小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

2 / 42
 人類最悪(グローバル・フリーズ)の日、青年の前に現れたのは――。


第1幕 Beginning/すべてはいつどこで始まったのか

  二〇一四年四月八日

 

「世界の破滅ってヤツは、突然起きるみたいだ」

 

 誰かがそう言うのも分かるほど、その日は誰にとっても最悪な一日だった。

 朝から昼は晴天だったにも関わらず、夕方に差し掛かると大粒の雨が降り出す。

 ある街ではその影響で傘をさす者、ささない者が行き()う。傘を持っていない時に突然の雨に降られるのは日常で起こるありきたりな不幸。

 その不運に見舞われた一人にある青年がいた。

 彼、東条快人は数日前に地元の大学に入学したばかりの大学生だ。

「ったく、ツイてねぇな……」

 すでに快人の全身はずぶ濡れになり、ついさっき馴染(なじ)みの美容室で金色に染めた髪を(ひたい)に張り付けて悪態をつく。

 恨めしく空を(にら)むが、そうしたところで雨が止むはずもない。

 しばらくそうした後、やれやれと諦めた様子で前を向いて歩く──立ち止まった。

 視線の先には建物の間を薄暗い一本の路地が続く。普段ならば、まず使わない道だ。

 早くこの不幸から(のが)れたかったのか一考して、その路地へと歩みを進める。家までの近道になる。そう考えたのかもしれない。

 だが、この些細な選択が大きな意味を持つことを快人が知るはずもなかった。

 

 路地は狭く少々入り組んでいた。一本、道を違えば迷うところを方向を確認しながら進み、いくつかの路地に差し掛かる──誰かが頭から血を流して倒れていた。

(……えっ?)

 快人は目を()する。目の錯覚だと思った。

 だが、何度確かめても状況は変わらない。確かに誰かが倒れている。

 とにかく安否を確かめるため傍へ近寄る──足を止めた。

 倒れている人物以外に誰か、いやこの場合は何かいたことに気づいたからだ。

 それは快人の気配を(さっ)したのかゆっくりと振り向く。その姿を見て快人は目を見開いた。

 ドクロのような顔、おさげに似たフード、口からは牙が覗く。(にび)色の体の胸元には五角形を逆さまの──ナンバープレートに似た──それには「100」と刻まれている。

 簡単に言えば怪人と呼べる存在。それが今、目の前にいた。

 それでも性根(しょうね)なのか倒れている人を助けようと動く──背後の壁に火花が散った。振り向くと壁には()げ跡とひび割れ。向き直れば怪人の口から煙が出ていた。

 たまたま当たらなかった。それを理解した快人は急いで逃げ出す。

 

 再び狭い路地の中を息の続く限り全速力で駆け抜ける。

 怪人に捕まればどうなるかは火を見るよりも明らかだったが、入った時点で迷いそうになった快人にどこがどう繋がっているのかは分からない。あてもないままがむしゃらに逃げる──不意に路地から広いスペースに抜けた。

 そこには十数台の車が点々と駐車してあった。

「ここ、駐車場か……? おわあっ⁉」

 息を切らして駐車場を見渡す──体を大きくよろめかせた。

 

 その瞬間、世界は静寂(せいじゃく)に包まれた。

 

 街中であれば聞こえてくるはずの喧騒(けんそう)が何一つ聞こえてこない。まるでこの世から動く物、全てが存在しなくなったように。

 それは偶然、周囲が静かだったということではない。文字通り「静止」していたのだ。

 体勢を崩したまま動かない快人も。今、降っている雨粒も、本来なら重力に従って地面に落ちるはずが空中で止まっていた。物理法則を完全に無視した現象が起きていた。

 快人は目の前にある車の窓ガラスの反射で自身を確認する。

「どうなって……⁉ う、動けねぇ……!」

 もがくことすらできない。

 バシャン──水たまりを踏む音がした。この状況で誰かが動いている。

 しばらくしてその足音が近づき、ガラスにその姿が映った時、快人は背中に冷たい物を感じた。

 その相手は、言わずもがなあの怪人だった。鈍色のボディで雨粒を(はじ)いてすぐ背後に迫っている。

 快人は文字通り手も足も出ず、逃げることもできない。

 そのまあ鉄のような手が快人の肩に掛かる──黒い影が快人の横を通り過ぎると、後ろにいた怪人の姿がガラスから消えた。

「今度はなんだよ! ……って、動ける?」

 何がどうなっているのかと振り向けば、怪人は近くの水たまりの中に倒れていた。

「……へっ?」

 状況が飲み込めない快人。

「だっ、誰だ、お前は⁉」

 怪人は言葉を話すと顔に掛かった水を乱暴に拭うが、想定外の状況なのか狼狽(うろた)えている。

 一方で快人はそれよりも自分を(かば)うように立つ「存在」に目を奪われていた。

 全身黒一色のボディ、車のフロントライトのように光り輝く大きな眼、ウィングのような形の後頭部。そして、一番特徴的なのが腰に巻かれたスピードメーターに似た銀色に輝くベルト。

 それは車の形をした人か。人の形をした車か。

「……名乗る必要はない」

「車人間」と呼べる存在は怪人にゆっくりと言い放つ。

「ふ、ふざけるなぁ!」

 答えが気に食わなかった怪人が飛び掛かる。突如、人ならざる者同士の戦いの幕が切って(おろ)された。

 

 車人間は襲ってきた相手を無駄のない動きで避ける。ベルトのつまみを(ひね)り、手首に付いたブレスレットの黒いレバーを三回倒した。

「スピ、スピ、スピード!」

 男性の声をスクラッチした声が響くと車人間の姿が一瞬にして消えた。すると怪人がまるで見えない相手に攻撃されているように見える動きをする。車人間が目にも留まらぬ速さで攻撃していたのだ。

 時間にして一瞬も無かった勝負の行方は怪人が濡れた地面に倒れるのを見れば明らかだった。

「な……なんなんだよ、お前は⁉」

 圧倒的な力に(おのの)く怪人に、その答えと言わんばかりに車人間は再びベルトのつまみを触り、ブレスレットのスイッチを押すとレバーを倒した。

「ヒッサーツ! フルスロットル! スピード!」

 掛け声とともに車人間が空高く跳躍(ちょうやく)し、怪人目掛けて足を突き出す。

「お、俺にはまだやることが──う、ウガァァァッ!」

 飛び蹴りが胸に直撃した怪人は断末魔を上げながら放物線を描き爆発した──爆炎から数字の100の形をしたエネルギー体が飛び出すと、どこかへと飛び去る。

 車人間はそれを見ているだけで手を出すことはなかった。

「まだコアは破壊できないか」

 車人間が無機質だが、どこか(くや)しそうに呟く。

「早急に『ドライブシステム』を完成させなければいけないね……」

 どこからか聞こえる声がそれに答えた。

 

 戦いが終わったところで快人は車の影から出てくる。動けるようになるとすぐに車の後ろに隠れて一部始終を見ていた。しかし、戦いの大半が(すさ)まじい速さだったため、何が起きていたのかはよく分かっていないだろう。

 ただ助かったらしいと、ホッと息を吐く。

「…………」

 そんな快人を車人間が見ていた。それに気づきついさっきまでの命の危機からか、敵とも味方とも分からない相手に再び体を強張(こわば)らせる。だが相手から特に敵意は感じ取れない。

「……なんで、助けたんだ?」

 害は無いと感じた快人は死に直面した恐怖か、雨に打たれて冷えたからか震える口で尋ねた。

「誰かが危機に(おちい)った時は互いに助け合う。それが人間のルールではないのか」

 車人間は快人は背中を向けるとそう答える。

(その言葉……!)

 車人間──「戦士」の言葉に大きな衝撃を受け、驚きの表情が浮ぶ。(はか)らずも最も尊敬する人物と似た言葉を口にしたからだ。

 その人物とは快人の祖父、東条来蔵(らいぞう)。またの名をゾルーク東条──もしくは怪盗アルティメットルパン。

 快人は幼い頃から来蔵より数々の武勇伝を聞いていた。今でも快人の秘めた夢は「いつか祖父を超えるヒーローになること」だった。そして今、目の前に夢にまで見た作り物ではない「ヒーロー」を具現化した存在を()の当たりして快人は衝撃と感銘を受けた。

(……あれ? いない?)

 ふと我に返った頃にはあの戦士の姿は影も形も無かった。

(夢じゃ……ないよな……。カッコよかったなぁ……)

 興奮の余韻(よいん)からか、夢心地のまましばらく雨の中を立ち尽くしていた。

 

 これが東条快人にとってのグローバル・フリーズの記憶だ。

 世界中に惨劇を(もたら)した「第一次グローバル・フリーズ」と呼ばれるこの事件は秘密裏に問題を抱えたまま一旦の幕を閉じる。

 そして半年後、再びグローバル・フリーズを起こすため決起(けっき)したロイミュードと、市民を守るために現れた仮面ライダーが再び戦うことになる──それはまた別の話だ。

 だが、その物語の幕が引かれた後、自分を助けた「仮面ライダー」と運命が()じわることになるとは、快人にはもちろん知る(よし)も無かった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。