小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

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 ルパン、最期の時。


Zero's Stage
第0幕 そして新たな伝説へ……


 これは伝説が生きていた頃の物語。

 

 かつて男は「伝説の怪盗」と呼ばれた。

 紳士的、神出鬼没、弱きを助け強きを(くじ)く姿。まさに絵に描くような彼の活躍を耳や目にした人々は、いつしか彼のことを「英雄」と呼ぶようになった。

 その男はゾルーク東条こと「怪盗アルティメットルパン」。

 詳細は省くが、彼は数奇な運命を辿った後、今は夜景が見えるビルの屋上に立っていた。

 本来ならば故郷で最後の景色を見たかったが、体に仕込まれたコアがもたなくなっているのが、体から飛び出す火花でいやでも分からされる。

 徐々に薄れてゆく意識の中、懐から一枚の写真を取り出した。

快人(かいと)……海里(かいり)……。本当に、すまないな……」

 ルパンはそうつぶやくと写真は指を離れ、風に乗ってどこかへと飛んでいく。

 立つ力も無くなりコンクリートの冷たい床に仰向けに倒れるルパン。

(伝説も終わる時は、呆気無いもんだな)

 手を伸ばせば星まで届きそうなビルの屋上で、ルパンは今わの際にそう思った。

(……せめて、あの『宝』だけは自らの手で盗みたかった)

 目の前に迫る終わりを覚悟する反面、ルパンは終わってしまうことを後悔していた。

(もしあの時、少しだけ早く着いていれば)

 下手を打たなかったかもしれない。

(もしあの時、もう少し時間があったなら)

 あの宝を盗めていたかもしれない。

(もしあの時、油断していなかったら)

 このボディに致命傷を与えられなかったかもしれない。

(もしあの時、サイバロイドZZZのボディに精神を移さなかったら)

 家族とこんな(むな)しい別れをしなかったかもしれない。

 一つ上げれば、いくらでも溢れる「もしも」と「かもしれない」を考えて、いちいち後悔すればきりが無かった。

 (こう)か不幸か。彼に残された時間はそんな悠長(ゆうちょう)なことを考え続けられるほど長くはない。

 本来ならば、そんなことを考えずに()けたのだろうが、一度は捨てた名誉を求めてしまったこと──そして一目、あの美しい「宝」を見てしまったことで、人一倍強い「宝への執着心」は彼を死の寸前まで苦しめることになった。

(ディア……)

 ルパンの脳裏に、かの銀髪の少女の姿が()ぎる。

 発端は、数カ月前のことだ。

 

  数カ月前 鋼鉄企業パビリオン本社ビル 地下

 

 港町、海東(かいとう)市の沖合に建てられた六角形の高層ビル。その地下に作られた、見るからに堅固なドアの前では数人の警備員が気絶していた。

 その横を白いシルクハットに全身白一色の衣装に黒いマントを羽織(はお)った仮面の男が(ゆう)々と進む。

 この男こそ不老不死を求めた結果、紆余曲折を経てロイミュードとして三度復活した、怪盗アルティメットルパンである。

 ある情報からパビリオンに潜入したルパンは、素早くドアに取り付けられた端末に細工をすると、ものの数秒で厳重なロックが開いた。

 部屋の中は光が一切無く何も見えなかったが、ルパンはそんなことを気にせず中を進む。

 目当ての「獲物」はすぐに見つかった。かつて自分が使っていたサイバロイドZZZの改良型だ。

 その数体が高さ二メートルほどの卵型のカプセルに保管されていた。

(久しぶりだな、サイバロイドZZZ。せっかくの感動の再会を喜びたい……ところだが俺のせいで、お前達が新しいロイミュードにもなられたら面倒だからな、早速お別れだ)

 ルパンはZZZを破壊するために保管カプセルに近づく。

「ん?」

 そこである物を見つけた。カプセルよりも奥まった場所に、水色の配線を張り巡らせたような装飾が施された長方形の(ひつぎ)と、横には直立した円形の装置。その中央には全身に配線を繋がれた、白いワンピースを着た銀髪の少女が(はりつけ)にされていた。

(この少女は……?)

 ルパンが少女に引き寄せられるように歩み寄る──瞬間、部屋のライトが一斉に付き、数十人分のやかましい足音と共に先ほど眠らせた警備員以上の武装をした男達が入ってくると突撃銃を構え、ルパンに照準を合わせる。

「なんだ、随分と大所帯(おおじょたい)だな」

 大勢の相手に銃を向けられているにも関わらず、ルパンはさも可笑(おか)しそうに言った。

「好き勝手するのもそこまでだ。このコソ泥風情が……」

 そう苛立った様子で言いながら武装集団の後ろから部屋に入ってきたのは二人の女。

 一人は両手に黒の手袋をはめ、黒いスーツに黒いネクタイというシャツ以外、黒一色という身なりで、右目は黒い前髪に隠れ、左目の目元には寝不足なのか、はたまた働きすぎなのか濃い(くま)を作った──表向きは鉄鋼企業、裏では数多くの兵器を開発している兵器企業「パビリオン」の女社長、皇神(おうかみ)天地(あまち)

 もう一人は、上下ダークグリーンのインナーとスカートを履き、茶髪のボブパーマに一部緑のメッシュを入れ、くたびれた白衣を着た、高圧的な皇神とは対照的に気弱そうなパビリオンの開発部門統括のドクター・エスメラルダ。

 皇神は手をスボンのポケットに突っ込んだまま、兵士の間を()ってルパンの前に立った。まるで親の(かたき)を見る威圧と憎しみがこもった目で睨んでくる。

 その皇神の陰に隠れるように緑色のメッシュを指で弄りながら、エスメラルダが様子を窺っていた。

「我が社の最重要機密である、この部屋にまで侵入するとは……。貴様のせいでどれだけの損害を(こうむ)ると思っている」

 言葉の端々に怒りがにじみ出ているのに対して、ルパンは愉快そうに、

「なら、その被害分の金を使って警備は厳重にしておくんだったな」

 と言った。

「黙れ……貴様の、その頭に来る、減らず口も、邪魔も、今日までだ」

 だが、その皇神の嫌味をルパンはどこ行く風といった様子だ。

「それはともかく、この子は? なんでこんな風に吊るされてるんだ? 可哀想だろう」

 磔にされている少女を指差す。

「貴様が知る必要はない」

「ははぁ。噂の『メガヘクスの娘』か?」

 ルパンがそれを言った途端、皇神は左目を見開いた。

「貴様、どこでその情報を……! まさか……数日前に私のパソコンをハックしたのは……!」

(ハック?)

 実はルパンが預かり知らぬことで、驚いている皇神の後ろで、エスメラルダがさり気なく目を逸らした。

(なるほど。アリスに情報を流したのはあの子か……)

「さあ? どうだろうな?」

 事情を悟ったルパンの曖昧(あいまい)な返事を聞き、皇神は見開いていた左目を細めて凄んだ。

「随分余計なことまで知ったらしいな……。なら尚更、貴様をここから生きては返さん」

「元々、返す気なんて無かっただろ?」

「黙れ! 今日こそ、そのふざけた仮面を剥ぎ取ってやる。殺せ!」

「えっ、ちょ、ちょっと待って!」

 皇神の指示を止めようとしたエスメラルダの声は、けたたましい銃声によってかき消され、天井の電灯以上に目映(まばゆ)い大量のマズルフラッシュが辺りを照らす。ルパンの前一八〇度から一斉に銃弾が発射される。

 だが、その銃弾はたった一発もルパンに当たることは無い。なぜなら、その銃弾はルパンに当たる前に「静止」したからだ。

 厳密には、本当に止まっているわけではなく、本来の速度より目視できるほど遥かに遅いスピードでルパンに向かっていた。そして目の前に来たところで、羽織っていたマントですべて叩き落す。

 パラパラ──音を立てて銃弾が床に落ちた。その光景を見た皇神は舌打ちをする。

「重加速か……」

 例え体がロイミュードのボディに代わったとはいえ、その力は健在だった。

(あま)……社長! あの子に当たったらどうするの⁉」

 銃声が止んだ途端、エスメラルダが皇神に詰め寄る。しかし、本人はウンザリとした様子で、

「奴に弾が当たったところで、どうということはないだろ」

 と冷たく言い放つ。

「あ、ああ見えて、あの子は繊細(せんさい)なのよ⁉ ほとんど精密機器に近いの! 不必要なダメージは──!」

 そこまで聞いた皇神はため息をつくと、摑んでくる腕をゆっくりと離させた。

「分かった、分かった……。重加速相手に銃は無意味なこともな……。なら、こっちもプランBだ。それでいいな?」

 皇神が問うとエスメラルダは目と顔を背け、手でメッシュを弄りながら小さく頷く。

「あの子に……被害が無いなら……」

 エスメラルダの妥協を聞いた皇神は呆れながら数人の兵士にアイコンタクトした。

 すると兵士がタクティカルベストのポケットから、小型のUSBくらいの大きさの小箱を取り出す。

 ルパンはそれを見て、

「そいつは……ミュージアムの……」

 と心当たりがあった。

「今では、我が社の製品だが。本来より数倍に性能を上げた改良型ガイアメモリ──T―X。その威力、とくと味わうがいい」

 兵士達は腰にガイアドライバーを巻き、ガイアメモリに付いたスイッチを押す。

「チーター!」

「マーリン!」

「ファルコン!」

 ガイアウィスパーが流れ、兵士達はドライバーにそれを刺した。途端にグニャグニャと人間の姿から異形の怪人、ドーパントへと変化する。

 チーターの記憶を持つ「チーター・ドーパント」。

 カジキマグロの記憶を持つ「マーリン・ドーパント」。

 ハヤブサの記憶を持つ「ファルコン・ドーパント」。

 この三体は陸上・海中・空中で最も早い動物と言われている。

「重加速でも十分に動ける動物だ。さあどうする?」

 勝ち誇ったような顔をする皇神。

 対してルパンは鼻で笑った。

「まさかこの程度で俺がピンチになった、とでも思ってるのか?」

「何を言っている。貴様は、今、『袋の鼠』なんだぞ?」

「なら『窮鼠(きゅうそ)猫を噛む』って、(ことわざ)も知っているはずだな。俺には当てはまらないが……」

 そう言うとルパンはマントの内から黄金に輝く「ルパンガンナー」を取り出す。

「……例え仮面ライダーになっても一対三だ。戦況は早々と変わらん」

「そいつは、どうかな? ……変身!」

 ルパンガンナーの銃口を手で押し込むと絢爛豪華な音声が流れ出す。

「ルパン!」

 そう高らかに鳴り響く声で、頭上に向かって振り上げれば銃口から無数の宝石が飛び出した。

「ちっ……!」

「キャッ!」

 その宝石は質量を持っておりドーパントに変化した隊員と、咄嗟にエスメラルダを押し倒した皇神以外の全員を弾き飛ばす。

 ルパンは腕を「Z」の形に振って構えると、宝石が装甲に変わり体に装着される。

「怪盗アルティメット・ルパン。ここに参上!」

 仮面ライダールパン──改め、怪盗アルティメットルパンが三体の怪人の前で変身した。

 皇神は立ち上がりながら、その姿を憎々しげに見据えた。

「せいぜい、足掻くがいい……」

「俺がそうなるだけの相手ならいいんだがな」

 三体の怪人に対峙したルパンは弾かれたように素早い動きで戦いを開始する。

 チーターの強靭な爪が、マーリンの鋭利な槍のような角が、ファルコンの固い(くちばし)が、襲いかかってくるのを寸前でかわす。

(流石に、少し厳しいか)

「ガン」

 今の一瞬で力量を計ったルパンは目くらましにデタラメにルパンガンナーを撃った。それで怪人達が怯むと一旦距離を置き、「ルパンブレードバイラルコア」を取り出しルパンガンナーに装填する。

「チューン・ルパンブレード」

 銃が瞬く間に短剣に変形した。それを構えてルパンは再び三体に向かって行く。

 まず正面から飛びかかってきたチーターの体をすれ違いざまに切り付け、突き刺そうとしたマーリンの太い角を弾くと目にも留まらぬ短剣(さば)きで角を執拗(しつよう)に責めれば、最後にその自慢の角をへし折る。

「あぁぁぁ! 角があぁぁ‼」

 マーリンが情けない声を上げて倒れ込む。

 次に切られたチーターが体勢を整えて飛びかかって来るが、スライディングで潜り抜けて、無防備になった腹を真っ二つにせんばかりに切り裂く。チーターの首から尻に掛けて閃光が走った。

「ギィニャア⁉」

 痛みで転げ回るチーター。

 その様子を見てルパンは「しばらく大人しくしてろ」と鼻で笑い、辺りを見回した。

「さぁて……鳥はどこに行った──うっ⁉」

 突然、ルパンの背中に鈍い痛みが走る。ファルコンに背後から切り付けられたためだ。

 床に倒れたルパンは自分に対して呆れた様に、

「ちっ、油断したか……」

 と床に頬杖を突きながら悪態(あくたい)をつく。

 マントを羽織っていたことでそこまでダメージは通らなかったが、その代償で少し傷がついていた。

「あぁ。俺のお気に入りが……」

 ルパンは立ち上がるとマントの(ほこり)を飛ばすように何度か払った。

「おい! マントに傷がついたぞ!」

 ルパンガンナーの銃口を押し、ブレードモードからガンモードに切り替える。

「さあて、これは(しつけ)しないとな。小鳥ちゃん」

 小鳥というには大きい相手に、ルパンは弾丸を放つが流石に空中で一番早い生物であるだけに当たらない。

 だが、ルパンの狙いはファルコンに弾を当てることでは無かった。

(そうだ。もっと。もっと近づいてこい……)

 その狙いは相手の進路を誘導し、自分に近づけること。

 そして、ある程度自分の所に近づいた瞬間、

(今だ!)

 床スレスレを飛ばされることになったファルコンを、ルパンはオーバーヘッドキックで蹴り落した。

「クエーッ!?」

 頭に強烈な一撃を受けたファルコンは蹲る他の二体の所に勢いよく突っ込んだ。

 無様に墜落したファルコンに対してルパンは華麗に着地する。

「さて。そろそろ、幕引きだな」

 再び銃口を押し込んで三体の所へ駆けた。

「アルティメット! ルパンストラッシュ!」

 ルパンはフラフラと立ち上がる三体に向かって、紫色に輝く刀身でチーターとマーリンに斬撃、ファルコンには渾身の前回し蹴りを嘴に入れる。

「グワァァァァァァ!」

 必殺技を受けた三体が断末魔を上げて爆散した。

 

 爆風が収まるとボロボロになった三人の隊員が倒れていた。

「……歯()えは無かったが、なかなか楽しめたよ。社長」

 そのルパンの視線の先に居る皇神の顔は鬼神の如きの表情だった。馬鹿にされ続けたせいで、我慢の限界と言った様子だ。

「おいおい、せっかくの美人……の顔が台無しだぞ?」

「黙れ……! 貴様は……うっ! ううぅ……! うグッ、ウガァッ……!」

 すると、獣のように唸り始めた皇神は、ポケットに突っ込んでいた右手を体を屈めて必死に抑えだす。

「クッ、ウ、ウウゥ……!」

「なんだ、どうした?」

 どうしたのかと不思議そうに見ているルパンの一方で、その様子を見たエスメラルダの顔色が青ざめる。

「あ、天地! これを!」

 皇神の胸ポケットから小型の注射器を取り出すと、右腕に突き刺し中身を注入した。

「……アッ。ハぁ、はぁ……」

 効果があったらしく、それを刺された皇神は少しずつ落ち着きを取り戻し、ルパンを睨みながら再び右手をポケットに突っ込んだ。

「はぁ、はぁ……。ドクター……プロトタイプを起動しろ……!」

 荒い息を吐く皇神に命令を出されたエスメラルダが再び焦りだす。

「で、でも、あれは、まだ調整中で──」

「早く、しろ」

 ドスの効いた声で指示する。エスメラルダは苦い顔をしながら白衣のポケットから小型の装置を取り出す──意を決してスイッチを押した。

「サイバロイドZZZ・バージョンⅡ・プロトタイプ、起動中……」

 そのガイダンス音が鳴ると天井から、チューブで繋がれた一体の機械質のボディがゆっくりと降ろされた。

 それを見たルパンは新手の出現に少し驚く。動かせるまでになっていたとは思っていなかったのだ。

「これが改良型か……」

「行け、プロトタイプ。お前の力をそのコソ泥に見せつけろ」

 ZZZがゆっくりと頭を上げた。

「サイバロイドZZZ・バージョンⅡ・プロトタイプ、起動」

 その無機質な顔を皇神に向けた。

「命令を待機」

「プロトタイプ。侵入者を排除しろ」

「命令を認証。侵入者を発見、排除」

 プロトタイプはルパンを見据えて動き始める──だが、速さが鈍重で距離を詰められない。

 その様子を見たルパンは逆の意味で呆気に取られた。

「……これが改良型か?」

「なんだこれは? なぜもっと早く動けない?」

 こちらも色々な意味で驚きを隠せない皇神に対し、

「だから、調整中だって言ったでしょ……。一つひとつ的確に指示しないと思うようには動いてはくれないわよ」

 とエスメラルダは頭を抑えて疲れたように言う。

「ちっ、面倒な……プロトタイプ! 早く動け!」

「命令を認証。脚力上昇」

 するとプロトタイプがとてつもない勢いでルパンに迫ってきた。

「くっ……! えっ?」

 ところがそのままルパンの横を素通りしたかと思うと、激しい音を立てて壁に激突した。衝撃で壁に大きな亀裂(きれつ)が入る。

「…………」

 ルパンはそのプロトタイプの様子を見て、変身しているため表情は分からないが皇神に(あわれ)みの目を向けた。

「……これが改良型か?」

「……黙れ……」

 その間もプロトタイプは壁にぶつかったまま走る動作を続けている。

 流石にこのままでは埒が明かないと思ったエスメラルダがため息をつくと改めて指示を出した。

「サイバロイドZZZ・バージョンⅡ・プロトタイプ。侵入者に向かって、速度を保ちながら、攻撃しなさい」

「命令を認証。侵入者を排除」

「おっと、その命令はヤバそうだ──おっと⁉」

 的確な指示を受けたプロトタイプは先ほどのポンコツぶりは何処へ、恐ろしい速さでルパンを襲い始めた。

「ちっ、流石に改良型か! 重加速!」

 ルパンが重加速でお互いの速さを同等にすることで新旧ZZZ同士──厳密にはルパンは違う──の戦いが始まった。

 一方、その様子を見ていた皇神はある事に疑問を持った。

「おい、ドクター。なぜプロトタイプは重加速に対応できていない?」

「調整中。まだコア・ドライビアを搭載してないわ」

 皇神はその返事を聞いて頭を押さえた。

「お前、その単語で押し切ろうとしてないだろうな」

「その通りなんだから仕方ないでしょ……」

 二人がそんなことを話す間もルパンとプロトタイプの熾烈(しれつ)な戦いは続いた。結果、徐々にルパンが押され始めた。

(流石に、性能差が出てきているか……)

 劣勢になったルパンが、一瞬、隙を見せた。そこを強烈な右ストレートを受けてしまい、磔にされている少女の足元まで殴り飛ばされる。

 それを見た皇神は珍しく口元を緩ませた。

「倒したぞ……!」

 倒れているルパンに駆け寄る。

「これで終わりだ。コソ泥」

「……怪盗アルティメットルパンだ。間違えるな……」

「ふっ。年貢の納め時という奴だ。諦めろ」

 その「諦めろ」という単語を聞いたルパンはゆっくりと皇神に顔を向けた。

「……『諦めろ』? ハッ。『怪盗に不可能無し』……。素晴らしい宝を前にして、怪盗が早々に諦められるか!」

 ルパンがそう言い放つ。エスメラルダがポケットに入れていた端末が振動する。何事かと確認して目を見開く。

「……! まさか……?」

「なんだ──」

 エスメラルダの驚愕した様子に、皇神が一瞬気を取られた──ルパンがその顔面にルパンガンナーを突き付ける。

「しまっ──!」

 皇神は咄嗟に右腕で庇うが、一発の弾丸が放たれた。怪人を吹き飛ばすほどの衝撃は抑えきれず、宙に舞い上がると地面に叩きつけられた。

「天地! 大丈夫⁉」

 エスメラルダが心配して体を支えようとするが、皇神はそれを振り払うと右腕を抑えながら、

「プロトタイプ! そいつにトドメを刺せ!」

 と指示を出した。

「命令を認証。侵入者殲滅」

 プロトタイプがルパンの首を摑んで持ち上げ、右手を強く握りしめ振りかぶった。

(ここまでか⁉) 

 万事休すと思われた──ある一言でその攻撃が止まる。

DIA(ディア)起動。サイバロイドZZZ、機能停止》

 そこに居た全員に耳ではなく頭に響くように清らかな声が流れる。そして、その指示を受けたプロトタイプがルパンを殴る体勢のまま停止した。

 その様子に皇神が混乱する。

「なんだ、何が起きた⁉」

「……目を覚ましたのよ。メガヘクスの『隠し子』が……」

 エスメラルダが代わりに答えた。全員が少女に注目すると、ゆっくりとした声が響く。

《この銀河を総括しようとした惑星メガヘクスが消滅した際に、メガヘクスの感情回路から派生した、個体名、フィーリング(感情)データ(情報)・インターフェース・オートマタ(機械人間)。通称、DIA。それが私》

「ディア……?」

《個体に異常事態発生。障害を無力化》

 ディアはその言葉で目から眩い光を放つ。ルパンは咄嗟に羽織っていたマントで顔を隠すが、皇神を含む全員がその光を浴びてしまった。

「なんだ、この光は⁉」

「うっ……!」

 しばらくして光が止めば、ルパン以外全員が地面に倒れていた。

「これは……」

 ルパンは自分の首を絞めるプロトタイプの手を(ほど)くと、磔にされているディアに向き合った。ディアはゆっくりと目を開き、無表情ではあるがあどけない少女の形に作られた顔でルパンを見つめる。

《あなたは?》

「……俺か? 俺は怪盗アルティメットルパン。君を盗む男だ」

 格好つけるルパンを見て、ディアは首を傾げた。

《かい、とう……? 検索開始……この惑星の犯罪者を表現する種類名の一つ。盗む? 私を? なぜ? 解析開始……解析不能》

 それを聞いたルパンは大声で笑った。

「そんな堅苦しいことは必要ない。なぜ君を盗むのか? それはお嬢さんが人生で見た宝の中で、どんなダイヤモンドよりも、美しいからさ」

 まるで口説くような台詞を吐くルパンをディアは不思議そうに見ている。

《ダイヤモンド……検索完了。私はこの惑星の鉱石と同義?》

「いや、それ以上だ。それ以上の価値が、お嬢さん、君にはある」

《理解不能。個体名、怪盗アルティメットルパンの発言は、私の解析能力及び処理範囲を超えている》

「ルパンで良い。だから俺もお嬢さんのことをディアと呼ばせてくれるか?」

《ル、パ、ン?》

「そうだ。それでいい。さて長話は後にしよう。早くここから──」

 ルパンはディアを装置から外そうと手を伸ばす──が。

「そうはさせるかぁ‼」

 復活した皇神が鬼気迫る顔で割って入った。

「おいおい、執着する女が一番嫌われるんだぞ。それに今……女性が一番しちゃいけない顔してるぜ」

「黙れぇ! この娘は私の計画に必須……。こいつだけは……こいつだけは、絶対に連れて行かせるかぁ‼」

「立場が違えば、グッとくるセリフなんだがなぁ……」

 ルパンがそう茶化す間に皇神は端末を取り出し手早く操作した。

「おい、何して──なっ⁉」

 人の丈ほどある大剣がルパンの目の前に突き刺さる。

「これは……⁉」

「ぅうあああああぁ!」

 皇神は右手でそれを強引に引き抜くと闇雲に振り回す。そんなでたらめな攻撃に油断して、まともに受けてしまうルパン。

「ぐわぁっ!」

「死ねぇ! 死ねぇ!」

 般若(はんにゃ)のように髪の毛を振り乱しながら切り付ける皇神。

 二度目以降はその攻撃を避けるルパンだが、ダメージが蓄積していたらしく、徐々に変身が解け始めていた。

(くっ、これ以上は……! 仕方ない!)

 ルパンは飛び上がって天井の梁の上に立った。

「誠に遺憾(いかん)だが、今回は退散するとしよう! だが、(ディア)は必ず、この怪盗アルティメットルパンが頂戴する。さらばだ!」

 捨て台詞を残し、ルパンは部屋から飛び出す。逃げていくのを見て皇神はすぐにイヤホンから指示を飛ばす。

「奴が逃げた! すぐに追跡しろ! 見つけ次第殺せ!」

 檄を飛ばすと振り返って「ふん」と鼻を鳴らしてディアを見た。

「まぁ。これだけは感謝してやる。私達が三カ月掛かっても起動しなかった『アークの鍵』が、ようやく起動したんだからな」

 すると皇神はクスクスと笑い始める。その声はまるで地獄に響く悪魔の声のように大きくなっていった。

 そんな皇神の姿をぼんやりと見ながら、ディアはルパンのことを考えていた。実のところルパンに対して既にとても興味を引かれていた──一言で言えば一目惚れをした。

『それはお嬢さんが人生で見た宝の中で、どんなダイヤモンドよりも、美しいからさ──それ以上の価値が、お嬢さん、君にはある』

「ル、パ、ン……」

 ディアは初めて口を使ってその名をつぶやいた。

 かくしてこの事件はルパンにもディアにも、そして皇神にとっても忘れられない記憶となった。

 

  数カ月後 ビルの屋上

 

 ルパンはこの記憶を思い返しながら最期の時を待った。

(あの後、何度か入ったが、結局、彼女を盗むことができなかった)

 あれからルパンは何度か盗みに入ったものの幾度となく失敗した──というより塔に閉じ込められた姫に会いに行くような心持ちで、本気で誘拐しなかったからだ。 

 その上、最近はルパンガンナーを奪われてしまいそれどころではなかったため、結局ディアを盗むという約束は完遂できなかった。

(ディア……約束を守れなくてすまん……)

 だからこそ身勝手だとは思いつつも、この願いを快人と海里に託すことにした。

(二人宛ての荷物はアリスに渡した。最後は渋々、引き受けていたが……。きっと大丈夫だろう)

 重要なルパンガンナーも一番信頼が置ける相手に預けている。

(二人のことは書かなかったが、おそらく進ノ介なら渡してくれるはずだ。……結局、愛する家族と再会することは叶わなかったが、自分でこの体になった代償だ。今更、悔い……は無い、な)

 体からついに火花が出なくなった。

(機械の体なのに意識が薄れるのを感じる。なんとも、おかしな話だが、どうやらいよいよ……)

 ルパンは動かなくなる体を感じつつ、自らの最期にこう思った。

(さらばだ、我が愛しの家族、そして永遠のライバル。泊進ノ介)

 最期にふっと笑うと、ルパンは残った力を振り絞り、指鉄砲を空に向かって放つ──腕が力無く落ちた。

 こうしてルパンの体は黄金の粒子へ変わり、紡いできた伝説の彼方へと消えた。

 

 だが、伝説は終わらない。

 英雄ルパンの想いを継いだ若者達によって新たな伝説の幕が開くのだ。

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