 思ったよりダメージが入ったのか、上手く体勢を戻せずにいる。

 その時、ブレードがスクリーン状の道路を駆け、ルパンガンナーの装填(そうてん)部分に収まる。後部の刃先が直立した。

「チューン・ルパンブレード」

 ルパンガンナーが大きな短剣になる。

「……OK。おらぁ!」

「なっ⁉」

 ルパンはシーフの切りかかりを紙一重でかわし、その刃の根元部分にブレードを叩きつけた。

 ポキン──音がして刃が折れて地面に落ちる。

「う、うわあああああ⁉」

 刃には痛感が通っていたらしくシーフが右腕を庇う。

「ぐぐぐぅ……!」

 シーフが痛みか、それとも怒りからか唸っている。痛む右腕からルパンへと恨みがましい視線を向けた。

 自棄(やけ)になったのか、ここまでになってもまだ戦う気でいる。

「……もう、やめてくれ先輩──いや。千尋さん」

 その光景を痛ましく思ったルパンは、快人として水木に話し掛ける。

「うるせぇ‼ もう後には引けねぇんだよ! ここで終わったら、全部がパアになる! アタシが、この力で! 世界を征服してやるんだ! アタシから、欲しい物を奪う! この世界を!」

 水木はガイアメモリの毒素の影響で途方もないことを語り始めた。

 快人はその言葉に何を感じたのか顔を伏せる。(いつわ)りでも優しかった先輩が、ここまで堕ちていたことへの悲しみか、それともすべてが遅すぎたという(むな)しさか。

「そのためにもぉ‼」

 水木──シーフは負傷している右手を突き出してルパンに迫った。

「お前は邪魔なんだよ! 快人ぉ‼」

「千尋さん……」

 悲痛な声で名前をつぶやく──決意を曲げないために頭を振った。意を決してルパンガンナーの銃口を押し込む。

「ガン」

 ルパンは「ガンモード」にしたルパンガンナーの引き金を引く。一発の弾丸が発射される。

 シーフに命中した──体が浮き上がって後ろに吹き飛ばされていく。

 そして、その一撃が偶然胸の辺りに当たったことで誤作動を起こしたのか、ガイアメモリが飛び出した。ルパンは続けてそれに狙いを定めて撃った。

 飛び出した弾丸が、メモリの中心を打ち抜いて真っ二つに折れる。

 カシャン──無残な姿になったメモリが地面に落ちた衝撃で完全に砕け散る頃には、シーフは水木に戻っていた。

 それによってシーフの能力が消え、至る所に散らばっていた宝石がどこかへと飛んでいく。おそらく盗んだ人々の下へ戻っていったのだ。

 それを見送る。ひとまずの使命は達成された。

 

「あぁ、あがっ……」

 メモリブレイクの副作用で目の周りに濃い(くま)を作った水木が地面を()いつくばる。

 その水木にルパンはルパンガンナーを向けた。引き金には指を掛けている。生かすも殺すもルパン次第だ。

「ひっ!」

 水木は(おび)えながら自分の体を手で庇いながら座り込む。

「まっ、待って、快人……君! こ、殺さないで! ごめんなさい! アタ──私が悪かったわ! わ、私のメモリが壊れたなら、ゆ、優奈さんも意識を取り戻すはず! だから、お願い! 命だけは!」

 水木は涙をボロボロと流しながら命()いをする。

 一方でルパンは一言も喋らず銃口を向け続けた。

「お願い助けてっ‼」

 必死の命乞いに答えることなく、ルパンは引き金を──「なんてな」。

 指を離すとルパンガンナーを(おろ)した。

「俺の目的は、アンタを殺すことじゃない。優奈やみんなを元に戻すことだ。そんなことしたら、じいちゃんにどやされるぜ」

 やめた、やめた、と少し茶目っ気を出したルパンは背中を向ける。

「……ありがとう、快人君……」

「分かったなら、俺の気が変わらない内にとっとと自首してきな」

 ルパンは倉庫の入り口へと歩いて行く。

 それを聞いてホッとした水木の顔から、涙が消え(ゆが)んだ笑みを見せる。まるで土壇場(どたんば)で勝利を確信したように。

「……ありがとう。本当にあなたは……」

 その手に地面に落ちていたリッパーのメモリが(ちゅう)に浮いて収まる。

「甘ちゃんだなぁっ! 快人ぉ!」

 ここは絢達が大立ち回りをした廃倉庫だった。メモリブレイクを逃れていた最後の一本が水木の手に渡った。

 すぐに立ち上がり、メモリを起動させコネクタが無い腕に刺した。水木はリッパーに姿を変え、その鋭利な刃先をルパン目掛けて振り落ろす──が。

「忠告したぜ……!」

 振り返りもせず冷たく言い放ち、ルパンガンナーの銃口を強く押し込んだ。

「アルティメット!」

 ルパンガンナーの音声と共にルパンとリッパーの間にフィルムが割り込む。

 ルパン側からはこれから繰り出すキックの軌跡(きせき)が映り、リッパー側には二人の姉妹が映し出される。

「え?」

 それを見たリッパーが間の抜けた声を上げた。

『お姉ちゃん……これ』

『なんだよこれ』

『私が作ったの。お姉ちゃんを(わざわ)いから守ってくれる香水』

『なんだそりゃ。でもいい香りだ……』

 忘れてしまっていた、かつての、何があっても、何をしても、許して、許された、仲が良かった姉妹の過去の光景。リッパーは無防備に立ち止まり呆然とする。

 ルパンの右足が紫色のオーラを(まと)う。飛び後ろ回し蹴りを放った。

「はあぁッ‼」

 フィルムと同じ体勢のキックが放たれる。

 蹴りが当たったリッパーの刃が折れ、そのままの勢いであごも蹴り抜く。

「ルパンストラッシュ!」

 リッパーはきりもみ回転しながら吹き飛び、鉄骨の柱に叩きつけられて爆発した。

 爆発が収まると、掛けていた眼鏡は割れ、持っていた香水の小瓶が砕けて中身が飛び散り、白目になった水木が口から泡を吹いていた。

 ルパンはブレードを引き抜くと銃口を押し込む。

「ブレイク」

 快人は変身を解いて元に戻る。

「言っただろ……。『俺の気が変わらない内に』ってな……」

 (みにく)く足掻いた、その悲惨な末路に快人は(あわれ)む。

「……な、なん、で……こ、このかおり、は……アタシを、わざわいから、まもっ、てくれ、るって……」

 香水を嗅いだ水木がうわ(ごと)を言う。

「……守ってくれたさ。アンタがこれ以上、罪を(かさ)ねないようにな……」

 そう言って快人は廃倉庫から外に出る。雨は止み、空に一気に晴れ間が差し込んだ。

「うーん、良い天気だ」

 伸びをしながら優奈が眠るベンチへと向かった。

 

「うっ、ううん……」

 ベンチに寝かされていた優奈が身じろぎして体を起こす。

「ふわーっ……ん? あれ~?」

 寝惚(ねぼ)(まなこ)の目を擦る。

「あれ~? 私、快人と……?」

 ぼんやりとしながら上を向く。

「ここって……ウィンズベイブリッジ?」

「よう。起きたか?」

 戻ってきた快人が明るく話しかける。

「あれ、快人? 私、遊園地の後……」

「あぁ、その後、お前寝ちまってさあ。大変だったんだぜ?」

「そうなんだ~──嘘、でしょ?」

「なんで?」

「だって快人、ボロボロだし、病院の服着てるし、ビショビショだし」

 優奈が疑問点を並び立てる。何かあったことは確信している。

「まあ、また今度話すよ。でも、本当に──」

 快人はそこで言葉を切ると優奈を強く抱きしめた。

「どうしたの?」

 キョトンとする優奈。

「本当によかった……!」

 涙声の快人の背中を、優奈はよく分からないながらも微笑んでポンポンと叩いて抱き返す。

「ただいま。快人」

「……おかえり」

 しばらくして快人は手を背中から肩に移し優奈と向き合った。少し間を置いてから、目を閉じて顔を近づける。何をしたいのか分かった優奈も瞳を閉じた。

 二人の唇が触れ──「お兄ちゃぁん! 優奈さぁん! どこぉ!」

「どこでありますか!」

「いっ⁉」

「っ!」

 驚いた二人は慌てて顔を離す。街全体に響くような海里と絢の声。さらにけたたましいサイレンの音が鳴り響く。

「あっ、いた! お兄ちゃあん!」

 絢が運転するパトカーに乗った海里が窓からブンブンと手を振る。

「ちょっ! 海里さん危ないであります!」

「あっ、ごめんなさい!」

 パトカーが快人達の近くに停車すると二人が降りて駆け寄ってきた。

「うっそぉ⁉ 優奈さん起きてる! お兄ちゃんはボロボロ! 大丈夫だったの⁉ 起きたら、病院からいなくなってるし──!」

「たっく、お前って奴は……」

 そこからの怒涛(どとう)の質問攻めの海里に対して、ムードをぶち壊されたと頭を掻く快人。

「あっ、そうだ。蟹丸巡査」

「えっ? はい」

「あっちの廃倉庫に、今回の事件の真犯人が倒れてます」

「えっ、ええぇ⁉ それは本当でありますか⁉」

「はい。後はよろしくお願いします」

「はっ、はい! く、詳しい話はまた後で!」

 絢が慌てて、その廃倉庫に向かって走っていく。

「カニちゃん! パトカーの方が早いよ!」

「あっ、ああ! そうでありました!」

 海里に指摘された絢は慌ててパトカーに乗り込み、今度こそ廃倉庫へと向かう。

 それを快人達は笑って見送る。三人共、すべてが終わり、今の空のように晴れ晴れとした表情をしていた。

 

 その三人の姿は電力が復旧した監視カメラにも映っていた。

「よくやったわね。快人」

 今まで快人を陰から見守っていたアリスが微笑むと、監視カメラをハッキングしていたパンドラの画面を閉じる。

 手に持ったシーフとリッパーのガイアメモリの破片をパンドラに入れ、倒れている水木をよそに廃倉庫から鼻歌交じりに去る。

 

 こうして穏やかな秋晴れの下、爽やかな潮風が三人の間を吹き抜けながら、今回の事件は幕を下ろしたのだった。

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