小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 いつか、また会う日まで。


終 幕 Farewell/別れの先には何があるのか

 その後の快人達について話そう。

 

 快人と優奈はすぐに病院に戻されて精密検査を受けた。

 優奈は特に異常なしとのことで数日後に退院。

 一方で快人も比較的健康だったが、医師が「どうやったらそんなにボロボロになるのか」といくら尋ねても苦笑いしてはぐらかすばかりで、結局、三度(みたび)入院することになった。

「そういえば、数信」

「なんだい?」

「病院に来てた時、なんで急に帰ったんだ?」

「あぁ。あの時、マミーからメールが来て、『食材買ってきて』っていうからさ」

「お前、まだ、おふくろさんのこと『マミー』って呼んでんのかよ……」

 入院の期間、優奈や海里、友人達が()わる()わる病室に来ては(にぎ)やかだった。快人がうんざりするくらいには。

「いい加減帰れお前ら!」

 そして、一週間ほどの入院を経て快人も退院を許された。

 

 退院後、すぐに約束通り朱夫妻からの食事に招待され、それを受けた。表向きには今回の事件の立役者の絢も入れ、盛大な食事会が()り行われた。

「まだまだあるよ! どんどん食べるね!」

「頑張ってね」

「病み上がりなんだけど……」

「もう入らないよぉ!」

「お腹いっぱ~い……」

「うっぷ……」

 ちなみに中華圏では食べ残すほどの食事を客人に出すことが礼儀だとされる。

 

 絢は真犯人である水木奈央──改め水木千尋を逮捕し、今回の一件を解決したことで表彰される運びとなった。

「やったな。蟹ちゃん」

「ありがとうございます。進君」

「それで、蟹ちゃんへの辞令を預かってるんだ」

「辞令……でありますか?」

「読むぞ。『蟹丸絢殿。今回の貴殿の活躍を(かんが)み、警視庁捜査一課への配属を命ずる』」

「えっ、ええええぇっ⁉ 警視庁捜査一課⁉」

「俺からもちょっと声を掛けてみたんだけど、特例だってさ。これからは同僚だ。よろしくな、蟹ちゃん」

「あわわわわ──ふらぁ……」

「蟹ちゃん⁉」

 あまりのことに絢が気絶したとか、しなかったとか。

 

 快人達は住んでいたアパートを引き払い、祖父の忘れ形見であり拠点となるアルセーヌ城に引っ越した。

 城内をある程度、掃除や整理を済ませてそれぞれに部屋を割り振っていた。

「元気そうね」

「アリス⁉ どこ行ってたんだよ!」

「ちょっと野暮用でね。まあ、目的は果たしたみたいだから、良かったじゃない」

 アリスは随分と多い荷物をエントランスの床に置いた。

「まあな、って。なんだよ、その荷物?」

「これからは私もここに住むから」

「はい?」

「怖ーい大家さんに追い出されちゃったのよ。まあ、いいタイミングだわ。快人に訓練をつけないとね」

 快人の肩を叩く。「ルパンの」と言ってアリスは快人の反応を待った。

「……望むところだぜ」

 自信を持った顔で答えた。その返答にアリスも笑みを浮かべる。

「じゃあ、そういうことでよろしく」

 アリスが手を振って一室へと入っていく。

「って、そこ、俺の部屋の予定の部屋!」

 ゴリ押しという話し合いの結果、その部屋はアリスのものということになった。

 

「起きるかなぁ……」

「もうちょっと待ってね……」

 アリスがパンドラに接続したキーボードを操作し、液晶に表示された再起動のボタンを押す。寝かせていたカルサイトから距離を取る。

「……サイバロイドZZZ・マークⅡ・プロトタイプ……起動」

 カルサイトが目を開く。辺りを見回し、快人を見た。

「……あなたが……この個体の……マスター?」

「えっ」

 どうやら倒された時の誤作動と再起動によって記憶(メモリー)が飛んでしまった様子だった。すると快人は首を振り「いや、俺じゃなくて、こいつだ」と海里を前に引っ張り出す。

「あなたが……マスター?」

「あっ、あのぉ、えっとぉ……」

 あんなに話したがっていたのにも関わらず、面と向かうと緊張してもじもじしている。

「……そうだぜ」

「ちょっと、お兄ちゃん……!」

 いたずらっぽい顔の快人に、余計なことをするなと睨んだ。

「あなたの……名前は」

「えっ、か、かいり! (うみ)(さと)って書いて、海里!」

「分かりました。マスター・海里」

「マ、マスター⁉ マスターはいらないよ!」

「分かりました──海里」

「うん!」

「では、海里、この個体の、名前を、付けてください」

 その問いかけに、敵として戦ったこともあって場が気まずい雰囲気になる。

「えっ、えっと、そ、そのぉ……」

「……『カルサイト』だ。お前の名前はカルサイト」

 意外にも快人が助け舟を出した。

「カル、サイト?」

「そう、それがお前の名前だ」

 由来は快人達には知り得ないが、彼女がそう名乗っていた。今更変える必要もない。

「了解しました。マスター……」

「快人で──」

「ルパン」

「えっ?」

「なぜでしょうか、あなたの、ことは、ルパン、と呼んだほうが、いい気がします」

 カルサイトがそう言うと許可を待っているのか快人をジッと見る。もしかすると、あの夜の記憶が刻まれていたのかもしれない。

「……いいぜ、好きにしろ」

 快人はやれやれという様子で了承した。

「はい」

「カルサイトかぁ。それもいいけどさ、もっとカッコイイ……んむぅ……そうだ! じゃあ、私は名前をもじって『ルカ様』って呼びますね!」

「ルカ……さま?」

「そうそう、これからよろしくお願いします! ルカ様!」

 海里はカルサイトの手を取って立ち上がらせる。初期化したため、おぼつかなく立った。

「私がいろいろと教えていきますね!」

「よろしく、お願いします」

「それじゃあ、まず敬語は無し! もっとため口で! その方がカッコイイから! 次にぃ──」

 そこから海里が嬉々としてカルサイトに自分好みの「設定」を付け加えていく。

 長くなると思った快人がアリスを(ともな)って部屋から出る。

「二人きりで大丈夫なの?」

「さあな、でも」

 嬉しそうな海里を一(べつ)した。

「アイツなら大丈夫だろ」

 そう自信ありげに少し笑ってドアを閉めた。

 

 事件の終息に伴い、財団Xは封鎖を解き、海東市から撤退することになった。

「ツイてませんね、まさか本当に状況が逆転するとは……」

「さっさと出ていけ」

 皇神の一睨みでイルズは肩をすくめるとホログラムが掻き消えた。

「……何があったのかは、分からんが」

 電力が復旧して正常に戻った監視カメラを見た。人々の混乱はまだ解けていないが、じきに日常に戻るだろう。おそらく報道でも『発電所の不具合』といったところで処理され、怪人のことも都市伝説の一つとして細々と語られるだけ──人の関心など所詮(しょせん)その程度だ。

「これで計画を進められる」

「……そうね」

 エスメラルダが前髪のメッシュに触れようとして、止めた。

「手始めに資金作りだ。T―Xを売るぞ。そこからカースジュエリーの反応と今後を見る。……何してるさっさと起きろ」

 皇神は徹夜続きで眠たそうな顔の職員達に指示を飛ばす。

「きっと、計画通りよ……」

 エスメラルダは真意を悟られないように微笑んだ。

 

 薄暗い地下研究所ですべてを感知したディアがゆっくりと目を開く。

《やはり彼こそが英雄、ルパンになれる存在。ここからはすべて彼次第……》

 穏やかな表情で目を閉じた。

 

 風都刑務所に再び収監された諸刃陣は目の下に大きな(くま)を作りながら、面会室に呼び出されていた。そのガラスの向こう側に座っていたのは、

「せんせ、い……⁉」

 風光園の女性だった。

「陣君、お久しぶり」

 女性は会うなり頭を下げた。

「……謝って済むことではないけれど……ごめんなさい……! もっと先生があなた達のことを気に掛けてあげられていたら、こんなことには……!」

「先生……」

「考えたの、私にできることは……あなた達が出てきた時、待っててあげることだって」

 かつての恩師が涙ながらに微笑むのを見て、諸刃の目からも涙があふれる。我慢できずに部屋の中で泣き崩れた。

 どうやら彼にはまだ待ってくれる人がいた。

 

「うがああっ……うぐうっ……!」

 事件の真犯人である水木千尋は搬入された警察病院でガイアメモリの後遺症に苦しんでいた。

 メモリブレイクされてから水木は目を覚まさずベッドに横たわったまま、苦悶の表情を浮かべる。まるで永遠に覚めない悪夢に魘されているようだ。

 時折、体に黒いミミズ腫れのようなものが、表れては消えてを繰り返す。

 メモリを二本も使い、その内一本はコネクタを通さず直接刺したのだ。死ななかっただけよかったと言うべきか。

 ただ、一つだけ確かなことがある。

 彼女はこれから、今まで盗んできた被害者の分の苦しみを味わうことになるのだ。

 

「お兄ちゃん、もっと上!」

「こう、か?」

「ルカ様はそのままね!」

「分かった……」

 ある晴れた日のこと。

 快人とカルサイトが、海里の指示を受けながら城の敷地内にあった離れの一戸建てに、手製の看板を取り付けようとしていた。そこには「便利屋東条」と書かれている。

「これから街を作った会社を相手にするんだ。ここにおかしな依頼が来れば……」

「いつかは、大元に当たる! のかなぁ?」

「さあな。でも大学生じゃできることは限られる。このくらいのことしないとな──って、お前、ちゃんと指示しろよ!」

「してるよ!」

 快人達が看板の取り付けに四苦八苦していると、

「いやぁ、やっているでありますな」

「お疲れ様~」

 優奈と、この日は非番だった絢がバスケットカゴを持ってやってきた。

「おう」

「お昼ご飯だよ~」

「やったあ! 私もうお腹ペコペコ!」

「お前ほとんど何もしてないだろ」

「看板を作ったのは、私ですぅ! ルカ様、早く食べましょ!」

「ああ……」

 まだ動きがぎこちないカルサイトの手を引き、海里がバスケットの中を覗き込む。

「うわあ、美味しそう!」

「手作りだよ~」

「私も手伝ったであります!」

「えっ、カニちゃん、料理できたの⁉」

「もちろんであります! 寮生活が長いでありますからね!」

「その割には卵を粉々にしちゃうから、大半がエッグサンドになっちゃったけどね~」

「優奈さん、それはしぃーでありますよ……!」

 ワイワイとはしゃいでいる女性陣を横目に、快人が玄関前の広場にブルーシートを敷く。

「おーい、ここで食おうぜ!」

「いいね~」

「お兄ちゃんにしては気が()くじゃん!」

「一言余計だよ」

 ブルーシートに五人が円を描くように座る。

「おーい! アリスは?」

 快人が離れた所にいるアリスに声を掛けた。

「私はベンチでいいわ。でも持ってきて」

 毛布やらブランケットやらで全身を包んだアリスが答える。

「へいへい」

「若い子は元気ね……」

 寒がりながらホットコーヒーを啜っていた。

「じゃあ、いただきます!」

「いただきます!」

 快人の号令に合わせて各々サンドウィッチを頬張る。

「うめえ!」

「おいひー!」

「うん」

「…………」

「口に合わなかったでありますか?」

「いや、ルカ様はその……そう! ちょっと、口下手なだけです!」

「フォローになってんのか、それ?」

 賑やかにランチタイムが過ぎていった。

「……快人」

 新しいエッグサンドに手を伸ばそうとしたところで、優奈が肩を叩いてきた。

「ん? どうした……?」

「ちょっといい?」

「……ああ」

 顔を見て大事な話だと悟った快人。優奈に人目がつかない城の裏へと連れられていく。

「どうしたんだ? 話、って」

「あのね、快人……私」

 喋り出そうとした優奈は背中を向けた。肩が震えている──泣いていた。

「優奈……?」

 優奈は涙を拭うと振り返った。

「快人、私ね──」

 

 数日後、快人は空港にいた。目の前で可愛いらしい花柄のキャリーバックを引いた優奈が振り向く。

「送ってくれてありがとう、快人」

「別にいいって。それで、戻るのは……」

「何もなければ半年くらい、かな……」

 優奈は今回の事件で、体調のことを考えた家族で話し合った結果、生まれ故郷に帰ることになった。

「そうか……」

「大丈夫、半年なんてあっという間だよ」

 そう笑う優奈だが、今にも泣きだしそうだ。

(たっく……)

 恋人の泣き顔は見ていられなかったのか、快人はフッと笑うと人目を憚らず抱きしめた。

「快人……」

「永遠の別れじゃねぇんだ。泣くなって」

「うん……」

 快人は名残惜しそうに優奈を離すと見つめ合う。

 飛行機の搭乗時間まで、もうあまりない。

「……そうだ」

 快人がポケットから、あの桜のペンダントを取り出すと優奈に渡す。

「これって……」

 優奈は受け取ったペンダントをギュッと握り快人を見る。

「返そうと思ってすっかり忘れてた。お前の安全を願ってな……。助けが必要だったら、すぐに呼べよ。地球の裏側にいたって絶対に助けてやる」

 そう自分の胸を叩いてカッコつける快人に、優奈はクスッと笑う。

「何それ~」

「なんだよ、俺がいなくてさみしいー、んだろ?」

 快人が自分の体を抱きしめて、おどけてみせた。

「私そこまで泣き虫じゃないもん。寂しいのは快人の方でしょ~」

「何言ってんだよ。俺だって半年くらい待てるよ」

「どうかな~。でも」

 優奈は一歩近づくとキスをした。

「……ありがとう、私の『ヒーロー』さん」

 数秒の沈黙の後、耳元で囁いてウインクする。いつもの笑顔で手を振り、待っていた両親の下へ向かっていく。

 快人はそれを目を細めて見送る。三人は人混みに紛れ、搭乗窓口の向こうに消えていった。

「……またな。優奈」

 

 朱一家が搭乗した飛行機が滑走路から飛び立つ。それを金網越しに見送り、快人は空港を後にする。

 空港に続く遊歩道を歩く中、ゴルドルパンが横付けした。ドアが開くと慣れたように運転席に座る。

 シートベルトを巻いて車内を見回せば、助手席にはルパンガンナーにルパンビーグル、そして来蔵の日記が置かれている。

「じいちゃん……」

 快人が表紙を捲った。

 そこには快人が残していた、幼い頃の快人と海里と来蔵の写真。その下には便利屋開設の記念で六人で撮った写真があった。どちらも眩いくらいの笑顔だ。

 快人はそれを見ると笑みを浮かべて日記を閉じる──頬を叩いて気合いを入れた。

「よし! いいぜ、イライザ!」

「はい」

 ゴルドルパンのエンジンが動き出す。

「さあ、こっからは切り替えていこうか! ヒーローへの道はまだ始まったばっかりだ!」

 快人はハンドルを握り、アクセルを踏んだ。

 晴れ渡った青空の下、ゴルドルパンが長い空港の直線を駆け抜けていく。

 まるで、これから輝く未来が待っている──そう予感させるようだった。

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