十二月十五日 朝 アルセーヌ城
東京から離れた港町。日本でも一、二を争うほどのエコの街、
「ふわぁー……」
その城中を寝間着姿の快人が寝ぼけ
彼は大学二年生──この城の
明らかに現代日本かつ年齢には似つかわしくない肩書きだが、そもそもこの城は彼の祖父から譲り受けた遺産だった。
祖父の名前は東条来蔵。かつてゾルーク東条と名乗り、時代が時代ならば民衆の支持を得ていた伝説の英雄、怪盗アルティメットルパンの正体だ。
そんな
この今にも寝てしまいそうな顔も前日の戦いの激しさを物語っていた。
初めての変身から二カ月。仮面ライダーとしてそれなりの場数を踏み、並行して始めた便利屋としても地元の顔馴染みの商店街程度ではあるが顔を広め、さまざま依頼をこなしていた。
例を挙げれば、伝票の計算や屋根のペンキの塗り替え、八百屋の野菜のたたき売りに、猫探し、市民食堂の注文の配達、近隣の掃除など──どうあれ
快人は羽織ったアウターのポケットからメモ帳を取り出し、今日のスケジュールを確認する。
「……今日は……休みだ。やったー……朝飯食ったらまた寝るか……」
疲れた声でフラフラと廊下を歩いていく。着いた先の西洋風の両開きドアを開けると、そこは十人程度なら充分に使える食堂だ。
快人は重い足取りでテーブルクロスが敷れた長テーブルの一番奥の椅子に座る。
「おはようお兄ちゃん!」
すると、食堂に併設された厨房から活気のある挨拶で髪をツインテールにまとめ、
彼女は特技が祖父直伝のマジックである以外、兄同様、来蔵の血を継いでいるが本当に普通の大学生だ。だが便利屋としての依頼を取ってくるのだから、決して
ところで快人達には祖父が
パビリオン。表の顔は街を代表する鉄鋼企業として海東市を作り替えられるほど幅を利かせる、一方で裏では兵器開発を行っている企業だ。
彼らはその先にある世界征服の野望を阻止するために、便利屋という看板を立て、その足掛かりとしている。世間で起きる不可解な事件を追えば、いずれ黒幕のパビリオンに辿り着くだろう、そんな理由だった。
さて、食堂に入ってきた海里の手にはお盆があり、上には白ご飯が盛られた茶碗、豆腐の味噌汁、味付け
「はい! おかわりあるからねぇ!」
「……朝からでけぇ声出すな……」
耳をつんざくような声に起き抜けの快人が顔をしかめる。
すると、続けて灰色髪の青年が厨房からやってきた。その手には炊飯ジャーを持っている──持ち手を握らず丸ごと抱える形だが。
「……おはよう……ルパン」
「……おはよう、カルサイト」
カルサイトと呼ばれた銀髪の青年は、ぎこちなく炊飯ジャーを快人の目の前に置く。
彼──正確には彼女は大剣を自由自在に振るい、怪人とも戦える力を持った剣士だ。その正体はパビリオンによって造られた人造人間だ。
快人とは一時敵対していたが、快人に倒された時に記憶が消えてしまった。その時に海里に気に入られ、今では人間らしくなることを目指し、様々なことを教えられながら
「……おかわり、たくさんあるぞ」
「……ありがとう」
ボーっとする快人は目の前に置かれた炊飯ジャーをゆっくりと前から
「さあさあ! ルカ様座って!」
海里が適当な席にカルサイトを座らせると、彼女の分の朝食とスプーンを置いた。まだ箸が上手く使えなかった。そして、隣に自分の分を置く。
「じゃあ、いっただきまーす!」
「いただきます」
「……いただきます」
海里の号令で
「うん、今日もご飯美味しーい!」
海里は賑やかに頬張り、カルサイトはスプーンでゆっくりと白米を口に運び、快人は今にも寝てしまいそうになりながらも食べていた。
「おはよーう……」
しばらくして日本人離れしたブロンドの美女がガウン姿で食堂に入ってきた。化粧をせずとも十分な美人だが、その自慢の金髪は整えられず寝癖でボサボサで見る影もない。彼女も快人と同じく朝に弱かった。
「ん、おはようございまーす!」
「おはよう」
「……おはよう、アリス」
彼女はアリス・クリスティーナ。ゾルーク東条の仲間だった人物で、今は快人の師匠として日夜、怪盗の技術などの指導をしていた。
「アリスさん! ご飯どうですか?」
「……んー。いただくわ」
「はーい!」
海里が箸を置き、意気揚々と厨房に入っていく。
アリスは適当な場所を見
「……珍しいな、朝から出てくるなんて」
「……私だって、朝ご飯が食べたい時だってあるわよ」
「……そうかい」
話が通じているのが不思議なくらい今にも眠りそうな師弟の会話。
この間、カルサイトは味噌汁をスプーンで
「快人、テレビつけて……」
「……あー……ん?」
「……テレビよ」
快人の背後を指す。そこには壁に薄型の大型テレビが取り付けられている。
「……なんで俺なんだよ、自分でつけなさいよ」
「……快人が一番近いでしょ」
「……しゃーねぇな」
『──次のニュースです。本日未明、警視庁に犯行予告を出したと思われる窃盗犯が押し入ったとのことです』
「えっ」
アリスの席に朝食を置いた海里が声を上げる。
「おいおい。本当に入ったのか?」
三人がニュースに目をやる。犯行予告の件に関しては世間の話題になってはいたが、流石に
カルサイトは海苔を粉々にして、ご飯に振りかけていく。
『予告は数日前から出されており、警備を強化していましたが、犯人は逃走したとのことです。幸い重要書類等は盗まれていないとのことですが、警視庁は「窃盗犯が侵入するとは、前代未聞。誠に
そこで画面にノイズが入った。
「あっ、どうした?」
テレビの横に掛けられたリモコンでチャンネルを変えるがすべての局が映らない。
「このデジタル時代にノイズなんて……」
「電波が悪いのかなぁ?」
「この城に限ってそんなことあるかよ」
快人の言葉通り、アルセーヌ城はハイテク機器が多数置いた、外見に似合わず最先端な城である。テレビが映らないような状況は絶対に無いと言っていい。
ノイズが徐々に消えていき、明らかにニューススタジオではない真っ暗な部屋が映った。
「なんだこれ?」
快人が眉をひそめる。
部屋の中央には椅子が置かれている。そこに──快人達は知らない──警視庁に盗みに入った金色の仮面の男が現れて椅子に座った。
『やあ、諸君。少々驚かせてしまったかな? 今から限られた中で諸君らの時間を頂戴したい。私はエンターテイナーでね。普段平凡で退屈な生活を送り、
男は膝を組んで話を続ける。
『諸君らは、海東市にある「海洋自然博物館」を知っているかな? 海洋生物や海洋資源などの資料が豊富に所蔵され、海洋に関する内容であれば一、二を争うほどの博物館だ』
地元に関連する内容に三人が食い入るように見る。
一方、カルサイトは沢庵を食べるためにスプーンでトントンと刺していた。
『さて、本題だ。私は海産物に興味は無い。目当てはその博物館に所蔵された秘蔵の
「なんだって?」
「何これ、ドラマかなんか?」
三人は疑惑の目でテレビを見ている。無理もない、男はカメラの前で堂々と博物館に盗みに入ると宣言したのだ。
『そう。これは私から警察諸君への挑戦状だ。君達は昨晩の
男は立ち上がる──素振りを見せたが座り直す。
『そうそう。私としたことが名乗るのを忘れていた。私の名前は──怪盗アルティメットルパン』
「何⁉」
「嘘⁉」
「っ!」
三人が驚いて立ち上がる。
『最近、「ルパン」の名を
男は人差し指を立てるとクルリと回し、カメラに向かって指差した。
「!」
その行動を見たアリスの目の色が変わった。
『では諸君、私には無駄にする時間が無いのでね、今度こそ本当にさよならだ』
テレビの画面に再びノイズが入り、元の明るいニューススタジオに戻っていた。カメラに自分が映っていることに気がついた女性アナウンサーは、平静を
『……えーっと、数分間、何者かによって日本全国のテレビ局に電波ジャックが行われていた模様です……。内容を一部復唱しますと、犯人と思われる男は怪盗アルティメットルパンと名乗り、今夜十二時、海東市の海洋自然博物館に盗みに入ると予告した模様です……詳しいことが分かり次第、追って報道いたします』
その後、アナウンサーはなんとか持ち直して続きのニュースを伝えるが、今の三人にそれを聞く余裕はなかった。
「偽物、だよね……?」
「ったり前だろ。どこの誰だか知らねぇが、じいちゃんの名を
あからさまな物言いに快人の心中は穏やかではない。
「上等だぜ。買ってやるよ、この喧嘩」
椅子にドカッと座り、腕を組んだ。
「にしても、ルパンを名乗るなんていったい誰なんだ? なあ、アリスはどう思う──アリス?」
快人はどうしたのかと思った。アリスがテレビを睨みつけたまま、白くて細い手を血管が浮き出るほど握りしめている。
「どうしたんだ、アリス?」
異様な雰囲気に疑問を
「……えっ?」
その質問にアリスは我が返ったようにハッとした。
「いや、だから、今の誰だ……って、大丈夫か?」
「……えぇ、大丈夫」
言葉とは裏腹に心ここにあらずと言った様子で、アリスは出された朝食には手を付けず食堂から出ていった。
「……本当にどうしたんだ?」
快人は
「とにかく、今晩、博物館に行くしかねぇ」
「うん、そうだね……」
息巻く快人に対して、元気がない海里。
「どうしたんだよ」
「いや、まさか、また、おじいちゃんじゃ……」
以前、来蔵と快人達の家族仲が修復不可能なまでに決別した出来事があったのだが、そのことを思い返しているようだ。あの時と同じことが起こるのでは、そう考えていた。
「なわけねぇだろ。じいちゃんは……もういないんだ」
快人も一瞬寂しそうな顔をする──頬を叩く。
「いや! なんにせよ、じいちゃんを
意気込む快人は席につくなり、先ほどとは打って変わってガツガツと朝食をかっこむ。
「うん、そうだね」
海里も席に着き、残りの朝食を食べ進める。
「ごちそうさまでした」
「えっ、早⁉」
こんな状況で、ただ一人マイペースに食べていたカルサイトは、どこ吹く風と食べ終わった食器を厨房に戻しに行った。
同日 深夜 娯楽区 海東海洋自然博物館
真冬の深夜のため震えるような寒さの中、数十人規模の警官隊が博物館の周囲を厳重に警備していた。
「くっそー! あのアルティメットルパンって名乗った野郎! 俺達のこと散々コケにしやがって! 前のようにはいかねえぞ! 今度こそ俺の手でとっ捕まえてやる!」
博物館の入り口にはトレンチコートを着た、血気盛んな刑事がいた。彼は
彼もまた数カ月前まで泊進之介が変身していた仮面ライダードライブとロイミュードとの戦いに尽力した人物でもある。
「追田警部殿! しかし、相手はルパンでないと思われるのであります!」
その後ろから絢が慌てて声を掛ける。彼女もこの現場に出てきていた。彼女はルパンに関してある程度の事情を知っているため、今回の事件を起こしたのは本人ではないと否定したのだ。
「んなことは分かってるよ! 進ノ──じゃなくて、蟹丸!」
「えっ?」
聞き入れられず否定されると思っていたが、反対に肯定されて絢が面を食らう。
「前に現れたゾルーク東条とは、絶対に違う」
「どうして、そう思われるのでありますか?」
「刑事の勘だ」
追田は自信満々に自分の胸を叩いた。
「俺の勘がそう言ってる」
「そ、そうでありますか……」
勘に頼ったところに上司と言えど、少々
「それにロイミュードが復活しない限り、あの男は今度こそ戻って来ねぇ。だからこそあの仮面の男が許せねぇんだ!」
「えっ。どうしてでありますか?」
「俺はな、本人に勝手になり代わって、好き勝手に悪事をやるような根性がひん曲がった野郎が許せねぇ! 今回はその被害者がゾルーク東条だっただけだ!」
「警部殿……!」
絢はパァッと表情を明るくする。追田の言葉に感銘を受けたからだ。
「この
「おう! 今は別件で手一杯の進ノ介からの
「はい!」
追田が袖を
「よーし! もうすぐ十二時だ、全員気合い入れろ!」
「はい!」
時計の長針と短針がもうすぐ頂点を指す──予告の時刻まで後少しと迫る。
快人と海里が博物館に着いた頃には、周辺は大勢の野次馬でごった返していた。
中にはルパンを応援するメッセージが書かれたプラカードや台紙を
伝説の怪盗が復活したという、快人達からすれば事実無根のデマに、そこにいる過半数が目を輝かせている。犯罪者に味方するというのは、日常生活や社会に対するある種のストレスや反抗の現れなのかもしれない。
「こりゃ、すごいな……」
その異様さに気圧されそうになりつつも快人はどこからか近づける場所が無いかと探すが、どこもかしこも人混みで近づけそうになかった。
「見えないねぇ……」
隣で海里がピョンピョンと飛び跳ねる。
「お前ちっさいからな」
「そういう問題じゃないでしょ!」
鼻で笑う快人に海里が抗議する──野次馬から歓声が上がった。どうやら現れたらしい。
「うわ、本当に来たみたい!」
「あぁ、絶対に逃がさねぇ……」
快人は自身の意志の強さを表すように拳を力強く握った。
「お待たせしたようだね、諸君!」
時計が十二時を指した瞬間、どこからともなく声が聞こえた。
「どこだぁ! ライトだ! ライトを当てろぉ!」
追田の指示で数人の警官がスポットライトを動かす。そしてその姿を捉える──黄金の仮面の男は博物館の屋上に立っていた。
それを見て観衆から歓声が上がる。ムードは完全に男に傾き、警察を完全にアウェーにしてしまっている。
男は手を挙げた。その手には男の
「ご覧の通り、大黒真珠は確かに戴いた!」
「いつの間に⁉」
「くっそぉ、かっこつけやがって! 屋上だ! 屋上に上がれ──」
「ちょっと待ちたまえ!」
男は指を立てて追おうとする警官達を制止した。
「な、なんだ?」
追田は警視庁での騒ぎについて耳にしていたため、何をする気なのかと警戒する。
「その前に観覧に来てくれた諸君らに、ちょっとした贈り物を用意した!」
観衆からザワザワと「贈り物?」と声が聞こえる。ルパンは義賊だったという話もある。何かしら自分達に渡してくるのではないかと期待を寄せ始めた。その期待にだんだんと男を応援する声が大きくなる。
「『花火』だ。存分に楽しんでくれたまえ!」
指をクルリと回しパトカーを指した──突然爆発を起こし、傍にいた警官が爆風で吹き飛ばされる。
「きゃっ⁉」
「危ねぇ‼」
追田が咄嗟に近くにいた絢を庇った。
そして、爆発の衝撃で宙に舞ったパトカーが観衆のすぐ傍に落下する。
その刹那、民衆の嬉々とした声が恐怖の悲鳴に変わった。現場が一気に
「あの野郎……やりがった! おい大丈夫か!」
追田は絢から離れ、爆発で負傷した警官達に駆け寄っていく。
「なんてことを……」
難を逃れた絢はあまりの光景に動けずにいた。
「あの野郎!」
いち早く状況を察した快人がパニックになって逃げ惑う観客の間を進む。
「えっ、お兄ちゃん⁉ ちょ、ちょっと待って!」
海里も目の前の光景に驚愕しつつも、はぐれないように兄の背中を追いかける。
「では、さらばだ、諸君!」
男は博物館の屋根を伝うと姿を消した。
「おい! 数人を残して全員パトカーで追跡! 残りは負傷者の救助だ!」
追田の指示で警官隊が散らばっていく。絢もその指示を従う──二人の人物が逃げ惑う人々に逆らって博物館の裏手方面へ向かっているのに気づいた。目立つ金髪の青年と頭一つ小さな女性の二人組。
「……快人君と海里さん?」
二人の姿を見て何か感じた絢は、今までの失敗を取り返したいのか、二人の身を案じてか、指示を無視し、混乱に乗じてその後を追った。
男は中庭に跳び降りるとそのまま走り去る──その周囲を自立して空中を進むミニカーが逃亡の邪魔をした。軽い身のこなしでそれをかわし、ミニカー「ルパンビーグル」が飛んできた方向を見た。
「逃がさねぇぞ!」
快人のジャケットの中にルパンビーグルが戻っていく。
「ほーう。あの挑発に乗ってこれるほどの根性があるとは思わなかった」
「バカにすんな! ルパンの名前を騙りやがって、お前誰だ!」
快人が駆け寄る──男は懐からある物を取り出すのを見て、驚きで足を止めた。
「……えっ」
その手には細長い銃身の金色に輝く拳銃が握られていた。
「確かに私は『ゾルーク』ではない」
「っ! お前、じいちゃんの名前まで……⁉」
仕事用の名前まで知っている以上、ただ者ではないことが分かった。
「本当なら奴と決着をつけたかったが、もういない。残念だがな」
男はそのまま快人に銃口を向けた。
「お兄ちゃん……!」
建物の陰で様子を窺っていた海里がこの状況を心配そうに覗いているが、彼女ではどうしようもなかった。
「……海里さん」
海里の耳元で声がした。
「ひ──!」
驚いて叫びそうになったところで、手がその口を塞ぐ。
「むぐぐぐ⁉ ん?」
その相手を見て海里は目を丸くする。
「私です。蟹丸であります」
「……
絢は口を手で押さえつつ、しーっと指を立てると海里と入れ替わるように陰から様子を見た。快人が仮面の男に銃を突きつけられている。それを見た絢は海里に改めて声を出さないように指示すると、ショルダーホルスターから拳銃を抜いた。
一方、流石の快人も抵抗する気は無いと手を挙げて意思表示するが、男に銃口を突きつけたままだった。
「……じいちゃんなら無抵抗の相手に銃を向けたりしない」
「だろうな。だがそれは奴が勝手に作ったルールだ。私は違う。邪魔する者には容赦しない」
毅然とした態度で対応する快人に対して、男の指は引き金に掛っている。その気になれば本当に撃つだろう。
「まあいい。これで役者は揃った」
「は?」
快人はその言葉に眉を顰める。
「銃を下ろしなさい!」
そこに絢が拳銃を構えて博物館の陰から出てきた。
「えっ、蟹丸巡査⁉」
快人が予想外の乱入者に驚いて振り返る。
「遺憾だが、お前はゾルークの代理だ」
だが男の方は我関せずで快人に対して話を続ける。
「貴方! 警視庁への窃盗及び不法侵入容疑、並びに銃刀法違反の現行犯で逮捕する! 銃を下ろしなさい!」
瞬く間に快人は男と絢に挟まれ、手を挙げたまま両方の顔を慎重に見る。
「銃を下ろしなさい!」
「おい。ゾルークの
快人が男の方に顔を向ける──向けられていた銃口が横に動いた。
「これは開幕のための号砲だ」
銃口の先にいるのは──絢だ。快人の目が見開く。何が起こるのか想像できた。
「これまでの、私とゾルークの、因縁の決着を付けるショーのな!」
ズドン!
「……えっ」
発砲音で絢の着ていた
快人が息を飲み、叫んだ。
「巡査‼」
「カニちゃん⁉」
二人が
「巡査! 巡査‼」
「カニちゃん! 大丈夫⁉ カニちゃん⁉」
必死に声を掛けるが絢は目を閉じたまま動かず、胸の穴から赤い血が垂れていく。最悪の状況に二人の顔から血の気が引いていった。
「言ったはずだ。邪魔する者は容赦しない、と」
まったくもって興味がない様子に、快人は怒りの表情を浮かべて男を睨みつける。
「悔しいならば追いかけてこい。それができるのならな」
男は空に浮遊し、建物の屋根に降り立つと悠々と歩き去っていった。
「嘘だろ……」
「いたぞ! あそこだ!」
遠い所から男の姿が見えたらしく警官の声が聞こえる。
「……悪い海里! あと頼む!」
「えっ、ちょ、ちょっと⁉」
今にも泣きだしそうな海里が心細さから手を伸ばそうとする。
「大丈夫だ。救急車だ! いいな!」
海里に絢を任せると大急ぎで男を追いかけた。
パトカーが博物館から次々と出動していく中、快人が博物館に面する道路に差し掛かった──目の前に金色の車が急停車した。
「えっ?」
それは仮面ライダールパンの専用車両「ゴルドルパン」だった。
ガルウィングが開くと運転席でアリスがハンドルを握っていた。
「アリス⁉」
「話は後! 乗って!」
快人はアリスに急かされるままに助手席に乗り込む。自動でシートベルトが強く縛られた。
「いって!」
「口閉じてなさい! 舌噛むわよ!」
「えっ、おい──うっ!」
急発進したゴルドルパンの勢いでヘッドレストに頭を打つ。
快人はぶつけた頭を抑えつつ、今は口を閉じていたほうが賢明だと考え、口を真一文字に閉じてアリスに運転を任せた。