小説 仮面ライダールパン   作:竜・M・美日

22 / 42
 歴史には、語られてないことがある。


Phantom's Stage
序 幕 邂逅/異世界の訪問者


(こっちの空は青いのか……)

 

「自分達の世界」とは違う色鮮やかな青空に「この地(地球)」に降り立った男は目を奪われた──男はこの世界とは異なる世界からやってきた異世界人だった。

 眼魔(ガンマ)世界。地球とは別の惑星にある世界で、地球とは遥か昔に「ガンマホール」と呼ばれる紋章型の転送装置を作る石柱「モノリス」によって繋がっていた。

 現代から約二五〇〇年前の弥生(やよい)時代、当時「狂王」と呼ばれる存在の弾圧(だんあつ)から(のが)れるため、眼魔世界の神たる存在「グレートアイ」に導かれた弥生人達がガンマホールを通じて、家族や同胞と移住したことで出来上がった世界だ。

 彼らが渡った眼魔世界は、すでに滅び去った文明の科学技術が(のこ)されていた。それを元にグレートアイは彼らの繁栄を(うなが)した。

 時代を経て、彼らは新天地へと導いたグレートアイの(いにしえ)の名前「ガヌマ」を借り「ガヌマの民」、それが転じて「ガンマの民」と名乗るようになる。

 ところが、彼らにとって未知の文明の力は荷が重たかったのか、繁栄によって発生した大気汚染等の問題が深刻化し眼魔世界は荒廃(こうはい)の一途を辿った。原因となった人体に有害な(ちり)や意見の違いによる内乱で多くのガンマの民が犠牲となる。

 その悲哀から眼魔世界を治める王は「死が存在しない世界」を望み、その意図を()んだ一人の科学者が「眼魂(アイコン)システム」を考案する。

 眼魂とは名前の通り「眼球を(かたど)った霊魂」という外見のアイテムで、大人の(てのひら)に収まるほどの大きさ。

 この眼魂には二種類存在する。

 一つは眼魂を扱う戦士、「仮面ライダー」が変身のために使用する物。

 一つはその体に(まと)う「パーカーゴースト」という存在を封じた、歴史上の人物の力を(ゆう)した物。

「英雄の眼魂」と呼ばれるそれは、過去実在した、もしくはしたとされる、歴史上の著名な英雄・偉人を象ったデザインで、「英雄にまつわる物品」・「英雄への想いを持った人物」・「目の紋章」。これら三種を揃えることで物品を媒介にして、英雄の魂をパーカーゴーストとして召喚し眼魂に収められる。

 眼魂システムに話を戻すと、「人体をカプセルに永久保存し、アイコンを媒体としたアバターとして本来と変わらず行動可能な」システムだ。

 この成功を機にガンマの民は肉体がいくら破損しても眼魂が無事ならば何度でも復活可能で、疑似的な不死身の体を持った──二〇〇〇年以上に(わた)る現在の眼魔世界の誕生だった。

 だが、二〇〇〇年が経っても公害の影響で大気は黒い塵で汚れ、どこまでも赤色の空が広がり、かつての文明発展の象徴である高層ビル群が廃墟として建ち並んでいる。

 地球にやってきた男は、その眼魔世界の現状を打開するために送り込まれたのだ。

 

 黒の長丈のジャケットに身を包んだ男は一頻(ひとしき)り周囲を見渡すと、足元に目を向けた。そこには芝生の上にチョークで描かれた、目を模した曼荼羅(まんだら)があった。

「なぜガンマホールの紋章がこの世界に……?」

 どうやら描かれた物が眼魔世界のそれと繋がり、男をこの場所に転送したのだ。

 ふと男が気配を感じ振り返る。そこにはチョークと『魔術ノススメ』という表紙の本を抱えて尻餅をつくベストを着た青年がいた。片や憮然とした、片や驚愕して顔を見合わせる。

 これが異世界からの訪問者である男と、地球の人間である団藤(だんどう)霊璽(れいじ)との、これから幾度(いくたび)にも亘る「異世界同士の接触」、その第一歩。

 時は現在より百年前まで(さかのぼ)る──大正時代のある日のことだった。

 

 大正時代。明治と昭和に挟まれ、和装と洋装が入り混じる、十五年と短いながらも国内外が激動の時代。

 日本国改め大日本帝国は(中国)ソビエト連邦(ロシア)に戦争で勝利し、帝国主義国家として欧米列強──(アメリカ)(イギリス)(フランス)(イタリア)──と肩を並べていた。

 第一次世界大戦にも参戦し勝利国側になるなど、さまざまな要因が重なり経済が爆発的に拡大する。「大戦景気」と呼ばれる好景気の時期に入ったことで、一部の金持ち、俗に言う「成金(なりきん)」が続々と現れ始めた。

 団藤霊璽も、その成金の一人だ。

 一九〇〇年にとある港町の漁師の家で生まれた彼は、貧乏ながら先見の明や運などが味方して、青年になった頃には貿易会社を起業すると先の大戦で見事に会社を発展させた。

 彼は(またた)く間に当時の日本の貴族制度である華族(かぞく)の一員になる。

 そんな彼の趣味は、意外にも超自然的な現象いわゆるオカルトに対する探求だった。

 団藤が生きた時代は催眠術や千里眼(せんりがん)などのブームが起こった頃。元来、好奇心が強かった彼も例に漏れず、学生時代には学業の(かたわ)ら、時折、新聞や噂に出る怪奇な現象に心を躍らせていた。

 それは一流華族となってからも冷めることはなく、むしろ自由に使える金銭ができたことで、そういった怪しげな物の蒐集(しゅうしゅう)や、幽霊に関連する「からくり」を自作するようになった。

 

 そんな団藤と異世界人の男が出会ったのは、つい先日購入した黒魔術の本を片手に敷地に魔法陣を描いた直後のこと。はっきり言ってこれまで(この)ましい結果が出ていなかった彼にとって、この成功は人生で最上の日となったに違いない。

 気まぐれに描いた転送陣に異世界人が現れるという、不可思議な出会い方をした二人。

 第一印象がどうであれ、互いが互いの世界に興味を持つ二人が友人になるのに時間は掛からなかった。この時、二人の言葉が通じたのは幸運だったろう。

 団藤は早速、男を自らの屋敷に招きその素性を根掘り葉掘り尋ねた。親睦(しんぼく)を深めつつまったく文化の違う世界の話題に花を咲かせた。

 男は数日間、団藤の屋敷に滞在することになった。

 当時、普及したばかりの西洋造りの屋敷には、十数人の使用人と団藤の妻、アンリエットが出迎えてくれた。というのも団藤は当時では珍しい、フランス人の妻と家庭を築いていた。

 皆、異世界人という男を暖かくもてなし、男は更に地球の人間・文化に関心を寄せた。

 数日ではあるが有意義な時間を過ごした男はこの結果を報告すべく元の世界に戻った。

 団藤夫妻に見送られ、男は団藤が作った転送陣を使用して元の世界へと帰還した──関連があるかは分からないが、関東を中心に推定マグニチュード七・九の大地震が発生したのはその直後のことだ。帝都(ていと)・東京から少し離れていた団藤家もその煽りを受けて、衰退していくことになる。

 それから数年後、当時の皇帝たる存在の崩御(ほうぎょ)により大正という時代は終わりを告げた。

 

 二度と現れるか分からない男が再び姿を見せたのは、昭和十五年。一九四〇年のことだ。

 前回と比べいくらか(すさ)んだ男は、再会した団藤の容姿に驚いた。最初に会った時と比べて明らかに老けていた──それもそのはず、あの出会いから二十年近く経過していた。

 団藤家にかつてのような勢いは無くなっていた。ただ一つ違うことがあった。一族の人数が増えていた。男児が二人に女児が一人、もうすぐ四人目も産まれるという。

 苦しいながらも一族は前と変わらず好意的に男と接した。ある理由で眼魔世界に嫌気がさしていた男には、その親身な心遣いは身に()みた。

 そんな中、数日滞在している間にアンリエットが産気づいた。図らずもそこに立ち会うことになり、そこで生命の神秘と美しさを久しぶりに直接目にすることになった。

 彼は考えた。「自分に素晴らしいものを見せてくれた彼らに恩返しをしなければ。そのために彼らに眼魂システムを使い『永遠の命』を与えるべきだ」と。

 男は異世界の友のため、すぐさま眼魔世界へ戻った。一度目より多くの団藤一族に見守られながら帰路に着く。

 この時、引っかかかることがあった。滞在の間、アンリエットが頻繫(ひんぱん)に咳をして、部屋に戻ることが多かったことだ。

 その予感は的中した。男が帰った後、アンリエットは当時では不治の病である「結核(けっかく)」を発症していた。

 さらに団藤一族には不幸が続く──彼らのみならず、日本という国全体に軍靴(ぐんか)の足音が近づいていた。

 

 目の前の団藤の姿を見て男は愕然とした。なぜならすぐに戻ってきたはずだったにも関わらず、団藤家は完全に衰退していた。

 あの好奇心旺盛で明るく若々しかった団藤の目は厳しく吊り上がりやつれ果てていた。

 何があったか聞けば、妻のアンリエットは男が去って少しして病死。次男は戦争のため自ら海軍に志願したが、乗っていた戦艦が撃沈され戦死。長女は広島にあった紡績(ぼうせき)工場に動員された後、八月に落とされた原子爆弾で骨も残らず。頼りの長男はショックから精神的に病み、唯一残ったのがまだ六歳の末娘だけ。

 この時には団藤自身も心に変調をきたし、死に対して非常に憶病になっていた。挙句、男にかつて聞いた眼魂システムについて問い質した。

 間に合わなかったことが後ろめたかった男は、知る限りの情報を伝えると団藤は自らの手でシステムを再現すると言い出す。

 そんな無理難題な挑戦に死に物狂いで取り掛かり、財産を湯水の如く使う団藤を横目に、男は気になることがあった。

 使用人のほとんどが屋敷から去った中で、住人が一人増えていた。かの末娘に付き添う、十代の少年。

 聞けば数年前に東京が空襲に遭い、身寄りもおらず焼け出されたところを家族を失って傷心していた団藤が拾い、書生──雑務をさせる住込み──として置いているとのこと。

 彼の名前は、来蔵(らいぞう)

 何故かは分からないが、男はその少年の瞳から目を離せずにいた。異世界人故に感覚が研ぎ澄まされた男にとって、この少年が何かを成し遂げる──そんな気がしてならなかった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。